32 / 38
ことの裏側(番外編)
番外編:第二王子の病める恋
しおりを挟む
※兄ロイドが16歳のころ。オレグ12歳です。
※閑話 国王夫妻の頭痛参照
ランスロット王国第二王子オレグは、婚約者のヒギンス伯爵令嬢カレルナを愛している。
どのくらい愛しているかと云えば、二歳年下の婚約者として紹介された八歳のころから、十二歳となった四年間毎日かかさずに恋文をしたためるぐらいに、だ。
意図して書いているわけではなく、いつも書き始めは日記のように今日の出来事から書く。すると段々に、自分の全部をカレルナに知って欲しくなり、最後は愛の言葉を書いてしまうだけだ。
だが、どうも上手くいかない。
週に一度の対面日になると、オレグはおかしくなってしまうのだ。心臓はドキドキし、頭はカレルナのことでいっぱいになり、彼女が待っている部屋まで両手両足がギクシャクとなってしまうのだ。背中を侍従に押されて前進できるのだ。もう、疲れ果てた状態でヨロヨロとカレルナの前に押し出され、今度は猛烈に焦る。
嫌々来ているように見えたのではないか? 疲れ果てた自分を軽蔑していないか? ……と、混乱に混乱を重ねるところに、カレルナが可愛い!
可愛いのだ。
ほんのちょっと他の令嬢よりぽっちゃりした躰でちょこまかと動く姿などポケットにしまっていつでも連れて歩きたいぐらい小さくて可愛い。小鳥のような細く高めな声は一日中だって聴けるし、彼女は気にしているたれ目も、猛烈に好きだ。水色の瞳はあめ玉みたいで舐めてみたくなる。綿菓子のようなクリーム色のくるくる巻き毛なんて丸めて食べれる──気持ちの上で──と思う。可愛い。可愛い。可愛い。
「おまえはもう少し痩せたほうがよい」
「おまえは歩くのが遅い。王子に歩みを遅くさせるつもりか」
「おまえは私の婚約者だ。他の男に色目を向けられてヘラヘラするな」
………口から飛び出すのはそんなことばかり。カレルナが表情をどんより曇らせては、心は痛むのに。事態はどんどん行きたくない方向に進み、帰り際の彼女は真っ青になってしまう。
だから、そんな日はたくさん手紙を書く。逢えて嬉しかったこと。カレルナにぶつけた心無い言葉を詫び、大好きだと言葉を尽くす。
───ぐるぐると、同じことを繰り返して四年。オレグを見るとすっかりカレルナは無口になってしまった。手紙を介せば楽しげに会話できるのに、逢えばドレスを小さな手でぎゅっと握りしめ、俯いてしまうのだ。
「オレグ、あなたはカレルナちゃんへの態度を改めなさい! ちゃんと反省するまで外出も面会もお手紙も禁止です!」
ある日、母上にしばらくの謹慎と手紙禁止を言い渡された。ペンも紙も、必要な場合のみ渡され、使い終えるまで監視されてしまった。
◇◇
兄ロイドの勧めで相談にのってくれたコルバン公爵家のアンリは、
『とりあえずカレルナ嬢が目の前に居ることに慣れるまで、口を開くのは駄目です』
そうアドバイスをくれた。
『花を手渡し、会話は筆談にしておきましょう。あと、カレルナ嬢がお帰りになる時だけ、逢えて嬉しかった位は口を開いてもよいでしょう』
『カレルナの声を聴けないではないか……』
『免疫ついたら幾らでもどうぞ。まずは、好きすぎて酷いことを言ってしまうオレグ様を理解していただけないと、嫌われますよ?』
嫌われる? カレルナに!?
オレグは悩んだ末、アドバイスを試してみることを決意した。
許可を得てカレルナへ手紙を出した。
傷つけないように努力するから逢いに来てくださいと。
花束を抱えてオレグは待つ。もうじきカレルナが来る時間だ。筆談用の紙もペンも用意した。筆談にする理由は手紙に書いたから問題はない。
あとは、紳士的に花束を渡す、これが最難関ではあるが、きっとカレルナをイメージした花を見ればおちつくはず。
オレグは大きく深呼吸をして、大好きな婚約者を待つ。
選んだ花はラナンキュラス。
赤色は「あなたは魅力に満ちている」。
紫色は「幸福」。
ピンク色は「飾らない美しさ」。
黄色は「優しい心遣い」。
気がついてくれたら笑ってほしいな。
※閑話 国王夫妻の頭痛参照
ランスロット王国第二王子オレグは、婚約者のヒギンス伯爵令嬢カレルナを愛している。
どのくらい愛しているかと云えば、二歳年下の婚約者として紹介された八歳のころから、十二歳となった四年間毎日かかさずに恋文をしたためるぐらいに、だ。
意図して書いているわけではなく、いつも書き始めは日記のように今日の出来事から書く。すると段々に、自分の全部をカレルナに知って欲しくなり、最後は愛の言葉を書いてしまうだけだ。
だが、どうも上手くいかない。
週に一度の対面日になると、オレグはおかしくなってしまうのだ。心臓はドキドキし、頭はカレルナのことでいっぱいになり、彼女が待っている部屋まで両手両足がギクシャクとなってしまうのだ。背中を侍従に押されて前進できるのだ。もう、疲れ果てた状態でヨロヨロとカレルナの前に押し出され、今度は猛烈に焦る。
嫌々来ているように見えたのではないか? 疲れ果てた自分を軽蔑していないか? ……と、混乱に混乱を重ねるところに、カレルナが可愛い!
