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第8章 頼みの綱
頼みの綱(2)
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とぼとぼと、
家まで頭を垂れて帰った。
玄関をよじのぼり、
廊下の先の電話の黒い受話器を震える手で取る。
覚えている限りの、
遊んだことのある男児に、
電話をかける。
女の子とは遊んじゃいけないんだ、
男の子と遊ばないと、
と思った。
数少ない同性の友達を必死で思い出した。
学区の違う幼馴染や、
二歳年上の従兄弟にかたっぱしから電話をする。
皆もうでかけたとか、
他の子と遊ぶ約束をしたからとのことだった。
遊びの約束は一向にとれない。
私は同じ通りの一つ年下の酒屋の息子、
正太に電話をした。
正太はいつか私の犬の動くぬいぐるみをよってたかって奪い、
池に落とした子である。
あの時は小虎に一喝されて、
逃げ帰った。
しばらくは私をいじめなかった。
まもなくそんな事も忘れたようで、
いつも私の事を、
青びょうたんと馬鹿にする。
機嫌が悪い時は私に拳骨を食らわす。
この前は私の大切にしていた電車模型を借りたきり返さなかった。
催促に行くと人にやった、
と平然としている。
私が泣いて責めると、
お前んち金持ちのくせにけちだな、
と平手打ちをされた。
叩き落とされ私は、
地面につっぷした。
大人に言ったら絞め殺すからな!
と私の手を踏みつける。
電話をかけたすべての少年に断られた私は、
この横暴な少年を思い出した時、
にわかに彼が大親友のように思えた。
指を穴につっこむ。
せわしくダイヤルを回す。
ダイヤルがのんびりと戻るのがもどかしい。
じりじりという音のあとに受話器を取る音がする。
聞こえてきた声は正太の高校生のお兄さんだった。
直人さんといって弟とはうってかわった大人しい優しい人だった。
「こんにちは、正太君いますか?」
「正太ならもうどこかに遊びにいっちゃったよ」
「じゃあ美登利ちゃんはいますか?」
もう女の子でもいいやと思った。
「美登利は剣道に行ったよ」
じゃあお兄さんは一緒に遊べますか、
と私がおずおずと尋ねると、
えっ!?
とびっくりした声が返ってきた。
「僕が君と遊ぶ?」
沈黙の後、
ごめん僕はこれから予備校だから、
と聞こえた。
私は受話器を置いた。
電話帳を見ると、
正太と美登利の父である木田信弘のすぐ下に木林良子(旧姓武藤)とある。
私はおそるおそるダイヤルを回した。
涼しげな声が聞こえた。
「木林です」
「あ・・・あの田中スグルです。
小虎お兄ちゃんは?」
沈黙の後、
スグル君?!
と良子は驚いた様子だった。
「あのおばさん、
小虎お兄ちゃんはもう元気になりましたか?
一緒に遊べたらと思うのだけど」
長い長い沈黙だった。
「あの、
おばさん?」
良子はぽつりぽつりと語りだした。
「あのね小虎は、
赤ちゃんになっちゃったの。
それでもよければ遊んでくれる?」
「小虎お兄ちゃんが赤ちゃんに?」
良子は、
小虎は水に落ちた時、
脳に酸素がいかずに、
それが原因で頭があまり機能しなくなった、
そのせいで小虎の心は成長せずに、
むしろ後戻りしてしまった、
今では赤ん坊のようである、
それでも良ければ小虎と遊んでくれるか?
と聞いた。
私は訳がわからなかった。
しかし、
遊ぶ友達はどうしても欲しかった。
それに以前生まれたばかりの従兄弟を膝に乗っけてあやした時、
楽しかったことを思い出した。
うん、
小虎お兄ちゃんが赤ちゃんでも遊んであげるよ、
と答えた。
良子はそれならいらっしゃい、
カステラ用意しているから、
と電話を切った。
私は良子から、
彼女の家が何処にあるか初めて聞いた。
白砂神社の鳥居のすぐ近くの団地だという。
神社には何度も行ったことがあるから、
私は一人で行けると思った。
居間をのぞくと、
オバちゃんが妹を抱いて居眠りをしている。
そろりそろりと廊下と玄関を抜けると、
門をくぐる。
門を出るやいなや、
私は駆け出した。
道を走る私は、
良子が小虎が赤ちゃんに戻った、
と言っていたことはすっかり忘れていた。
遊ぶ友達が見つかってよかった、
それにしても今日はお菓子づくしだ、
とスキップをした。
家まで頭を垂れて帰った。
玄関をよじのぼり、
廊下の先の電話の黒い受話器を震える手で取る。
覚えている限りの、
遊んだことのある男児に、
電話をかける。
女の子とは遊んじゃいけないんだ、
男の子と遊ばないと、
と思った。
数少ない同性の友達を必死で思い出した。
学区の違う幼馴染や、
二歳年上の従兄弟にかたっぱしから電話をする。
皆もうでかけたとか、
他の子と遊ぶ約束をしたからとのことだった。
遊びの約束は一向にとれない。
私は同じ通りの一つ年下の酒屋の息子、
正太に電話をした。
正太はいつか私の犬の動くぬいぐるみをよってたかって奪い、
池に落とした子である。
あの時は小虎に一喝されて、
逃げ帰った。
しばらくは私をいじめなかった。
まもなくそんな事も忘れたようで、
いつも私の事を、
青びょうたんと馬鹿にする。
機嫌が悪い時は私に拳骨を食らわす。
この前は私の大切にしていた電車模型を借りたきり返さなかった。
催促に行くと人にやった、
と平然としている。
私が泣いて責めると、
お前んち金持ちのくせにけちだな、
と平手打ちをされた。
叩き落とされ私は、
地面につっぷした。
大人に言ったら絞め殺すからな!
と私の手を踏みつける。
電話をかけたすべての少年に断られた私は、
この横暴な少年を思い出した時、
にわかに彼が大親友のように思えた。
指を穴につっこむ。
せわしくダイヤルを回す。
ダイヤルがのんびりと戻るのがもどかしい。
じりじりという音のあとに受話器を取る音がする。
聞こえてきた声は正太の高校生のお兄さんだった。
直人さんといって弟とはうってかわった大人しい優しい人だった。
「こんにちは、正太君いますか?」
「正太ならもうどこかに遊びにいっちゃったよ」
「じゃあ美登利ちゃんはいますか?」
もう女の子でもいいやと思った。
「美登利は剣道に行ったよ」
じゃあお兄さんは一緒に遊べますか、
と私がおずおずと尋ねると、
えっ!?
とびっくりした声が返ってきた。
「僕が君と遊ぶ?」
沈黙の後、
ごめん僕はこれから予備校だから、
と聞こえた。
私は受話器を置いた。
電話帳を見ると、
正太と美登利の父である木田信弘のすぐ下に木林良子(旧姓武藤)とある。
私はおそるおそるダイヤルを回した。
涼しげな声が聞こえた。
「木林です」
「あ・・・あの田中スグルです。
小虎お兄ちゃんは?」
沈黙の後、
スグル君?!
と良子は驚いた様子だった。
「あのおばさん、
小虎お兄ちゃんはもう元気になりましたか?
一緒に遊べたらと思うのだけど」
長い長い沈黙だった。
「あの、
おばさん?」
良子はぽつりぽつりと語りだした。
「あのね小虎は、
赤ちゃんになっちゃったの。
それでもよければ遊んでくれる?」
「小虎お兄ちゃんが赤ちゃんに?」
良子は、
小虎は水に落ちた時、
脳に酸素がいかずに、
それが原因で頭があまり機能しなくなった、
そのせいで小虎の心は成長せずに、
むしろ後戻りしてしまった、
今では赤ん坊のようである、
それでも良ければ小虎と遊んでくれるか?
と聞いた。
私は訳がわからなかった。
しかし、
遊ぶ友達はどうしても欲しかった。
それに以前生まれたばかりの従兄弟を膝に乗っけてあやした時、
楽しかったことを思い出した。
うん、
小虎お兄ちゃんが赤ちゃんでも遊んであげるよ、
と答えた。
良子はそれならいらっしゃい、
カステラ用意しているから、
と電話を切った。
私は良子から、
彼女の家が何処にあるか初めて聞いた。
白砂神社の鳥居のすぐ近くの団地だという。
神社には何度も行ったことがあるから、
私は一人で行けると思った。
居間をのぞくと、
オバちゃんが妹を抱いて居眠りをしている。
そろりそろりと廊下と玄関を抜けると、
門をくぐる。
門を出るやいなや、
私は駆け出した。
道を走る私は、
良子が小虎が赤ちゃんに戻った、
と言っていたことはすっかり忘れていた。
遊ぶ友達が見つかってよかった、
それにしても今日はお菓子づくしだ、
とスキップをした。
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