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佐一郎の生い立ち
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「あの山岸の大旦那も今でこそこの武井村の長を務めるほどになったが、若い頃は女遊びが酷いもんじゃった。山岸家に婿入りした後も、女中に手を出したりして当時の大旦那にこっぴどく叱られていた」
「本当かい?それじゃあ佐一郎と変わらないじゃねぇか」
「ふむ。その当時、女中として働いていたのが佐一郎の産みの親、ちよだった。ちよは、いいなずけがいたのだが家が貧しく山岸家に奉公に来ていた。とても綺麗な目をした女でな。美しかった。そんな女を大旦那がほっとくわけがない・・・そして佐一郎が産まれた。同じ時期に妻もゆきを産んだんだ。佐一郎の方は、お産婆ではなくわしが取り上げたんだよ。あの時・・お産をしている時のちよは今でも目に焼き付いている。家の中で産ませてなんか貰えず、馬小屋の隅の方でお産が始まり佐一郎を産んだ・・・」
医者は、泣いているような苦しんでいるような表情になり
「ちよはずっと「憎い、憎い、憎い」そう言いながら産んだんだ。わしは恐ろしささえ感じた。あの綺麗な目から幾筋もの涙を流しながら、激痛に耐えながら自分の体から出てくる赤ん坊を睨みつけそう繰り返すのじゃ。母親の目ではなかったな。でも、唯一救いだったのはちよの縁談が破談にならなかった事だ。良かったと思ったよ。他の男の子供を連れた女なんて祝言なんぞ挙げられるわけないからな。いいなずけの男の方が許したんだ。それ程ちよを愛していたんだろう」
「じゃあ。何で佐一郎を捨てたんだ?男が自分の子として育てていくと思ったんなら捨てる事はないだろ」
「問題はそこだ。わしは山岸家のかかりつけ医として常に家に出入りしていたから知ったんだが・・・大旦那は、山岸家を去ったちよを呼び出しては関係を結んでいたそうだ。ちよの旦那は我慢の限界に来たんだろうな。怒り狂い、その怒りの矛先を佐一郎に向けた。産まれたばかりの佐一郎は生傷や痣が絶えなかった。ちよ自身、憎い子供の事。放っておいてもよかったのだろうが、やはり母親なんだなぁ。これでは、子供が死んでしまうと思ったちよは、大旦那に再度呼ばれた時、事情を話しその場から逃げたそうだ。怒った大旦那は、山岸家の力を使いちよの家を追い込んでいった。嫌がらせはもちろんの事良からぬ噂を流したり、そりゃあ酷いもんだった。こんな小さな村で、しかも相手は山岸家。みな、山岸家が左を向けと言えば左を向いたんだよ」
「ひでぇな。あの大旦那がそんな事・・」
「でもよ。その佐一郎の生家は狭山村にあったんだろ?そんな家あったかなぁ」
男が腕を組みながら首をかしげる。
「あるわけない。大旦那が火をつけて燃やしてしまったんだから」
「はぁ?じゃあ。佐一郎の両親はどうしたんだい?」
「恐らく、寝ている所にに火をつけたんだろうな。旦那の方は、寝間着姿のまま家からはいずり出て庭に倒れていた。全身酷いやけどをしていてな。助からんかった」
「ちよは?ちよも死んじまったのか?」
「いなかった。家の中にも外にも何処にもいなかった。佐一郎と共に姿をくらましてしまった。だから当初、火をつけたのはちよだ。って村人は噂したんだ」
「ん?じゃあなんで爺さんは大旦那が火をつけたって知ってるんだ?」
「本人の口からきいたんじゃよ。酒の席で、機嫌よくわしに話していたわ。恐ろしい男よ。しかし、一つ気になる事があってな。ちよの旦那の事なんだが。ちよの家から日が出た時、丁度わしは山岸家の方にいたんだが、駆け付けて見ると旦那の髪の毛がほとんどなかったんだよ」
「髪の毛が?なんでまた」
