転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第43話 詠唱の謎

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リネリア嬢は3人が稽古をしている様子を、ちょっと寂しそうな瞳で眺めている。
そしてボソリと呟いた。

「詠唱……。詠唱さえマスターできれば、何とかなるかも……。」

僕はその言葉にちょっとびっくりして思わず訊いてしまった。

「あの詠唱って何か効果があるのですか?」
「え?……ああ、まだ魔法をよく知らないのね。」

リネリア嬢が一瞬目を見開いた後、僕に生暖かい目を向けた。何故だ。
僕は詠唱に何の意味があるのか知りたいだけなんだけど。

「風の精霊、とか呼んでましたけど、詠唱すると精霊が手助けをしてくれるんですか?」
「決まった言葉なのよ。詠唱は。……本当に精霊が手助けをしてくれるのかもしれないけれど、私は上手く詠唱ができていないから……。」

そういうとリネリア嬢はグッと唇に力を入れ、口の端を下げた。

「決まった言葉……。」
「詠唱が上手にできたら魔法が上手く発動するんですって。」

リネリア嬢の言葉で、僕は治癒玉を使った時に浮かび上がった魔法陣を思い出した。魔法陣も魔石から魔法を発動させるものだ。もしかして詠唱は魔法陣と似たようなものなのかもしれない。

決まった言葉のリズム。
魔方陣の円だとかの決まった形。
同じようなものなのかもしれない。
魔法陣の線が歪むと魔法が上手く発動できない。詠唱もつっかえると上手く発動できないようだし。

魔法陣の細やかな線を思い浮かべると、詠唱の方がかなりシンプルに見えるけれど、詠唱しながらある程度の魔法制御は自分でやっているからなんじゃないか。

魔石魔法の場合魔法陣が魔力制御を100やっていたとして、例えば詠唱魔法は、詠唱が50、自身の魔力制御が50、詠唱なしの場合は自身の魔力制御が100 。
割合は適当だけど、そんな感じなんじゃないかな。

「そうか!面白いね!」

僕は思わず嬉しそうな声を上げてしまった。リネリア嬢は長いまつ毛をパチパチとさせた後、クスリと笑った。

「魔法に興味を持ったの?でも難しいわよ。詠唱していると魔力制御が疎かになるし、本当にバランスが難しいの。」
「うん!……あ……、はい!詠唱が一番難しい気がします!」

魔法の話題でちょっと楽しくなって、親しい人みたいに喋っちゃったので、言い直した。

「詠唱が一番?詠唱の他は何かしら?」
「魔法陣魔法と無詠唱です。……あ!もしかして杖とか道具を使うパターンとかもあるのですか?それは一旦置いておきますが。」
「魔法陣魔法を知っているの?無詠唱なんて特殊って聞いたわ。」
「特殊?とりあえす、僕が考えた魔法陣魔法と詠唱魔法の違いを言いますね。」

ゴソゴソと腰の皮袋に手をつっこむ。
土台玉が指先に触れた。とりあえずこれで良いかと土台玉を皮袋から取り出した。
リネリア嬢に見せる。

「これは、あの的の土台を作る時に使っている土台を作る魔法陣を刻んだ魔法陣魔石です。」
「魔法陣魔石、初めて見るわ。普段から使っているのね。……触ってみても良い?」

リネリア嬢に聞かれたので僕は頷いて土台玉をリネリア嬢の掌の上に置いた。
リネリア嬢は土台玉に顔を近づけて覗き込んだ。

「何か模様が描かれているわ。これが魔法陣なの?」
「はい。魔石はこの魔法陣だけで魔法を発動させるんです。」
「魔法陣魔石だからよね?」
「魔力制御も魔法陣がやってるという事です。」
「えーと……?」

リネリア嬢はよく分かっていないような表情をして首を傾げた。
僕は地面に図を描こうかと、棒を探して周囲を見回した。でも、訓練場の地面だということを思い出して勝手に図を描くのはやめた。
代わりに、メモ用に持っていた小さい木の板を取り出した。炭筆も出して、炭筆で板に図を描く。丸を二つ。

「魔力制御、それと魔力。二つが結びついて魔法が発動されるとするでしょう?」

一つの丸に「制御」、もう一つの丸に魔力と書き込む。丸同士を線で繋いでから大きい丸で囲み、魔法と横に描く。
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