【完結】欲をかいて婚約破棄した結果、自滅した愚かな婚約者様の話、聞きます?

水月 潮

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第6話

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 使用人はすぐ書類を持って戻ってきた。

 本来こんな大勢のいる場で見せるようなものではないが、今回はトニー達を追い返す為なので例外である。


「はい。此方がその書類ですわ。ルシアが正当な次期公爵家当主であるという内容が書かれており、前当主ジゼルのサインと私のサイン、それから貴族院の印に国王陛下の国璽もありますの」

「国王陛下の国璽があるからってなんなんだ! そんなもの無効だ!! 私の主張こそが正しいのだ!!」

「そうよ! 無効よ、無効!」

 トニーに続き、バルバラも無効を主張する。
 

 トニーは先程まであれだけ強気でいた癖に、ミレイユが持ってきた書類がトニーの予想に反して本格的なものだったので急に焦り出した。

 トニーは、ミレイユが言うところの書類は本人が大げさに言っているだけで、本人達の主張だけが書かれた単なるぴらぴらの用紙であると予想しており、それならいくらでも言いくるめられると思っていたのだ。


 ここで、ある人物が周囲の人々をかき分けて前に進み、声を上げる。

「ローレル伯爵夫人。ちょっとよろしいか?」

「陛下……!」

 ミレイユが頭を下げて臣下の礼をとり、他の招待客も一斉に同じく臣下の礼をとる。

 何もせず突っ立っているのはトニー達4人だけだ。

 国王陛下夫妻が来ていることを知らなかったにしても、礼儀を欠いている。


「皆の者、今日は一応お忍びであるが故、堅苦しくしなくてもよい」

「せっかくお越し頂いたのにこのようなお見苦しいところをお見せしてしてしまい、大変申し訳ございません」

「話を聞いておったが、夫人は悪くない。招待されてもいないのに勝手に乱入してきたこ奴らが悪いのじゃ」


 陛下はトニーとバルバラに目線を合わせ、話を続ける。

「さて、カルマ男爵よ。貴殿は随分と勝手な言い分で次期公爵家当主になるとかほざいておったな。それに、貴族院と余の国璽が入っていてもなお無効と主張するとは、我が国の機関が認め、そして余が認めたことに対して貴殿は余の決定に異を唱えるということじゃな? 貴殿はいつからそんなに偉くなったんじゃ?」

 陛下は威圧しながら問いかける。

 国を統べる者の威圧を真正面で受けたトニーは顔を真っ青にして、ガタガタ震えながらも答える。

「へ、へ、陛下……まさかここにおられるとは! 私めは自分の権利を主張していただけのこと! 陛下の決定に異を唱えるなんて滅相もない……!」

「ええ。私達はそんなつもりではないのです! そうですわ! よかったらこの女に陛下からも口添えしてやってくれませんか? 次期公爵家当主は私の夫であるトニーこそがふさわしいと!」

「そんなことせぬわ。カルマ男爵夫人。自分より格上のローレル伯爵夫人に対して相応しくない呼び方をする礼儀知らずの言うことなぞ聞かぬ」


 トニーとバルバラが陛下とやり取りをしている中、場違いに明るい声が響く。

「ねぇ、何だか揉めてるみたいだけど、お父様を次期公爵家当主として認めてもらういい方法があるわ! おばさんが持ってるその書類をビリビリに破いちゃえばいいんだわ! いくらその書類の力が高かろうと粉々になるまでビリビリに破いちゃえば最初からそんな書類ないのも同然よ! これで書類がないという点は同列だし、後は年の功ってやつでルシアよりお父様が次期公爵家当主としてふさわしいということになるの! 流石、私! 冴えてるわ!」

「ファニー、流石だよ! 聞いたか、ルシア! お前やお前の母上と違って、ファニーは賢いんだ! ファニーの言う通りだ! 如何に効力があっても粉々になったら意味がない。そこに気づかなかったお前達は間抜けだな! さぁ、書類を此方に渡せ!」


 ――今度はファニーとイアンによる馬鹿げた主張が始まった。

(この方達頭の中、大丈夫かしら? 破ったら無効になる、なんてそんな話が罷り通ると本気で思っていらっしゃるのかしら? それに男爵令嬢如きが元公爵家令嬢で現伯爵夫人であるお母様をおばさん呼ばわりして、伯爵令嬢である私のことも名前呼びの許可なんて出してないのに呼び捨て。後できっちりお礼をしてあげましょう)
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