「分からん。火事の際燃えてしまったのかとも思ったが、そうしたら頭皮も火傷してていいはずが頭の方は火傷一つなかったんだ。あれは不思議じゃったな」
そこまで医者が話をした時
がらがらがらがら
と大きな音をたてて、山岸家の家の半分が崩れ落ちていく。
「あ~もうこりゃ駄目だ」
「それよか。警察呼ばなくちゃいけないだろ」
「あ、そうだそうだ。こいつを警察に渡さなくちゃ!」
二人の男がそう言いながら慌て出したが、もう一人の男は梅二の事をジッと見ながら何やら考えている。
「おい、どうした?何考えこんでるんだよ」
それに気が付いた男が声を掛けた。
「ん・・・」
梅二は、自分を見ている男が何を考えて自分を見ているのか分からなかったが強い視線で見返した。
「犯人は、こいつじゃないかもな」
「は?」
「何言ってんだよ。こいつには山岸の家を恨む理由があるんだぜ?こいつが火をつけたに決まってる!」
二人の男は驚きながら言った。
「確かに、こいつには山岸の家を恨む理由もある。他の村の人達を殺す理由もな。あの祝言の時村人達の投票があったんだから。でもな・・・俺はこいつじゃなく、あの佐一郎がやった事だと思う」
「何でそう言えるんだよ。第一、佐一郎自身自分の生い立ちを詳しく知ってたのか?知ってたら山岸家に婿入りしないだろ。自分の産みの親を殺した家になんか。ましてやゆきさんは自分の妹なんだぞ?」
「佐一郎は知らなかった。もしかしたら、小さく頭の片隅に記憶が残っていたかもしれんがあの佐一郎の様子からじゃあ知っていたとは思えない。恐らく・・・・呪詛だ」
「は?じゅそ?なんだそりゃ」
「俺、小さい頃祖母ちゃんから聞いた事がある。人を呪う時の方法はいくらでもあるが、その中の一つに自分の命と引き換えに人の体にその呪詛を入れ呪いたい相手を入れられた人が不幸にするという呪詛があるんだ」
「なんだいそれ。自分の代わりにって事かい?」
「そう。その時に必要なのが同じ恨みを持つ人の髪の毛と自分の髪の毛だ。そしてそれぞれの命。でも、現実にはそんなものを用意することなど出来るわけない。だから、最大の呪詛として言い伝えられている。知っている人は少ないらしいがな。俺、それ聞いた時眠れなかったよ。怖くて」
「なるほど。わしが見た時ちよの旦那の髪の毛が殆どなかったのは、ちよが持って行ったんじゃな。旦那は虫の息。他の場所でその呪詛を佐一郎に入れたのかもしれん」
「そんな事ってあるのか?第一、呪詛なんて信じられるかよ」
「そりゃあ俺だって信じられないが・・・落ち着いて考えてみろ。こいつはさっき全部佐一郎がやった事だと言った。それに本当の母親の意思を佐一郎が引き継ぎこんな事をしでかしたとも言った・・・お前、本当にソレ誰に聞いたんだ?風の噂なんかじゃないだろ」
突然梅二に聞いてきた。
「それは・・・」
梅二は、正直に話したかったがこの男達が信じてくれるか分からない。梅二が悩んでいると
「俺が教えたんだ」
突然、梅二が括りつけられている木の裏から誰かが出てきた。
「誰だ!」
未だ火が衰えず燃え続けている山岸家の炎を受けながら出てきた奴は、真っ黒な顔の真ん中に大きな笑う口だけを持った人だった。
「な、な、な、何だこいつ!」
「うわぁ~!」
「南無阿弥陀仏・・南無阿弥陀仏」
二人の男は腰を抜かし、初老の医者は座り込み拝みだした。
唯一、梅二が犯人ではないと言った男だけは驚いてはいたがじっとその口だけの顔を見据えていた。
「俺が教えたんだよ。あのフクロウの山でな」
ソレを聞いた男は、サッと顔を青くした。
「ん?何お前。顔色が変わったという事は知ってるのか?」
もう一人の梅二は大きな口をニヤリとさせ言った。
「あ・・ああ。祖母ちゃんから聞いた。あの富木村の南西にある山はフクロウの山と言われているって。何でも、その山がある方角は裏鬼門にあたりその山では自分の裏側と出会ってしまうと・・」
