23 / 31
再び山岸邸
しおりを挟む
懐剣が刺さったままの子供を凝視しながら、ゆきの父親はうわ言のように繰り返す。
「これは・・この子供は・・」
自分が縋りつく夫の様子がおかしい事に気がついた妻は
「あなた?」
と、夫の視線の先。子供の方へ目をやる。無残な姿意外、おかしな所はないように思える。
「あなた?どうしたんです?」
「この子供は、ゆきの子供じゃないぞ」
「え?何を言ってるんですか?」
驚いた妻は再度、子供をまじまじと見た。
これまでゆきは、物を言わなくなった子供をかいがいしく世話を焼いてきた。勿論一人でそんな大変な事をさせるわけにはいかないと、自分も何かにつけて手伝った。夫よりは、自分の方が子供と接してきた時間は長いだろう。夫は、ゆきの夫、佐一郎に対しどう対処するべきかと悩む日々。ようやく武井家に男が産まれた。孫は可愛いが、だらしない佐一郎に頭を抱えてきた。そんな夫がすぐに、子供の変化など分かる訳がないと思っていたが、横たわる孫の顔や布団から出ている手にかけて見ると
「・・・ええ。この子供はゆきの子供ではありません・・では、孫は?孫は何処へ」
夫に答えを求めるが、勿論夫が知る由もない。
「ゆきに、ゆきに聞けないのか?」
二人は、未だ白目をむいたまま体を痙攣させ倒れているゆきの方を見た。妻は、這いつくばりながらゆきの方へと近づくと
「ゆき!ゆき!」
必死に声を掛ける。父親も一緒になり声を掛けたり頬を叩いたりして、ゆきを何とか正気にさせようと奮闘した。
「あの~どうかしたんですか?」
間の抜けた声がどこからか聞こえる。ゆきの両親は声のする方へ顔を上げると、障子の隙間から佐一郎が顔をのぞかせていた。
父親はものすごい勢いで障子を開け、佐一郎の首根っこを掴むと部屋へと押し入れた。
勢い余って、倒れ込んだ佐一郎に
「お前・・・この状況で、何が「どうかした」だ?よく見てみろ!子供とゆきを!」
父親は顔を赤くし、仁王立ちで倒れている佐一郎を見下ろす。
言われた佐一郎は、何の事か解らなかったが父親の言う通り周りを見てみる。ゆきが倒れているのはすぐに分かった。子供の方は・・・
「へ?」
始め、間抜けな声を出した佐一郎だったが、状況が分かるとわなわなと唇を震わせ大きく見開いた眼で義父を見た。
「どういうことか分かったな」
「・・・・」
「佐一郎よ。俺はお前がゆきと所帯を持った以上この山岸家の跡取りとして教育しようと思っていた。しかしお前はクズだった。ゆきと子供の相手をろくにせず飲み歩く日々。そればかりかいろんな女とも遊びやがって。俺が何も知らないとでも思ったか?お前一匹の行動を見張らせる事なんて造作もない事なんだよ。本来なら、ゆきと離縁させようとも思ったがゆきがソレを拒んだ。そこでだ・・・佐一郎よ。この状況をなんとかしろ」
「何とかって・・・」
「何とかできたなら、もう俺はお前の行動には口出しはしない。この山岸家の財産全てお前の好きなようにするがいい。分かったな」
そう言うと、ゆきに縋りつきながら佐一郎を睨む妻を連れて部屋から出て行ってしまった。
一人残された佐一郎は暫く呆然としていた。
部屋には、懐剣が喉に刺さった子供の遺体と白目をむき体を痙攣させて倒れている嫁。途方に暮れる佐一郎だったが、欲深く計算高いこの男はすぐに考え始めた。
「子供の方の始末は簡単だとしても、ゆきはどうするか・・だ」
佐一郎は、倒れているゆきをジッと見ながら考え込む。
「そうだ」
佐一郎は子供の方へと近寄り、喉に刺さっている懐剣を抜く。ぬるりと嫌な感触が手に伝わる。
「ちっ」
気持ちの悪さを感じながら、手早く子供をシーツにくるんでいく。次にゆきの方へと近づくと、持っていた懐剣で躊躇なくゆきの胸へと突き立てた。その瞬間、白目をむいていたゆきの目が佐一郎を捉え
