婚約破棄から恋をする

猫丸

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ことの終わりは始まりとなれ!(本編)

act.2 王子の現状

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『お前が王立学園に入学するまで半年あったな。しばらくマリオン公爵領にある別邸で過ごせ』
 国王に命じられた仮の罰は、ロイドが台無しにした茶会の翌日に下されていた。
 軽い措置では当然ない。
 何を考え、何を求められているかを明らかにされない代わりに、
「半年間、殿下の王族としての資質を拝見させていただきます」
 別邸から去る際にマリオン公爵からは告げられていた。
 つまり、王太子どころか王族であり続けるにふさわしいかを判断されるのだ。本当の罰を下すために。
 この仮の罰を終え幽閉ですむなら温情だろう。廃嫡し平民として放逐されるか、あるいは死を賜るかもしれなかった。
 
「……酷い雨だな」

 ぽつりと零した言葉に返答は、無い。
 この別邸には、執事と家屋敷の仕事を行う数名しかいない。彼らはマリオン公爵家から派遣されている。
 突然の第一王子の王都不在は、体調不良による静養の為と発表され、静養地はとして公表せず。
 王子がここに居ることや婚約破棄は、国王夫妻、王宮に残してきた第一王子専属の執事と、マリオン公爵家の限られた面々のみが胸の内にしまっている。ロイドの処遇が決まれば、おそらく体調回復が見込めないという理由で、発表されるはずた。
 ここでのロイドは、マリオン公爵の知人の息子ルイにすぎない。

 気がつけば三カ月が過ぎていた。 
 日常と言えば、起床と共に自分で身につける物を選び、着替えることから始まり、今では別邸周辺の領民に簡単な読み書きや算術を教え、ごく稀にだが農作業や道具の手入れまで行う。手慣れてしまい、まるで廃嫡準備期間かと笑ってしまうほどだ。
 だが、彼らから礼として貰う野菜はとても美味だ。  
 
 ここでの暮らしは驚きの連続だった。
 
 マリオン公爵領では、領地運営を円滑に遂行するため領内の各分野から有能な人材を発掘し、教育を施している。彼らには身分制度から離れた視点で同じ条件で競い、協力することが求められる。
 我が国では貴族法と平民法の二つの法があるため、国の根幹にかかわる事案に関して国民総てに適用される法整備は急務であるのだが、マリオン公爵領では既に領内法が施行されている。つまり、領内で起きた諍いは、身分は考慮せず、均しく領内法の定めるところで裁かれる。
 だが、均しく与えられ裁かれるから身分制度はと勘違いするなかれ。
 マリオン公爵は、社会における役割により身分による境界は必要と考える。民は土地を耕し、物を生産する重要な存在であるが、平民のみで成り立つかと云われれば、答えは否である。外交、経済、軍事などはもとより、領民の健全な生活を維持するため知識を蓄えそれを他者に授けたりすることも貴族の義務だ。義務を遂行しうる特権として身分毎の差は容認される--その考え方が領内では農民ですら徹底していると知った時は、正直驚いた。
 王都の貴族たちのほとんどがとしか思わないだろう。
 義務を果たすことなき搾取は何者であれ、罪悪である--マリオン公爵の言だ。
 ロイドは、しでかしたこと婚約破棄について、一度だけマリオン公爵と話したことがある。
『婚姻制度の身分撤廃やマナールールの統一などは、我が国が身分制を保つ間は改善は難しい。
 貴族の婚姻とは、領地領民を守護し各家が蓄積してきた知恵を婚姻により維持したり広げるための手段であり、平民における婚姻とは意味が異なる。
 それが貴族の立つ場所であり、厭なら除籍して平民になればよい。権利のみを主張し義務を果たさぬ者に存在意義はありますまい』
 厳しい正論だった。
 今更ながらマリオン公爵の強さを目の当たりにした。名君と誉れ高い国王が信頼する、絶対的にぶれない男--愚かな子供に過ぎなかった自分をロイドは恥じた。項垂れながらも憧れずにはいられなかった。
 
「……っ」 

 雨に曇る窓越しに馬車が玄関先で停まるのが見えた。   
 馬車から降りた人物の、真っ直ぐ腰まで届く白金の髪ホワイトブロンドが視界に入り、知らず鼓動が跳ねる。
(こんな雨の中!!)
 動揺が去れば湧き上がるのは腹立たしさだ。
「遅くなり申し訳ございません、ルイ様」
 開け放たれた居間の入り口に姿を現した少女。
 彼女は淑女の礼をする。その様はとても優雅で、目にするたびに美しいと感じる。

 ラナエラ・サラ・マリオン公爵令嬢。
 訪ねて来たのは甘ったれた王子が身勝手に切り捨てたそのひとだった。


  
 
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