梟(フクロウ)の山

玉城真紀

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日引邸

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「佐一郎の父親は何に気がついたんですか?」
水島は、テーブル越しに話す日引に攻めよった。
「子供が違う事に気がついたんだよ」
「え!子供が違う?でもそれは当然でしょう。梅二が産まれたばかりのおいちの赤子とゆきの赤子を取り替えましたよね。それに気がついたって事ですか?」
「いいや違う。子供はもう一度すり替えられていたのさ」
「もう一度・・・それはいつですか?いつの時点ですり替えられたんです?」
「ゆきが白無垢の女と対峙している時だよ。その時にすり替えられたんだ」
「誰が・・・梅二・・梅二ですか?」
「そう。梅二は本当に頭のいい子だったんだね。梅二は、大切な姉の命を奪った佐一郎とゆきに復讐を決めた。その復讐方法は色々と考えたんだろうけど、しっかりとおいちの意思を継いでるんだよ」
日引はゆっくりとお茶を飲む。
「交換・・おいちは「交換してね」と死ぬ間際に言ってますね」
「そう。「交換」梅二は二度子供を交換することで倍の復讐を果たしたことになる」
「・・でもちょっと待ってください。梅二の家にいたゆきの子供は、梅二の母親が面倒見ていたと言いましたね。どのタイミングで梅二は自分の家から子供を連れ出したんでしょうか。確か歳は一歳と言いましたね。一歳と言えば産まれたばかりの赤ん坊よりも大きい。そんな子を連れ出そうとすれば必ず家族に見つかるはず」
「父親だよ。梅二が家を出た後秘密の場所に行っているね。その後、父親が荷物を渡している。その荷物こそ、父親が家から連れてきたゆきの子供なのさ」
「・・生もの・・人間・・でも・・でも日引さん。子供がずっと大人しくしてますか?武井家の方へ行き、復讐の準備をしている間に騒ぎ出すと思うんですけど」
「騒ぐはずないさね。もうとっくに死んでるんだから」
「えっ‼死んでる?どうして?」
「・・・・父親としては辛かったろうね。自分の娘を侮辱し妊娠まで・・自ら命を断ったとは言えそのきっかけを作った男の子供を自分の女房がかいがいしく世話を焼くのを見る毎日。私にゃ想像つかないよ」
この日引の言葉だけで十分な答えだった。
「・・・・・そうですか」
結婚をしていない水島。勿論子供はいない。しかし、そんな水島でも父親の気持ちを考えることは出来る。憎かったろうし苦しかったと思う。しかしどんな相手だとしても殺してはいけない。これはどの時代でも共通して言える事だろう。
考え込んでしまった水島を見て、日引は
「ヒヒヒ。みずっち。法の下に人は裁かれる。しかし人間も鬼じゃない。ちゃんと情状酌量と言うものがあるさね。知ってるかい?かつて日本で、殺人犯を村人達が守った話」
「村人が?」
「ああ。その殺人犯は働き者で優しい男だったそうだ。年寄りや子供、生活が大変な人たちに対してとても優しかったそうだ。しかし、そんな男が人を殺してしまうんだ。痴情のもつれとでも言おうかねぇ。逃げたその男を村人達はかくまったそうだよ。かくまった村人達はかつて、この男に世話になった人達だったそうだ」
日引はお茶を一口飲むと
「みずっち。人を表面だけで判断しちゃいけないよ。その人が世間から悪く言われていたとしても、裏には必ず事情がある。最初から鬼で産まれてくる者なんていないんだから。その事情をくんだうえで自分で判断しなくてはいけない」
「はい」
水島は、夕焼け色に染まり始めている庭の方を見た。
「日引さん。これで梅二の復讐は終わったんですか?復讐を果たせた日だからおいちの日なんですか?」
水島の問いに、日引はゆっくりと首を振る。
「いいや違う。もう夕方だ。答えを教えてあげようかね。今日がなぜ、おいちの日と呼ぶようになったのか」
水島はゴクリと生唾を飲んだ。
「今日は、富木村。武井村。狭山村の三つの村が滅んだ日なのさ」
「滅んだ・・・三つ全てですか?」
「そう。一晩にして三つの村が滅んだのさ」
水島は驚きの余り目を丸くして口をあんぐりと開けたままになっている。
「ちょ、ちょっと待ってください。そんな・・三つの村が同時に・・それも一晩で滅ぶなんてことがあり得るんですか?」
「知りたいかい?」
「はい」
「みずっち。会社の方はいいのかい?」
「大丈夫です。逆に話を最後まで聞かなくちゃ、仕事にならないですよ」
「そうかい。じゃあ教えてあげようかね」
水島は、日引の湯飲みに新しいお茶を入れると話し出すのを待った。
「あの夜はね・・・」
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