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第2章
第246話 乾杯の練習
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「かんぱーい!……の練習!」
シュワシュワしていて淡い光を放っている果実炭酸光水が入ったグラスを掲げる。
コクっとグラスの中の飲み物を喉に流し込んだ母様は、ホッと小さく息を吐いた。
ここ何日か滞在していたお客様が帰って行ったので、朝食の席でお疲れ様会をしていた。
父上は領境までお客様に同行して行ったので、父上が帰ってきてからちゃんと「乾杯」するらしくて今は「乾杯の練習」なんだって。
父上はまだお客様の対応が終わっていないのだから、皆でお疲れ様会をするのは父上が戻ってきてからだと言うことはわかる。でも、乾杯の「練習」ってイマイチよく分からない。練習しないと上手に乾杯できないなんてことあるのかな。
「母様、お疲れ様でした。でも、乾杯の練習って必要なのですか?」
「必要よ」
僕が質問をするとグラスを静かにテーブルに置いて母様が僕を見た。
「練習しないとどうなるんですか?」
「練習をすることで気持ちが晴れやかになる準備をしているの。いきなり本当の『乾杯』をしようとすると心の準備ができていなくて、十分な笑顔で乾杯できないかもしれないのよ」
真剣な表情で母様が語る。
「そうだよ。練習をしたって損はないだろ」
兄上は一気にグラスの中の飲み物を飲み干して、プハーってしてた。
練習をして損はないって言うけど、何度も練習してプハーってしてたら、お腹がタプタプになってしまいそうだ。
「お母様もローレン兄様、クリス兄様もお疲れ様でした」
グラスを手にしたメイリがニコッと笑顔を向けて労いの言葉をかけてくれた。
可愛い、嬉しい。練習なのだったら、本番の乾杯でまた笑顔で言ってもらえるのかな。それは嬉しいかもしれない。
「ありがとう。メイリ。メイリは結局、殿下達にお会いしなかったけど、良かったの?」
殿下や辺境伯様達が屋敷に滞在中、メイリは離れから外に出なかった。
メイリは可愛いから、もしも気に入られて王都に連れて行かれたりしたら困る。だからメイリが離れから出なかったのは良かったのかもしれない。でも、メイリは僕に王子様の絵を描いてって頼んでくるくらい
王子様とかお姫様とかのお話が好きなんだ。メイリ自身は本物の「王子様」に会わなくて良かったのかちょっと気になっていたんだ。
「窓からお姿は拝見してたから良いの。巻き込まれても大変だし」
「巻き込まれる?」
「関わっちゃうと色々大変になっちゃったりするでしょう?兄様達だって、忙しそうだったわ」
「うーん……。確かに、忙しかったね」
ドロドロの角兎の解体とかもやったし、確かに忙しかった。
「……角兎の解体とか、メイリもやることになってたら大変だったね」
「解体は……、まだ無理かも……。狩りもしたことないんだもの」
解体と聞いて、メイリがきゅっと顔を歪めた。嫌そうだ。
「あ、でも解体は魔道具でかなりサクッと出来るようになったよ」
「え?本当?」
「うん。まだ、短剣には『魔石取り』しか付けてないけど、他の魔法陣魔石も合わせるように作り替えたら短剣でサクッと刺したら、皮を剥いでバラバラに出来るようになると思うよ」
「使ってみたい!お魚をバラバラにしてみたいわ!三枚に下ろすの」
「え?お魚……?お魚はまだ厳しいかも……。魚は鱗があるし、別の解体のスキルが必要そうだよ」
「そうなのね。お魚が解体できるナイフができたら使ってみたいわ」
夢見るような表情でメイリが言う。これは、魚の解体のスキルも早く取得しないと!
