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ことの終わりは始まりとなれ!(本編)
閑話 尋問と言う名の宴(残酷描写あり)
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※残酷描写が苦手な方はブラウザバック願います。次話に影響ありません。
王宮の、最地下にある重罪を犯した貴族専用の特別な地下牢。
長い階段を降り、鉄製の扉を開いた途端に耳に飛び込んできた絶叫へ仄暗く嗤いながら、四人の男たちは二手にわかれ、それぞれの目当ての牢で足を止める。
「──!? カルトナー、ジルファス公爵!? な、なんでも話すっ! だから命は助けろ! いや、助けてくれッ」
「う~ん…、話されちゃうのは困るから、黙っててね? 証言はいらないから」
「──な、なんで、だ」
「ジルファスの云うとおりだ。敵国への情報漏洩だが、あまりに下らん内容だったのでな。重要機密に差し替えておいた。これなら国王陛下の裁可だけで済む」
「塵の処分に税金投入する意味ないからね」
「我々の識りたいことに答えもらうだけだ。始めろ──」
彼らが座る為の椅子が牢に運びこまれる。コリンズ侯爵に求められること、それは絶望。
◇◇
「コリンズ侯爵に命じられたんです!! 逆らう道は無かったんです! 罪は償いますっ、洗いざらい話しますからお慈悲を!!」
コルバンとラモンド両公爵の眼前で平伏し必死に乞うダットン伯爵はすでに失禁しているようだ。牢内に漂う臭気が教えていた。
「私たちが担当するだけで、もう十分に慈悲なんだよ、ダットン。なぁ、ラモンド公爵?」
「うむ。アンジェに感謝するんだな──処刑前に洗いざらい話すだけで、それほど苦しまずに済むことを」
彼らの目視で尋問官が動き出す。
ダットン伯爵に望まれるのは粛々と尋問を甘受することだけ──。
◇◇
アンジェ子爵は牢の扉が開錠され開かれるまで茫然自失であった。「待たせたな──」と微笑む男の姿を認知する、その時まで。
目の前に現れた男は、先刻までの最高位の貴族当主にふさわしい豪奢な装束から、手袋から靴まで黒で統一された姿になって現れた。
噂は本当だったのか──!?
自ら手をくだすときは血が目立たないように黒衣を纏う…らしいと、誰がいったのか。あくまで数ある噂のひとつだと思っていた。
全身が震えはじめ座り込んだ尻で後退を試みてしまうが、無意識だ。
「──ヒッ!? い、厭だッ!! わ、わたし、わたしは子爵、です!! あなたが来るのは、お、おかしい!? そうだ、コリンズ侯爵の、あいつこそが首謀者だ! わたしは娘から聞いたことを話しただけなのに、なのにコリンズが、あの男が決めたんだ!! ヒッ! コリンズのところに行くのが当然──ぎ、ぎぃやぁぁぁぁっ!!」
背が壁にぶつかっても下がり続けようと足掻くアンジェ子爵は、優雅なまでの脚さばきで顎を蹴りあげられた。
「グ…グガッ……ゥゲェッ!?」
夥しい血が開きっぱなしの口からボタボタと吹き溢れていく。残滓である黒ずみが残る床に数本の歯が吐き出され、落ちる。閉ざすことの叶わない顎は、一蹴りで骨が砕けていた。
「この世に、あれほど稀な生き物を生み出したお前に感謝している」
──だから、褒美をくれに来たんだよ。いっそ甘さすら覚える声音が殺風景な牢に、背筋を痺れさせるような禍々しさを生み出していく。
アンジェ子爵の震えは瘧のように絶え間なくなり、男の背後に控えている彼直属の尋問官たちは恐怖を押し殺す。主の男はどこまでも凪いだ湖面のごとく、いつもと変わらず、声を荒げず淡々としている。他人の顎を砕いてのけても、ただ冷然と殺気だけを顕わにして佇む。それこそが、幾度経験しても慣れることの無い「真に激怒」している男の姿──それを知り尽くしている彼らは克服できないに悪寒に全身を冒される。
「さあ、感謝の宴を始めよう──」
血に塗れた牢。
投げ棄てられた丸い物体は右眼。手脚合わせて十本あるはずの指は糸で止血のため縛られながら、一関節ごとに切り落とされていく。失神すれば強制的に目覚めをもたらす、熱く熱された鉄の棒が焦がす肉の臭い。壊されていくアンジェ子爵は、もう生きているのが不思議なほどだ。
(愛情深き男の、はた迷惑なまでの想いの深淵は本当に底知れない……)
見るからに憔悴しながらも職務を遂行する尋問官らに、憐れみと敬意を表したい。国王は部屋の片隅で吐いている王子に「あれでもまだ甘いのだぞ」と、声に出さず語りかける。
非公開の火刑にしたのは、精神崩壊しようが四肢欠損していようが、例えば息をしていなかろうが、執行者しか識られずに済むからだ。四公爵が余罪を追及している二名のみ、余計なことを喋り出せないよう断舌してから市中引き回すが、尋問中の事故で歩けなくなるアンジェ子爵は直接火刑場に連行されるのだ。
「辛いなら戻って構わないぞ?」
「……父上と…共に…、ウッ……おり…、ます……」
ころころと転がり靴先あたる、切り飛ばされたばかりの小指を爪先で蹴り、
「──小娘の時は悪いことは云わん、立ち合いはやめておけ」
国王は王子に忠告をする。
確信している。少しずつ希望と絶望を繰り返し、壊れてもあの男が飽きるその日まで、あの娘は短い人生を踊らねばならない。
執着を持たない男。
類い稀な美貌も、王族に連なる血も、五公爵家である栄光も。財産も何もかもが道具程度にしか重きを置かない、ある意味とても無欲な男の、呆れるほど深く重い愛に、ほんの一滴でも穢れをもたらしかけた罪の為に。
「あの一族は建国時から変わらず代々愛情深すぎて面倒くさい」
怪訝顔を浮かべた王子へ、
「面倒くさいんだよ……」
宴はまだまだ続く。
おそらく今夜は眠りとは無縁になってしまうだろう王子と、コリンズ侯爵らのやらかしの後始末で多忙になる「ささやかな仕返し」を実行中の──四公爵を連れて、仕事納めの茶でも飲もう。
「初めての為政者としての社会勉強は、過ぎれば心身を毒する」
ここの牢の愚かな住人と、愉しげな男のことはとりあえず忘れよう。
誓う国王は、王子と共に四公爵の回収のため、憐れな生贄に背を向けるのだ──
それにしても我が息子は運が良いのか悪いのか、この数年の難解な問いに答えが出ないまま。
王宮の、最地下にある重罪を犯した貴族専用の特別な地下牢。
長い階段を降り、鉄製の扉を開いた途端に耳に飛び込んできた絶叫へ仄暗く嗤いながら、四人の男たちは二手にわかれ、それぞれの目当ての牢で足を止める。
「──!? カルトナー、ジルファス公爵!? な、なんでも話すっ! だから命は助けろ! いや、助けてくれッ」
「う~ん…、話されちゃうのは困るから、黙っててね? 証言はいらないから」
「──な、なんで、だ」
「ジルファスの云うとおりだ。敵国への情報漏洩だが、あまりに下らん内容だったのでな。重要機密に差し替えておいた。これなら国王陛下の裁可だけで済む」
「塵の処分に税金投入する意味ないからね」
「我々の識りたいことに答えもらうだけだ。始めろ──」
彼らが座る為の椅子が牢に運びこまれる。コリンズ侯爵に求められること、それは絶望。
◇◇
「コリンズ侯爵に命じられたんです!! 逆らう道は無かったんです! 罪は償いますっ、洗いざらい話しますからお慈悲を!!」
コルバンとラモンド両公爵の眼前で平伏し必死に乞うダットン伯爵はすでに失禁しているようだ。牢内に漂う臭気が教えていた。
「私たちが担当するだけで、もう十分に慈悲なんだよ、ダットン。なぁ、ラモンド公爵?」
「うむ。アンジェに感謝するんだな──処刑前に洗いざらい話すだけで、それほど苦しまずに済むことを」
彼らの目視で尋問官が動き出す。
ダットン伯爵に望まれるのは粛々と尋問を甘受することだけ──。
◇◇
アンジェ子爵は牢の扉が開錠され開かれるまで茫然自失であった。「待たせたな──」と微笑む男の姿を認知する、その時まで。
目の前に現れた男は、先刻までの最高位の貴族当主にふさわしい豪奢な装束から、手袋から靴まで黒で統一された姿になって現れた。
噂は本当だったのか──!?
