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第1章
第30話 黎明の泉
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森の奥に「黎明の泉」と呼ばれている大きな泉がある。僕や兄様が狩りをするときは「黎明の泉」より奥には行ってはいけないって言われている。
その言いつけは守っているけれど、泉の端のあたりでは、強めの魔獣が出てくる。
それでも、泉を回り込んで襲ってくることはないみたいなんだ。
「天然の結界」って父上が言っていた。
森には、明確に物理的に隔たりがなくても、強い魔獣のいるエリアと弱い魔獣のいるエリアが分かれているのは、ところどころに「天然の結界」みたいなものがあるんじゃないかって話だ。
僕と兄上は時々境界線付近まで行って、強めの魔獣を攻撃するチャレンジをしているんだけど、これは母様には内緒だ。
泉の水は魔石水を作るときに使うので、水を汲みに行った時にたまたま境界線付近に魔獣が現れたら仕方ないよね。
「……念の為言っておくけれど『境界線』の向こうに案内しろと言われてもお断りしなさいね。」
「はあい。」
訓練に来ているという話だから、強い魔獣と戦いたいって思うかもしれないんだね。
僕より年上の人達だから、多分魔法だとか剣術だとか僕よりずっと強いだろうし。
「あ、母上。お帰りなさい。」
通用口近くで立ったまま母様とお話をしていたら、兄上がやってきた。風呂上がりらしくて、頬が上気してちょっと赤い。
「ローレン。ただいま。今、クリスにも話していたのだけど、お客様に案内を頼まれた時に、もしも危険な場所だったらお断りしなさいね。」
「わかった。けど、断って問題ないの?」
「親にそう言われているからって言えば良いわ。辺境伯様と伯爵様には了承を得ているから。」
「殿下に言われても?」
「そうよ。危険な場所に行きたいと言われた時には諌めるのも大事なの。」
「わかった。」
兄上は、コルクで蓋をした瓶からコップに水を注いでごくりと一口飲んで頷いた。それから母様の方を見て言う。
「母上、温かいお茶でも飲む?」
「あら、淹れてくれるのかしら。」
「うん。火は安定して出せるようになったし。」
兄上はそういうと、台座の上にあった薬缶を持ち上げた。薬缶の蓋を開けて、瓶から水を注ぎ入れる。
すぐ側に設置している「簡易コンロ」と呼ばれている装置の中にある金属製の器の上で小さい火魔法を起こす。
金属製の器の中の物質に火が燃え移って明るい炎を出した。
コンロの五徳の位置をちょっと調整してから火の上に薬缶をおいた。
魔道具でもなんでもないけど、火魔法が使えないと火をつけるのがちょっと面倒くさい道具だ。ライターみたいな道具があると便利なんだけど。
ライター……?
呼び名の由来はよくわからないけどイメージをしたのは、手が熱くない状態で火がつけられる道具だ。火の魔石から火を起こす小さい魔道具。
着火石と呼ばれる、火の魔石に魔法陣を刻んで火を起こす石はあるのだけど、石に刻んだ魔法陣に手を触れて魔力を流すと、当然ながら触れている部分がめちゃ熱いんだ。
多少熱い思いをしても、手軽に火を起こせるのは便利だから野営では使われるらしいけど、使い勝手はあまり良くない。
だから、兄上みたいに魔法で火が出せた方が便利なんだ。
「兄上、凄いなぁ。あ、僕がお茶の葉を選んでも良い?」
母様と兄上の了承を得て、棚に並んだお茶の瓶から薬草茶の瓶とレモという果実を乾燥させたものの入った瓶を取り出した。
レモは柑橘系なんだけど、果汁が出る部分がない。香りが良いので細くして干したものがお茶に使われる。
爽やかでスッキリした香りなんだ。
僕がお茶の瓶を取ってきて蓋を開けている間に、兄上がポットとカップを用意してくれていた。
お茶の配合は僕にさせてくれるらしいので、薬草茶を2匙とレモを1匙ポットに入れた。
良い香りね。お湯を注ぐ前からレモの香りが漂っている。
「母上、食事は?」
「本館で食べてきたから大丈夫よ。」
ポットから湯気を立ててカップに注ぎ入れられるお茶を眺めながら母様が言った。ちょっと嬉しそうに見える。
両手でカップを持って、香りを嗅いでから一口飲んでニッコリした。
「美味しいわ。ローレンもクリスもありがとう。」
「「お疲れ様でした。」」
