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◆◇第十章 策略◇◆
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ラグラール皇国に来て、どれほど経っただろうか。それは、間もなく滞在を終えようとするころのことだった。
「住めば都って言うけどさ」
アーシュラは、ぎゅっと背伸びをしながら言った。
「やっぱ、住み慣れたとこがいいよね、そろそろ、マインラードに帰りたくなっちゃった」
大きな肘掛け椅子にぴょんと腰かけ、侍女に手伝わせながら衣装を換えているクレアを見上げてアーシュラは続ける。
「いつだっけ、戻るの」
「明後日には出発することになっているわ」
しばらくの間とはいえ、自分のものとして過ごしたこの部屋は、マインラードの自室と変わらないほどに馴染み深いものになっていた。この部屋の主であるクレアの私物と、ほとんどこの部屋で生活したアーシュラのそれと。それらの荷物が、少しずつ片づけられ始めている。
「殿下も、心配しているだろうね」
もうすれば、久方ぶりに兄に会うことができる。クレアは、ひそかに心躍らせた。それでいても、なかなか会うことのかなわない存在、これだけ長く離れていると、彼への思慕はひそかに高まるばかりだった。
「クレアも元気にやってるって、殿下にすぐ知らせる方法があればいいのにね」
アーシュラは言った。
「手紙だけじゃ、不安なところもあるもんね。せめて、元気な姿だけでも見せられたら」
「本当だわ」
クレアは嘆息した。
「私も心配だもの。お兄様も、みんなも、元気にやっているのかしら」
外出の準備が整い、クレアはアーシュラを促した。
「さ、行きましょ。今日は、ラグラール首府の首知事と会見するお約束よ」
「最初は、そういうのも面白かったけどさぁ」
アーシュラは煩わしげに立ち上がった。
「こういうの、ご公務ってやつ? もう、疲れちゃったよ」
「なにを言うの」
クレアは軽く、それでも微笑みながらアーシュラを睨みつけた。
「アーシュラは私の警護筆頭に当たる魔道師でしょう? お仕事よ」
「わかってるって」
アーシュラはぴょんとクレアのそばに近づいた。
「ちゃんと、クレアは守るわよ」
「お願いするわね」
こうやって、ラグラールでの滞在中は、アーシュラを中心にした魔道師たちが常にクレアのそばに付き添った。軍事や経済的面ではラグラールの方が勝ってはいたが、魔道などの文化的な面ではマインラードの方がはるかに上であることをクレアはこの滞在中に知った。
アーシュラたち魔道師は、ラグラールの魔道師たちに質問攻めにされた。アーシュラはそんなとき、困ったように首をかしげながらこうぼやく。
「参ったな、もっとちゃんと、理論とか勉強しとけばよかった……」
「ラーケンが聞けば、喜ぶわね」
彼女の保護者代わりの魔道師の名を出すと、アーシュラは照れたように笑った。
「あははっ、でも、マインラードに帰ったら忘れちゃうかも」
「まぁ」
いつものように馬車に乗って、いつものようにラグラールの従者たちに先導される。それは、この国に来てから毎日繰り返されてきたことだった。クレアは、警戒もなくそれに従う。
「もうすぐ、お別れですね」
クレアが、いつも手綱を握ってきたラグラールの御者に声をかけると、彼は最近になってやっと身に付けた、愛想笑いを送ってきた。
「あの人、最初はすっごく愛想悪かったもんね」
そのことをアーシュラに言うと、アーシュラは思いだしたかのようにうなずいて言った。
「今になってやっと、愛想ってやつを覚えたのかな」
揺れる馬車の中で、ふたりは笑った。
舗装されている道から来る衝撃は、そう体に辛いものではない。郊外への視察などの折りは体が痛くなるほど馬車に揺られねばならなかったが、今日は、その心配はなかった。
「今日は、がたがたいわないよね」
アーシュラが確認するように言った。
「こないだ、森の方に行ったときはあんまり揺れるんで、気持ち悪くなっちゃったよ」
クレアは笑った。
「そうね、今日は、街中をゆくはずですから、大丈夫だと思うわ」
今日の供は少なかった。毎日、ぞろぞろ魔道師や騎士を連れて歩くのに不便を感じて、クレアがその数を減らさせたのだ。アーシュラを含めて、三人の魔道師が今日の供のすべてだった。
「まぁ、なんのかんのいって、いい国だったんじゃない?」
アーシュラはつぶやいた。
「ここに来る前は、どうなることかと思ったけどさ。慣れればどうってことなかったし」
ここに来るきっかけとなった事件を、ふたりとも忘れているわけではなかった。しかし、長きの滞在の中で受けた歓待は、そのことを徐々に記憶からぬぐい去ってしまっていることも事実だった。
「でも、やっぱ、マインラードが一番いいよね」
