文字の大きさ
大
中
小
75 / 128
7章
7-7
*
翌朝、早めに寮を出て、ヘンリーに案内してもらう。
寮から校舎までの道。
校舎の構造。
教室までの行き方。
ひとつひとつ丁寧に教えてもらいながら、人の少ない庭を抜けて教室へ向かう。
「本当に、昨日からずっとありがとう、ヘンリー」
そう言って微笑むと、ヘンリーは迷いなく笑った。
「好きでやってるだけだ。……少しでもソフォラと一緒にいたいからな」
そのまま周囲を確認してから、手を引かれる。
連れていかれたのは木陰。
「っ……」
抱きしめられて、額に口づける。
「午前、頑張れるように」
満足そうに笑うヘンリーに、ソフォラは頬を染めて小さく笑う。
(……本当に、変だ)
でも――嫌じゃない。
それが一番、困る。
教室の前まで送られ、扉の前で立ち止まる。
中を見渡そうとした、その瞬間――
「ソフォラ」
名前を呼ばれ、手を引かれる。
バランスを崩し、そのままヘンリーの胸へ倒れ込んだ。
「危ないでしょ、どうしたのヘンリー?」
顔を上げた瞬間、顎を取られ――
頬に、口づけされた。
「――っ!?」
教室の中から、悲鳴に近い黄色い声が上がる。
「昼休み、迎えに来る。待っててくれ」
それだけ言って、満足したように去っていく背中。
取り残されたソフォラは、しばらく固まったままだった。
(……何これ)
(ほんとに、何これ……)
熱を持つ頬を押さえながら、ふらふらと自席へ向かう。
(話が違いすぎる……)
準備をしようとカバンに手を伸ばした、その時。
机に影が落ちる。
顔を上げると、ドラセナが立っていた。
「あ、あの……っ」
言葉に詰まりながらも、意を決したように頭を下げる。
「昨日は、すみませんでした!」
教室の空気が、一瞬でこちらに集まる。
ふと思ってしまった。
(……今なら、戻せる)
本来ならできなかった――ここで怒れば。
突き放して、拒絶して。
そうやって物語は進むはずだ。
口を開く。
けれど。
目の前のドラセナの肩が、わずかに震えているのが見えた。
(……怖いよね)
闇属性。
それだけで距離を取られても、おかしくないのに。
それでも、こうして皆の前で謝りに来てくれた。
――自分に非がある時、人は言い訳や人のせいにする。
ソフォラは今まで何度も見てきた。
「これはあなたが言ってたから」
「先輩がこれって言ったんじゃないですか」
「お、俺は聞いてないからな」
何度も聞いてきた言葉。
素直に謝れない人たち。
現代でも、今世でも。
(……難しいよね)
素直に謝ることは。
だからこそ。
(この人は、すごい)
皆の前で、ちゃんと頭を下げている。
逃げずに、ここに立っている。
それが、嬉しかった。
「顔を上げてください」
自然と声が出る。
ドラセナが顔を上げた。
その瞬間、
ほんの一瞬だけ、目が見開かれる。
「え……」
予想していなかったような、そんな顔。
でもソフォラは気にせず、続ける。
「名乗るのが遅くなってごめんなさい。ソフォラ・ウァーマスです」
微笑む。
「昨日は僕も周りが見えていませんでした。こちらこそごめんなさい」
少しだけ間を置いて、
「……謝りに来てくれて、ありがとうございます」
そう伝えると。
ドラセナの表情が、わずかに揺れた。
「あ、いや……その……」
一瞬だけ言葉が崩れる。
けれどすぐに整えて、
「……いえ」
小さく息を整える。
(やっぱり、ちゃんとした子だ)
「怒っていませんよ。それに、教室まで案内してくれて助かりました」
そう言うと、
また少しだけ驚いたような顔をされた。
(あれ?そんなに変かな)
小さく首を傾げる。
「お名前を伺ってもいいですか?」
その問いに、
ほんの一瞬だけ、視線が鋭くなる。
けれどすぐに、
「……ドラセナ・アステライトです」
柔らかい笑顔に戻る。
(うん、やっぱり優しそう)
「ドラセナさん、ですね。これからよろしくお願いします」
手を差し出す。
一瞬、間があった。
ほんの一瞬。
でも確かに――迷いを感じた。
(やっぱり、怖いよね。闇属性だし)
そう思って引こうとした、その時。
ぎゅっと、手を握り返される。
思ったよりも強い力。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
その声は、さっきよりもはっきりしていた。
(……なんて優しい人なんだろう)
闇属性なのに、ちゃんと握り返してくれた。
怖がっているのに、それでも逃げずに来てくれた。
(怖いはずなのに、ちゃんと来てくれた)
(いい子だな)
そう思った瞬間。
思わず、ふっと笑みがこぼれる。
「ふふ……はい」
その時――
ドラセナの表情が、一瞬だけ崩れた。
けれど――
どこか、射るような、まっすぐで、逃がさないような視線。
(……あれ?)
