転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第187話 見覚えがある名前

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ゴーシュさんは片手で目を覆ってから、ゆっくりと目を開けて瞬きをパチパチとした。

「うむ……、あまり自覚がなかったが目の調子が悪くなっていたようだ。
今ハッキリ見えるようになって、違いがわかる」

「何か心当たりはありますか?」

尋ねるとゴーシュさんは顎髭に指で触れながら考え込んだ。

「昨日の食事は、この屋敷で出されたものを食べている。今朝は朝食はまだだ。水しか飲んでいない」
「水はどなたが用意したんですか?」

兄上が尋ねると、ゴーシュさんは少し考えてから口を開いた。

「マホニルという部下だよ。しかし、彼は小隊長で信用できるやつだ」
「小隊長が水を運ぶんですか?」
「昨夜の残りだ。マホニルと部屋で酒を飲んだ。その時、酒と一緒に水も持ってきたんだ」
「酒?」
「酔うほどのものではない」
「そうじゃなくて、そのお酒とお水、確認したほうが良いんじゃないかと思って」
「マホニルを疑うのか?」
「マホニルさんも知らないで持ってきたかも」

渋るゴーシュさんに部屋まで案内してもらった。
僕はついて行っただけだけど。

部屋に向かっている途中で、魔法陣魔石を壊したことをまた謝られた。
結局、弁償というか他の魔法陣魔石と一緒に壊れた魔法陣魔石も買い取ってもらうことになった。
ハッキリした金額は落ち着いてからということだったけど、お詫びも含んだ金額だという。

殿下達の訓練に役立つものかちゃんと確認してもらう前に売りつけたみたいになっちゃった。
でも、今は毒の方が気になるよ。

ゴーシュさんの部屋に行くと、お酒の瓶と水差しがあった。

《パープルヴァレートレントの実入りハーブ酒》
《微毒》

お酒の瓶を見たら、何だか見覚えがある木の実の名前が出てきたんだけど!

来る途中で厨房に寄って持ってきた、果実炭酸光水の瓶を兄上が取り出して、
持参してきたゴブレット二つに注ぎ入れた。

そして、水差しの水と、酒の瓶の中の液体をそれぞれグラスに少し注ぎ入れる。
お酒を注ぎ入れた方のゴブレットがホワッと一瞬光った。

「光った、な」
「これ、微毒……、弱い毒だとこんな光り方をするんです」
「微毒……」

呟くように言ったゴーシュさんから突然ぐわっと「怒り」の気配が吹き上がった。

「マホニルの奴……っ!」
「ゴーシュ殿!」

勢いよく踵を返して部屋を出ようとするゴーシュさんの腕をレオノールさんが掴んだ。

「まず、どういった毒なのか確認しないと。たまたま身体に合わないものだった可能性もある」
「あ、ああ……」

ゴーシュさんは気持ちを落ち着かせるようにスーッと深く息を吸って、深く吐いた。

「微毒」の判定って確かに微妙だ。
お酒は飲み過ぎたら身体に毒だっていうけど、それだったら普通のお酒を少し注いだら「微毒」って判断されるのか。

普通のお酒をちゃんと毒鑑定で見たことがないからよくわからないんだよな。
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