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対峙
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その後梅二は、家族に別れを告げるとすぐに家から出た。あめを納得させるのに手こずってしまったが、必ず又会えると約束しやっと解放された。
思い当たる節があった梅二は、ある場所に走って行った。
(まさか・・・まさか・・・)
山の中を走る梅二の視界が次第に明るくなってくる。夜が明けて来たのだ。
薄暗闇の中息を切らせ走る。
「ん?」
自分の行く手に誰かが立っている。佐一郎か?いや・・・違う。
「お前・・・」
走っていた梅二は慌てて止まった。自分の目の前にいる奴。それはあの真っ黒い顔の奴だった。
「あ・・お前は・・お前はあの時の・・」
あの時、利一と焚き木を拾いに山へ入った時に梅二はこの真っ黒い顔の奴と合っている。その時こいつは
「俺はお前さ」
と言って笑った。
梅二は、何も喋らず表情も分からない奴を前にしてゾワゾワと恐ろしさが湧いてくる。
「くっくっくっく」
奴は、肩を震わせ笑っていた。
「なっ何を笑ってる!」
梅二は怖がりながらも大声で言った。
「怖いかい?」
「っ!」
図星である。言葉もない。梅二はそれでも、弱い所を見せないようキッと相手を睨む。
「お、お前は一体何者なんだ!」
そう聞いた時、真っ黒な顔にあの大きな口が現れニィっと笑った。
「言っただろ?俺はお前だって」
「その意味が解らないんだよ!第一、俺は俺だ!・・そうか分かったぞ。お前狸か狐が化けてるんだな?」
村人が、狸やキツネが出て悪さをするからこの山には入らないと言っていたのを梅二は思い出した。
「くっくっく。狸?狐?子供を殺した奴が、なに可愛いこと言ってんだ?」
梅二は、冷水を浴びた様に一瞬にして体が冷たくなるのを感じた。
(何でこいつが知ってるんだ・・)
「何でこいつが知ってるんだ?って思ったか?」
(え?俺が今思った事・・)
「え?俺が今思った事・・くっくっく。だから、俺はお前なんだよ。しかし、あの土壇場でよくあんなからくりを思い付いたな。まぁ、佐一郎の方は、俺が少し脅かしておいたがな」
「佐一郎兄ちゃん?」
梅二にはその言葉の意味が理解できなかった。
「何言ってるんだ?お前が俺なら・・俺が二人いる・・・って事か・・」
そいつは笑ったまま
「いや。正しくはもっといるだろうな。ただ俺は思いが強いため具現化しただけだ」
「いっぱいいる・・具現化・・」
「そう。俺は、お前の感情の一部なんだ」
「感情の一部?」
「俺は「怒り」。人は喜怒哀楽の感情を持つだろ?その「怒」だ。お前は、佐一郎と姉ちゃんが二人だけで会っていることを知った時どう思った?心から祝福できたか?次に、姉ちゃんが佐一郎に遊ばれ挙句に死んだ。例え自ら命を断ったとしてもそのきっかけを作った佐一郎をお前は許せなかったろ?」
「・・・・・」
「この山は、狸やキツネが化かすから入ってはいけないと言われているが、そうじゃない。自分がいま強く感じている感情と出会うんだ。それに気がつかない他の奴らは、もう一人の自分を見て狸やキツネのせいにした。現に、不思議に思わなかったか?お前は、この山の事なら隅々まで分かっている。それは何故だ?この山に入り、興味を持ってほうぼう歩き回ったからだろ?その時自分自身と出会ったか?」
「いや・・じゃあ。佐一郎兄ちゃんが出会った神様って言うのもそうなのか?」
「ああそうだ。アイツは、悪い神様と良い神様という表現をしていたが悪い神様の方は今の佐一郎。良い神様の方は昔の佐一郎だ」
「昔の?」
「そう。佐一郎も忘れていた自分。・・いや。思い出したくない封印した記憶の中の自分とでも言おうか。ま、それも晴れて思い出したんだから良かったんじゃないか?死んじまったけどな」
「え?佐一郎兄ちゃんが死んだ?」
「崖に走って行ってそのまま・・お前がこの山に入る前に、佐一郎はここへ来た。そしてもう一人の自分に会ったんだ。その時、昔の記憶がよみがえりそれに耐えられなくなったんだろう。母親の復讐の一念が自分に憑いていたんだからな。そして、図らずもその通りに自分は動いた。俺は、崖に向かって走って行く佐一郎の姿を見て思ったんだが、アレはきっと昔の産まれたばかりの佐一郎だったんだと思う」
