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ことの終わりは始まりとなれ!(本編)
act.8 王子の始動
しおりを挟む「ラナエラ様がテラスにロイ様をお誘いなさったんですよね? 皆さんもダンスされたいのに、婚約者だからって束縛するなんて…ロイ様が…、お可哀想…です!」
理不尽な事をピュリナは云った。だがラナエラを糺弾する声に緩急をつけ、小刻みに震える様は--公爵令嬢に怯えつつ健気にも王子を庇う、そんな印象を与えたようだった。周囲の視線に微かな冷ややかさを感じとれた。
何しろ、ロイドの腕に絡みついたままだというのもあっただろう。
「今夜が初めての夜会で緊張して、一番大切なお友達のル…ロイ様にダンスのお相手をしていただけたら皆さんとも親しくできると思っただけなんです…なのに……ラナエラ様……ひどい」
ポロポロと涙まで流し始めた。
執拗な名前の連呼に、悪意を覚えた。ラナエラを貶めようとしているのは、もう間違いがなかった。
◇◇
『酷いです、ラナエラ様!』
夜の空気を切り裂くような叫び声を、夜会から二週間たった今も生々しく思い出せる。燻り続ける赦しがたい怒りを消すことは難しい。
何をどう云っても強引にラナエラを悪者の位置に立たせるピュリナを力づくで止めることは最後の手段だった。下手を打てば、それすらも利用してくる確信があった。
幸運なことにたまたまダンスの希望者たちの為に、ロイドとラナエラを呼びに来てくれた人物がいた。おかげで、その場を去ることが出来ていた。
「--良薬は口に苦し、か」
東方の国の至言だ。
かつてロイドが逃げ道とした甘言は、今となれば獲物を耽溺させてしまう単なる蜜のようなもの。
『あなたの本当の良さはあたしがわかってるもの』
それはどこなんだい?
根拠を示さない耳にやさしいだけの言葉は、今は虚しいだけだ。
『あなたは自分の気持ちを優先しなすぎる。誰かの理想になんてならなくて良いの!』
自分勝手な願いを一方的に他人へ押しつける君のようにか。
『あなたばかり我慢するなんて、そんなの変よ!』
君こそ、するべきだった。
--ねえ、ピュリナ?
届けられたばかりの報告書を机に放り、ロイドは目を瞑る。
脳裏に浮かぶ少女に独りごちる。
ピュリナは、学園でクラスの女子生徒に無視をされ、物を隠され、わざとドレスに飲み物を零されたりといった虐めにあっていると、以前ロイドは本人から聴かされていた。
報告書からも事実だ。
でも、最初に彼女たちを無視したのは誰だったか。
平民あがりと蔑まれている?
だが、ことある毎に「平民あがりだからわからなくて」とか「身分で自分を変えるのはいやなの」と、平民だったことをやらないことの理由にしてきたのは誰だ。彼女自身だ。貴族としての特権を甘受しながら、貴族の儀礼には無視を決め込む様は、矛盾だらけだ。
『--それが貴族の立つ場所であり、厭なら除籍して平民になればよい。権利のみを主張し義務を果たさぬ者に存在意義はありますまい』
かつて愚かな子供にそう教えてくれた人物がいる。あの時どれだけ呆れていたのだろう。過ちの中で、かく在りたいと憧れた背は、まだ遥かに遠い。
(同情はしないよだって君は--)
ちらりと報告書を横目に、
「馬鹿な話だ。ラナエラが嫉妬するはずもない……」
胸の痛みと共に吐き捨てる。
ロイドと仲良しなピュリナに嫉妬したラナエラが、取り巻きの生徒に命じてやらせている、ピュリナは取り巻きの男子生徒にこぼしている--報告書を破き捨てかけたほどの幼稚な愚策。
失うものの大きさに意識を向けることすらない歪んだ子供--ロイドにとって、ピュリナとは貴族という特殊な宿主に隠れ棲む寄生虫だ。
宿主は病み腐り最悪の場合、やがては国の根幹までも侵すかも知れない。必要があれば、躊躇なく駆除をする--決意は固まっていた。
問題なのは、寄生虫を利用しようと企む輩までも蠢き出したことだ。
「奴らは父上とマリオン公爵にお任せするしかない、か」
学園内の膿みはロイドの裁量で何とでもなるだろう。
ただ、爵位が絡む貴族社会の膿みまでは、第一王子の領域外だ。
見極めが肝心だった。
この二週間、ロイドは動いていた。ラナエラの安全を確保し、ピュリナの主張を崩す証拠を集め。
準備は整いつつあった--
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