視線が、絡む。
さっきまでの“作られた柔らかさ”とは違う。
まっすぐで、
少しだけ強引な――
そんな目。
(……なんだろう、この感じ)
違和感。
けれど、それも一瞬で。
すぐにいつもの愛らしい笑顔に戻る。
一瞬だけ違和感。
(気のせいかな)
深く考えることもなく、
ソフォラはそのまま手を離した。
(やっぱり、いい人だ)
――そう思ったまま、違和感はそのまま流れていった。
翌朝、早めに寮を出て、ヘンリーに案内してもらう。
寮から校舎までの道。
校舎の構造。
教室までの行き方。
ひとつひとつ丁寧に教えてもらいながら、人の少ない庭を抜けて教室へ向かう。
「本当に、昨日からずっとありがとう、ヘンリー」
そう言って微笑むと、ヘンリーは迷いなく笑った。
「好きでやってるだけだ。……少しでもソフォラと一緒にいたいからな」
そのまま周囲を確認してから、手を引かれる。
連れていかれたのは木陰。
「っ……」
抱きしめられて、額に口づける。
「午前、頑張れるように」
満足そうに笑うヘンリーに、ソフォラは頬を染めて小さく笑う。
(……本当に、変だ)
でも――嫌じゃない。
それが一番、困る。
教室の前まで送られ、扉の前で立ち止まる。
中を見渡そうとした、その瞬間――
「ソフォラ」
名前を呼ばれ、手を引かれる。
バランスを崩し、そのままヘンリーの胸へ倒れ込んだ。
「危ないでしょ、どうしたのヘンリー?」
顔を上げた瞬間、顎を取られ――
頬に、口づけされた。
「――っ!?」
教室の中から、悲鳴に近い黄色い声が上がる。
「昼休み、迎えに来る。待っててくれ」
それだけ言って、満足したように去っていく背中。
取り残されたソフォラは、しばらく固まったままだった。
(……何これ)
(ほんとに、何これ……)
熱を持つ頬を押さえながら、ふらふらと自席へ向かう。
(話が違いすぎる……)
準備をしようとカバンに手を伸ばした、その時。
机に影が落ちる。
顔を上げると、ドラセナが立っていた。
「あ、あの……っ」
言葉に詰まりながらも、意を決したように頭を下げる。
「昨日は、すみませんでした!」
教室の空気が、一瞬でこちらに集まる。
ふと思ってしまった。
(……今なら、戻せる)
本来ならできなかった――ここで怒れば。
突き放して、拒絶して。
そうやって物語は進むはずだ。
口を開く。
けれど。
目の前のドラセナの肩が、わずかに震えているのが見えた。
(……怖いよね)
闇属性。
それだけで距離を取られても、おかしくないのに。
それでも、こうして皆の前で謝りに来てくれた。
――自分に非がある時、人は言い訳や人のせいにする。
ソフォラは今まで何度も見てきた。
「これはあなたが言ってたから」
「先輩がこれって言ったんじゃないですか」
「お、俺は聞いてないからな」
何度も聞いてきた言葉。
素直に謝れない人たち。
現代でも、今世でも。
(……難しいよね)
素直に謝ることは。
だからこそ。
(この人は、すごい)
皆の前で、ちゃんと頭を下げている。
逃げずに、ここに立っている。
それが、嬉しかった。
「顔を上げてください」
自然と声が出る。
ドラセナが顔を上げた。
その瞬間、
ほんの一瞬だけ、目が見開かれる。
「え……」
予想していなかったような、そんな顔。
でもソフォラは気にせず、続ける。
「名乗るのが遅くなってごめんなさい。ソフォラ・ウァーマスです」
微笑む。
「昨日は僕も周りが見えていませんでした。こちらこそごめんなさい」
少しだけ間を置いて、
「……謝りに来てくれて、ありがとうございます」
そう伝えると。
ドラセナの表情が、わずかに揺れた。
「あ、いや……その……」
一瞬だけ言葉が崩れる。
けれどすぐに整えて、
「……いえ」
小さく息を整える。
(やっぱり、ちゃんとした子だ)
「怒っていませんよ。それに、教室まで案内してくれて助かりました」
そう言うと、
また少しだけ驚いたような顔をされた。
(あれ?そんなに変かな)
小さく首を傾げる。
「お名前を伺ってもいいですか?」
その問いに、
ほんの一瞬だけ、視線が鋭くなる。
けれどすぐに、
「……ドラセナ・アステライトです」
柔らかい笑顔に戻る。
(うん、やっぱり優しそう)
「ドラセナさん、ですね。これからよろしくお願いします」
手を差し出す。
一瞬、間があった。
ほんの一瞬。
でも確かに――迷いを感じた。
(やっぱり、怖いよね。闇属性だし)
そう思って引こうとした、その時。
ぎゅっと、手を握り返される。
思ったよりも強い力。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
その声は、さっきよりもはっきりしていた。
(……なんて優しい人なんだろう)
闇属性なのに、ちゃんと握り返してくれた。
怖がっているのに、それでも逃げずに来てくれた。
(怖いはずなのに、ちゃんと来てくれた)
(いい子だな)
そう思った瞬間。
思わず、ふっと笑みがこぼれる。
「ふふ……はい」
その時――
ドラセナの表情が、一瞬だけ崩れた。
けれど――
どこか、射るような、まっすぐで、逃がさないような視線。
(……あれ?)