「産まれたばかりの?」
「梅二。人間は産まれてくるときは皆同じなんだ。違うのは顔かたちや性別。心はまっさらで産まれてくる。そのまっさらな心の佐一郎に戻ったとき、耐えられなかったんだろうな。自分のしでかした事に」
そんな事があるのだろうか。梅二は、佐一郎の顔を思い出していた。
「・・朝だ」
「怒」は突然そう言った。
俺は頭上を見るとさっきまでの薄暗い程度だった空が青く晴れ渡っているのが見える。
「朝だからってなんだ」
「梅二。俺がお前の前に現れる事が無いよう気をつけろ。親父が言ってただろ?「人は不思議なものだな」って。お前が人である以上、その不思議なものと関わって生きて行かなくちゃいけない。俺と会わないために成長しろ。それに・・佐一郎がしでかした事が直わかるだろう。・・・「決まり事」と言うのは守らないと駄目なんだな」
話しているうちに、目の前の奴は薄く消えかかっていく。
「ちょっと待てよ!お前が俺なら何で佐一郎兄ちゃんのことまで色々知ってるんだ?お前は俺の「怒り」なんだろ?おかしいだろ」
「くっくっく。この山は不思議な所だ」
もう体が透けて、向こうの木々や草が見えている。フクロウが近くで鳴いているのかやけに声が大きく聞こえる。
「山が不思議?・・・・意味わからん。それに・・・」
もう薄くなった顔しか残っていない。
「「怒り」なら・・・何で笑ってるんだよ」
「さあ。何でだろうな」
ソイツは、最後にそう言って消えた。
暫くその場に立ち尽くしていた梅二だったが、夜が明けた山は鳥や野ウサギなどが活動し始め騒がしくなる。ハッと我に返った梅二は一旦村に戻る事にした。アイツの言った事が気になる。
(佐一郎がしでかした事が直わかるだろう。・・・「決まり事」と言うのは守らないと駄目なんだ)
決まり事。梅二がとっさに思いついた決まり事と言うと、あの祭りの決まり事だ。二日間の祭りの間は決して話をしてはいけない。梅二自身は、その決まりがある事は知っているが中にはコソコソと話してしまう人もいるだろうと考えている。だから、おいちがその事について悩んでいた時も一笑に付したのだ。
嫌な予感がする。
足早に山を下り、先ず自分の家へと向かう。家の中はもうもぬけの殻だった。父親は早々と家族を連れ家を出たらしい。少しだけ寂しさを感じたが、これで良かったのかもしれない。この場所は、おいちが生きていた時の思い出が詰まっている。何を見ても思い出してしまうだろう。おいちの忘れ形見の子供と新たな生活を始めるには、ここを捨てた方がいいのだ。
自分も最後となる家を、寂しいような切ないような気持ちで見て回る。
すると、囲炉裏の所にいちまいの紙が置かれていた。梅二はそれを拾い上げ見てみると、それは父親から梅二にあてての短い手紙だった。急いで書いたのか走り書きで書かれている。
(梅二。父ちゃん達はこの村を出るが心配するな。お前はお前の人生をしっかりと歩め。梅二には、本当に辛いことをさせてしまった。本来親の俺がやるべきことなのに、すまない。もしお前が耐えられないと思った時あの場所へ来い。俺がいる)
こんな内容の手紙だった。
梅二自身がやると決めた復讐だったのに、父親をその事で悩ませてしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、最後の一文は梅二にとって嬉しかった。あの場所と言うのは秘密の場所の事だ。そこに俺はいる。と書かれている。それは、いつもお前の側にいるという意味で梅二はとらえた。
手紙を懐にねじ込み家を出た梅二は、村を出ようと歩き出した。
(おかしいな)
梅二は、村の様子がおかしいのに気がついた。やけに村が静かだ。土が悪く作物が余り育たないにしても、畑はある。朝から畑に出る人がいてもおかしくないのだが、見る限り誰もいない。
余り人とは会いたくなかったがどうしても気になった梅二は、夜に薪の裏に隠れさせてもらった隣家に行って見た。この家は、おいちに良くしてくれた女とその両親の三人暮らし。
「おはよう」
開けっ放しの戸から中に向かって声を掛ける。返事がない。
「おはよう」
もう一度声を掛けるが返事どころか物音一つしない。
(誰もいないのか?)
梅二は家の中へと入った。その瞬間生臭いような変な匂いが強くなる。
「うっ何だこの匂い」
鼻を押さえ顔をしかめながら進んで行く。この村の家の作りは何処も似たり寄ったりだ。この家も梅二の家同様、二間しかない事は梅二も知っていた。
土間から囲炉裏のある方の部屋を覗き込んだが、誰もいない。しかし、隣の部屋の襖が半分だけ開いていたので、部屋へと上がり込み中を覗いた。梅二の目に飛び込んできたのは、血だらけになって布団の上に倒れている住人だった。薄掛け一枚被った布団が血でぐっしょりと濡れており、寝ている所を殺されたという事が分かる。おいちと仲が良かった女は特にひどく、首が半分取れかかっていた。三人の交じり合った血が床一面に広がり、端の方は乾いている。
「な・・なん・・・」
梅二は転がるように急いで家を飛び出すと、この惨事を知らせるため他の家に向かって走り出す。しかし、行った先の家の中も同様、家人達が殺されていた。訳が分からなくなった梅二は次々と村中の家へと入って行く。
「そ・・・そんな・・誰が・・こんな事」
全ての家を見終わった梅二は、ふらふらと道を歩きながら呟いた。
富木村は全滅していた。村人全てが殺されていたのだ。
その時ふと思った。
(まさか・・父ちゃんが)
おいちが子供を身ごもり、日に日に大きくなる腹を隠すため外に出なくなってから村の人達は色々と噂をするようになった。あれだけ、「美人」だの「村の唯一の光」などと言っていた村人がおいちの死をきっかけに手のひらを返したように冷たい目で俺達家族を見るようになった。俺達は気にしないように生活をしていたが、父ちゃんはそんな村人が許せず皆殺しにしてしまったのか・・
梅二があれこれと考えている時、ふと空が赤いような気がした。
「なんだあれ・・あっちの方向は・・武井村の方だ」
梅二は、弾かれるように走り出し武井村へと向かった。急な坂を超え武井村へと入る。
思い当たる節があった梅二は、ある場所に走って行った。
(まさか・・・まさか・・・)
山の中を走る梅二の視界が次第に明るくなってくる。夜が明けて来たのだ。
薄暗闇の中息を切らせ走る。
「ん?」
自分の行く手に誰かが立っている。佐一郎か?いや・・・違う。
「お前・・・」
走っていた梅二は慌てて止まった。自分の目の前にいる奴。それはあの真っ黒い顔の奴だった。
「あ・・お前は・・お前はあの時の・・」
あの時、利一と焚き木を拾いに山へ入った時に梅二はこの真っ黒い顔の奴と合っている。その時こいつは
「俺はお前さ」
と言って笑った。
梅二は、何も喋らず表情も分からない奴を前にしてゾワゾワと恐ろしさが湧いてくる。
「くっくっくっく」
奴は、肩を震わせ笑っていた。
「なっ何を笑ってる!」
梅二は怖がりながらも大声で言った。
「怖いかい?」
「っ!」
図星である。言葉もない。梅二はそれでも、弱い所を見せないようキッと相手を睨む。
「お、お前は一体何者なんだ!」
そう聞いた時、真っ黒な顔にあの大きな口が現れニィっと笑った。
「言っただろ?俺はお前だって」
「その意味が解らないんだよ!第一、俺は俺だ!・・そうか分かったぞ。お前狸か狐が化けてるんだな?」
村人が、狸やキツネが出て悪さをするからこの山には入らないと言っていたのを梅二は思い出した。
「くっくっく。狸?狐?子供を殺した奴が、なに可愛いこと言ってんだ?」
梅二は、冷水を浴びた様に一瞬にして体が冷たくなるのを感じた。
(何でこいつが知ってるんだ・・)
「何でこいつが知ってるんだ?って思ったか?」
(え?俺が今思った事・・)
「え?俺が今思った事・・くっくっく。だから、俺はお前なんだよ。しかし、あの土壇場でよくあんなからくりを思い付いたな。まぁ、佐一郎の方は、俺が少し脅かしておいたがな」
「佐一郎兄ちゃん?」
梅二にはその言葉の意味が理解できなかった。
「何言ってるんだ?お前が俺なら・・俺が二人いる・・・って事か・・」
そいつは笑ったまま