「ど・・うしれ・・・」
と、かすれた声を残しゆきは絶命した。
「ふん。もう飽きたんだよ。子供と一緒に葬ってやるから心配するな。ったく、面倒な奴だ・・ふふ。この家を俺の物に出来れば楽して生活できる」
佐一郎は、目の前にぶら下がる餌に目がくらみ人としての理性を失っていた。
ゆきと子供の遺体を一緒にシーツにくるみ終わると、懐剣を手に佐一郎が次に向かったのは義父母がいる部屋だった。
足音を忍ばせ部屋に近づいていく。二人がいる部屋の灯りが障子越しに漏れていた。近付くにつれ中の二人の会話が聞こえてくる。
「あなた、どういう事なんでしょうか」
「分からん。分かっているのはあの子供は俺達の孫ではないという事だ」
「でも私、今日の夕方食事を持って行った時は変わりはなかったんですよ?私の目がおかしくなったんでしょうか」
「・・・・・あの馬鹿は何て言ってくるだろうな」
「佐一郎に何が出来ますか。あのごく潰し。それよりも早くゆきを医者に診せた方が」
「分かってる。それはもう手配している」
廊下で立ち聞きをしている佐一郎の頭に血が上っていく。
(ごく潰しだと?馬鹿だと?)
人間、本当のことを言われると余計頭にくるものだ。佐一郎も自分で分かっているが人に言われると面白くない。
障子を勢いよく開けると、行灯の前にいた二人めがけ懐剣を無我夢中で振り下ろしていく。
「佐一郎!お前!」
「ぎゃ~」
二人の短い悲鳴が部屋に響く。
必死に抵抗していた義父母も力尽き、物言わぬ屍となった後も夢中で刺し続けた。辺り一面飛び散った血で、真っ赤に染まる。
「はぁはぁはぁ」
ようやく刺すのをやめた佐一郎は、そのまま何を思ったのか家中を駆け回り女中や、男衆の部屋に入ると誰一人残すことなく刺し殺してしまった。
もう、誰の物とも分からない返り血で顔や体を真っ赤にした佐一郎は、裸足で庭に飛び出すとそのまま山岸家から走って出て行った。
「これは・・この子供は・・」
自分が縋りつく夫の様子がおかしい事に気がついた妻は
「あなた?」
と、夫の視線の先。子供の方へ目をやる。無残な姿意外、おかしな所はないように思える。
「あなた?どうしたんです?」
「この子供は、ゆきの子供じゃないぞ」
「え?何を言ってるんですか?」
驚いた妻は再度、子供をまじまじと見た。
これまでゆきは、物を言わなくなった子供をかいがいしく世話を焼いてきた。勿論一人でそんな大変な事をさせるわけにはいかないと、自分も何かにつけて手伝った。夫よりは、自分の方が子供と接してきた時間は長いだろう。夫は、ゆきの夫、佐一郎に対しどう対処するべきかと悩む日々。ようやく武井家に男が産まれた。孫は可愛いが、だらしない佐一郎に頭を抱えてきた。そんな夫がすぐに、子供の変化など分かる訳がないと思っていたが、横たわる孫の顔や布団から出ている手にかけて見ると
「・・・ええ。この子供はゆきの子供ではありません・・では、孫は?孫は何処へ」
夫に答えを求めるが、勿論夫が知る由もない。
「ゆきに、ゆきに聞けないのか?」
二人は、未だ白目をむいたまま体を痙攣させ倒れているゆきの方を見た。妻は、這いつくばりながらゆきの方へと近づくと
「ゆき!ゆき!」
必死に声を掛ける。父親も一緒になり声を掛けたり頬を叩いたりして、ゆきを何とか正気にさせようと奮闘した。
「あの~どうかしたんですか?」
間の抜けた声がどこからか聞こえる。ゆきの両親は声のする方へ顔を上げると、障子の隙間から佐一郎が顔をのぞかせていた。
父親はものすごい勢いで障子を開け、佐一郎の首根っこを掴むと部屋へと押し入れた。
勢い余って、倒れ込んだ佐一郎に
「お前・・・この状況で、何が「どうかした」だ?よく見てみろ!子供とゆきを!」
父親は顔を赤くし、仁王立ちで倒れている佐一郎を見下ろす。
