そこはかとない

第二章：試合の日

第二章：試合の日

デトロイトからデンバーへの往復フライトと、控えめなホリデイ・イン・エクスプレスに二泊分の宿泊費を支払った後、望月桂太郎は母親から「予約確認ありがとう」というサムズアップの絵文字を受け取る。これで出費を補うために、しばらくNetflixのサブスクリプションを解約することを決意する。
さようなら、リバーデール。これでようやくあの混乱した番組を見るのをやめられるだろう。

桂太郎は金曜日は在宅勤務の日で、早めに空港に向かう準備ができた。午後5時2分発のフライトに乗るための準備も完了し、3時間のフライトを経て、ホリデイ・イン・エクスプレスに到着した。バスルームの薄暗い照明の下でシャワーを浴びると、彼の体はリラックスし、涼しいホテルのシーツに包まれた瞬間、深い眠りに落ちた。

翌朝、桂太郎は家族のグループチャットからいくつもの通知で目を覚ます。

「チーム」

お母さん
「桂太郎、お父さんと私は弟たちを朝食に連れて行ってるわ。起きてる？」

瑛士
「早く起きろよ」

お母さん
「電話を2回かけたけど応答がないわ。もう出発してるわよ」

お母さん
「今日は午後5時半にアリーナで合流しましょう」

真一
家族全員が朝食を楽しんでいる自撮り写真を送信

お父さん
写真に「いいね」

お母さん
写真に「大好き」

瑛士
写真に炎の絵文字を4つ返信

桂太郎は、母親の「アリーナでの待ち合わせ時間」を伝えるメッセージに「いいね」を押し、真一が送った写真にも同じように反応した。

ホテルの部屋で数時間を無駄にするのも、それはそれで楽しみである。桂太郎は近くのチポトレから昼食をデリバリー注文し、ベッドで安っぽいリアリティ番組を見ながら、アリーナに向かう時間を待つ。

「クリスリー・ノウズ・ベスト」を見ている途中、桂太郎は「2023-24シーズンのボルダーズチーム」についてあまり知らないことに気づいた。オフシーズンのトレード情報もほとんどチェックしておらず、真一から友人がチームを離れたという話も聞かなかったので、おそらく昨年と似たようなメンバーだろうと思っていたが、試合前にもう少し情報を得ようとスマホでロスターを調べ始めた。

1stライン: トーマス・バレット - イーサン・ランドリー - ミカエル・ハッラ
2ndライン: タピオ・キビ - 望月真一 - アレクサンダー・ヴァシリ
3rdライン: ハドソン・スミス - サミュエル・ルイス - コナー・バーン
4thライン: アンジェロ・ロッシ - フェリックス・アームストロング - ジャスティン・デイビス
1stディフェンス: ジョン・エヴァンス - タイ・マーテル
2ndディフェンス: メイソン・グラハム - フレドリク・グスタフソン
3rdディフェンス: 望月瑛士 - マーカス・エンルンド
スターティングゴーリー: ペター・ヴァンコ
バックアップゴーリー: ヤクブ・プロハズカ

特に彼の注目は、スターミッドフォワードであるバレット-ランドリー-ハッラの1stラインと、真一が参加している2ndラインの強力なオフェンス力、そしてチームの守備の中心であるタイ・マーテルに集まる。タイ・マーテルは2018年に「コロラド・ボルダーズ」から2位でドラフトされた24歳のカナダ人ディフェンスマンで、18歳でNHLに飛び込み、以来数々の記録を打ち立ててきた。ルーキー・オブ・ザ・イヤーとしてカルダー・トロフィーを受賞し、さらに2度ノリス・トロフィーも受賞している。

瑛士は兄と同じチームでプレイできることに興奮しているが、特に彼がマーテルと一緒にプレイできるかもしれないことが何よりも嬉しかったことは周知の事実だ。NHLコンバインの期間中も、彼はインタビューでいかに自分がマーテルの守備に憧れ、そのプレイを模倣しようとしたかを語っていた。

桂太郎はボルダーズのTwitterアカウントをさらにスクロールしていき、最近の投稿のほとんどが弟たちに関するものであることを確認する。

チームのグラフィック
「ケトラー兄弟、準備万端！競争相手をスチームアップする！」

「弟のNHLデビューに向けた瑛士のインタビューに答えた望月兄弟のホッケー中心の家族生活について読む」

真一が瑛士のメディアインタビューを見ている様子のGIF

さらにスクロールしていくと、9月に行われたメディアデーの内容が続々と投稿されている。恒例の子犬とのカレンダー撮影ビデオが彼の目を引く。そのビデオでは、兄弟とチームメイトが犬にセーターを着せ、それぞれ担当する月のためにポーズをとっている。桂太郎は猫派ではあるが、かわいい犬を見れば、自然と心が和むものだ。

ビデオの中でマーテルが子犬たちに囲まれて困惑している様子を見て、彼の頬がさらに赤くなっているのが印象的だった。桂太郎はその映像に微笑みを浮かべる。

彼の電話が鳴り、午後5時を知らせるアラームが彼にUberを呼ぶよう促す。彼は白いTシャツの上にエンジ色のセーターを羽織り、黒いジーンズに身を包み、ドアのそばに置いた靴に滑り込んだ。まだチームの公式グッズを手に入れていないが、チームカラーであるエンジ色のセーターを着て観戦する準備はできている。

最初のUberは直前にキャンセルされたが、幸いにも別のドライバーがすぐに拾ってくれ、試合開始の8分前にはアリーナに到着した。彼はすぐに両親の姿を見つけることができた。

「桂太郎、よく来たな。」父が彼の背中を軽く叩く。

桂太郎は挨拶を交わす前に、母がすでに彼の肩に腕を回していた。彼とほぼ同じ身長の母親と、目が合うくらいの近さだ。

「中に入りましょう。瑛士がウォームアップ前のルーキーラップをするところを見たいの。」母親は忙しいアリーナの中で家族を引き連れ、選手たちの家族に提供されたスイートルームに案内した。

彼らが到着するや否や、報道陣が彼らを取り囲み、望月兄弟のNHLでの初のレギュラーシーズン試合について質問を浴びせてきた。

「お兄さん！真一と瑛士の活躍を外から見守る気持ちは？」記者が彼の顔の前にボイスレコーダーを突き出す。

桂太郎は深呼吸し、この夜を無事に乗り切ればいいと心の中で思った。

デトロイトに戻るのは、すぐだ。