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第8章
われこそはクマソで一番強い娘!!( •̀∀•́ ) ドヤ 違うって!!┐(´д`)┌ヤレヤレ
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あれからエミシ討伐を大王に命じられ東国に旅立つまでの数年間、
コウス様は毎日狩をしたり、
釣に出掛けたり、
花見や市の見物などをしてのんびりと過ごされていた。
私もお出かけの時はいつもお供した。
クマソの情勢については人伝えにこのように聞いていている。
クマソタケル亡き後も、
一時はある年老いた豪族の長を中心としてクマソは一つにまとまっていたという。
その豪族の長は、
自分は圧政を敷くクマソタケルを成敗した、
と宣言し、
人々の信望を得たそうだ。
しかし次第にクマソの人々はそれを信じなくなったらしい。
あの芝居の効果が出てきたのだ。
新しいクマソの王は日に日に求心力を失った。
1年もしないうちに、
クマソはクマソタケル登場以前の小部族の寄せ集めへと戻ってしまったという。
クマソの部族同士は相争うようになった。
ヤマトはそれを見計らって、
クマソに攻め入った。
クマソの部族はすぐにわが国に恭順するものも多かった。
従わないものはしらみつぶしにした。
いまなお歯向かう部族もいるが、
おそらくわが国がクマソ全土を手に入れるのも時間の問題だろうということだ。
クマソから帰ってきた次の年の遅い春のことだった。
肌を暖かく撫でる風の中、
私とコウス様は連れ立って鷹狩りに出かけた。
遠方から人々の声、
鐘の音、
琴や太鼓の音がする。
馬を走らせていくと、
黄緑色の若葉のまぶしい木の下で芝居がかかっているのが見える。
舞台の上には白い着物に赤い裳、
光沢のある青地に鮮やかな緑の刺繍がほどこされた衣をまとった女形がいる。
その後ろには髭ずらのわざおきが二人並んで毛皮の上に座り、
酒盃を高々とかかげている。
「お素敵」「おすごい」「お素敵」「おすごい」という高い声が耳に入った。
俺の芝居のようだ、
と嬉しそうにおっしゃるコウス様と共に近づいていく。
次第にわざおきたちの顔立ちや肌のつやまで、
はっきりとしだした。
「なんてお素敵、おすごい、
お素敵、おすごい、
お素敵、おすごい、
お素敵なんでしょう!」
玉のぶつかりあうような涼やかな声だった。
白粉を塗っていない、
つややかな顔の目じりと唇に紅をさしている。
幼さを残したやわらかな顎の線。
好奇心いっぱいの子供の瞳。
澄み切った白目。
コウス様を演じているのは若い少女らしい。
「このコウス様は本物の娘のようですよ」
「そもそも本物は娘ではないわけだが」
「でも今まで見た中では一番これがコウス様に似ています」
今まで随分とさまざまなコウス様を見てきた。
ヤマトに戻ってから宴会や祭りのたびに上演される芝居は決まって、
このコウス様の芝居だったのだ。
しかし、
たいていは明らかに男だったり、
どう見ても 40過ぎだったり、
クマソタケル役の役者が「なんとうるわしいおとめごじゃ!」と言うのが何かの悪い冗談にしか思えないようなのばかりだった。
しかし今日の若い女優はあの日のコウス様の可憐な娘姿そのままだった。
「なんてお素敵、おすごい、
お素敵、おすごい、
お素敵、おすごい、
お素敵なんでしょう!」
桜の花びらに、
水で薄めた紅を筆で塗ったような頬の下で、
えくぼがへこむ。
桃色の唇を上に向け、
娘は甘く微笑む。
鮮やかな青の衣の長い袖と、
富士額に締めた五色の鉢巻が、
春風に吹かれ、