可愛いのだ。
ほんのちょっと他の令嬢よりぽっちゃりした躰でちょこまかと動く姿などポケットにしまっていつでも連れて歩きたいぐらい小さくて可愛い。小鳥のような細く高めな声は一日中だって聴けるし、彼女は気にしているたれ目も、猛烈に好きだ。水色の瞳はあめ玉みたいで舐めてみたくなる。綿菓子のようなクリーム色のくるくる巻き毛なんて丸めて食べれる──気持ちの上で──と思う。可愛い。可愛い。可愛い。
「おまえはもう少し痩せたほうがよい」
「おまえは歩くのが遅い。王子に歩みを遅くさせるつもりか」
「おまえは私の婚約者だ。他の男に色目を向けられてヘラヘラするな」
………口から飛び出すのはそんなことばかり。カレルナが表情をどんより曇らせては、心は痛むのに。事態はどんどん行きたくない方向に進み、帰り際の彼女は真っ青になってしまう。
だから、そんな日はたくさん手紙を書く。逢えて嬉しかったこと。カレルナにぶつけた心無い言葉を詫び、大好きだと言葉を尽くす。
───ぐるぐると、同じことを繰り返して四年。オレグを見るとすっかりカレルナは無口になってしまった。手紙を介せば楽しげに会話できるのに、逢えばドレスを小さな手でぎゅっと握りしめ、俯いてしまうのだ。
「オレグ、あなたはカレルナちゃんへの態度を改めなさい! ちゃんと反省するまで外出も面会もお手紙も禁止です!」
ある日、母上にしばらくの謹慎と手紙禁止を言い渡された。ペンも紙も、必要な場合のみ渡され、使い終えるまで監視されてしまった。
◇◇
兄ロイドの勧めで相談にのってくれたコルバン公爵家のアンリは、
『とりあえずカレルナ嬢が目の前に居ることに慣れるまで、口を開くのは駄目です』
そうアドバイスをくれた。
『花を手渡し、会話は筆談にしておきましょう。あと、カレルナ嬢がお帰りになる時だけ、逢えて嬉しかった位は口を開いてもよいでしょう』
『カレルナの声を聴けないではないか……』
『免疫ついたら幾らでもどうぞ。まずは、好きすぎて酷いことを言ってしまうオレグ様を理解していただけないと、嫌われますよ?』
嫌われる? カレルナに!?
オレグは悩んだ末、アドバイスを試してみることを決意した。
許可を得てカレルナへ手紙を出した。
傷つけないように努力するから逢いに来てくださいと。
花束を抱えてオレグは待つ。もうじきカレルナが来る時間だ。筆談用の紙もペンも用意した。筆談にする理由は手紙に書いたから問題はない。
あとは、紳士的に花束を渡す、これが最難関ではあるが、きっとカレルナをイメージした花を見ればおちつくはず。
オレグは大きく深呼吸をして、大好きな婚約者を待つ。
選んだ花はラナンキュラス。
赤色は「あなたは魅力に満ちている」。
紫色は「幸福」。
ピンク色は「飾らない美しさ」。
黄色は「優しい心遣い」。
気がついてくれたら笑ってほしいな。
14
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
《完結》氷の侯爵令息 あなたが子供はいらないと言ったから
ヴァンドール
恋愛
氷の侯爵令息と言われたアラン。彼は結婚相手の伯爵令嬢にとにかく冷たい態度で接する。
彼女は義姉イライザから夫が子供はいらないと言ったと聞き、衝撃を受けるが気持ちを切り替え生きていく。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
公爵令嬢のひとりごと
鬼ヶ咲あちたん
ファンタジー
城下町へ視察にいった王太子シメオンは、食堂の看板娘コレットがひたむきに働く姿に目を奪われる。それ以来、事あるごとに婚約者である公爵令嬢ロザリーを貶すようになった。「君はもっとコレットを見習ったほうがいい」そんな日々にうんざりしたロザリーのひとりごと。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる