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火事
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なんてこった。あそこは山岸の家だ」
遠目からでもわかる大きなお屋敷が炎に包まれている。武井村一体を明るく照らすぐらいの大きな炎は、こちらにも熱気が伝わってきそうだった。
「何で火が出たんだ・・まさか、これも父ちゃんが?」
しかし、あの父親がここまでの事をするだろうか。おいちの事や、梅二が行った赤子の交換に対して自分を責め、また親としての責任も感じていた人だ。
「違う。父ちゃんじゃない。じゃあ誰が」
呆然と立ち尽くし、燃え盛る炎を山の麓で見ていた梅二は誰かの騒ぐ声を聞いたような気がした。
何処から声が聞こえたのかと探して見ると、燃えている家の前で何人かの人が騒いでいる様だ。赤い炎を前に黒いシルエットが右往左往しているのが見える。
梅二は、その大人達の元へ走って行った。
「大変だ~!」
「消防団を呼べ!」
「中に人はいるのか!」
近付いていくと、三人の男衆と初老の老人がいるのが分かった。
この初老の老人については、梅二は見たことがあった。医者である。あめがお腹が痛いと騒いだ時に町の方から来てもらった事があったので覚えていた。温和な優しい先生だ。
恐らく、ゆきの父親がゆきを診てもらうため男衆に医者を連れてくるようにと行かせたのが戻って来たのだろう。
その医者も、炎の灯りを全身に受け驚きうろたえている。
男達は中に入ろうとするが、入れるのは庭先まで。燃え盛る炎に阻まれ家の中には入れそうにない。
「くそ!どうしたらいいんだ」
「消防は呼んだのか!」
「あいつが今呼びに行っている!それより、水!村のみんな起こして火を消せ!」
「わかった!」
二人の男は近くの民家に飛び込んで行ったが、その途端
「うわ~っ!」
と、二人の叫び声が聞こえてきた。
二人が入った民家へと走り中を覗いた梅二は愕然とする。
「ここもか・・・」
中には、その家の住人が布団の上で血まみれになり息絶えていた。その隣では、さっき入って行った男が腰を抜かしている。もう一人の男は土間に立ち、口を手で押さえていたが、堪えきれなくなったのか外に飛び出しその場で吐き出した。
「お前・・・」
腰を抜かしていた男は、玄関前に立って覗いている梅二に気が付くとフラフラと立ち上がり近寄るとぐいっと胸ぐらをつかみ
「お前が殺したんだな!」
と怒鳴る。
「えっ?俺じゃない!」
「あっコイツ見たことあるぞ。ゆきさんの祝言の時に富木村から来てた女と一緒にいた奴だ!」
もう一人の男が梅二を指さしながら叫ぶ。
「なにぃ!って事は、その時の恨みを晴らすために家に火をつけて、こんな関係ない人まで殺したんだな!ひでぇ奴だ!」
「違う!俺じゃない!」
「おい!こいつ縛って置け!後で警察に突き出してやる!」
(何てことだ・・・確かにゆきの子供は殺したが家に火は点けてない。この家の人達も俺は殺してない)
梅二は体から力が抜けていくような絶望を感じた。
「お~い」
遠くの方から誰かの声がする。
梅二の胸ぐらをつかんだままの男が
「お、ようやく消防が来たか?」
と、そちらに意識が言ったせいか力が緩んだ。梅二はその隙に、男の手を払うと一目散に逃げた。
「あっこのやろう!逃げたぞ!」
梅二は必死で逃げた。後ろの方からは、男達の怒号が聞こえてくる。
何処に逃げても、燃え盛る炎が梅二を照らしているように感じ足に力が入らなくなる。
「くそっ!くそっ!」
必死で踏ん張り走る。
「俺じゃない!俺じゃない!」
息が苦しくなってきた。
「待てこらぁ~!」
「逃がすな!」
声が近くなったような気がする。
「畜生!俺じゃない!」
力を振り絞り、足に力を込め走る。息が苦しい。吸っても吸っても体の中に酸素が入ってこないようだ。
「捕まえた!」
とうとう梅二は男達に捕まってしまった。
道の上で男に羽交い絞めにされた梅二は、暴れに暴れた。
「俺じゃない!信じてくれ!」
「うるさい!あの時の恨みで火をつけたに決まってらぁ!」
そう言うと男は、梅二の腕を後ろに組み縄でグルグルに縛ってしまった。
「ったく。警察に突き出してやる。ちっ大変なことしでかしやがって。どうせお前と一緒に来た女もろくな女じゃなかったんだろうな。今考えればあのろくでなしの佐一郎とお似合いだったのかもしれねぇ」
「姉ちゃんの事を悪く言うな!姉ちゃんは関係ない!」
「同じだよ。いいからさっさと歩け!」
梅二に括りつけた縄を男は力強く引っ張る。
梅二は悔しくて狂いそうだった。身に覚えのない事を自分のせいにされ挙句においちの事を悪く言われた。
梅二は、縄を持つ男の後ろ姿を激しい憎悪で睨みつけた。
「おい!犯人はこいつだ!」
男達は、消防団を呼びに行った男の前に梅二を乱暴に放り投げながら言った。
「おい。それよりも大変だぞ!消防団の家に行ったがみんな殺されてるんだ!」
消防団は、村の若い男達で構成されている。
「なんだって!こいつ、何てこと・・・あっちの家のみんなもこいつに殺されたんだぞ」
「だから、俺じゃない!」
「鬼じゃ。この男は鬼じゃ」
医者は、梅二を恐ろしげな眼で見下ろしながらそう繰り返し言う。
「信じてくれ!本当に俺じゃないんだ!」
「ちっ、そこの木に縛り付けておけ!後で俺が警察に突き出してやる!」
梅二は、道端にある木に縄でグルグルに縛り付けられてしまった。
「おい。中に人はいるのか?」
「それが分からねぇんだよ。確認したくてもこの火だろ。とてもじゃないが近寄れない」
「いないんじゃないか?さっきから声を掛けてるが返事はないし」
「馬鹿!気を失ってるかもしれないだろ?」
男三人は、燃え盛る家の前でなすすべもなくただ言い合うだけで精一杯だった。
「畜生。畜生。誰がこんな事・・・あ」
着に縛り付けられ身動きが取れない梅二はその時思い出した。
あの山で会った顔の黒いもう一人の梅二が言った事を。
(佐一郎がしでかした事が直わかるだろう。・・・「決まり事」と言うのは守らないと駄目なんだ)
これって、佐一郎兄ちゃんがやったのか?他にもアイツは言っていた。
(母親の復讐の一念が自分に憑いていたんだからな。そして、図らずもその通りに自分は動いた)
間違いない。これは全部佐一郎兄ちゃんがやった事だ。
そう確信した梅二は、男達に向かって
「おい!これは全部佐一郎がやった事だ!アイツの本当の母親はこの村の住人を恨んで死んでいった。その意思を佐一郎が引き継ぎこんな事をしでかしたんだ!」
梅二は必死になって訴える。
その梅二の声が聞こえたのか、男達は梅二の側に来ると
「なんだって?あの佐一郎が?」
「適当言ってるな。人のせいにしやがって」
「いや。あの佐一郎ならやりかねないんじゃないか?」
「そうだな。最近金がないとか山岸の大旦那に対して不満をよく言ってたらしいし」
「だからって、火を付けたり人を殺したりするか?」
男達は口々に話し出した。
「佐一郎?もしかして・・狭山村の西側に住む男の事か?」
医者が、眼を向きながらこちらに寄って来る。
「ああそうだ。捨て子のくせに逆玉になれたってのに、クズな男だ」
男は顔を曇らせ言った。
「そうか・・あんた。今、佐一郎の母親がこの村の住人を恨んで死んだって言ったな。それは誰に聞いたんじゃ?」
「誰って・・・風の噂で」
流石に、もう一人の自分に聞いたなんてことは信じてもらえないので梅二は咄嗟に嘘をついた。
「上手く隠したつもりだったのだが・・やはり、人の口には戸は立てられんか」
「何だよ爺さん。どう言う事だ?こいつが言ってるのが本当だとでもいうのかよ」
「ああ。こんな事態だ。正直に言おう。佐一郎は、山岸家の大旦那の息子なんじゃよ。ゆきさんと腹違いの兄妹という事になる」