言われた佐一郎は、何の事か解らなかったが父親の言う通り周りを見てみる。ゆきが倒れているのはすぐに分かった。子供の方は・・・
「へ?」
始め、間抜けな声を出した佐一郎だったが、状況が分かるとわなわなと唇を震わせ大きく見開いた眼で義父を見た。
「どういうことか分かったな」
「・・・・」
「佐一郎よ。俺はお前がゆきと所帯を持った以上この山岸家の跡取りとして教育しようと思っていた。しかしお前はクズだった。ゆきと子供の相手をろくにせず飲み歩く日々。そればかりかいろんな女とも遊びやがって。俺が何も知らないとでも思ったか?お前一匹の行動を見張らせる事なんて造作もない事なんだよ。本来なら、ゆきと離縁させようとも思ったがゆきがソレを拒んだ。そこでだ・・・佐一郎よ。この状況をなんとかしろ」
「何とかって・・・」
「何とかできたなら、もう俺はお前の行動には口出しはしない。この山岸家の財産全てお前の好きなようにするがいい。分かったな」
そう言うと、ゆきに縋りつきながら佐一郎を睨む妻を連れて部屋から出て行ってしまった。
一人残された佐一郎は暫く呆然としていた。
部屋には、懐剣が喉に刺さった子供の遺体と白目をむき体を痙攣させて倒れている嫁。途方に暮れる佐一郎だったが、欲深く計算高いこの男はすぐに考え始めた。
「子供の方の始末は簡単だとしても、ゆきはどうするか・・だ」
佐一郎は、倒れているゆきをジッと見ながら考え込む。
「そうだ」
佐一郎は子供の方へと近寄り、喉に刺さっている懐剣を抜く。ぬるりと嫌な感触が手に伝わる。
「ちっ」
気持ちの悪さを感じながら、手早く子供をシーツにくるんでいく。次にゆきの方へと近づくと、持っていた懐剣で躊躇なくゆきの胸へと突き立てた。その瞬間、白目をむいていたゆきの目が佐一郎を捉え
「ど・・うしれ・・・」
と、かすれた声を残しゆきは絶命した。
「ふん。もう飽きたんだよ。子供と一緒に葬ってやるから心配するな。ったく、面倒な奴だ・・ふふ。この家を俺の物に出来れば楽して生活できる」
佐一郎は、目の前にぶら下がる餌に目がくらみ人としての理性を失っていた。
ゆきと子供の遺体を一緒にシーツにくるみ終わると、懐剣を手に佐一郎が次に向かったのは義父母がいる部屋だった。
足音を忍ばせ部屋に近づいていく。二人がいる部屋の灯りが障子越しに漏れていた。近付くにつれ中の二人の会話が聞こえてくる。
「あなた、どういう事なんでしょうか」
「分からん。分かっているのはあの子供は俺達の孫ではないという事だ」
「でも私、今日の夕方食事を持って行った時は変わりはなかったんですよ?私の目がおかしくなったんでしょうか」
「・・・・・あの馬鹿は何て言ってくるだろうな」
「佐一郎に何が出来ますか。あのごく潰し。それよりも早くゆきを医者に診せた方が」
「分かってる。それはもう手配している」
廊下で立ち聞きをしている佐一郎の頭に血が上っていく。
(ごく潰しだと?馬鹿だと?)
人間、本当のことを言われると余計頭にくるものだ。佐一郎も自分で分かっているが人に言われると面白くない。
障子を勢いよく開けると、行灯の前にいた二人めがけ懐剣を無我夢中で振り下ろしていく。
「佐一郎!お前!」
「ぎゃ~」
二人の短い悲鳴が部屋に響く。
必死に抵抗していた義父母も力尽き、物言わぬ屍となった後も夢中で刺し続けた。辺り一面飛び散った血で、真っ赤に染まる。
「はぁはぁはぁ」
ようやく刺すのをやめた佐一郎は、そのまま何を思ったのか家中を駆け回り女中や、男衆の部屋に入ると誰一人残すことなく刺し殺してしまった。
もう、誰の物とも分からない返り血で顔や体を真っ赤にした佐一郎は、裸足で庭に飛び出すとそのまま山岸家から走って出て行った。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる