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第30話 温かい心

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「・・ヤ ・・・タカ・!」

 僕を呼ぶ声がする。
 まだステータスは戻っていない。体が重く思考能力も落ちている。

「タカヤ!大丈夫か!」
 微睡みから覚醒すると、目の前にギランさんがいた。

「よかった。目を覚ましたか。起きられるか?」

 心配そうに声を掛けてくるギランさん。
 おそらく、眠ってからそんなに経ってはいないだろう。

 最高速度で向かってきてくれたんだな、この人は。

「すみません。ちょっとしたスキルを使ってしまったので、しばらくはこんな感じです。それより、何があったか聞かないんですか?」

「すまない!」
 急に深々と頭を下げるギラン。

「どうしたんですか⁈なんで僕の事なのにギランさんが謝るんですか!」

「いや。事の顛末は、お前の従魔であるポシル?から見ていた。あいつが本体側の意思と繋げて見ている内容を、リアルタイムで俺にも見せていたんだ。念話の応用だろうか声も姿も見えていたよ」

 ポシルがうまい事してくれたのか?
 苦しそうな表情を浮かべ、ギランさんは言葉を続ける。

「つらい思いをさせたな……。 すまん。俺が自分のスキルで奴らを見ていれば、悪意に気付けたかもしれん」

 驚いた事に、ポシルは念話ならぬ念映をスキルで作り出し、お互いの状況を共有していた。それをギランの脳に届けるという離れ業を簡単にやってのけた。

「お陰ですぐに対応出来た。そろそろ衛兵達が死体を回収に来るだろう」

「それにしても、スライムなんてテイムしてたんだな。こりゃあグリーンスライムか?」

「えっ?」

 ギランが指差し、グリーンスライムがいるという方向を見ると、そこには透明でなくグリーンに色付いたポシルが佇んでいた。

『大丈夫?マスター』
『あぁ。ありがとう』

 どうやら透明のままだと、問題があると思ったらしく咄嗟にグリーンスライムに似た色付けをし、ギランに念話を飛ばしたとの事だった。

「はい。そうですねグリーンスライムです。珍しいスキルを持っていたのでテイムしたんです」

 苦しいかもしれないが、とりあえず誤魔化す。
 悪意はないし大丈夫だろう。

「まぁ無事だったんだから良かった。さすがに拷問が始まった時は焦ったけどな」 

「とにかく、死体はこちらで回収する。フェイド盗賊団といったら賞金もかけられている。有名な人売りの盗賊団だ」

「はい。それと分かれ道の右の通路の先にも、おそらくですが捕まっている人がいます」

「安心しろ。そこのポシルが見張り2人を倒してくれていた。今は待って貰っているよ」

 どうやらポシルは、僕が限界突破を使った時点で、牢屋に行き、残党を倒してくれていたらしい。

 重たい腕を弱々しくあげ、ポシル分裂体の上に置く。実際倒したのは本体だが、感謝は伝わっているだろう。

「さて帰りたいところだが、まだやる事がある。ここを殲滅したのはタカヤだ。だからここにある奪われたものを含め、こいつらが持っていた全ての権利は今タカヤが持っている。回収するだろ?」

 そういうと、入り口付近を親指で指差す。
 そこには軽く山積みになった物品が集められており、よく見れば手下の杖や剣などの装備も回収されていた。

「これはどういう?」

「まぁなタカヤが倒れてるのを確認したんだが、どうやらただ眠っているだけのようだったしな。緊急性もなさそうだから回収したんだ。どうする?こちらで運ぶか?」

 どこまでこの人はお人良いなんだろう。
 今、人に裏切られたばかりだけど、この人はきっと大丈夫なんだろうと思ってしまう。
 僕も甘いな。

「大丈夫です。ポシル。お願い」
 一言だけだったがきちんと了解の意思が伝わってくる。
 そのまま回収物の上に行き、一気に体を広げる。

「うぉー お? お?なんだあれ?おいタカヤなんだあれは?」

「落ち着いてください。ギランさん。本来のポシルは風と時空属性持ちなんです。今やってるのは体内の時空庫に吸収して保管しているんです」

 時空属性だから念話も念映も出来たと、後で言えるように体裁を整えるため、今から既成事実を作っておく。

 その間にも次々と回収物が、ポシルの体内へと入っていく。いつの間にか分裂体は消え本体だけに戻っているようで、ポシルの本体自らグリーンスライムの真似を続けているようだ。

「珍しいスキル持ちって言ってたから、どんだけかと思ったが、予想以上のレアスライムのようだな」

 ギランは、目を丸くして、驚きの表情を見せながら回収する様を食い入るように見つめ、顎のヒゲをいじる。

「はい。すごい助かってます。そういえば僕が倒れてからどのくらい経ってますか?」

 自分のステータスの回復目安がつかめない。今どれくらい経ったんだろうか。

「あーあれから2鐘半といったところか。倒れてから半鐘くらいで到着して、それから回収やら事後処理やらで2鐘だ。あと半鐘もすれば、衛兵が数揃えてくるはずだ」

 相変わらず興味津々の様子で、ポシルを見ながら答える。

 2鐘半ってことはそのまま2時間30分か。随分と気を失っていたみたいだ。

「ありがとうございす。半鐘もゆっくりすれば動けるようになると思います」

「そうか。丁度良かったな」

 それから半鐘。
 予定通り、衛兵達がやってきた。
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