「いや。正しくはもっといるだろうな。ただ俺は思いが強いため具現化しただけだ」
「いっぱいいる・・具現化・・」
「そう。俺は、お前の感情の一部なんだ」
「感情の一部?」
「俺は「怒り」。人は喜怒哀楽の感情を持つだろ?その「怒」だ。お前は、佐一郎と姉ちゃんが二人だけで会っていることを知った時どう思った?心から祝福できたか?次に、姉ちゃんが佐一郎に遊ばれ挙句に死んだ。例え自ら命を断ったとしてもそのきっかけを作った佐一郎をお前は許せなかったろ?」
「・・・・・」
「この山は、狸やキツネが化かすから入ってはいけないと言われているが、そうじゃない。自分がいま強く感じている感情と出会うんだ。それに気がつかない他の奴らは、もう一人の自分を見て狸やキツネのせいにした。現に、不思議に思わなかったか?お前は、この山の事なら隅々まで分かっている。それは何故だ?この山に入り、興味を持ってほうぼう歩き回ったからだろ?その時自分自身と出会ったか?」
「いや・・じゃあ。佐一郎兄ちゃんが出会った神様って言うのもそうなのか?」
「ああそうだ。アイツは、悪い神様と良い神様という表現をしていたが悪い神様の方は今の佐一郎。良い神様の方は昔の佐一郎だ」
「昔の?」
「そう。佐一郎も忘れていた自分。・・いや。思い出したくない封印した記憶の中の自分とでも言おうか。ま、それも晴れて思い出したんだから良かったんじゃないか?死んじまったけどな」
「え?佐一郎兄ちゃんが死んだ?」
「崖に走って行ってそのまま・・お前がこの山に入る前に、佐一郎はここへ来た。そしてもう一人の自分に会ったんだ。その時、昔の記憶がよみがえりそれに耐えられなくなったんだろう。母親の復讐の一念が自分に憑いていたんだからな。そして、図らずもその通りに自分は動いた。俺は、崖に向かって走って行く佐一郎の姿を見て思ったんだが、アレはきっと昔の産まれたばかりの佐一郎だったんだと思う」
「産まれたばかりの?」
「梅二。人間は産まれてくるときは皆同じなんだ。違うのは顔かたちや性別。心はまっさらで産まれてくる。そのまっさらな心の佐一郎に戻ったとき、耐えられなかったんだろうな。自分のしでかした事に」
そんな事があるのだろうか。梅二は、佐一郎の顔を思い出していた。
「・・朝だ」
「怒」は突然そう言った。
俺は頭上を見るとさっきまでの薄暗い程度だった空が青く晴れ渡っているのが見える。
「朝だからってなんだ」
「梅二。俺がお前の前に現れる事が無いよう気をつけろ。親父が言ってただろ?「人は不思議なものだな」って。お前が人である以上、その不思議なものと関わって生きて行かなくちゃいけない。俺と会わないために成長しろ。それに・・佐一郎がしでかした事が直わかるだろう。・・・「決まり事」と言うのは守らないと駄目なんだな」
話しているうちに、目の前の奴は薄く消えかかっていく。
「ちょっと待てよ!お前が俺なら何で佐一郎兄ちゃんのことまで色々知ってるんだ?お前は俺の「怒り」なんだろ?おかしいだろ」
「くっくっく。この山は不思議な所だ」
もう体が透けて、向こうの木々や草が見えている。フクロウが近くで鳴いているのかやけに声が大きく聞こえる。
「山が不思議?・・・・意味わからん。それに・・・」
もう薄くなった顔しか残っていない。
「「怒り」なら・・・何で笑ってるんだよ」
「さあ。何でだろうな」
ソイツは、最後にそう言って消えた。
暫くその場に立ち尽くしていた梅二だったが、夜が明けた山は鳥や野ウサギなどが活動し始め騒がしくなる。ハッと我に返った梅二は一旦村に戻る事にした。アイツの言った事が気になる。
(佐一郎がしでかした事が直わかるだろう。・・・「決まり事」と言うのは守らないと駄目なんだ)
決まり事。梅二がとっさに思いついた決まり事と言うと、あの祭りの決まり事だ。二日間の祭りの間は決して話をしてはいけない。梅二自身は、その決まりがある事は知っているが中にはコソコソと話してしまう人もいるだろうと考えている。だから、おいちがその事について悩んでいた時も一笑に付したのだ。
