転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第236話 再びのフッ

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そういえばシェリル嬢の魔道具のお試しはどうなったんだろう。振り向いてみたら、シェリル嬢が的に向かってブローチを構えているのが見えた。

あ、いけない。説明するのは僕の担当だったんだ!

慌てて、オーキッド伯爵とリネリア嬢に「失礼します」と言ってから、的の前に戻って行った。

的の前のエリアは、さっきより人が密集している感じがする。見物客がちょっと前に出てきた感じだ。

ブワっと風の音がして、シェリル嬢が手にしていたブローチから風魔法の魔法陣が浮かび上がった。
バーンと音を立てて立ててあった板が吹っ飛んだ。

「やったわ!」

シェリル嬢の嬉しそうな声を上げて振り返った。

「見事だったよ。シェリル」

ハロルド君が拍手をして褒めると、シェリル嬢はちょっと照れたように俯いた。

フッ

あれ?また「フッ」って聞こえたぞ。

「ありがとう!魔道具の機能だとわかっているんだけど……」
「それでも見事だよ。魔道具を使いこなしているということだから」

ハロルド君とシェリル嬢は仲良さそう。

「フッ」の気配に気がついて、周囲を見回したけど、人が多い。とりあえず、シェリル嬢の元に駆け寄った。

「すみません。ちょっと、あっちに行ってました」
「大丈夫よ。説明は聞いてたし。それにしても、良いわね、これ。風魔法なんて初めて撃っちゃったわ」

シェリル嬢が振り返ってにこやかな笑顔を見せた。

フッ

また、「フッ」だ。なんだろうなぁ。

「この風魔法の効果が大きい範囲は、今、吹っ飛んだ板が立っていた辺りまでなので、効果範囲の距離は覚えておいてください」
「近くまで引き寄せてから、敵を倒すのね」

「逃げるための隙を作る程度です。倒す程のダメージは与えられないので」
「でも板は飛んで行ったわよ」
「魔獣だったら吹っ飛んでもすぐに戻ってきちゃいますよ」
「そーお?うーん……。狩りの訓練の時、確かにしぶとかったわね」

シェリル嬢は、狩りの訓練の時のことを思い出したのか、少し眉を歪めた。

ブローチを指で弄りながら「狩りでは使えないのね」と小さく呟いた。

風魔石の魔法を狩りで使おうって考えていたのかな。
魔獣を倒す時に使いたかったのかもしれない。でも、身を守る手段としては使えなくもないんだけどなぁ。

土魔石も魔法だってそうだ。低い土の壁が出てくるだけだから、一時的な防御用向きだ。

なんて言おうか考えているうちに、シェリル嬢はもう次の魔法を放っていた。
ゴゴッと小さな土の壁が、的の隣辺りに出来た。

「え?」

フッ

「その土魔石を使う時は、ブローチを地面に向けてください。土の壁を作りたい場所を狙うんです」

シェリル嬢は、風魔石を使った時とブローチの角度を変えていなかったようだ。それはそれとして、また「フッ」って聞こえたよ。
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