がたん、と馬車が大きな揺れを起こした。ふたりはその中で、腰掛けた椅子から転がり落ちそうになって慌てて態勢を立て直した。
「やだ、どうしたんだろう」
馬のいななきが聞こえた。途端、馬車はすさまじい勢いで走り始めたのだ。
「え? え?」
アーシュラが驚いて声を上げる。クレアは立ち上がり、馬車の中から御者に声をかけた。
「いったいどうしたの? 馬車を、止めてちょうだい」
しかし、それにすぐ応えるべきはずの御者は何も言わない。ただ、無言のまま馬に鞭を当てるばかりだった。
「いったい……」
きゃぁ、と悲鳴が上がり、クレアは床に転がった。それをアーシュラが捕まえる。
「どうしたっていうの?」
見れば、クレアの護衛として付いてきた魔道師たちを乗せた馬車はとうに視界の彼方だった。今、クレアとアーシュラを乗せた馬車は、道なき道をひた走っている。
「どうして、ちょっと、止めてよ!」
アーシュラが叫んでもそれに応える者はない。アーシュラはとっさに両手を広げた。
「大地よ、その御手を伸ばし、走りゆくものを包み込め!」
それは、呪文の詠唱だった。アーシュラの言葉は鋭い空気となってあたりに響き渡った。そして、馬車はがたんと大きな音を立てて先程よりも乱暴に揺れたのだ。
「やだっ、効かないの?」
馬車は走り続けるままだった。しかし、先程のアーシュラの呪文で、どうやら馬車の車輪だけが大地に足を取られ、その内のひとつが外れてしまったらしい。壊れんほどの勢いで馬車が揺れた。
「きゃぁ!」
「わぁっ!」
ふたりの悲鳴をものともせず、馬車はしばらくそのまま走り続け、そしてふたりの体に青あざがいくつも残ったころ、やっとその動きを止めた。
「……、ぁ……」
やっと戻った静けさに、ふたりは抱きあったまま息をついた。クレアの衣装の裾は舞い上がったほこりにまみれている。それは、服と言わず顔と言わず、ふたりを汚していた。
「な、何なのよ、いったい」
先に立ち上がったのはアーシュラだった。勢いよく馬車の扉を開け、飛び出すと小さな悲鳴を上げた。
「アーシュラ!」
それを聞いて、クレアも飛び出した。そして、御者だった男に抱えられたままぐったりしているアーシュラを見つけた。
「何をするの!」
クレアは駆け寄ったが、彼に軽くあしらわれて地面に腰を落とす。
「姫さま、抵抗はなさらぬほうがよろしいですよ」
見たところ、アーシュラは飛び出したところを彼に殴られ、気絶してしまったようだった。
「いったいどういうこと? アーシュラをお離しなさい!」
にやりと笑って、御者はアーシュラを放りだした。白く粉を吹いたような地面の上に、その体がごろりと横たわる。それでも、目を覚まそうとはしない。
「アーシュラ、アーシュラ! しっかりして!」
駆け寄って体を揺り動かしても、よっぽど深く拳を受けたのか、アーシュラはぴくりとも動かなかった。
「あなた、まさかアーシュラを……」
「いや、まさか」
御者はクレアの意とするところを察して、笑った。
「死んではおりませんよ。目的は、この魔道師ではない」
そして、腰からすらりと剣を抜く。どこに隠して持っていたものか、先程馬車に乗り込んだときはそのようなものは見当たらなかった。その、研ぎ済まされた刀身にはあたりの光景が映った。塩に侵された森が広がる。真っ白なそれは、目には美しいが、もうすでに死んでいるのだとアスティーアに教えられたところだった。
「目的は、あなただ。マインラードの姫君」
御者はクレアに歩み寄った。クレアは息を飲んでそれを見つめる。
「あなたに個人的に恨みがあるわけではないが、命令でございますので」
アーシュラの体を後ろ手にかばいながら、クレアは迫り来る刀に写る自分の姿を見た。
「あなた、ラグラールの人なのでしょう?」
声がかすれないように、クレアは気を確かに保つよう、心がけながら言った。
「私を殺めれば、マインラード王国が黙っておりませんわ」
その恐ろしい言葉を、噛みしめるように言った。
「戦争に、なるわよ」
「願ったりだ」
彼は笑った。
「戦争になれば、こちらから仕向ける手間が省ける。我がラグラールが、マインラードに負けることは決してない」
「そんな……」
クレアは震える指先を懸命に押さえる。
「そんな、お姉様の、王妃様の実家でもあるのに……?」
「その、王妃様のご命令だ」
クレアは耳を疑った。
「何ですって?」
クレアの驚きぶりに、御者はにやりと笑った。
「お姉様が……? どうして」
「そこまでは聞かされてはいない。その理由を詮索するのは、私の仕事ではないのでね」
御者はクレアのすぐ前まで歩み寄り、その顎をついと持ち上げた。
「うら若き命を散らせるのは、本意ではありませんが。お覚悟を」
きらり、刀身が光を反射した。
「私が死ねば、ただではすまないわ。第一王女を嫁がせた国に殺されたとなれば、近隣諸国も黙ってはいないわよ。大義は、マインラードにあります」
「姫君は、不幸な事故でお亡くなりになったのです」
彼は言った。
「それに、文句をつけてくるなど迷惑な話だ。ラグラールは手を尽くした、けれど、天命はどうすることもできない。それを我が国のせいにするとは、笑止」
きらりと、刀身が光る。
「姫君、神への祈りを」
クレアはぎゅっと目をつぶった。逃げられない。逃げれば、この男は動けないアーシュラに刃を振るうだろう。自分はともかく、異世界から迷い込んできただけの、いわばこの世界とは無関係のアーシュラを傷つけさせたくはなかった。
「お兄、様……!」
祈るような声が洩れる。その言葉は、今際の際にあってクレアをほんの少し安堵させた。
太陽の光がまぶしい。クレアは、瞳を閉じた。
「ぐわっ!」
上がったのは男の声だった。瞼を開ければ、背後にかばっていたはずのアーシュラが起き上がり、両手で円をかたどっていた。その中から炎が吹き出す。
「アーシュラ!」
クレアが叫ぶと、アーシュラは体を起こして立ち上がり、クレアにわずかに目配せをして見せ、そして声高く呪文の詠唱を行う。
「炎よ、我が手のもとに集まりて、雷を起こせ!」
しゅん、と空気を割く音がした。それは、御者だった男の刀が宙を舞う音と、アーシュラの召喚した炎が彼に向かってぶつけられるのとは同時だった。
「小癪な」
男はそれをすらりと交わす。標的は、アーシュラに移った。
「小娘と侮れば」
「あたしは、殿下からクレアを守るよう言いつかってるんだからね。あんたごときには負けないわよ」
頼もしげにアーシュラは言う。そして、さらに呪文を重ねて炎の輪を大きくした。それが、御者の放つ剣の技と絡まって、黄色い火の粉を飛ばしてまぶしく目を射る。
「クレア、下がってて!」
アーシュラの言葉にクレアはとっさに彼女から離れた。その瞬間、先程までクレアがいたところに御者の剣がかすめた。
「きゃっ!」
アーシュラが続けて呼び出したのは、炎の力を倍増させる雷だった。真昼の晴れた空にまぶしい光が落ちてくる。
「きゃぁっ!」
自分のものではない悲鳴が聞こえ、そして真っ赤なしぶきが上がる。
「アーシュラ!」
切り裂かれた腕をだらりと下げたアーシュラは苦痛に歪んだ顔で、それでもたじろぎはしなかった。
「マインラードの魔道師も、その程度の腕か。たいしたことはないな」
先ほどの雷をうまくよけた御者は、にやりと笑う。
「そろそろ、終わらせてもらうぞ。時間をかけてはいられない」
剣が、天を突いた。そしてそれが振り落とされる。クレアはとっさにアーシュラに抱きついた。
「危ないっ!」
ざくり、音がして淡い色のドレスに剣が突き刺さった。クレアは、切り裂かれることは免れたが、長いドレスの裾がその身代わりとなった。
「きゃぁっ!」
クレアの悲鳴にアーシュラが立ち上がる。御者は、仕留めそこねた獲物に舌打ちをし、さっと衣を翻して一歩後ずさりをした。そして、剣を構え直す。
「二度はないと思え」
痛むのであろう腕をもはやかばいもせず、アーシュラは怒りに燃えた瞳を彼に向けた。
「覚悟するのはそっちよ」
そして、今まで聞いたこともない呪文を唱え始める。
「この、アーシュラ様を本気で怒らせたわね。覚悟しなさいよ」
大地と、炎。水と、風。自然をつかさどる、世の中のもの、すべての構成要素の力を引きだすための、高等魔道だった。
「すべてのものに、我が命ずる。我の敵に、制裁を与えよ」
「……なに」
あたりが真っ白になった。クレアは、立ち上がることもできずにそれを見た。
「わぁ……」
御者の姿が見えなくなった。わずかに、目の前に立つアーシュラの、青い衣の裾が揺れているのを確認できるだけだ。まるで、砂煙に包まれたかのようにあたりを見ることはできない。
「……ぁぁぁぁ……」
その声は、かすれて消えた。アーシュラのうめきが、それに重なった。クレアは、あたりを包むそのあまりに強い魔道の波動に身をさいなまれ、息もできずにただそこにいるしかできなかった。
「クレア!」
アーシュラの声がした。駆け寄ってきた彼女は、髪は乱れ、顔は煤と埃で真っ黒だった。衣服は裂け、腕は赤く染まり、それは見るも痛々しい姿。
「大丈夫、足は、大丈夫?」
「ええ、怪我はしていないわ……」
靄が徐々に晴れた。御者の姿はもうそこにはなかった。先程の悲鳴を最後に、どこかにかき消えてしまったかのように。
「どう、なったの?」
アーシュラが小さくまた新たな呪文を唱えた。張りつめた空気に押しつぶされそうだった胸が楽になってゆく。
「最終手段、使っちゃった」
アーシュラは小さく舌を出した。
「自然界の要素から全部の力を借りる呪文なの。成功率低いから、あんまり使わないように、って言われてたんだけど」
アーシュラは振り返った。
「効果は、あったみたいだね」
「あの人は?」
そこには剣が転がっていた。しかし、それは真っ黒に焼けただれ、原形をとどめてはいない。
「大地の力に、吸い込まれちゃったの」
「つまり?」
アーシュラは言いにくそうに言った。
「要するに、死んだってこと」
「そう……」
自分を殺そうとしたのだ、やるかやられるか、どちらかしか道はなかったとはいえ、それはあまり気持ちのいいものではなかった。
「痛いところ、ある?」
「いえ、大丈夫よ。アーシュラが守ってくれたから」
クレアはアーシュラの不安そうな顔に、にっこりと表情を作った。
「ごめんね、こんな目に合わせて……。クレアを守るために付き添わせてもらったのに、これじゃ、殿下に怒られちゃうね……」
意気消沈したようなアーシュラに、クレアは微笑んで見せた。
「仕方ないわ。アーシュラのせいではないもの」
そして、アーシュラに手を差し伸べた。
「アーシュラこそ、こんなに傷ついて。……ありがとう」
アーシュラはその手をとろうとし、痛みに眉を顰める。
「……っ……」
「アーシュラこそ、大丈夫なの?」
治癒呪文が唱えられる。アーシュラは切られた腕を伸ばして見せ、出血が止まったことを確認した。
「あいつ、何だったんだろう」
アーシュラは残った剣を、いまいましげに見つめた。
「ただの御者だと思ってたのに。どっかの刺客?」
「……」
王妃の差し向けた罠だったのだ、という話を聞いたとき、アーシュラはまだ意識を取り戻してはいなかったのだ。クレアは口をつぐんだ。
「それは……」
遠くから、馬車の音が響いてきた。ふたりはそれにびくっと身を震わせ、手を取りあってそちらを見た。
「姫さま!」
聞こえたのは、耳慣れた魔道師の声だった。途中ではぐれたふたりの魔道師が、やっとこちらを見つけて追いかけてきたらしい。
「……!」
そして、馬車から飛び降りるとその姿を見て絶句した。
「姫さま、そのお姿は……アーシュラ殿も……」
「ああ……」
見知った姿を見て、安堵が胸を広がる。クレアはアーシュラの手を取ったまま、うっすらと微笑んだ。
「アーシュラが、怪我を……。手当てを、お願い」
「そんな、姫さまも……」
それぞれが疲弊した体を抱きかかえられる。馬車の、柔らかな椅子に腰を落ち着けたとき、ようやく心を落ち着けることができた。
「姫さま、痛むところはございませんか」
魔道師が尋ねてくる。クレアは首を振った。
「いいえ、アーシュラが私を守ってくれたから。大丈夫よ」
アーシュラが、ことのいきさつを説明している。それに、クレアは口を挟むことなく黙り込んだ。
姉が関わったとのこと、その、理由を知りたかった。あの、ただ優しげな姉にいったいどのような腹積もりがあったのだろうか。クレアは、揺れる馬車の中、唇を噛んだ。
◆◇
「まぁ、まぁ、なんてことでしょう……!」
城に帰り着いたふたりを、アスティーアが驚きのあまり口も利けない、といった様子で出迎えた。
「首知事から、あなたがいつになっても到着しないとの報告を受けて、心配していたのよ。よもや、こんなことになるとは……」
アスティーアはいつものかいがいしさで侍女たちに湯の用意をさせ、医師を呼び、ふたりのために新しい衣装を用意させた。
「大丈夫かしら、痛むところはない?」
いつもの部屋に運び込まれ、大げさなほどに人が走り回り、そして国王までもがクレアの枕もとにやって来た。
「申し訳ないことだ。王太子殿下に、何とお詫びしたものか」
クレアは、黙ってそれを見た。
「傷などは、受けておられぬか」
王の嘱託医だという老人がクレアを診ていた。彼は王の方を振り向き、うなずいて見せる。
「怪我はしておられません。お召し物で守られたようです」
「そうか」
アーシュラは、別室で治療を受けているはずだった。あの傷の深さは、治癒呪文をかけたとはいえ浅いものではなかった。クレアは、彼女のことが気掛かりだった。
「アーシュラは?」
クレアはアスティーアに尋ねた。
「アーシュラは、どうなのでしょうか」
「心配しないで」
彼女を安心させるかのようにアスティーアは微笑んだ。
「魔道師さんも、ちゃんと治療させているわ。お仲間の魔道師たちが手伝ってくれているしね」
「しかし」
王がつぶやくように言った。
「どこの不届き者が姫たちを狙ったものか。見つけ次第厳罰に処したいところだが、犯人は魔道師殿が手にかけてしまったのだな……?」
「……ええ」
クレアはそっとつぶやいた。武闘魔道はそのためにある、戦争にでもなれば騎士たちとともに最前線に立たなければいけない魔道師が、敵を殺めることがあるのは避けられないことだったが、アーシュラはマインラードに来るまでは、魔道や武器とは無縁の世界に暮らしていたという。そんな彼女が、任されたこととはいえ人間を手にかけなくてはいけないことになったとは、その心の傷を思ってクレアは嘆息した。
「姫、何か覚えていられることはないか。曲者の特徴など」
王は言った。クレアは、横たわった寝台から体を少し浮かせた。視線を目の前のふたりに固定し、そして決心するように大きく息を吸った。
