2 / 40
幕開け
悪役令嬢にされた姉妹 前編
しおりを挟む《紅蓮》の貴族家のひとつ、ハチス公爵家クランド・ハチスには六歳と五歳の娘がいる。
姉のクロエと妹のシロエだ。
「…………ちゃら鬼神め!」
寝起きの開口一番、ぷっくりと紅色の唇から呪詛めいた声が発せられた。のそのそと寝台から下りて鏡の前まで行く。映る美少女の姿は見慣れたものだ。
「………あぅ」
染みひとつない白皙。サラサラな真っ黒な艶々髪をかき分け、ちよこんと飛び出す先端が薄紅の白い角。キリッと目尻が切れあがる大きな墨色の瞳、右の目尻のホクロは幼女のくせに色気がある。薄紅の薄めの唇は口角が少しだけ上向きなため小馬鹿にしているように……見えなくもない。
やさしいか怖いかで問えば、怖い。甘いか甘くないかで云えばこれっぽっちも甘さはない。
ものすごく気の強そうな、顔。
「見た目は間違いなく悪役……おぅ!」
クロエは絶望のあまり膝から崩れ落ちた。
◇◇
「死んじゃう! 断罪こわい! ヒロインこわい!」
目覚めた途端、だばぁっと、滝のような涙を流し、よろよろと鏡に向かう。映る美少女の姿は見慣れたものだ。
「かわいい!」
ふわふわの淡い若草色の髪に、潤んだように濡れた大きな濃い緑の瞳。ちょこんと髪から飛び出す角は薄桃色。どこから見ても、ふわふわほわほわな可憐な美少女。悪役の要素はない。やさしいか怖いかで問えば、やさしい。甘いか甘くないかで云えばこれっぽっちも怖さはない。
「悪い子になりたくない!?」
見た目に反した役回りに、シロエは絶望のあまり気絶した。
◇◇
作戦会議をしましょう!
絶望から立ち直ったクロエは、隣の部屋で気絶中のシロエを叩き起こし、そう宣言した。
一、箱庭は十五歳から二年間が勝負である。
二、攻略対象は《紅蓮》から三人、《蒼嵐》から三人の、全部で六人。学園にヒロインが留学してくる二年生から三年の卒業式までに、伴侶を求めて攻略をしていく。
三、《紅蓮》と《蒼嵐》の王子たちの許嫁姉妹が王子ルートの悪役令嬢としてヒロインを虐める。
四、ヒロインが王子を攻略すると悪役令嬢姉妹は処刑。他の攻略対象だと、人間関係などもあり巻き添えを食らって死亡まっしぐら。
「………救いがないわ」
「おねえちゃん、シロエ死んじゃうの? いじめて断罪されちゃうの?」
書き出した設定を虚ろに眺めるクロエの肩を、シロエがガクガクと揺する。
「シロエ、わたくしたちはハチス家の娘ですわ。二人で頑張ればなんとかなりますわ!」
「───!?」
「ひとりでは心細いけど!」
「………うん。シロエはお姉ちゃんとがんばる」
姉妹はヒシッと抱き合う。
「まずは……わたくしたちは二年後に紅蓮と蒼嵐の王子さまの婚約者になるのよね」
クランドと離婚した母フヨナが《蒼嵐》の実家に戻るのが来年。その時にクロエは父のいる《紅蓮》に、シロエは母と共に《蒼嵐》へと離ればなれになる。
「まずはシロエが《蒼嵐》に行かなければ、あっちの王子さまの婚約者にはなれないわね」
「お姉ちゃんはどうなるの?」
「御神託の運命が変わるから、《紅蓮》の王子様に選ばれないと思うわ!」
「そうか! お姉ちゃん頭いいっ。シロエはお姉ちゃんが大好き!」
「お姉ちゃんもよ! 負けてたまるか、ですわ」
離婚の理由は中睦まじい両親がほんの些細な行き違いで拗れ、素直になれないまま母方の祖父により離縁となる。
「一年間でまた仲良くなってもらいましょう!」
「そうしよう!」
姉妹は生き残りを賭けた闘いへ、こうして一歩を踏み出したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
国一番の美少女だけど、婚約者は“嫌われ者のブサイク王子”でした
玖坂
ファンタジー
気がつけば、乙女ゲームの“悪役令嬢”ポジションに転生してました。
しかも婚約者は、誰もがドン引きする“ブサイクで嫌われ者の王子様”
だけど――あれ?
この王子、見た目はともかく中身は、想像以上に優しすぎる……!?
国一番の美少女に転生した令嬢と、誰にも愛されなかった王子が、少しずつ成長していく物語。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
悪役令嬢ですが、兄たちが過保護すぎて恋ができません
由香
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・セレフィーナに転生した私。
破滅回避のため、目立たず静かに生きる――はずだった。
しかし現実は、三人の兄による全力溺愛&完全監視生活。
外出には護衛、交友関係は管理制、笑顔すら規制対象!?
さらに兄の親友である最強騎士・カインが護衛として加わり、
静かで誠実な優しさに、次第に心が揺れていく。
「恋をすると破滅する」
そう信じて避けてきた想いの先で待っていたのは、
断罪も修羅場もない、安心で騒がしい未来だった――。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる