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ことの終わりは始まりとなれ!(本編)
act.9 王子の断罪・前
しおりを挟む明日から学園は冬の休暇に入る。
終業式の為に、講堂には学園の全生徒が集められていた。
「ここでの茶番が終わったら、すぐに王宮へ移動する。準備はできているな、シオン、リアム、クリストフ」
「もちろん!」
「当然です」
「任せてください」
--では行くとしよう、ロイドたち四人は学園長と入れ替わるように壇上に立った。
何事か戸惑う生徒たちを睥睨し、
「私たちの通うこの学び舎は、身分差別を禁じ、互いを理解し、尊重することを掲げている。諸君らは均しく王国の貴重な人材だからだ。故に、私は生徒会長であり、この学園を創立した王家の人間として、この学園を穢した人物を断罪する。--ピュリナ・マリア・アンジェ子爵令嬢、ここへ」
ロイドはピュリナの名を呼んだ。
「はい、ロイ様」
可憐でか弱い少女のようにしおらしく、ピュリナはロイドの隣にたった。怯える様はおめでたい一部の男子生徒らの庇護欲をさぞかしかきたてるんだろうな、ロイドは胸中で昏い嗤いを噛み殺す。
断罪をするために。
視線を講堂内で一巡させ、
「--ピュリナ嬢からある申告があった。出自を蔑み、クラスの女子生徒に無視をされ、物を隠され、わざとドレスに飲み物を零されたりといった虐めにあっているという。首謀者と実行に手を貸したとされる人物の名前も、やはりピュリナ嬢から挙がっている」
淡々と告げられる内容に、ざわり、と動揺が満ちていく。
教師たちにはこの後の展開は事前説明済みであり、彼らが顔を顰めているのはピュリナの日常を苦く思い出しているからだろう。
「ピュリナ嬢、嘘偽りはないだろうか?」
「もちろん。わたしが平民あがりだから馬鹿にしてるんです。ッ…ラナエラ様のお取り巻きの……クラリス様、カタリナ様、あとナンシー様らが授業の後何回も、わたしすごくつらかったんです……うぅ」
よく嘘泣きが上手に出来るものだと半ば関心し、笑ってしまいそうだ。こんな茶番は早く終わらせてしまいたかった。
「ラナエラ・サラ・マリオン公爵令嬢、貴女にもお訊きしたい--」
「かしこまりました、ロイド殿下」
進み出てきたラナエラの、淑女の礼を取る頭に、見覚えがありすぎる髪飾りがあった。
「ありがとう」
「とんでもないことでございます」
喜びを含ませればラナエラもそれに気がついたようで、微かに微笑みを返してきた。
「--さて、今名前の挙がった三人のご令嬢は、取り巻きだったかな? 貴女のご友人だと認識していたけれど」
「いいえ、大切なお友達ですわ」
「そうだよね。悪い意味でしか使わない表現だから驚いたんだ」
「でも。いつもご一緒だから、取り巻きって言っても間違ってないと思うんですけど」
ぷくりと頬を膨らませて、それでも繰り返す。期待通りの反応とはいえ、思慮が足りなすぎる。
今、ピュリナが反論した言葉は、「驚いた」とのロイドを否定したというのに。
講堂で彼女へ向けられる空気は呆れと不快感がまじっている。特に教師たち常識ある大人には尚更だ。
(君から失言を引き出すのは簡単だね。いつも似たような態度だけど)
失言と不敬はまだまだ増えて貰わねばならない。誰も庶子で教養不足の哀れな少女だから、と庇い立てする気が起きないようにだ。
「ラナエラ嬢がすべての虐めを命じているんだよね、ピュリナ嬢?」
「え、あ…そうなんです!」
「--理由は?」
「わたしがロイ様と仲良くしてるからです! 嫉妬されてるんです!」
「そうなのかな、ラナエラ嬢」
「わたくしはそのようなことはいたしません」
「嘘よ! 嫉妬してるんでしょ、だってわたしと違ってラナエラはマリオン公爵家が発言権を高める目的で王様に政略で押しつけた婚約者だも--、ロイ、様?」
言い募るピュリナを手で制し、ロイドはラナエラを背で守るように立ち位置を変えた。
「ああ、もう十分だ」
「ロ…イ……様?」
纏う気配の変化にピュリナの口元が強張っている。それほどロイドの変化は顕著だった。
「--ラナエラが嫉妬? するわけないだろう」
「だって婚約者だから……」
「ラナエラは違うよ」
「--えっ?」
ピュリナの呆けた声はおそらく講堂中の、ラナエラを除く全員の声でもあるのだろう。
凝視され、ロイドは自嘲の笑みを浮かべた。
「ラナエラ・サラ・マリオン公爵令嬢は違う。私には婚約者はいない」
どうして…とラナエラが呟く。
大丈夫だよと囁き、
「数年前に私の愚かさ故に婚約破棄をしている」
「え、嘘……」
「嘘なものか。私の我が儘をマリオン公爵は認め、破棄は為されている。公表していなかっただけだ。仮の婚約者でいてくれただけのラナエラが、嫉妬で君などを虐める必要はまったく無い。そんなことより、自分の発言が幾つもの不敬に問われることを理解できているのか?」
一歩、脚を踏み出せば、怯えたピュリナが後ずさった。
「クラリス嬢、カタリナ嬢、ナンシー嬢の件ですが--」
控えていたリアムが成り行きに静まり返る生徒たちを見つめながら言葉を紡ぐ。
「学園側があまりにマナーを識らなさすぎるアンジェ子爵令嬢のために、儀礼の成績がよい彼女たちに協力を仰いだだけです。それも、交流を持たない上位の者へ下位の者から私的に話しかけない、初めての名乗りは必ず姓名と爵位及び立場を告げる、名はもちろん愛称は許可なく呼んではならない、そして異性、特に婚約者がいる者には理由無く触れてはならない--これらは何も意地悪でも蔑んでもいない。常識です」
次にクリストフの、
「虐めに関しては一切証拠も目撃者もいなく、被害者を主張する人物の自作自演が濃厚だ。アンジェ子爵令嬢のクラスメイトの女生徒たちは、問われたことは回答をしていた。私的な会話は話題が無いため特に話しかけなかったそうだが、学園に必ずしも私的な会話を義務づける規則は無い。また、編入初日以来、アンジェ子爵令嬢から女生徒らに自ら交流を求めた事実はない」
よく通る声が響いた。
「な、何よ、こんなの知らないっ」
「ねぇ、どうするの、君?」
更に一歩下がるピュリナの肩に手をかけるシオンの側には騎士たちが一様に厳しい表情で佇んでいる。
「三人とも君より高位の伯爵家令嬢たちなんだよ。それをねじ曲げて吹聴し、かつ、無礼にも取り巻きなどと悪意ある呼称をしたんだもの、ただですまないよね? ちなみにクラリス嬢、僕の婚約者だって知ってるよね。ふふ」
「--さらに、しかも私の婚約者とされていた令嬢に、お前は名で呼び、罪を着せ、あまつさえ--あんただと? ラナエラへの暴言の数々は赦されると思うな。不敬についての処罰の前にお前には用があるから、王宮に来て貰うぞ」
ロイドの合図で騎士たちが囲み、何かを呟くピュリナを講堂から連れて行く。
「ラナエラ嬢--」
「は、はい、ロイド殿下」
色を無くし可哀想なほど青醒めて痛々しい白い頬にそっと触れ囁く。
今までありがとう
いつか、君の赦しを貰えるならば再び私の婚約者になって欲しい--
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