「あの者は、ラグラールとマインラードの間に戦争を起こさせるつもりだと言っておりました」
王と王妃は驚いた。いや、それは、驚いたふりにクレアには見えた。
「そのために、私を殺すのだと」
「……」
王が手を掲げ、指を鳴らした。それを聞いて、周りにいた侍女や従者が頭を下げてその場を辞した。マインラードの魔道師は、それに従ったものかどうかクレアに視線を注ぎ、そしてクレアがうなずくのを見て自らも会釈をし、扉の向こうに消えていった。
「あの者は、どこまで姫に話したのだ」
声がいささかきつい。今まで見てきた王の、温和とさえいえる面影は影を潜めていた。クレアはそれに身を震わせた。
「マインラードと、ラグラールの間に、戦争を起こさせる、と」
「……」
王は黙ったま、アスティーアを見た。
「あやつ、余計なことを」
つぶやく声に、クレアは驚いて叫んだ。
「なぜなのですか」
クレアの声は、ふたりに届いたはずだ。しかし、アスティーアは何も言わなかった。王が、ただこう言った。
「見ての通り、我が国は塩に侵された土地しか持ってはいない。いかに、技術を発展させてこれらを発展させようとも、おのずと限界がある」
彼には、もう晩餐の折りに見たように冗舌さはなかった。ただ、事実だけを述べる、そのような口調で早口に言った。
「そのために、軍事力を強化するのだ。それだけが、我が国が発展してゆく術だからな」
「他国の領土を、侵略するというのですか?」
王は答えなかった。ただ、クレアの方を見て、そしてわずかに唇の端を持ち上げる。
「そういう生き方もあるということだよ、姫。姫のお国は緑豊かな大地が広がる。そんな国に住む者には理解できないだろうが」
「そんな……」
クレアはとっさに起き上がった。
「そんな、お姉様、お姉様は平気なのですか? お姉様がお生まれになった国が、他国の侵略を受けるなど」
アスティーアは冷たい瞳をクレアに浴びせた。それは、心の奥まで冷やしてしまうようなう鋭い視線で、クレアはびくっと肩を震わせる。
「私が、王に進言したのよ。マインラードの緑を我らのものにするように」
「何故……なのですか……?」
クレアは言葉を失った。アスティーアは今まで見たこともないような瞳でクレアを見た。
「私は、もうマインラードの者ではないのよ。お母様がお亡くなりになったときから、そして、あの女がお父様の妃になって、セラフィスが生まれたときから」
「……」
口をつぐんでクレアはただアスティーアを見た。潜めた思いを一気に吐き出すように、彼女は語った。
「お父様が、あの女にお心を移されたそのせいで、お母様はお亡くなりになったのだわ。そして跡継ぎのセラフィスが生まれるや、私はまるで厄介者のように嫁がされた。まだ。輿入れの年も迎えていなかったのに」
憎々しげにアスティーアは言う。
「そんなふうに邪険に扱われた私が、マインラードを守ろうとするなどと思って? 今、お父様がお倒れになったこの時期、このマインラードの国力が弱まっているこの時期にこそ復讐を果たすべきときだわ」
長女であるアスティーアは、自分たちとは母が違うと聞いたことがあった。前王妃であったアスティーアの母が他界し、まもなく父である王はクレアたちの母を妃に迎え入れたのだと。
「あなたの母親であるあの女がいなければ、私はこんな塩深い土地に嫁がされることもなかった。そして、こうやって故郷に反旗を翻す相談に日を費やしているようなことも」
王がアスティーアの肩に手をかけ、もういいというようにうなずいた。彼を振り返り、アスティーアはすがるような瞳を投げたが、何も言いはしなかった。
「セラフィスが王太子であるうちに、手を打とうと思ったのだけれどね。忌々しいあの子が、魔道師たちの術を解いてしまって」
あの、暴動のことを言っているのだろう。クレアはその折流れたセラフィスの血を思いだし、身震いをした。
「本当にお父様の血を受け継ぐのか確かでもないあの子が、王位を継ぐことになるとは、笑い話だわね」
「え……」
クレアはそこで、初めて声をあげた。
「なんですって?」
アスティーアはクレアのその声に驚いたようだったが、肩をすくめて言った。
「あなたはずっと後から生まれたから知らないのだわね。セラフィスは、本当にお父様の子かと疑われていたのよ」
「お兄様、が?」
暴動の折り、流れた噂だった。それは、民衆を錯乱させるために流れただけではなかったのか。
「本当のところは誰にもわかりはしないわ。お父様のところにあの女がやってきて、驚くほど早かったのですもの、セラフィスが生まれたのは。それゆえ、セラフィスの出生を疑うものがいたのも事実よ」
クレアの胸中によみがえったのは、暴動の折り流れた噂を肯定したがっている自分の姿だった。あの噂は、クレアを驚かせはしたが、決して落胆させはしなかったのだ。
「そんなあの子が、王。しかも、私のお母様を蹴落として位に就いたあの女の子供が」
