転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第227話 魔道具のご紹介

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毒耐性の魔石の水瓶製作は、注文を受けてその場で作れちゃいそうだったので問題はなさそうだけど、
本当にすぐ出発しちゃうんだとしたら、水瓶を注文する時間はないかもしれない。
急ぎ目に屋敷に戻ってきた。ゴーシュさんかレオノールさんに話をしに行こうと思ったら、すぐに見つかった。

訓練場の方に人が沢山集まっているような気配がしたから、遠巻きに見てみたら、
訓練場の近くに何人か騎士の姿が見えた。その中にレオノールさんの姿があったんだ。目立つなぁ。

「レオノールさ~ん!おはようございます」

声をかけながら駆け寄ると
一瞬だけ、レオノールさんの周囲の人達から警戒するような気配が向けられた気がしたけれど
すぐに治まった。気のせいかな。

振り向いたレオノールさんは、周囲の騎士に何か指示を出してから僕の方に向き直って笑顔を浮かべた。

「おはよう、クリス君。ローレン君も。今日は魔道具のお披露目と聞いているけれど、何か準備が必要なのかしら」

レオノールさんは僕の後ろから歩いてきた兄上にも顔を向けて会釈をした後、少しだけ首を傾げた。

「準備?」
「まだ、予定の時間にはだいぶ早いわよね」

僕達が殿下達との待ち合わせの為に来たと思ったらしい。

「あ、殿下達との待ち合わせとは別です。ゴーシュさんとレオノールさんにオススメのグッズがあって」
「オススメ?」

頷いて、リュックから陶器のカップを取り出そうとした。リュックの肩紐を半分ずらしてゴソゴソしていたら
兄上が僕のリュックを後ろからぐっと持ち上げて、中から陶器のカップを取り出してくれた。
兄上にお礼を言ってから、レオノールさんに陶器のカップを見せる。

蓋付きのカップの方が高性能なんだけどなぁ、とちょっと考えたりしながら毒耐性のカップについて説明をした。

「毒耐性の魔石が埋め込まれたカップ……」
「これの水瓶バージョンが薬師のお店で売られているんです。
あると何かと安心なんじゃないかって思って」

どんな風に説明をするかは事前に兄上と相談しておいたんだ。時々兄上が補足の説明をしてくれて
毒耐性の水瓶を売り込んだ。

レオノールさんは陶器のカップを両手で持って底をじっと覗き込んだ。

「……毒耐性の魔石というものは初めて見るわ。
 毒耐性の効果がある水を作り出す魔道具なんて、あれば便利だとは思うけれど、
 検証が必要なものだわ」

レオノールさんが近くの騎士に声をかけて、ゴーシュさんへの伝言を頼んだ。
伝言を頼まれた騎士が走り去った後、レオノールさんが僕達の方に向き直る。

「どうして、この品を紹介してくれようと思ったの?」
「ゴーシュさんの目がチカチカになったことがあったでしょう?
ああいう事の対策になるんじゃないかなって思って」
「心配してくれたのね。
……でも、もう毒を盛った者は捕まったのよ」

レオノールさんはそう言いながら、少し悲しげに眉を顰めた。
ポンと兄上が僕の肩に手を置いた。

「帰り着くまで油断は禁物じゃないですか?」

僕の肩越しから兄上がレオノールさんに語りかける。レオノールさんは少し目を見開いてから、口の端を上げた。

「……そうね。その通りよ……。わかったわ。購入するかどうか検討するわ。このカップも売ってくれるのかしら?」

レオノールさんは手にしていた陶器のカップを少し持ち上げてみせた。

「あ、それは見本で持ってきたものなので……。差し上げますので、水とか入れて確認してみてください」
「これにだって魔石がついているじゃない。購入して構わないなら代金は払うわ。デザインも中々素敵だし。
 ……そうね。付加価値付きのカップとしての代金を支払って、効果を検証してから追加代金を支払うことしましょう。
それでどうかしら」

サンプルで作った陶器のカップは、毒耐性魔石の中でも小さい魔石を使っているし、
カップ自体が、ゲンティアナの窯元で量産しているようなものだ。
元手はあまりかかっていないのに、代金を支払われてしまった。
金額が大きそうなんだけど、紹介料も含んでいるんだって。
ルドおじさんが作った水瓶が売れれば、ゲンティアナ家にもお金が入ってくるって聞いているんだけど
紹介料をもらっちゃって良いのかな。
とりあえず、水瓶の購入を検討してくれそうなので安心した。
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