転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第55話 解呪でなく毒耐性

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「呪いの毒」という言葉には聞き覚えがある。

脳裏に浮かんだ光景の中でレオノールさんが倒れた時の姿を僕は思い出した。あの時のレオノールさんの皮膚が黒く染まっていた。そして黒い部分がどんどんと広がって行っていたんだ。

レオノールさんは「呪いの毒」を塗ったナイフで刺されたのか……。

「『呪いの毒』を解毒する方法はあるの?」
「聖属性魔法で解呪すると聞いたことがあるわ。……クリスが気になっているのは、毒耐性を持った魔獣の魔石が使えないかっていうことかしら。」
「うん。」

母様は僕が知りたいことをわかってくれているみたいだ。凄い!
でも、僕が頷くと母様はちょっと難しそうな顔をした。

「毒耐性を持った魔獣の魔石が使えるかどうかは……。正直わからないわね。簡単に試すことができないでしょう?
それと……水属性の魔法陣で『解呪』の魔法陣があるとは聞いたことがないのよ。」
「聖属性の魔法陣なら『解呪』があるの?それか光属性とか。」
「光属性でも『解呪』の魔法陣は聞いたことがないわ。
聖属性の魔法陣は……教会が公開していないの。『解呪』に限らず聖属性の魔法陣というものがあるかどうかも知らされていないの。
教会は、聖属性魔法のことは秘密にしたいのよ。……知ろうとしてはダメよ!」

母様は話している途中で、僕や兄様の表情を見てほんの少しだけ「威圧」っぽい空気を出した。僕も兄様も何もしていないのに、怒られたみたいになってる。知ろうとしたらダメなことがあるらしい。
ダメなのは教会のことだけ? 魔石のことは聞いても大丈夫なのかな?
恐る恐る聞いてみる。

「……魔石のことを調べたり実験するのは大丈夫なの?えーと……、例えば……『解呪』できなくても『毒耐性』を発動させるとか……。」

母様の顔色を伺いながら、ゆっくりとした口調で質問をすると、ピリピリとしていた母様の表情がちょっと和らいできた。

「あら。『解呪』という言葉を使わないのは、良いかもしれないわね。」

ニコリとする母様。母様の微笑みを見てホッと力を抜いたのだけど、母様は再びきっと目の力を強めて言った。

「……でも、危ないことはしないで!」
「はあい……。」

危ないことはしていないのにどうして怒られるんだろう……。
実際に「呪いの毒」に侵されている魔獣を捕まえてきて、毒耐性魔法をかけるとか危険なことをするつもりはないんだよ。しなくても実験はできる気がするんだ。

黎明の泉のほとりで黒く爛れた魔獣の皮に泉の水をかけた時、禍々しさが消えた。あの感じになることがわかれば良いんだからね。

……もしかして、泉の水があればそれだけで解呪できるってことのかな。毒耐性を持った魔獣は、泉の水を飲んでたんじゃないかと思う。みんな泉の近くにいたんだし。
泉の水を持ち歩けば……、でも泉の水は時間が経つと効果が薄れちゃうんだよね……。

泉の水の効果を長持ちさせる方法を考えていたらふと、魔石水のことを思い出した。魔石水は魔石を漬けた状態だと効果を維持できる。それなら毒耐性の魔石を泉の水に漬けたらどうだろう……。

考えを巡らせていたらノックの音がした。殿下達が呼んでいるとマーサが告げにきたんだ。マーサが入ってきたら、兄上はマーサがまだ何も言わないうちから立ちあがっていた。
僕も兄様に続いて椅子から立ち上がる。
呼ばれているのは兄上だけかもしれないけど、僕も一応ついていくことにする。

でも、その前に……。

泉から組んできた瓶の一つの蓋を開けて、毒耐性の魔石を瓶の中に一つ入れておいた。
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