僕と兄様はちょっと乾杯っぽくカップを少し掲げて母様に労いの言葉をかけた。
沢山お話をしたいけれど、母様も僕達も明日は朝が早いので解散した。
その言いつけは守っているけれど、泉の端のあたりでは、強めの魔獣が出てくる。
それでも、泉を回り込んで襲ってくることはないみたいなんだ。
「天然の結界」って父上が言っていた。
森には、明確に物理的に隔たりがなくても、強い魔獣のいるエリアと弱い魔獣のいるエリアが分かれているのは、ところどころに「天然の結界」みたいなものがあるんじゃないかって話だ。
僕と兄上は時々境界線付近まで行って、強めの魔獣を攻撃するチャレンジをしているんだけど、これは母様には内緒だ。
泉の水は魔石水を作るときに使うので、水を汲みに行った時にたまたま境界線付近に魔獣が現れたら仕方ないよね。
「……念の為言っておくけれど『境界線』の向こうに案内しろと言われてもお断りしなさいね。」
「はあい。」
訓練に来ているという話だから、強い魔獣と戦いたいって思うかもしれないんだね。
僕より年上の人達だから、多分魔法だとか剣術だとか僕よりずっと強いだろうし。
「あ、母上。お帰りなさい。」
通用口近くで立ったまま母様とお話をしていたら、兄上がやってきた。風呂上がりらしくて、頬が上気してちょっと赤い。
「ローレン。ただいま。今、クリスにも話していたのだけど、お客様に案内を頼まれた時に、もしも危険な場所だったらお断りしなさいね。」
「わかった。けど、断って問題ないの?」
「親にそう言われているからって言えば良いわ。辺境伯様と伯爵様には了承を得ているから。」
「殿下に言われても?」
「そうよ。危険な場所に行きたいと言われた時には諌めるのも大事なの。」
「わかった。」
兄上は、コルクで蓋をした瓶からコップに水を注いでごくりと一口飲んで頷いた。それから母様の方を見て言う。
「母上、温かいお茶でも飲む?」
「あら、淹れてくれるのかしら。」
「うん。火は安定して出せるようになったし。」
兄上はそういうと、台座の上にあった薬缶を持ち上げた。薬缶の蓋を開けて、瓶から水を注ぎ入れる。
すぐ側に設置している「簡易コンロ」と呼ばれている装置の中にある金属製の器の上で小さい火魔法を起こす。
金属製の器の中の物質に火が燃え移って明るい炎を出した。
コンロの五徳の位置をちょっと調整してから火の上に薬缶をおいた。
魔道具でもなんでもないけど、火魔法が使えないと火をつけるのがちょっと面倒くさい道具だ。ライターみたいな道具があると便利なんだけど。
ライター……?
呼び名の由来はよくわからないけどイメージをしたのは、手が熱くない状態で火がつけられる道具だ。火の魔石から火を起こす小さい魔道具。
着火石と呼ばれる、火の魔石に魔法陣を刻んで火を起こす石はあるのだけど、石に刻んだ魔法陣に手を触れて魔力を流すと、当然ながら触れている部分がめちゃ熱いんだ。
多少熱い思いをしても、手軽に火を起こせるのは便利だから野営では使われるらしいけど、使い勝手はあまり良くない。
だから、兄上みたいに魔法で火が出せた方が便利なんだ。
「兄上、凄いなぁ。あ、僕がお茶の葉を選んでも良い?」
母様と兄上の了承を得て、棚に並んだお茶の瓶から薬草茶の瓶とレモという果実を乾燥させたものの入った瓶を取り出した。
レモは柑橘系なんだけど、果汁が出る部分がない。香りが良いので細くして干したものがお茶に使われる。
爽やかでスッキリした香りなんだ。
僕がお茶の瓶を取ってきて蓋を開けている間に、兄上がポットとカップを用意してくれていた。
お茶の配合は僕にさせてくれるらしいので、薬草茶を2匙とレモを1匙ポットに入れた。
良い香りね。お湯を注ぐ前からレモの香りが漂っている。
「母上、食事は?」
「本館で食べてきたから大丈夫よ。」
ポットから湯気を立ててカップに注ぎ入れられるお茶を眺めながら母様が言った。ちょっと嬉しそうに見える。
両手でカップを持って、香りを嗅いでから一口飲んでニッコリした。
「美味しいわ。ローレンもクリスもありがとう。」
「「お疲れ様でした。」」
僕と兄様はちょっと乾杯っぽくカップを少し掲げて母様に労いの言葉をかけた。
沢山お話をしたいけれど、母様も僕達も明日は朝が早いので解散した。
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