空中に巻き上がっている。
「なんてお素敵、おすごい、
お素敵、おすごい、
お素敵なんでしょう!」
百合の花のような手を酒つぼに沿える。
桜貝のような爪が光る。
鉢巻に挿した藤の花の紫が白い肌に映りこんだ。
私は何度も何度も娘とコウス様を交互に見比べて嘆息した。
「それにしてもコウス様……
あの頃はまだ女の子の格好が似合ってよかったですね」
コウス様は近頃日に日に背が高くなられ、
肩幅もがっしりとしてきた。
顔立ちも精悍になり、
もう今ではあの日のように娘に化けてクマソタケル邸に忍び込むのは無理だろう。
コウス様は私の言いたいことがおわかりになったようで照れくさそうに笑うと、
「ああ! 俺だって近頃水に映った自分の姿を見るたび、
誰だこのむさいおっさんと思うんだ。
毎日体が大きくなるんで、
縫い直した着物が出来上がる頃には、
もう着れないのには弱ったよ」
むさいおっさんだなんてとんでもない。
確かに、
あの乙女とみまがう美少年はいつのまにか私の側から姿を消した。
けれども、
今私の隣に立っているコウス様は眉根りりしく、
引き締まった口元に綺麗なひげを蓄えた、
ほれぼれするような美丈夫だった。
私はこのような方にお仕えできることが誇らしかった。
「なんてお素敵、おすごい、
お素敵、おすごい、
お素敵なんでしょう!」
髪飾りの藤の花が、
風にあおられ紫色に踊る。
赤い裳がめくれ上がり、
白い脚が覗いた。
舞台の上の美少女は背からすらりと刀を取り出す。
一瞬思いつめたような面持ちで、
刀を胸の前で構えると、
クマソタケルに向かって打ち付ける。
「おまえはだれだ……」
クマソタケルが背を前に屈ませ、
胸を押さえる。
目を血走らせ、
女わざおきを睨む。
美少女は大きな音を立てて、
刀のお尻を舞台に打ち付ける。
ういういしい顔を輝かせ、
胸を張り、
高らかにこう名乗った。
「われこそはクマソで一番強い娘!
鍛冶屋のテツヒコの娘、
17歳!」
違うって!
(終わり)
コウス様は毎日狩をしたり、
釣に出掛けたり、
花見や市の見物などをしてのんびりと過ごされていた。
私もお出かけの時はいつもお供した。
クマソの情勢については人伝えにこのように聞いていている。
クマソタケル亡き後も、
一時はある年老いた豪族の長を中心としてクマソは一つにまとまっていたという。
その豪族の長は、
自分は圧政を敷くクマソタケルを成敗した、
と宣言し、
人々の信望を得たそうだ。
しかし次第にクマソの人々はそれを信じなくなったらしい。
あの芝居の効果が出てきたのだ。
新しいクマソの王は日に日に求心力を失った。
1年もしないうちに、
クマソはクマソタケル登場以前の小部族の寄せ集めへと戻ってしまったという。
クマソの部族同士は相争うようになった。
ヤマトはそれを見計らって、
クマソに攻め入った。
クマソの部族はすぐにわが国に恭順するものも多かった。
従わないものはしらみつぶしにした。
いまなお歯向かう部族もいるが、
おそらくわが国がクマソ全土を手に入れるのも時間の問題だろうということだ。
クマソから帰ってきた次の年の遅い春のことだった。
肌を暖かく撫でる風の中、
私とコウス様は連れ立って鷹狩りに出かけた。
遠方から人々の声、
鐘の音、
琴や太鼓の音がする。
馬を走らせていくと、
黄緑色の若葉のまぶしい木の下で芝居がかかっているのが見える。
舞台の上には白い着物に赤い裳、
光沢のある青地に鮮やかな緑の刺繍がほどこされた衣をまとった女形がいる。
その後ろには髭ずらのわざおきが二人並んで毛皮の上に座り、
酒盃を高々とかかげている。
「お素敵」「おすごい」「お素敵」「おすごい」という高い声が耳に入った。
