聖女への供物

たなまき

文字の大きさ
1 / 7

1

しおりを挟む
 この王国には聖女がいる。今日は四年の任期を終えた聖女の引退パレードがおこなわれる日だ。
 聖女が馬車に乗って通過する経路に沿って屋台が連なり、民衆は屋台をひやかしたり、子どもたちが楽し気に駆けまわっていたりと、王都全体が華やいだ雰囲気を漂わせていた。

 王都の協会本部の一画にある荘厳な塔の下で、聖女パトリシアが老女の手を優しく握って話しかける。

「本当にお世話になりましたね」

「聖女様のようなお優しい方にお仕えできて、このアンナはたいへん幸せでした」

「アンナ、ありがとう」

「泣かないでくださいませ、聖女様。お化粧が落ちてしまいますよ」

「そうね、せっかくアンナがきれいにお化粧してくれたのだものね」

 祖母と孫のようにも見えるふたりは、涙を浮かべながら別れを惜しんでいる。アンナはこの四年間、聖女パトリシアの侍女として、ずっとそばで支えていた。パトリシアは聖女を引退したあと、王太子と結婚することになっている。アンナは引き続き、次期聖女の侍女を務める。ふたりにとっておそらく今日が今生の別れになるだろう。
 そう思い、私は急かすことなくふたりを眺めていた。

「司教様、お世話になりました」

 アンナとの別れを終えたパトリシアが私にそう告げた。

「この四年、この王国はずっと平和であり、より豊かになりました。すべて聖女様の功績です。教会内でも百年に一度の聖女だと評判ですよ」

「ありがとうございます。支えてくださった皆様のおかげですわ」

 そう言うとパトリシアはアンナの方を一度振り返った。
 最後まで感謝の心を忘れない彼女に満足し、うなずいてから言った。

「あなた様なら、きっとすばらしい王太子妃になられるでしょう。お披露目のパレードが楽しみですな」

 パトリシアは頬を赤らめて、伏し目がちに言う。

「今日、引退パレードをしていただいて、すぐにまた婚姻のパレードなんて、かかる費用を思うと申し訳ないですわ」

「国民が望んでいるのですから、気にすることはないですよ。それに、あなた様のもたらした恵のおかげで教会も王家も金には困ってませんからね」

 私がそう言って笑い声をあげると、パトリシアはほっとしたようだった。

「そろそろお時間です」

 警備の兵士にそう声をかけられ、パトリシアは身を正した。

「行ってまいります」

 私とアンナにそう言うと、公爵令嬢という出自にふさわしい、見事なカーテシーを披露する。そして兵士に連れられて、パレードのために絢爛に飾りつけられた馬車に乗り、四年過ごした聖女の塔を去って行った。

「良い娘でしたな」

「ええ、本当に良い娘でした。とても楽しい四年間が過ごせましたよ」

「近々、次の聖女を紹介します。パトリシア嬢の次の聖女ですから比較されることもあるでしょう。ぜひ支えていただきたい」

「もちろん侍女として支えましょう。次はどんな娘が来るのか、とても楽しみです」

 アンナが微笑んだのを見て、私はほっとして肩の力を抜いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...