「くっくっく。物知りな婆さんだな」
楽しそうにそいつは笑う。
「で、でも何でフクロウの山なんて呼ばれてるんだ?俺、初めて聞いたぞ」
腰を抜かしていた男が、見上げながら聞いた。
「本当かい?それじゃあ佐一郎と変わらないじゃねぇか」
「ふむ。その当時、女中として働いていたのが佐一郎の産みの親、ちよだった。ちよは、いいなずけがいたのだが家が貧しく山岸家に奉公に来ていた。とても綺麗な目をした女でな。美しかった。そんな女を大旦那がほっとくわけがない・・・そして佐一郎が産まれた。同じ時期に妻もゆきを産んだんだ。佐一郎の方は、お産婆ではなくわしが取り上げたんだよ。あの時・・お産をしている時のちよは今でも目に焼き付いている。家の中で産ませてなんか貰えず、馬小屋の隅の方でお産が始まり佐一郎を産んだ・・・」
医者は、泣いているような苦しんでいるような表情になり
「ちよはずっと「憎い、憎い、憎い」そう言いながら産んだんだ。わしは恐ろしささえ感じた。あの綺麗な目から幾筋もの涙を流しながら、激痛に耐えながら自分の体から出てくる赤ん坊を睨みつけそう繰り返すのじゃ。母親の目ではなかったな。でも、唯一救いだったのはちよの縁談が破談にならなかった事だ。良かったと思ったよ。他の男の子供を連れた女なんて祝言なんぞ挙げられるわけないからな。いいなずけの男の方が許したんだ。それ程ちよを愛していたんだろう」
「じゃあ。何で佐一郎を捨てたんだ?男が自分の子として育てていくと思ったんなら捨てる事はないだろ」
「問題はそこだ。わしは山岸家のかかりつけ医として常に家に出入りしていたから知ったんだが・・・大旦那は、山岸家を去ったちよを呼び出しては関係を結んでいたそうだ。ちよの旦那は我慢の限界に来たんだろうな。怒り狂い、その怒りの矛先を佐一郎に向けた。産まれたばかりの佐一郎は生傷や痣が絶えなかった。ちよ自身、憎い子供の事。放っておいてもよかったのだろうが、やはり母親なんだなぁ。これでは、子供が死んでしまうと思ったちよは、大旦那に再度呼ばれた時、事情を話しその場から逃げたそうだ。怒った大旦那は、山岸家の力を使いちよの家を追い込んでいった。嫌がらせはもちろんの事良からぬ噂を流したり、そりゃあ酷いもんだった。こんな小さな村で、しかも相手は山岸家。みな、山岸家が左を向けと言えば左を向いたんだよ」
「ひでぇな。あの大旦那がそんな事・・」
「でもよ。その佐一郎の生家は狭山村にあったんだろ?そんな家あったかなぁ」
男が腕を組みながら首をかしげる。
「あるわけない。大旦那が火をつけて燃やしてしまったんだから」
「はぁ?じゃあ。佐一郎の両親はどうしたんだい?」
「恐らく、寝ている所にに火をつけたんだろうな。旦那の方は、寝間着姿のまま家からはいずり出て庭に倒れていた。全身酷いやけどをしていてな。助からんかった」
「ちよは?ちよも死んじまったのか?」
「いなかった。家の中にも外にも何処にもいなかった。佐一郎と共に姿をくらましてしまった。だから当初、火をつけたのはちよだ。って村人は噂したんだ」
「ん?じゃあなんで爺さんは大旦那が火をつけたって知ってるんだ?」
「本人の口からきいたんじゃよ。酒の席で、機嫌よくわしに話していたわ。恐ろしい男よ。しかし、一つ気になる事があってな。ちよの旦那の事なんだが。ちよの家から日が出た時、丁度わしは山岸家の方にいたんだが、駆け付けて見ると旦那の髪の毛がほとんどなかったんだよ」
「髪の毛が?なんでまた」
「分からん。火事の際燃えてしまったのかとも思ったが、そうしたら頭皮も火傷してていいはずが頭の方は火傷一つなかったんだ。あれは不思議じゃったな」
そこまで医者が話をした時
がらがらがらがら