俺の芝居のようだ、
と嬉しそうにおっしゃるコウス様と共に近づいていく。
次第にわざおきたちの顔立ちや肌のつやまで、
はっきりとしだした。
「なんてお素敵、おすごい、
お素敵、おすごい、
お素敵、おすごい、
お素敵なんでしょう!」
玉のぶつかりあうような涼やかな声だった。
白粉を塗っていない、
つややかな顔の目じりと唇に紅をさしている。
幼さを残したやわらかな顎の線。
好奇心いっぱいの子供の瞳。
澄み切った白目。
コウス様を演じているのは若い少女らしい。
「このコウス様は本物の娘のようですよ」
「そもそも本物は娘ではないわけだが」
「でも今まで見た中では一番これがコウス様に似ています」
今まで随分とさまざまなコウス様を見てきた。
ヤマトに戻ってから宴会や祭りのたびに上演される芝居は決まって、
このコウス様の芝居だったのだ。
しかし、
たいていは明らかに男だったり、
どう見ても 40過ぎだったり、
クマソタケル役の役者が「なんとうるわしいおとめごじゃ!」と言うのが何かの悪い冗談にしか思えないようなのばかりだった。
しかし今日の若い女優はあの日のコウス様の可憐な娘姿そのままだった。
「なんてお素敵、おすごい、
お素敵、おすごい、
お素敵、おすごい、
お素敵なんでしょう!」
桜の花びらに、
水で薄めた紅を筆で塗ったような頬の下で、
えくぼがへこむ。
桃色の唇を上に向け、
娘は甘く微笑む。
鮮やかな青の衣の長い袖と、
富士額に締めた五色の鉢巻が、
春風に吹かれ、
空中に巻き上がっている。
「なんてお素敵、おすごい、
お素敵、おすごい、
お素敵なんでしょう!」
百合の花のような手を酒つぼに沿える。
桜貝のような爪が光る。
鉢巻に挿した藤の花の紫が白い肌に映りこんだ。
私は何度も何度も娘とコウス様を交互に見比べて嘆息した。
「それにしてもコウス様……
あの頃はまだ女の子の格好が似合ってよかったですね」
コウス様は近頃日に日に背が高くなられ、
肩幅もがっしりとしてきた。
顔立ちも精悍になり、
もう今ではあの日のように娘に化けてクマソタケル邸に忍び込むのは無理だろう。
コウス様は私の言いたいことがおわかりになったようで照れくさそうに笑うと、
「ああ! 俺だって近頃水に映った自分の姿を見るたび、
誰だこのむさいおっさんと思うんだ。
毎日体が大きくなるんで、
縫い直した着物が出来上がる頃には、
もう着れないのには弱ったよ」
むさいおっさんだなんてとんでもない。
確かに、
あの乙女とみまがう美少年はいつのまにか私の側から姿を消した。
けれども、
今私の隣に立っているコウス様は眉根りりしく、
引き締まった口元に綺麗なひげを蓄えた、
ほれぼれするような美丈夫だった。
私はこのような方にお仕えできることが誇らしかった。
「なんてお素敵、おすごい、
お素敵、おすごい、
お素敵なんでしょう!」
髪飾りの藤の花が、
風にあおられ紫色に踊る。
赤い裳がめくれ上がり、
白い脚が覗いた。
舞台の上の美少女は背からすらりと刀を取り出す。
一瞬思いつめたような面持ちで、
刀を胸の前で構えると、
クマソタケルに向かって打ち付ける。
「おまえはだれだ……」
クマソタケルが背を前に屈ませ、
胸を押さえる。
目を血走らせ、
女わざおきを睨む。
美少女は大きな音を立てて、
刀のお尻を舞台に打ち付ける。
ういういしい顔を輝かせ、
胸を張り、
高らかにこう名乗った。
「われこそはクマソで一番強い娘!
鍛冶屋のテツヒコの娘、
17歳!」
違うって!
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