鬼人の令嬢と王子の、前途多難な日々

猫丸

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幕開け

悪役令嬢にされた姉妹 前編

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 《紅蓮》の貴族家のひとつ、ハチス公爵家クランド・ハチスには六歳と五歳の娘がいる。
 姉のクロエと妹のシロエだ。

「…………ちゃら鬼神無責任め!」
 寝起きの開口一番、ぷっくりと紅色の唇から呪詛めいた声が発せられた。のそのそと寝台から下りて鏡の前まで行く。映る美少女の姿は見慣れたものだ。
「………あぅ」
 染みひとつない白皙。サラサラな真っ黒な艶々髪をかき分け、ちよこんと飛び出す先端が薄紅の白い角。キリッと目尻が切れあがる大きな墨色の瞳、右の目尻のホクロは幼女のくせに色気がある。薄紅の薄めの唇は口角が少しだけ上向きなため小馬鹿にしているように……見えなくもない。
 やさしいか怖いかで問えば、怖い。甘いか甘くないかで云えばこれっぽっちも甘さはない。
 ものすごく気の強そうな、顔。
「見た目は間違いなく……おぅ!」
 クロエは絶望のあまり膝から崩れ落ちた。
 
◇◇

「死んじゃう! 断罪こわい! ヒロインこわい!」 
 目覚めた途端、だばぁっと、滝のような涙を流し、よろよろと鏡に向かう。映る美少女の姿は見慣れたものだ。
「かわいい!」
 ふわふわの淡い若草色の髪に、潤んだように濡れた大きな濃い緑の瞳。ちょこんと髪から飛び出す角は薄桃色。どこから見ても、ふわふわほわほわな可憐な美少女。悪役の要素はない。やさしいか怖いかで問えば、やさしい。甘いか甘くないかで云えばこれっぽっちも怖さはない。
「悪い子になりたくない!?」
 見た目に反した役回りに、シロエは絶望のあまり気絶した。

◇◇

 作戦会議をしましょう!
 絶望から立ち直ったクロエは、隣の部屋で気絶中のシロエを叩き起こし、そう宣言した。
 
 一、箱庭ゲームは十五歳から二年間が勝負である。

 二、攻略対象は《紅蓮》から三人、《蒼嵐》から三人の、全部で六人。学園にヒロインが留学してくる二年生から三年の卒業式までに、伴侶を求めて攻略をしていく。

 三、《紅蓮》と《蒼嵐》の王子たちの許嫁姉妹が王子ルートの悪役令嬢としてヒロインを虐める。

 四、ヒロインが王子を攻略すると悪役令嬢姉妹は処刑。他の攻略対象だと、人間関係などもあり巻き添えを食らって死亡まっしぐら。

「………救いがないわ」
「おねえちゃん、シロエ死んじゃうの? いじめて断罪されちゃうの?」
 書き出した設定を虚ろに眺めるクロエの肩を、シロエがガクガクと揺する。
「シロエ、わたくしたちはハチス家の娘ですわ。二人で頑張ればなんとかなりますわ!」
「───!?」
「ひとりでは心細いけど!」
「………うん。シロエはお姉ちゃんとがんばる」
 姉妹はヒシッと抱き合う。

「まずは……わたくしたちは二年後に紅蓮と蒼嵐の王子さまの婚約者になるのよね」 

 クランドと離婚した母フヨナが《蒼嵐》の実家に戻るのが来年。その時にクロエは父のいる《紅蓮》に、シロエは母と共に《蒼嵐》へと離ればなれになる。

「まずはシロエが《蒼嵐》に行かなければ、あっちの王子さまの婚約者にはなれないわね」
「お姉ちゃんはどうなるの?」
「御神託の運命が変わるから、《紅蓮》の王子様に選ばれないと思うわ!」
「そうか! お姉ちゃん頭いいっ。シロエはお姉ちゃんが大好き!」
「お姉ちゃんもよ! 負けてたまるか、ですわ」
 離婚の理由は中睦まじい両親がほんの些細な行き違いで拗れ、素直になれないまま母方の祖父により離縁となる。
「一年間でまた仲良くなってもらいましょう!」
「そうしよう!」
 姉妹は生き残りを賭けた闘いへ、こうして一歩を踏み出したのだった。
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