自ら手をくだすときは血が目立たないように黒衣を纏う…らしいと、誰がいったのか。あくまで数ある噂のひとつだと思っていた。
全身が震えはじめ座り込んだ尻で後退を試みてしまうが、無意識だ。
「──ヒッ!? い、厭だッ!! わ、わたし、わたしは子爵、です!! あなたが来るのは、お、おかしい!? そうだ、コリンズ侯爵の、あいつこそが首謀者だ! わたしは娘から聞いたことを話しただけなのに、なのにコリンズが、あの男が決めたんだ!! ヒッ! コリンズのところに行くのが当然──ぎ、ぎぃやぁぁぁぁっ!!」
背が壁にぶつかっても下がり続けようと足掻くアンジェ子爵は、優雅なまでの脚さばきで顎を蹴りあげられた。
「グ…グガッ……ゥゲェッ!?」
夥しい血が開きっぱなしの口からボタボタと吹き溢れていく。残滓である黒ずみが残る床に数本の歯が吐き出され、落ちる。閉ざすことの叶わない顎は、一蹴りで骨が砕けていた。
「この世に、あれほど稀な生き物を生み出したお前に感謝している」
──だから、褒美をくれに来たんだよ。いっそ甘さすら覚える声音が殺風景な牢に、背筋を痺れさせるような禍々しさを生み出していく。
アンジェ子爵の震えは瘧のように絶え間なくなり、男の背後に控えている彼直属の尋問官たちは恐怖を押し殺す。主の男はどこまでも凪いだ湖面のごとく、いつもと変わらず、声を荒げず淡々としている。他人の顎を砕いてのけても、ただ冷然と殺気だけを顕わにして佇む。それこそが、幾度経験しても慣れることの無い「真に激怒」している男の姿──それを知り尽くしている彼らは克服できないに悪寒に全身を冒される。
「さあ、感謝の宴を始めよう──」
血に塗れた牢。
投げ棄てられた丸い物体は右眼。手脚合わせて十本あるはずの指は糸で止血のため縛られながら、一関節ごとに切り落とされていく。失神すれば強制的に目覚めをもたらす、熱く熱された鉄の棒が焦がす肉の臭い。壊されていくアンジェ子爵は、もう生きているのが不思議なほどだ。
(愛情深き男の、はた迷惑なまでの想いの深淵は本当に底知れない……)
見るからに憔悴しながらも職務を遂行する尋問官らに、憐れみと敬意を表したい。国王は部屋の片隅で吐いている王子に「あれでもまだ甘いのだぞ」と、声に出さず語りかける。
非公開の火刑にしたのは、精神崩壊しようが四肢欠損していようが、例えば息をしていなかろうが、執行者しか識られずに済むからだ。四公爵が余罪を追及している二名のみ、余計なことを喋り出せないよう断舌してから市中引き回すが、尋問中の事故で歩けなくなるアンジェ子爵は直接火刑場に連行されるのだ。
「辛いなら戻って構わないぞ?」
「……父上と…共に…、ウッ……おり…、ます……」
ころころと転がり靴先あたる、切り飛ばされたばかりの小指を爪先で蹴り、
「──小娘の時は悪いことは云わん、立ち合いはやめておけ」
国王は王子に忠告をする。
確信している。少しずつ希望と絶望を繰り返し、壊れてもあの男が飽きるその日まで、あの娘は短い人生を踊らねばならない。
執着を持たない男。
類い稀な美貌も、王族に連なる血も、五公爵家である栄光も。財産も何もかもが道具程度にしか重きを置かない、ある意味とても無欲な男の、呆れるほど深く重い愛に、ほんの一滴でも穢れをもたらしかけた罪の為に。
「あの一族は建国時から変わらず代々愛情深すぎて面倒くさい」
怪訝顔を浮かべた王子へ、
「面倒くさいんだよ……」
宴はまだまだ続く。
おそらく今夜は眠りとは無縁になってしまうだろう王子と、コリンズ侯爵らのやらかしの後始末で多忙になる「ささやかな仕返し」を実行中の──四公爵を連れて、仕事納めの茶でも飲もう。
「初めての為政者としての社会勉強は、過ぎれば心身を毒する」
ここの牢の愚かな住人と、愉しげな男のことはとりあえず忘れよう。
誓う国王は、王子と共に四公爵の回収のため、憐れな生贄に背を向けるのだ──
それにしても我が息子は運が良いのか悪いのか、この数年の難解な問いに答えが出ないまま。
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