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第1章
第32話 リネリア嬢の場面
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魔道具の白っぽい光が文机の上に置いた絵が照らしている。
メイリのリクエストで描いたけど、お客様の名前を覚えるのに僕が持っていた方が良いだろうと言われて、結局僕が持っている。メイリは絵を見ただけで満足したみたいだったし。
王子殿下と辺境伯令嬢。インテリメガネと伯爵令嬢。赤い髪やピンク髪の人物は現れてない。4人分なら名前を暗記できるかなと思うけど
兄上が絵に似ているって言っていたから、見比べてみたい気持ちもちょっとある。
ーーーリネリアの家庭教師の先生が来るのは来週よね。それまでに戻れるかわからないから、出発を延期しようかしら。
ーーーお母様、私なら大丈夫です。お祖父様のお膝の具合が心配です。
ーーー少し痛めただけだそうよ。
ーーーでも、動けないなら心細いのではないですか?
傘を被った月。風が木を激しく揺らし、窓に当たる音。
窓から吹いてきた風で蜂蜜色の髪が揺れる。片手で新品の本を大事そうに抱えたまま、もう一方の手で髪を直して令嬢が明るい笑顔で微笑んだ。
小さい板に描かれていた絵を見つめていたら、そんな光景が不意に頭をよぎった。
顔をあげて窓を見た。月明かりは入り込んでくるけれど、窓ガラスは分厚くて少し濁っているので外の様子はあまり分からない。
窓を少し開けて外の様子を見たけど、星が瞬いていて、満月がくっきりと輝いている。風も穏やかだ。
メイリの夢のイメージに影響されたのか色々な光景が思い浮かんでくる。
文机の引き出しから、少し大きめの板を取り出す。表面を白く塗って絵の具の色が乗りやすく加工したものだ。昼間よりは暗いから
線がくっきり見えた方が良い。
思い浮かんだ光景を絵に描く。メイリが夢に見た光景を忘れないように僕に絵を描いてと頼むのと同じで僕もなるべく絵に残しておきたい。後で話そうとした時に忘れちゃっているかもしれないし。
お母様と呼ばれた女の人は母様より胸が大きい……。そ、それは別に良いけど、二人が向き合って立っている背景の窓の光景がちょっと不安感を漂わせている。
風景に「害意」とかはないと思うけど、なんだか不吉な雰囲気なんだ。
蜂蜜色の髪の令嬢は、メイリのリクエストで描いた令嬢のイメージだ。大人しくて真面目そう。
ーーーあの時!行かないでって止めていたら!お母様は出発を延期にしようかって言ってくださっていたのに!
ーーーどうして?どうして!?お母様!ああ!雨が激しくなってきた時点で引き返してきてくだされば……!
先ほど頭に浮かんできた台詞を板の余白に描いていたら、また別の光景が浮かんできた。
蜂蜜色の髪の令嬢が、身を横たえた女性に縋りついている。身を横たえた女性は青白い顔をして目を閉じている。頬と額に傷がある。
令嬢の隣に立って、悲しげに見下ろしている髭の男性。その隣に青年。男性と顔つきが似ている。二人とも疲れ切った表情で、ただただ女性を見つめている。
「これは……悲しい場面だな……。どうしよう……。」
僕は悲しい場面はなるべくなら描きたくない。胸が痛くなってしまう。でも思い浮かんでしまったということは、何か重要な事のような気もする。
急いで別の板を取り出して、先に台詞を忘れないように端の方に書き込む。
そして横たわる女性を前にして悲嘆に暮れる様子の令嬢と髭の男性と青年の姿を描いた。
メイリのリクエストで描いたけど、お客様の名前を覚えるのに僕が持っていた方が良いだろうと言われて、結局僕が持っている。メイリは絵を見ただけで満足したみたいだったし。
王子殿下と辺境伯令嬢。インテリメガネと伯爵令嬢。赤い髪やピンク髪の人物は現れてない。4人分なら名前を暗記できるかなと思うけど
兄上が絵に似ているって言っていたから、見比べてみたい気持ちもちょっとある。
ーーーリネリアの家庭教師の先生が来るのは来週よね。それまでに戻れるかわからないから、出発を延期しようかしら。
ーーーお母様、私なら大丈夫です。お祖父様のお膝の具合が心配です。
ーーー少し痛めただけだそうよ。
ーーーでも、動けないなら心細いのではないですか?
傘を被った月。風が木を激しく揺らし、窓に当たる音。
窓から吹いてきた風で蜂蜜色の髪が揺れる。片手で新品の本を大事そうに抱えたまま、もう一方の手で髪を直して令嬢が明るい笑顔で微笑んだ。
小さい板に描かれていた絵を見つめていたら、そんな光景が不意に頭をよぎった。
顔をあげて窓を見た。月明かりは入り込んでくるけれど、窓ガラスは分厚くて少し濁っているので外の様子はあまり分からない。
窓を少し開けて外の様子を見たけど、星が瞬いていて、満月がくっきりと輝いている。風も穏やかだ。
メイリの夢のイメージに影響されたのか色々な光景が思い浮かんでくる。
文机の引き出しから、少し大きめの板を取り出す。表面を白く塗って絵の具の色が乗りやすく加工したものだ。昼間よりは暗いから
線がくっきり見えた方が良い。
思い浮かんだ光景を絵に描く。メイリが夢に見た光景を忘れないように僕に絵を描いてと頼むのと同じで僕もなるべく絵に残しておきたい。後で話そうとした時に忘れちゃっているかもしれないし。
お母様と呼ばれた女の人は母様より胸が大きい……。そ、それは別に良いけど、二人が向き合って立っている背景の窓の光景がちょっと不安感を漂わせている。
風景に「害意」とかはないと思うけど、なんだか不吉な雰囲気なんだ。
蜂蜜色の髪の令嬢は、メイリのリクエストで描いた令嬢のイメージだ。大人しくて真面目そう。
ーーーあの時!行かないでって止めていたら!お母様は出発を延期にしようかって言ってくださっていたのに!
ーーーどうして?どうして!?お母様!ああ!雨が激しくなってきた時点で引き返してきてくだされば……!
先ほど頭に浮かんできた台詞を板の余白に描いていたら、また別の光景が浮かんできた。
蜂蜜色の髪の令嬢が、身を横たえた女性に縋りついている。身を横たえた女性は青白い顔をして目を閉じている。頬と額に傷がある。
令嬢の隣に立って、悲しげに見下ろしている髭の男性。その隣に青年。男性と顔つきが似ている。二人とも疲れ切った表情で、ただただ女性を見つめている。
「これは……悲しい場面だな……。どうしよう……。」
僕は悲しい場面はなるべくなら描きたくない。胸が痛くなってしまう。でも思い浮かんでしまったということは、何か重要な事のような気もする。
急いで別の板を取り出して、先に台詞を忘れないように端の方に書き込む。
そして横たわる女性を前にして悲嘆に暮れる様子の令嬢と髭の男性と青年の姿を描いた。
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