と大きな音をたてて、山岸家の家の半分が崩れ落ちていく。
「あ~もうこりゃ駄目だ」
「それよか。警察呼ばなくちゃいけないだろ」
「あ、そうだそうだ。こいつを警察に渡さなくちゃ!」
二人の男がそう言いながら慌て出したが、もう一人の男は梅二の事をジッと見ながら何やら考えている。
「おい、どうした?何考えこんでるんだよ」
それに気が付いた男が声を掛けた。
「ん・・・」
梅二は、自分を見ている男が何を考えて自分を見ているのか分からなかったが強い視線で見返した。
「犯人は、こいつじゃないかもな」
「は?」
「何言ってんだよ。こいつには山岸の家を恨む理由があるんだぜ?こいつが火をつけたに決まってる!」
二人の男は驚きながら言った。
「確かに、こいつには山岸の家を恨む理由もある。他の村の人達を殺す理由もな。あの祝言の時村人達の投票があったんだから。でもな・・・俺はこいつじゃなく、あの佐一郎がやった事だと思う」
「何でそう言えるんだよ。第一、佐一郎自身自分の生い立ちを詳しく知ってたのか?知ってたら山岸家に婿入りしないだろ。自分の産みの親を殺した家になんか。ましてやゆきさんは自分の妹なんだぞ?」
「佐一郎は知らなかった。もしかしたら、小さく頭の片隅に記憶が残っていたかもしれんがあの佐一郎の様子からじゃあ知っていたとは思えない。恐らく・・・・呪詛だ」
「は?じゅそ?なんだそりゃ」
「俺、小さい頃祖母ちゃんから聞いた事がある。人を呪う時の方法はいくらでもあるが、その中の一つに自分の命と引き換えに人の体にその呪詛を入れ呪いたい相手を入れられた人が不幸にするという呪詛があるんだ」
「なんだいそれ。自分の代わりにって事かい?」
「そう。その時に必要なのが同じ恨みを持つ人の髪の毛と自分の髪の毛だ。そしてそれぞれの命。でも、現実にはそんなものを用意することなど出来るわけない。だから、最大の呪詛として言い伝えられている。知っている人は少ないらしいがな。俺、それ聞いた時眠れなかったよ。怖くて」
「なるほど。わしが見た時ちよの旦那の髪の毛が殆どなかったのは、ちよが持って行ったんじゃな。旦那は虫の息。他の場所でその呪詛を佐一郎に入れたのかもしれん」
「そんな事ってあるのか?第一、呪詛なんて信じられるかよ」
「そりゃあ俺だって信じられないが・・・落ち着いて考えてみろ。こいつはさっき全部佐一郎がやった事だと言った。それに本当の母親の意思を佐一郎が引き継ぎこんな事をしでかしたとも言った・・・お前、本当にソレ誰に聞いたんだ?風の噂なんかじゃないだろ」
突然梅二に聞いてきた。
「それは・・・」
梅二は、正直に話したかったがこの男達が信じてくれるか分からない。梅二が悩んでいると
「俺が教えたんだ」
突然、梅二が括りつけられている木の裏から誰かが出てきた。
「誰だ!」
未だ火が衰えず燃え続けている山岸家の炎を受けながら出てきた奴は、真っ黒な顔の真ん中に大きな笑う口だけを持った人だった。
「な、な、な、何だこいつ!」
「うわぁ~!」
「南無阿弥陀仏・・南無阿弥陀仏」
二人の男は腰を抜かし、初老の医者は座り込み拝みだした。
唯一、梅二が犯人ではないと言った男だけは驚いてはいたがじっとその口だけの顔を見据えていた。
「俺が教えたんだよ。あのフクロウの山でな」
ソレを聞いた男は、サッと顔を青くした。
「ん?何お前。顔色が変わったという事は知ってるのか?」
もう一人の梅二は大きな口をニヤリとさせ言った。
「あ・・ああ。祖母ちゃんから聞いた。あの富木村の南西にある山はフクロウの山と言われているって。何でも、その山がある方角は裏鬼門にあたりその山では自分の裏側と出会ってしまうと・・」
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