輪(りん)

玉城真紀

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始まり(壱)

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「こちらでございます」

母親達を案内して来た女中は、母屋から離れた小屋の前で止まり振り返りながら言った。

「え?ここ?」

驚いた。
家の庭先にこの小屋がある事は知ってはいたが、物置小屋か何かだろうと思っていたので一度もそこに入った事はなかった。
母親はチラリと双子を見る。お面を被っているので表情は分からないが余り動揺などはしていなさそうだ。女中は引き戸を開けもせずこちらを向いて黙って立っているので、仕方なく夫がゆっくりと引き戸を開ける。開いた瞬間、中からかび臭い匂いがプンと漂ってきた。
顔を歪ませながら引き戸を全開にし中を覗く。窓がついていないので小屋の中は真っ暗だ。

「灯りがないと・・・・・・」

夫はそうつぶやくと、その言葉を聞いた女中は、顔色一つ変えず

「お待ちください」

と言い灯りを取りに行った。


女中が、灯りを持ってくる間に母親は夫の方を見て

「あなた。まさかここでこの子達は生活するんですか?こんなかび臭い所で」

母親は怒りと不安。
そして懇願するように言った。夫は何かに耐えているかのような表情をしていたが、すぐに真顔になり

「仕方がない。お面が取れるまでの辛抱だ」

と言い放った。

「くっ」

悔しくてしょうがなかった。
何故、双子に産まれたというだけでこんな仕打ちを受けなくてはいけないのか。災いが来る?そんなものが来るものか。ここの村の人達はおかしいのだ。

母親は夫に対し暴言と共にまくしたてたかったが我慢した。そんな事を言ってしまったら、一番みじめになるのは子供達ではないかと思ったからだ。

「お待たせいたしました」

女中が蝋燭の箱とマッチ、燭台を手に戻ってきた。
母親はそれを受け取り、燭台に蝋燭を取り付け火をつける。それを手に恐る恐る小屋の中に入った途端、驚きの余り動けなかった。

蝋燭の灯りで照らし出された小屋の中は、縦に長く奥行きがある。小さな土間を上がると板の間が奥まで続いており、一番奥まで蝋燭の灯りは届かず闇に染まっている。

奥の方にはこの部屋に似つかわしくない木で出来た格子が見えた。所々腐食したその格子を見た時、自分は何か幻覚でも見ているのではないかと疑うほどに、それは異様に見えた。

「では、失礼します」

感情のない女中の挨拶が後ろで聞こえる。その言葉でようやく体が動くようになった母親は振り返り

「な・・・・・・何・・・何ですか?これは・・・・・・」

女中に聞いたつもりだったが女中ははとっくにいなくなっていた。
母親の言葉は夫に向けられる。夫も驚いた表情はしていたが

「仕方がない」

と言い、いたたまれなくなったのか踵を返し双子に声を掛けることなく行ってしまった。
余りの事に受け入れることが出来ず呆然としている母親の近くに、ゆっくりとチヨが寄ってきた。
「お母さん。私達は大丈夫よ。だからそんなに泣かないで」

チヨが言う。

その言葉で、母親は自分の目から滝のように流れ落ちる涙にようやく気がついた。その瞬間、双子を抱きしめた母親は大声で泣きだした。自分達を強く抱きしめながら泣く母親に双子は静かに体を預けている。
どの位経っただろう。双子の着物がしっとり濡れてきた頃ようやく母親は泣き止んだ。

「・・・・・・ごめんね。こんなに泣いちゃって。泣きたいのはあなた達の方なのに」

鼻をグズグズさせ言うと

「フフ。お母さん凄いお顔よ」
「フフ。本当だ」

双子の声は明るかった。少しだけホッとすると同時に二人を不憫に感じた。

「チヨ。ハル。大丈夫。きっと大丈夫。そんな忌まわしい面はすぐに取れてしまうわ。そうすれば家の者達だって今度は手のひらを返したように態度を変えるでしょう。でも、絶対に忘れてはいけません。こんな仕打ちを受けた事を・・・・・・ね?分かった?」

母親の表情は二人を想う優しさの中に、何か決意をしたかのような固いものも含まれていた。二人は母親の言葉を聞くと、コクリと頷く。

「フフ。いい子ね。こんないい子たち見た事ないわ」

そう言い、小屋の引き戸を閉め、蝋燭の灯りだけの暗い部屋の中で母親は時間の許す限り双子たちと一緒にいた。
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