転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

第1章

第41話 令嬢達の魔法

「本当だ！これを見ろ！明らかに傷が入っているぞ！」
「ハロルド、凄い！腕を上げたのね！」
「流石です！」

ハロルド君が当てた的を見て、ネイサン殿下が的についた傷を指さすと、シェリル嬢とリネリア嬢も的を凝視して口々にハロルド君を褒め称えた。
ハロルド君は静かな表情で微笑んでお辞儀をした。

「では、次はシェリルの番か？」
「うう……、私は剣術がしたいですわ！」
「訓練なのだから、魔法を撃って見たら良いじゃないか。」

シェリル嬢は急に表情を曇らせて俯いた。魔法が得意じゃないのかな。
ネイサン殿下に促されて渋々といった様子で的の前にたった。

そして、また腕を伸ばして的に掌を向けるお決まりのポーズ。

「水よ。流麗なる水の精霊よ。我に力を貸したまえ。その先にある的に雄大なる水を打ちつけまえ。はぁ！」

びゅっと水がシェリル嬢の掌付近に出てきてぱしゃっと数メートル飛んだ。しかし的には届かなかった。

「ああ……！」

シェリル嬢が悔しそうに眉を歪める。

「おお！」

水の行方を目で追っていた殿下が声を上げた。ハロルド君がシェリル嬢の方を見て言った。

「以前に比べて、一歩分は前に飛ぶようになったじゃないか。それに水量も増えている。シェリル、上達したな。」
「あ、ありがとう……。当たらなかったけど、そう言ってもらえると嬉しいわ。」

ハロルド君に褒められて、シェリル嬢は俯いて頬を赤らめたた。

「そうだな！確かに以前見た時より勢いが増していると思う。この調子なら、技能枠が魔法でも入学試験に受かるんじゃないか？」
「でも、私は入学試験は剣術で受けるつもりです！」

殿下の言葉に、シェリル嬢が少し頬を膨らませて言った。

パチパチとリネリア嬢が手を叩いた。

「シェリル様、凄いです。水を的に向かって飛ばすなんて、本当に凄いですわ。
私も水属性ですが、コップに満たすだけの水を出すので精一杯ですから。」

リネリア嬢は目をキラキラさせてシェリル嬢を褒める。

シェリル嬢が少し照れたように口の端を上げた。

「ふむ。リネリア嬢。今の話を聞く限りでは魔法は得意ではないようだが、君の順番だ。」
「あ。……はい……。」

リネリア嬢は、きゅっと唇を引き結び、的の前にたった。

「み、水っよ！水のっ、せ精霊よ！我に……、あ！」

例の詠唱を言い切らないうちに、リネリア嬢の手からパシャッと水が出て地面に落ちた。

「す。すみません！魔力の制御がうまくいかなくてっ。」

リネリア嬢が手を押さえながら顔を青ざめさせた。

「え？怪我したんですか？」

リネリア嬢が水魔法を発動した手をさすっているのを見て、僕はリネリア嬢に駆け寄った。
リネリア嬢は慌てた様子で手をパタパタと振った。

「あ、大丈夫です。少しピリッと来ただけなので。」

リネリア嬢がひらひらと振った手から、チカチカと魔力の断片のようなものが浮かび上がっていた。
確かに魔力の制御がうまくいかずに、小さく暴発したみたいだった。
傷にもなっていないし、大丈夫かな。