「……解体は最初は自分でやってみた方が良いと思うよ。解体のスキルが伸びないし。魔道具の便利さも実感するだろうから。メイリはその前に狩りに出るところからだけどね」
兄上がコホンと咳払いをした。
シュワシュワしていて淡い光を放っている果実炭酸光水が入ったグラスを掲げる。
コクっとグラスの中の飲み物を喉に流し込んだ母様は、ホッと小さく息を吐いた。
ここ何日か滞在していたお客様が帰って行ったので、朝食の席でお疲れ様会をしていた。
父上は領境までお客様に同行して行ったので、父上が帰ってきてからちゃんと「乾杯」するらしくて今は「乾杯の練習」なんだって。
父上はまだお客様の対応が終わっていないのだから、皆でお疲れ様会をするのは父上が戻ってきてからだと言うことはわかる。でも、乾杯の「練習」ってイマイチよく分からない。練習しないと上手に乾杯できないなんてことあるのかな。
「母様、お疲れ様でした。でも、乾杯の練習って必要なのですか?」
「必要よ」
僕が質問をするとグラスを静かにテーブルに置いて母様が僕を見た。
「練習しないとどうなるんですか?」
「練習をすることで気持ちが晴れやかになる準備をしているの。いきなり本当の『乾杯』をしようとすると心の準備ができていなくて、十分な笑顔で乾杯できないかもしれないのよ」
真剣な表情で母様が語る。
「そうだよ。練習をしたって損はないだろ」
兄上は一気にグラスの中の飲み物を飲み干して、プハーってしてた。
練習をして損はないって言うけど、何度も練習してプハーってしてたら、お腹がタプタプになってしまいそうだ。
「お母様もローレン兄様、クリス兄様もお疲れ様でした」
グラスを手にしたメイリがニコッと笑顔を向けて労いの言葉をかけてくれた。
可愛い、嬉しい。練習なのだったら、本番の乾杯でまた笑顔で言ってもらえるのかな。それは嬉しいかもしれない。
「ありがとう。メイリ。メイリは結局、殿下達にお会いしなかったけど、良かったの?」
殿下や辺境伯様達が屋敷に滞在中、メイリは離れから外に出なかった。
メイリは可愛いから、もしも気に入られて王都に連れて行かれたりしたら困る。だからメイリが離れから出なかったのは良かったのかもしれない。でも、メイリは僕に王子様の絵を描いてって頼んでくるくらい
王子様とかお姫様とかのお話が好きなんだ。メイリ自身は本物の「王子様」に会わなくて良かったのかちょっと気になっていたんだ。
「窓からお姿は拝見してたから良いの。巻き込まれても大変だし」
「巻き込まれる?」
「関わっちゃうと色々大変になっちゃったりするでしょう?兄様達だって、忙しそうだったわ」
「うーん……。確かに、忙しかったね」
ドロドロの角兎の解体とかもやったし、確かに忙しかった。
「……角兎の解体とか、メイリもやることになってたら大変だったね」
「解体は……、まだ無理かも……。狩りもしたことないんだもの」
解体と聞いて、メイリがきゅっと顔を歪めた。嫌そうだ。
「あ、でも解体は魔道具でかなりサクッと出来るようになったよ」
「え?本当?」
「うん。まだ、短剣には『魔石取り』しか付けてないけど、他の魔法陣魔石も合わせるように作り替えたら短剣でサクッと刺したら、皮を剥いでバラバラに出来るようになると思うよ」
「使ってみたい!お魚をバラバラにしてみたいわ!三枚に下ろすの」
「え?お魚……?お魚はまだ厳しいかも……。魚は鱗があるし、別の解体のスキルが必要そうだよ」
「そうなのね。お魚が解体できるナイフができたら使ってみたいわ」
夢見るような表情でメイリが言う。これは、魚の解体のスキルも早く取得しないと!
「……解体は最初は自分でやってみた方が良いと思うよ。解体のスキルが伸びないし。魔道具の便利さも実感するだろうから。メイリはその前に狩りに出るところからだけどね」
兄上がコホンと咳払いをした。
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