視線が、絡む。
さっきまでの“作られた柔らかさ”とは違う。
まっすぐで、
少しだけ強引な――
そんな目。
(……なんだろう、この感じ)
違和感。
けれど、それも一瞬で。
すぐにいつもの愛らしい笑顔に戻る。
一瞬だけ違和感。
(気のせいかな)
深く考えることもなく、
ソフォラはそのまま手を離した。
(やっぱり、いい人だ)
――そう思ったまま、違和感はそのまま流れていった。
感想 6
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
本編完結済です。
もっちもっち感謝祭で、リクエストいただいたお話を更新しています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
皆の動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
表紙や動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
恋愛偏差値ゼロの若きエリート財務官、今世の有能さが過ぎて冷徹王太子と天才魔術師に全力で外堀を埋められています
雪平もち前世は三十代、今世は二十代の若きエリート財務官・シリル。
恋愛偏差値ゼロのまま予算だけを愛してきた彼は、その並外れた有能さゆえに、王宮の超大物たちからロックオンされていた!
胃痛と腰痛に耐えながら、無自覚天然な財務官が、二人の凄まじい執着の狭間で右往左往する、異世界王宮溺愛BLコメディ!
弟の未来と引き換えに、恋人を捨てたはずだった
由香伯爵家長男レオンハルトには、誰にも言えない恋人がいた。
だが父に関係を知られた彼は、弟の恋を守る代償として恋人との別れと政略結婚を選ぶ。
数年後。
王家の養子となった公爵家嫡男として現れたのは、かつて自ら手放した最愛の人エリオットだった。
これは弟のために愛を諦めた男と、捨てられたと思い込んだ男が、失われた恋を取り戻す物語。
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
『断罪予定の悪役令息ですが、冷酷第一王子にだけ求婚されています』
常陸之介寛浩📚️書籍・本能寺から始めるあらすじ
侯爵家の嫡男ルシアンは、ある日、自分が前世で遊んでいたBLゲームの世界に転生していることに気づく。
しかも役どころは、ヒロインに嫉妬して破滅する“断罪予定の悪役令息”だった。
このまま物語通りに進めば、婚約者候補への嫌がらせや数々の悪行を理由に社交界から追放。家は没落し、自身も悲惨な末路を迎える。
そんな未来を回避するため、ルシアンは決意する。
目立たず、騒がず、誰とも深く関わらず、特に本来の攻略対象である第一王子には絶対に近づかない、と。
けれど、なぜか本来は誰にも心を許さず冷酷無慈悲と恐れられている第一王子アルベールが、ルシアンにだけ異様に執着してくる。
人前では冷ややかなまま。
なのに二人きりになると、まるで逃がすつもりなど最初からないと言わんばかりに距離を詰め、甘く、重く、求婚めいた言葉を囁いてくるのだ。
「君がどれほど逃げようとしても、私だけは君を離さない」
断罪を避けたいだけなのに、王子は人前で彼を庇い、社交界では“第一王子の寵愛を受ける悪役令息”という噂まで広がり始める。
さらに、ルシアンを陥れようとする貴族たち、王位争い、侯爵家に隠された事情まで絡み、物語はゲーム本来の筋書きから大きく外れていって――。
これは、破滅するはずだった悪役令息が、冷酷第一王子のただ一人の執着相手になってしまう、
甘くて重くて逃げられない、宮廷逆転溺愛BL。