アスティーアは憎々しげに言った。王が、そんな彼女の言葉の跡を取る。
「姫は、明日にでもお国にお帰りいただこう。ここで姫を縊るのは簡単だが、そんな直接的な方法では、後々厄介なのでね」
その言葉に、クレアは身を震わせた、彼女の反応を見て、王は笑った。
「失敗は二度は許されない。マインラードを手に入れるにしても、新たな策が必要だ」
策略家の顔をして、王は言った。
「ただ、覚えておいでになったほうがいい。我が国は、いつでもその用意ができている。ゆめゆめ、報復などお考えにならぬよう、王太子殿下にもお伝えになるように」
クレアはひとり残された。新しく知ったことで、その胸はいっぱいだった。それを整理してしまうには、クレアは混乱のただ中にあった。
このようなとき、ただひとりの人にそばにいて欲しい。クレアは自らの身を抱きしめて、小さくうめいた。
「お兄様……」
頼れるのは、その言葉だけだった。ひとり、広いその部屋に取り残されたまま、クレアは言葉にすらならない心のただ中を、ひとり慰めるしかできなかった。
「住めば都って言うけどさ」
アーシュラは、ぎゅっと背伸びをしながら言った。
「やっぱ、住み慣れたとこがいいよね、そろそろ、マインラードに帰りたくなっちゃった」
大きな肘掛け椅子にぴょんと腰かけ、侍女に手伝わせながら衣装を換えているクレアを見上げてアーシュラは続ける。
「いつだっけ、戻るの」
「明後日には出発することになっているわ」
しばらくの間とはいえ、自分のものとして過ごしたこの部屋は、マインラードの自室と変わらないほどに馴染み深いものになっていた。この部屋の主であるクレアの私物と、ほとんどこの部屋で生活したアーシュラのそれと。それらの荷物が、少しずつ片づけられ始めている。
「殿下も、心配しているだろうね」
もうすれば、久方ぶりに兄に会うことができる。クレアは、ひそかに心躍らせた。それでいても、なかなか会うことのかなわない存在、これだけ長く離れていると、彼への思慕はひそかに高まるばかりだった。
「クレアも元気にやってるって、殿下にすぐ知らせる方法があればいいのにね」
アーシュラは言った。
「手紙だけじゃ、不安なところもあるもんね。せめて、元気な姿だけでも見せられたら」
「本当だわ」
クレアは嘆息した。
「私も心配だもの。お兄様も、みんなも、元気にやっているのかしら」
外出の準備が整い、クレアはアーシュラを促した。
「さ、行きましょ。今日は、ラグラール首府の首知事と会見するお約束よ」
「最初は、そういうのも面白かったけどさぁ」
アーシュラは煩わしげに立ち上がった。
「こういうの、ご公務ってやつ? もう、疲れちゃったよ」
「なにを言うの」
クレアは軽く、それでも微笑みながらアーシュラを睨みつけた。
「アーシュラは私の警護筆頭に当たる魔道師でしょう? お仕事よ」
「わかってるって」
アーシュラはぴょんとクレアのそばに近づいた。
「ちゃんと、クレアは守るわよ」
「お願いするわね」
こうやって、ラグラールでの滞在中は、アーシュラを中心にした魔道師たちが常にクレアのそばに付き添った。軍事や経済的面ではラグラールの方が勝ってはいたが、魔道などの文化的な面ではマインラードの方がはるかに上であることをクレアはこの滞在中に知った。
アーシュラたち魔道師は、ラグラールの魔道師たちに質問攻めにされた。アーシュラはそんなとき、困ったように首をかしげながらこうぼやく。
「参ったな、もっとちゃんと、理論とか勉強しとけばよかった……」
「ラーケンが聞けば、喜ぶわね」
彼女の保護者代わりの魔道師の名を出すと、アーシュラは照れたように笑った。
「あははっ、でも、マインラードに帰ったら忘れちゃうかも」
「まぁ」
いつものように馬車に乗って、いつものようにラグラールの従者たちに先導される。それは、この国に来てから毎日繰り返されてきたことだった。クレアは、警戒もなくそれに従う。
「もうすぐ、お別れですね」
クレアが、いつも手綱を握ってきたラグラールの御者に声をかけると、彼は最近になってやっと身に付けた、愛想笑いを送ってきた。
「あの人、最初はすっごく愛想悪かったもんね」
そのことをアーシュラに言うと、アーシュラは思いだしたかのようにうなずいて言った。
「今になってやっと、愛想ってやつを覚えたのかな」
揺れる馬車の中で、ふたりは笑った。
舗装されている道から来る衝撃は、そう体に辛いものではない。郊外への視察などの折りは体が痛くなるほど馬車に揺られねばならなかったが、今日は、その心配はなかった。
「今日は、がたがたいわないよね」
アーシュラが確認するように言った。
「こないだ、森の方に行ったときはあんまり揺れるんで、気持ち悪くなっちゃったよ」
クレアは笑った。
「そうね、今日は、街中をゆくはずですから、大丈夫だと思うわ」
