婚約破棄から恋をする

猫丸

文字の大きさ
21 / 38
ことの終わりは始まりとなれ!(本編)

act.13 王子の暴走と愛・前

しおりを挟む

『わたくしは貴方が好きですわ、殿下…いいえ、
 
 ささやかな想いをきっかけに、二人の関係は少しずつ進展している。近いようでいて遠慮気味な、遠いようで互いを意識している──じれったい距離感で、じわじわと。


「嫌われたのだろうか。私は傷つけてしまったのかもしれない……」
 がっくりと肩が落ち、心なしか瞳が絶望に潤んでいる様が悲しみを誘いはしても、恋路に巻き込まれたい奇特な者はあまりいない。
「巻き込まないでくださいよ……」
 アンリが額に手を当てて唸る。
「悪い。でも、こういう話はアンリが適任だと思った」
 このところどうにもラナエラの様子が気にかかる。視線を逸らされる、会話が途切れる、ため息もよくついている気がするのだ。昨日も意図せず指が触れてしまったら、躰を緊張させていた。
 王族としての責務と恋する人への贖罪の為に全力を尽くす日々を、ただ愚直なまでにひたすら駆けてきたロイドである。言葉に表さない恋情の示し方も受け取り方も、そんな技など持ちあわせていない。ましてや想い人の身内が難攻不落な要塞のごとく守りを固めており、拗れに拗れた関係といえよう。 
 煮詰まった末に、婚約者も定めず浮名を流す「花を惑わす蝶」と揶揄されるアンリへの相談を思いついた。執務室に現れたアンリを無理やり座らせて現在に至る──。

「ラナエラ嬢には告白してるんですよね?」
「…………」
、告白遮られてから一年近くなんてありませんよね」
「……伝えられるわけないだろ。聴きたくないと意志を示されたのに」
「───馬鹿ですか」
 ちょっとした淑女の意趣返しをどこをどうすればそうなる? 今だって明らかに意識されてるし、押すところでしょう! と呆れ果てアンリの目が据わった。
「明日、ラナエラ嬢にここに来ていただくように伝えます。いいですか、玉砕覚悟で告白をしなさい! それから、意思の疎通をちゃんとやれ。経験不足な王太子様にできるのはだ」
 やってられるか、とばかりの剣幕で執務室を靴音響かせアンリが去り、残されたロイドは明後日の方向に進んで行くのであった。

 玉砕──!?
 やはり嫌われているのか!
 
◇◇
  
 どうしてこうなった……?
 執務室で、固まるアンリをよそにロイドが暴走していた。

 第二、第三王子の婚約者たちの教育係として登城しているラナエラに、明日必ず王太子執務室へ来て欲しいと伝えたのはアンリだ。あくまでもラナエラにだ。断じてマリオン公爵父親同伴ではない。

 何故か同行してきた人物は、お邪魔でしょうからと窓辺に寄りかかり、腹の見えない微笑みで佇んでいるだけだ。
 それをロイドは、二人になりたくないラナエラの願いをくんでの同席と捉えてしまった。
「ラナエラ嬢に嫌われてるのは承知した。これ以上はもう貴女に迷惑をかけるつもりはない。婚約破棄のお詫びと婚約者のふりをしてくれたお礼をどのようにすればいいのか教えて欲しい」
 玉砕即ち嫌われている──その思考のまま云っていた。
「「───!?」」
 ラナエラのみならずアンリまで息を飲む。そんな二人にまったく気がつけず、
「私を嫌ってるのは気がついてた。最近の貴女は私といても困った顔をしているから。ラナエラ……嬢には、笑っていて欲しい……だから、もう貴女を追うのはやめる」
 完全に明後日の方向へ突っ走っていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

《完結》氷の侯爵令息 あなたが子供はいらないと言ったから

ヴァンドール
恋愛
氷の侯爵令息と言われたアラン。彼は結婚相手の伯爵令嬢にとにかく冷たい態度で接する。 彼女は義姉イライザから夫が子供はいらないと言ったと聞き、衝撃を受けるが気持ちを切り替え生きていく。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

公爵令嬢のひとりごと

鬼ヶ咲あちたん
ファンタジー
城下町へ視察にいった王太子シメオンは、食堂の看板娘コレットがひたむきに働く姿に目を奪われる。それ以来、事あるごとに婚約者である公爵令嬢ロザリーを貶すようになった。「君はもっとコレットを見習ったほうがいい」そんな日々にうんざりしたロザリーのひとりごと。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

処理中です...