転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第42話 学園の試験の話

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「リネリア嬢は、詠唱に気を取られて魔力制御がおざなりになってしまっているみたいに見えるな。」

ハロルド君がメガネのブリッジ部分をクイッと指先で持ち上げて言った。
リネリア嬢はハロルド君の方を振り返り、へにょっと眉毛を下げて力無く頷く。

「そうなんです……。つっかえずに詠唱しようとすると、詠唱に気持ちが行ってしまって……。」
「まずは、すらすらと詠唱を言えるようにする練習をしたらどうか?」
「詠唱だけを、ですか?魔法を発動させずに?」
「そうだ。」
「……その発想はなかったです!やってみます。ハロルド様、ありがとうございます!」

リネリア嬢はハッとした後、嬉しそうに微笑んでハロルド君にお礼を言った。ハロルド君はぶっきらぼうな感じで頷いた。

「ねえ!ねえ!私、斬撃もやってみる!」

シェリル嬢が、身を乗り出して宣言した。

「うん。良いんじゃないか?」

ハロルド君が頷く。

「シェリルはもう斬撃が使えるようになったのか。」

ネイサン殿下がシェリル嬢の手にしている短剣に目を向けながら言った。

訓練場で使う剣は基本的に木剣とされているが、斬撃の練習をするときは、手持ちの剣を使っても問題ない。
シェリル嬢は、装飾が施された豪奢な短剣を鞘から引き抜いた。キラリと短剣の刃が煌めく。

剣の柄の部分に大きな緑の魔石が埋め込まれている。風魔法も出すことができる作りになっているようだ。

シェリル嬢は短剣を両手で持ち、大きく上に掲げて身構えた。

「ハァァー!!」

大きな掛け声と共に剣を降ると、斬撃が飛んで地面を少し抉った。

「おお!」

ネイサン殿下がちょっと身を乗り出して土が抉れた箇所を見て声を上げた。ハロルド君は小さく拍手をしている。

「凄い威力だ。」
「ま。的には当たらなかったけど……。」
「斬撃は中近距離の攻撃じゃないかな。剣で相対していたら強力な武器だよ。」
「うん……。ありがとう……。ふふっ……。」

シェリル嬢は口元を緩めて、ドリル髪の一部を指先でくるくると絡めている。
テレテレとしているシェリル嬢を見守った後、一同は剣術ゾーンに移動した。

殿下達がそれぞれ木剣を手に取ると、ゴーシュさんが彼らの元に歩いてきた。そして、ゴーシュさんの指導のもと、素振りが始まった。
100回くらい素振りをしたところで、殿下とハロルド君、シェリル嬢は、騎士が構えた木剣にゆっくりと打ちつける練習を始めた。
リネリア嬢は、数十回でフラフラして休憩を促されて座っている。いつの間にか椅子をメイドが運んできたらしい。

テラスに置いていた椅子だな。木製で、母様の趣味で白い塗料が塗られている。
令嬢には似合うけど、訓練場だとちょっと浮いている雰囲気だ。ちなみに訓練場の土の上だと白い椅子が汚れるので僕達がやったら怒られるやつだ。

飲み水はあらかじめ用意してあったので、トレーに乗せて、リネリア嬢の元に運んで上げた。
リネリア嬢はトレーに乗せられた色付きのガラスカップを見ると、ちょっと力無く笑った。

「ありがとう。……私、体力なくって。ダメね。」
「向き不向きはあるんじゃないですか?」
「ええ……、私は部屋で本を読んだりする方が好きなの。学園の入学試験
の準備は必要だから……。」
「剣術ができないと入学できないんですか?」
「成績によって入れるクラスが違うのよ。座学と実技の試験があるの。貴族の子女だったら入学自体はできるけれど、攻撃魔法か剣術とかの戦闘力が認められないと、受けられる授業が限られてしまうの。」
「へえ。そうなんですね。魔法には攻撃魔法以外だってあるのに。」
「仕方ないの。王族や貴族は国や領民を守ってこそだから。……私には兄がいるし後継者候補でもないのだけどね。」

リネリア嬢が少し自嘲気味に笑う。
確かに貴族が領地を守るといえばそうなんだろうな。父上だって国を守って戦ったって言うし、毎日のようにバリバリ魔獣を倒しているし。王都の貴族の子息子女が通う学園って、毎日優雅にお茶会を開いているみたいなイメージだったからちょっと意外だったけど。

剣術ゾーンでは、3人が型の稽古のようなものをしていた。兄上はじっとその様子を凝視している。剣術の型て格好いいよね。
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