転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第54話 呪いの毒

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他に食材になりそうな魔獣も沢山狩ることができて、ホクホクした。

「早く食べたいね。お昼に食べられるかな。」

僕の言葉を聞いて、兄上がハッとした。バッと空を見上げる。

「やば!早く帰らないと!午後の案内が……!」
「午後も約束しているの?」
「頼まれた時用に待機しておかないと。」
「うわぁ。」

急いで、まだ片付けていなかった道具類をリュックや馬の背にぶら下げている袋にしまう。
リュックを背負った時、前より楽に持てるような感じがした。荷物に意識を向けるとふわっと重さが消える。

「『運搬』がまたレベルアップしたかも、全然重くないよ。」
「俺もだ。そろそろかな。」
「そろそろって?」
「『収納』を得られるかもってこと。」
「おおお~!だったら良いな。」

「収納」スキルの場合は、違う空間に荷物を入れることができるから全く重みを感じることはない。「運搬」スキルで全く重みを感じなくなったら、「収納」に近づいているんじゃないかって期待しちゃう。

うわくして口元が緩む。ひょっとリュックを揺らして、ボブが言った。

「ホッホッホ。坊ちゃんたちは優秀でさぁ。」

ボブは「運搬」スキルは持っているけれど、まだ重みが半減したと感じるレベルらしい。
ただ、すごく沢山の荷物を背負うことができる。父上と同じで、力で「運搬」できちゃっているタイプなのかな。

「運搬」スキルで荷物が軽く感じる影響は、馬にも及ぼされるらしい。大きいリュックにギッシリと水や魔獣の肉とかを詰め込んでいるのに馬は軽やかな足取りで森を駆け抜けてくれたおかげで、何とか昼食の時間くらいに戻ることができた。
殿下達は、町の中の食堂で昼食を取るということだったので、昼食に同席するために着替えたりということもしないで済む。

離れで母上とメイリと一緒に食卓を囲むことが出来た。

「毒耐性のある魔獣の魔石?」
「ボブはそう言ってたよ。」

母様に、魔石の話をしたら少し怪訝そうな顔をした。

「そういう魔石があるのは聞いたことがあるけれど、毒の魔獣がいるダンジョンだとか危険な場所ばかりなのよ。あなた達、まさか……!」
「「泉の向こうには行ってないよ!」」

僕と兄上が声を揃えて言う。言いつけはちゃんと守っているからね。怒られないうちに宣言しておかなきゃ。ちょっと心臓がドキドキしちゃったよ。

母様はまだじとっと疑いの目を向けていたけれど、怒られることはなかった。
狩りの様子を詳しく話したら、黒く爛れた皮膚の魔獣のことの方が気になったみたいだ。

「それはちゃんと始末したのね。」
「うん。泉の水をかけたら嫌な感じは無くなったけど、念の為燃やしてきたんだよ。」
「そう……。それならよかったわ。」
「母様は何か知っているの?」
「そうね……。少し似たことを思い出したけど、全く一緒ではないわ。だから知っている話と違うかもしれないわ。」
「どんな話なの?」

じっと母様を見つめると、母様はチラリと僕達を見回した。

「食事中にする楽しいお話ではないわ。食べ終わってから話しましょうか。」
「でも午後はまた案内をしないといけないかもしれないんだ。」
「呼び出されたら、続きは夜にお話ししましょう。」

母様はそう言って昼食の続きを食べ始めた。今日の昼食は魔鳥の香草パン粉付き焼き、ニンジンとキノコのバターソテー添え。
野菜たっぷりのスープ。パンは焼きたてで香ばしい香りを漂わせている。美味しい!
確かに、楽しんで食事をした方が良いね。

殿下達は町の昼食をとっているのだったら、戻ってくるまでの時間の猶予もある。
食後は食事で楽しんだ後、苦い香ばしいお茶を飲みながら、毒耐性の魔獣の件の続きを話す。

「手短に話すわね。」

母様はカップのお茶を一口飲んで僕達3人を見回して言った。

「呪い、というものは分かるかしら。呪いにかかると病気のように具合が悪くなるけれど、病気ではないから病気用の薬や治癒玉が効かないの。
『呪いの毒』は、魔獣が持っている毒なのだけど、呪いのように、普通の薬や治癒玉が効かない毒なのよ。
その毒に侵されると黒く爛れると言われているわ。」
「じゃあ、泉の向こう側に『呪いの毒』を持った魔獣がいるってこと?」
「そうね。その可能性が高いわ。だから、絶対に泉の向こう側に行ってはダメよ。」
「わかった!」

兄上が唇にきゅっと力を込めて頷いた。僕の兄上に合わせて頷いてみせた。
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