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この王国には聖女がいる。今日は四年の任期を終えた聖女の引退パレードがおこなわれる日だ。
聖女が馬車に乗って通過する経路に沿って屋台が連なり、民衆は屋台をひやかしたり、子どもたちが楽し気に駆けまわっていたりと、王都全体が華やいだ雰囲気を漂わせていた。
王都の協会本部の一画にある荘厳な塔の下で、聖女パトリシアが老女の手を優しく握って話しかける。
「本当にお世話になりましたね」
「聖女様のようなお優しい方にお仕えできて、このアンナはたいへん幸せでした」
「アンナ、ありがとう」
「泣かないでくださいませ、聖女様。お化粧が落ちてしまいますよ」
「そうね、せっかくアンナがきれいにお化粧してくれたのだものね」
祖母と孫のようにも見えるふたりは、涙を浮かべながら別れを惜しんでいる。アンナはこの四年間、聖女パトリシアの侍女として、ずっとそばで支えていた。パトリシアは聖女を引退したあと、王太子と結婚することになっている。アンナは引き続き、次期聖女の侍女を務める。ふたりにとっておそらく今日が今生の別れになるだろう。
そう思い、私は急かすことなくふたりを眺めていた。
「司教様、お世話になりました」
アンナとの別れを終えたパトリシアが私にそう告げた。
「この四年、この王国はずっと平和であり、より豊かになりました。すべて聖女様の功績です。教会内でも百年に一度の聖女だと評判ですよ」
「ありがとうございます。支えてくださった皆様のおかげですわ」
そう言うとパトリシアはアンナの方を一度振り返った。
最後まで感謝の心を忘れない彼女に満足し、うなずいてから言った。
「あなた様なら、きっとすばらしい王太子妃になられるでしょう。お披露目のパレードが楽しみですな」
パトリシアは頬を赤らめて、伏し目がちに言う。
「今日、引退パレードをしていただいて、すぐにまた婚姻のパレードなんて、かかる費用を思うと申し訳ないですわ」
「国民が望んでいるのですから、気にすることはないですよ。それに、あなた様のもたらした恵のおかげで教会も王家も金には困ってませんからね」
私がそう言って笑い声をあげると、パトリシアはほっとしたようだった。
「そろそろお時間です」
警備の兵士にそう声をかけられ、パトリシアは身を正した。
「行ってまいります」
私とアンナにそう言うと、公爵令嬢という出自にふさわしい、見事なカーテシーを披露する。そして兵士に連れられて、パレードのために絢爛に飾りつけられた馬車に乗り、四年過ごした聖女の塔を去って行った。
「良い娘でしたな」
「ええ、本当に良い娘でした。とても楽しい四年間が過ごせましたよ」
「近々、次の聖女を紹介します。パトリシア嬢の次の聖女ですから比較されることもあるでしょう。ぜひ支えていただきたい」
「もちろん侍女として支えましょう。次はどんな娘が来るのか、とても楽しみです」
アンナが微笑んだのを見て、私はほっとして肩の力を抜いた。
聖女が馬車に乗って通過する経路に沿って屋台が連なり、民衆は屋台をひやかしたり、子どもたちが楽し気に駆けまわっていたりと、王都全体が華やいだ雰囲気を漂わせていた。
王都の協会本部の一画にある荘厳な塔の下で、聖女パトリシアが老女の手を優しく握って話しかける。
「本当にお世話になりましたね」
「聖女様のようなお優しい方にお仕えできて、このアンナはたいへん幸せでした」
「アンナ、ありがとう」
「泣かないでくださいませ、聖女様。お化粧が落ちてしまいますよ」
「そうね、せっかくアンナがきれいにお化粧してくれたのだものね」
祖母と孫のようにも見えるふたりは、涙を浮かべながら別れを惜しんでいる。アンナはこの四年間、聖女パトリシアの侍女として、ずっとそばで支えていた。パトリシアは聖女を引退したあと、王太子と結婚することになっている。アンナは引き続き、次期聖女の侍女を務める。ふたりにとっておそらく今日が今生の別れになるだろう。
そう思い、私は急かすことなくふたりを眺めていた。
「司教様、お世話になりました」
アンナとの別れを終えたパトリシアが私にそう告げた。
「この四年、この王国はずっと平和であり、より豊かになりました。すべて聖女様の功績です。教会内でも百年に一度の聖女だと評判ですよ」
「ありがとうございます。支えてくださった皆様のおかげですわ」
そう言うとパトリシアはアンナの方を一度振り返った。
最後まで感謝の心を忘れない彼女に満足し、うなずいてから言った。
「あなた様なら、きっとすばらしい王太子妃になられるでしょう。お披露目のパレードが楽しみですな」
パトリシアは頬を赤らめて、伏し目がちに言う。
「今日、引退パレードをしていただいて、すぐにまた婚姻のパレードなんて、かかる費用を思うと申し訳ないですわ」
「国民が望んでいるのですから、気にすることはないですよ。それに、あなた様のもたらした恵のおかげで教会も王家も金には困ってませんからね」
私がそう言って笑い声をあげると、パトリシアはほっとしたようだった。
「そろそろお時間です」
警備の兵士にそう声をかけられ、パトリシアは身を正した。
「行ってまいります」
私とアンナにそう言うと、公爵令嬢という出自にふさわしい、見事なカーテシーを披露する。そして兵士に連れられて、パレードのために絢爛に飾りつけられた馬車に乗り、四年過ごした聖女の塔を去って行った。
「良い娘でしたな」
「ええ、本当に良い娘でした。とても楽しい四年間が過ごせましたよ」
「近々、次の聖女を紹介します。パトリシア嬢の次の聖女ですから比較されることもあるでしょう。ぜひ支えていただきたい」
「もちろん侍女として支えましょう。次はどんな娘が来るのか、とても楽しみです」
アンナが微笑んだのを見て、私はほっとして肩の力を抜いた。
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