「何だってぇ!」
三人の男達は声をそろえて驚いた。
遠目からでもわかる大きなお屋敷が炎に包まれている。武井村一体を明るく照らすぐらいの大きな炎は、こちらにも熱気が伝わってきそうだった。
「何で火が出たんだ・・まさか、これも父ちゃんが?」
しかし、あの父親がここまでの事をするだろうか。おいちの事や、梅二が行った赤子の交換に対して自分を責め、また親としての責任も感じていた人だ。
「違う。父ちゃんじゃない。じゃあ誰が」
呆然と立ち尽くし、燃え盛る炎を山の麓で見ていた梅二は誰かの騒ぐ声を聞いたような気がした。
何処から声が聞こえたのかと探して見ると、燃えている家の前で何人かの人が騒いでいる様だ。赤い炎を前に黒いシルエットが右往左往しているのが見える。
梅二は、その大人達の元へ走って行った。
「大変だ~!」
「消防団を呼べ!」
「中に人はいるのか!」
近付いていくと、三人の男衆と初老の老人がいるのが分かった。
この初老の老人については、梅二は見たことがあった。医者である。あめがお腹が痛いと騒いだ時に町の方から来てもらった事があったので覚えていた。温和な優しい先生だ。
恐らく、ゆきの父親がゆきを診てもらうため男衆に医者を連れてくるようにと行かせたのが戻って来たのだろう。
その医者も、炎の灯りを全身に受け驚きうろたえている。
男達は中に入ろうとするが、入れるのは庭先まで。燃え盛る炎に阻まれ家の中には入れそうにない。
「くそ!どうしたらいいんだ」
「消防は呼んだのか!」
「あいつが今呼びに行っている!それより、水!村のみんな起こして火を消せ!」
「わかった!」
二人の男は近くの民家に飛び込んで行ったが、その途端
「うわ~っ!」
と、二人の叫び声が聞こえてきた。
二人が入った民家へと走り中を覗いた梅二は愕然とする。
「ここもか・・・」
中には、その家の住人が布団の上で血まみれになり息絶えていた。その隣では、さっき入って行った男が腰を抜かしている。もう一人の男は土間に立ち、口を手で押さえていたが、堪えきれなくなったのか外に飛び出しその場で吐き出した。
「お前・・・」
腰を抜かしていた男は、玄関前に立って覗いている梅二に気が付くとフラフラと立ち上がり近寄るとぐいっと胸ぐらをつかみ
「お前が殺したんだな!」
と怒鳴る。
「えっ?俺じゃない!」
「あっコイツ見たことあるぞ。ゆきさんの祝言の時に富木村から来てた女と一緒にいた奴だ!」
もう一人の男が梅二を指さしながら叫ぶ。
「なにぃ!って事は、その時の恨みを晴らすために家に火をつけて、こんな関係ない人まで殺したんだな!ひでぇ奴だ!」
「違う!俺じゃない!」
「おい!こいつ縛って置け!後で警察に突き出してやる!」
(何てことだ・・・確かにゆきの子供は殺したが家に火は点けてない。この家の人達も俺は殺してない)
梅二は体から力が抜けていくような絶望を感じた。
「お~い」
遠くの方から誰かの声がする。
梅二の胸ぐらをつかんだままの男が
「お、ようやく消防が来たか?」
と、そちらに意識が言ったせいか力が緩んだ。梅二はその隙に、男の手を払うと一目散に逃げた。
「あっこのやろう!逃げたぞ!」
梅二は必死で逃げた。後ろの方からは、男達の怒号が聞こえてくる。
何処に逃げても、燃え盛る炎が梅二を照らしているように感じ足に力が入らなくなる。
「くそっ!くそっ!」
必死で踏ん張り走る。
「俺じゃない!俺じゃない!」
息が苦しくなってきた。
「待てこらぁ~!」
「逃がすな!」
声が近くなったような気がする。
「畜生!俺じゃない!」
力を振り絞り、足に力を込め走る。息が苦しい。吸っても吸っても体の中に酸素が入ってこないようだ。
「捕まえた!」
とうとう梅二は男達に捕まってしまった。
道の上で男に羽交い絞めにされた梅二は、暴れに暴れた。
「俺じゃない!信じてくれ!」