今日の供は少なかった。毎日、ぞろぞろ魔道師や騎士を連れて歩くのに不便を感じて、クレアがその数を減らさせたのだ。アーシュラを含めて、三人の魔道師が今日の供のすべてだった。
「まぁ、なんのかんのいって、いい国だったんじゃない?」
アーシュラはつぶやいた。
「ここに来る前は、どうなることかと思ったけどさ。慣れればどうってことなかったし」
ここに来るきっかけとなった事件を、ふたりとも忘れているわけではなかった。しかし、長きの滞在の中で受けた歓待は、そのことを徐々に記憶からぬぐい去ってしまっていることも事実だった。
「でも、やっぱ、マインラードが一番いいよね」
がたん、と馬車が大きな揺れを起こした。ふたりはその中で、腰掛けた椅子から転がり落ちそうになって慌てて態勢を立て直した。
「やだ、どうしたんだろう」
馬のいななきが聞こえた。途端、馬車はすさまじい勢いで走り始めたのだ。
「え? え?」
アーシュラが驚いて声を上げる。クレアは立ち上がり、馬車の中から御者に声をかけた。
「いったいどうしたの? 馬車を、止めてちょうだい」
しかし、それにすぐ応えるべきはずの御者は何も言わない。ただ、無言のまま馬に鞭を当てるばかりだった。
「いったい……」
きゃぁ、と悲鳴が上がり、クレアは床に転がった。それをアーシュラが捕まえる。
「どうしたっていうの?」
見れば、クレアの護衛として付いてきた魔道師たちを乗せた馬車はとうに視界の彼方だった。今、クレアとアーシュラを乗せた馬車は、道なき道をひた走っている。
「どうして、ちょっと、止めてよ!」
アーシュラが叫んでもそれに応える者はない。アーシュラはとっさに両手を広げた。
「大地よ、その御手を伸ばし、走りゆくものを包み込め!」
それは、呪文の詠唱だった。アーシュラの言葉は鋭い空気となってあたりに響き渡った。そして、馬車はがたんと大きな音を立てて先程よりも乱暴に揺れたのだ。
「やだっ、効かないの?」
馬車は走り続けるままだった。しかし、先程のアーシュラの呪文で、どうやら馬車の車輪だけが大地に足を取られ、その内のひとつが外れてしまったらしい。壊れんほどの勢いで馬車が揺れた。
「きゃぁ!」
「わぁっ!」
ふたりの悲鳴をものともせず、馬車はしばらくそのまま走り続け、そしてふたりの体に青あざがいくつも残ったころ、やっとその動きを止めた。
「……、ぁ……」
やっと戻った静けさに、ふたりは抱きあったまま息をついた。クレアの衣装の裾は舞い上がったほこりにまみれている。それは、服と言わず顔と言わず、ふたりを汚していた。
「な、何なのよ、いったい」
先に立ち上がったのはアーシュラだった。勢いよく馬車の扉を開け、飛び出すと小さな悲鳴を上げた。
「アーシュラ!」
それを聞いて、クレアも飛び出した。そして、御者だった男に抱えられたままぐったりしているアーシュラを見つけた。
「何をするの!」
クレアは駆け寄ったが、彼に軽くあしらわれて地面に腰を落とす。
「姫さま、抵抗はなさらぬほうがよろしいですよ」
見たところ、アーシュラは飛び出したところを彼に殴られ、気絶してしまったようだった。
「いったいどういうこと? アーシュラをお離しなさい!」
にやりと笑って、御者はアーシュラを放りだした。白く粉を吹いたような地面の上に、その体がごろりと横たわる。それでも、目を覚まそうとはしない。
「アーシュラ、アーシュラ! しっかりして!」
駆け寄って体を揺り動かしても、よっぽど深く拳を受けたのか、アーシュラはぴくりとも動かなかった。
「あなた、まさかアーシュラを……」
「いや、まさか」
御者はクレアの意とするところを察して、笑った。
「死んではおりませんよ。目的は、この魔道師ではない」
そして、腰からすらりと剣を抜く。どこに隠して持っていたものか、先程馬車に乗り込んだときはそのようなものは見当たらなかった。その、研ぎ済まされた刀身にはあたりの光景が映った。塩に侵された森が広がる。真っ白なそれは、目には美しいが、もうすでに死んでいるのだとアスティーアに教えられたところだった。
「目的は、あなただ。マインラードの姫君」
御者はクレアに歩み寄った。クレアは息を飲んでそれを見つめる。
「あなたに個人的に恨みがあるわけではないが、命令でございますので」
アーシュラの体を後ろ手にかばいながら、クレアは迫り来る刀に写る自分の姿を見た。
「あなた、ラグラールの人なのでしょう?」
声がかすれないように、クレアは気を確かに保つよう、心がけながら言った。
「私を殺めれば、マインラード王国が黙っておりませんわ」
その恐ろしい言葉を、噛みしめるように言った。
「戦争に、なるわよ」
「願ったりだ」
彼は笑った。
「戦争になれば、こちらから仕向ける手間が省ける。我がラグラールが、マインラードに負けることは決してない」
「そんな……」
クレアは震える指先を懸命に押さえる。
「そんな、お姉様の、王妃様の実家でもあるのに……?」
「その、王妃様のご命令だ」