嫌な予感がする。
足早に山を下り、先ず自分の家へと向かう。家の中はもうもぬけの殻だった。父親は早々と家族を連れ家を出たらしい。少しだけ寂しさを感じたが、これで良かったのかもしれない。この場所は、おいちが生きていた時の思い出が詰まっている。何を見ても思い出してしまうだろう。おいちの忘れ形見の子供と新たな生活を始めるには、ここを捨てた方がいいのだ。
自分も最後となる家を、寂しいような切ないような気持ちで見て回る。
すると、囲炉裏の所にいちまいの紙が置かれていた。梅二はそれを拾い上げ見てみると、それは父親から梅二にあてての短い手紙だった。急いで書いたのか走り書きで書かれている。
(梅二。父ちゃん達はこの村を出るが心配するな。お前はお前の人生をしっかりと歩め。梅二には、本当に辛いことをさせてしまった。本来親の俺がやるべきことなのに、すまない。もしお前が耐えられないと思った時あの場所へ来い。俺がいる)
こんな内容の手紙だった。
梅二自身がやると決めた復讐だったのに、父親をその事で悩ませてしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、最後の一文は梅二にとって嬉しかった。あの場所と言うのは秘密の場所の事だ。そこに俺はいる。と書かれている。それは、いつもお前の側にいるという意味で梅二はとらえた。
手紙を懐にねじ込み家を出た梅二は、村を出ようと歩き出した。
(おかしいな)
梅二は、村の様子がおかしいのに気がついた。やけに村が静かだ。土が悪く作物が余り育たないにしても、畑はある。朝から畑に出る人がいてもおかしくないのだが、見る限り誰もいない。
余り人とは会いたくなかったがどうしても気になった梅二は、夜に薪の裏に隠れさせてもらった隣家に行って見た。この家は、おいちに良くしてくれた女とその両親の三人暮らし。
「おはよう」
開けっ放しの戸から中に向かって声を掛ける。返事がない。
「おはよう」
もう一度声を掛けるが返事どころか物音一つしない。
(誰もいないのか?)
梅二は家の中へと入った。その瞬間生臭いような変な匂いが強くなる。
「うっ何だこの匂い」
鼻を押さえ顔をしかめながら進んで行く。この村の家の作りは何処も似たり寄ったりだ。この家も梅二の家同様、二間しかない事は梅二も知っていた。
土間から囲炉裏のある方の部屋を覗き込んだが、誰もいない。しかし、隣の部屋の襖が半分だけ開いていたので、部屋へと上がり込み中を覗いた。梅二の目に飛び込んできたのは、血だらけになって布団の上に倒れている住人だった。薄掛け一枚被った布団が血でぐっしょりと濡れており、寝ている所を殺されたという事が分かる。おいちと仲が良かった女は特にひどく、首が半分取れかかっていた。三人の交じり合った血が床一面に広がり、端の方は乾いている。
「な・・なん・・・」
梅二は転がるように急いで家を飛び出すと、この惨事を知らせるため他の家に向かって走り出す。しかし、行った先の家の中も同様、家人達が殺されていた。訳が分からなくなった梅二は次々と村中の家へと入って行く。
「そ・・・そんな・・誰が・・こんな事」
全ての家を見終わった梅二は、ふらふらと道を歩きながら呟いた。
富木村は全滅していた。村人全てが殺されていたのだ。
その時ふと思った。
(まさか・・父ちゃんが)
おいちが子供を身ごもり、日に日に大きくなる腹を隠すため外に出なくなってから村の人達は色々と噂をするようになった。あれだけ、「美人」だの「村の唯一の光」などと言っていた村人がおいちの死をきっかけに手のひらを返したように冷たい目で俺達家族を見るようになった。俺達は気にしないように生活をしていたが、父ちゃんはそんな村人が許せず皆殺しにしてしまったのか・・
梅二があれこれと考えている時、ふと空が赤いような気がした。
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