「うるさい!あの時の恨みで火をつけたに決まってらぁ!」
そう言うと男は、梅二の腕を後ろに組み縄でグルグルに縛ってしまった。
「ったく。警察に突き出してやる。ちっ大変なことしでかしやがって。どうせお前と一緒に来た女もろくな女じゃなかったんだろうな。今考えればあのろくでなしの佐一郎とお似合いだったのかもしれねぇ」
「姉ちゃんの事を悪く言うな!姉ちゃんは関係ない!」
「同じだよ。いいからさっさと歩け!」
梅二に括りつけた縄を男は力強く引っ張る。
梅二は悔しくて狂いそうだった。身に覚えのない事を自分のせいにされ挙句においちの事を悪く言われた。
梅二は、縄を持つ男の後ろ姿を激しい憎悪で睨みつけた。
「おい!犯人はこいつだ!」
男達は、消防団を呼びに行った男の前に梅二を乱暴に放り投げながら言った。
「おい。それよりも大変だぞ!消防団の家に行ったがみんな殺されてるんだ!」
消防団は、村の若い男達で構成されている。
「なんだって!こいつ、何てこと・・・あっちの家のみんなもこいつに殺されたんだぞ」
「だから、俺じゃない!」
「鬼じゃ。この男は鬼じゃ」
医者は、梅二を恐ろしげな眼で見下ろしながらそう繰り返し言う。
「信じてくれ!本当に俺じゃないんだ!」
「ちっ、そこの木に縛り付けておけ!後で俺が警察に突き出してやる!」
梅二は、道端にある木に縄でグルグルに縛り付けられてしまった。
「おい。中に人はいるのか?」
「それが分からねぇんだよ。確認したくてもこの火だろ。とてもじゃないが近寄れない」
「いないんじゃないか?さっきから声を掛けてるが返事はないし」
「馬鹿!気を失ってるかもしれないだろ?」
男三人は、燃え盛る家の前でなすすべもなくただ言い合うだけで精一杯だった。
「畜生。畜生。誰がこんな事・・・あ」
着に縛り付けられ身動きが取れない梅二はその時思い出した。
あの山で会った顔の黒いもう一人の梅二が言った事を。
(佐一郎がしでかした事が直わかるだろう。・・・「決まり事」と言うのは守らないと駄目なんだ)
これって、佐一郎兄ちゃんがやったのか?他にもアイツは言っていた。
(母親の復讐の一念が自分に憑いていたんだからな。そして、図らずもその通りに自分は動いた)
間違いない。これは全部佐一郎兄ちゃんがやった事だ。
そう確信した梅二は、男達に向かって
「おい!これは全部佐一郎がやった事だ!アイツの本当の母親はこの村の住人を恨んで死んでいった。その意思を佐一郎が引き継ぎこんな事をしでかしたんだ!」
梅二は必死になって訴える。
その梅二の声が聞こえたのか、男達は梅二の側に来ると
「なんだって?あの佐一郎が?」
「適当言ってるな。人のせいにしやがって」
「いや。あの佐一郎ならやりかねないんじゃないか?」
「そうだな。最近金がないとか山岸の大旦那に対して不満をよく言ってたらしいし」
「だからって、火を付けたり人を殺したりするか?」
男達は口々に話し出した。
「佐一郎?もしかして・・狭山村の西側に住む男の事か?」
医者が、眼を向きながらこちらに寄って来る。
「ああそうだ。捨て子のくせに逆玉になれたってのに、クズな男だ」
男は顔を曇らせ言った。
「そうか・・あんた。今、佐一郎の母親がこの村の住人を恨んで死んだって言ったな。それは誰に聞いたんじゃ?」
「誰って・・・風の噂で」
流石に、もう一人の自分に聞いたなんてことは信じてもらえないので梅二は咄嗟に嘘をついた。
「上手く隠したつもりだったのだが・・やはり、人の口には戸は立てられんか」
「何だよ爺さん。どう言う事だ?こいつが言ってるのが本当だとでもいうのかよ」
「ああ。こんな事態だ。正直に言おう。佐一郎は、山岸家の大旦那の息子なんじゃよ。ゆきさんと腹違いの兄妹という事になる」
「何だってぇ!」
三人の男達は声をそろえて驚いた。
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