クレアは耳を疑った。
「何ですって?」
クレアの驚きぶりに、御者はにやりと笑った。
「お姉様が……? どうして」
「そこまでは聞かされてはいない。その理由を詮索するのは、私の仕事ではないのでね」
御者はクレアのすぐ前まで歩み寄り、その顎をついと持ち上げた。
「うら若き命を散らせるのは、本意ではありませんが。お覚悟を」
きらり、刀身が光を反射した。
「私が死ねば、ただではすまないわ。第一王女を嫁がせた国に殺されたとなれば、近隣諸国も黙ってはいないわよ。大義は、マインラードにあります」
「姫君は、不幸な事故でお亡くなりになったのです」
彼は言った。
「それに、文句をつけてくるなど迷惑な話だ。ラグラールは手を尽くした、けれど、天命はどうすることもできない。それを我が国のせいにするとは、笑止」
きらりと、刀身が光る。
「姫君、神への祈りを」
クレアはぎゅっと目をつぶった。逃げられない。逃げれば、この男は動けないアーシュラに刃を振るうだろう。自分はともかく、異世界から迷い込んできただけの、いわばこの世界とは無関係のアーシュラを傷つけさせたくはなかった。
「お兄、様……!」
祈るような声が洩れる。その言葉は、今際の際にあってクレアをほんの少し安堵させた。
太陽の光がまぶしい。クレアは、瞳を閉じた。
「ぐわっ!」
上がったのは男の声だった。瞼を開ければ、背後にかばっていたはずのアーシュラが起き上がり、両手で円をかたどっていた。その中から炎が吹き出す。
「アーシュラ!」
クレアが叫ぶと、アーシュラは体を起こして立ち上がり、クレアにわずかに目配せをして見せ、そして声高く呪文の詠唱を行う。
「炎よ、我が手のもとに集まりて、雷を起こせ!」
しゅん、と空気を割く音がした。それは、御者だった男の刀が宙を舞う音と、アーシュラの召喚した炎が彼に向かってぶつけられるのとは同時だった。
「小癪な」
男はそれをすらりと交わす。標的は、アーシュラに移った。
「小娘と侮れば」
「あたしは、殿下からクレアを守るよう言いつかってるんだからね。あんたごときには負けないわよ」
頼もしげにアーシュラは言う。そして、さらに呪文を重ねて炎の輪を大きくした。それが、御者の放つ剣の技と絡まって、黄色い火の粉を飛ばしてまぶしく目を射る。
「クレア、下がってて!」
アーシュラの言葉にクレアはとっさに彼女から離れた。その瞬間、先程までクレアがいたところに御者の剣がかすめた。
「きゃっ!」
アーシュラが続けて呼び出したのは、炎の力を倍増させる雷だった。真昼の晴れた空にまぶしい光が落ちてくる。
「きゃぁっ!」
自分のものではない悲鳴が聞こえ、そして真っ赤なしぶきが上がる。
「アーシュラ!」
切り裂かれた腕をだらりと下げたアーシュラは苦痛に歪んだ顔で、それでもたじろぎはしなかった。
「マインラードの魔道師も、その程度の腕か。たいしたことはないな」
先ほどの雷をうまくよけた御者は、にやりと笑う。
「そろそろ、終わらせてもらうぞ。時間をかけてはいられない」
剣が、天を突いた。そしてそれが振り落とされる。クレアはとっさにアーシュラに抱きついた。
「危ないっ!」
ざくり、音がして淡い色のドレスに剣が突き刺さった。クレアは、切り裂かれることは免れたが、長いドレスの裾がその身代わりとなった。
「きゃぁっ!」
クレアの悲鳴にアーシュラが立ち上がる。御者は、仕留めそこねた獲物に舌打ちをし、さっと衣を翻して一歩後ずさりをした。そして、剣を構え直す。
「二度はないと思え」
痛むのであろう腕をもはやかばいもせず、アーシュラは怒りに燃えた瞳を彼に向けた。
「覚悟するのはそっちよ」
そして、今まで聞いたこともない呪文を唱え始める。
「この、アーシュラ様を本気で怒らせたわね。覚悟しなさいよ」
大地と、炎。水と、風。自然をつかさどる、世の中のもの、すべての構成要素の力を引きだすための、高等魔道だった。
「すべてのものに、我が命ずる。我の敵に、制裁を与えよ」
「……なに」
あたりが真っ白になった。クレアは、立ち上がることもできずにそれを見た。
「わぁ……」
御者の姿が見えなくなった。わずかに、目の前に立つアーシュラの、青い衣の裾が揺れているのを確認できるだけだ。まるで、砂煙に包まれたかのようにあたりを見ることはできない。
「……ぁぁぁぁ……」
その声は、かすれて消えた。アーシュラのうめきが、それに重なった。クレアは、あたりを包むそのあまりに強い魔道の波動に身をさいなまれ、息もできずにただそこにいるしかできなかった。
「クレア!」
アーシュラの声がした。駆け寄ってきた彼女は、髪は乱れ、顔は煤と埃で真っ黒だった。衣服は裂け、腕は赤く染まり、それは見るも痛々しい姿。
「大丈夫、足は、大丈夫?」
「ええ、怪我はしていないわ……」
靄が徐々に晴れた。御者の姿はもうそこにはなかった。先程の悲鳴を最後に、どこかにかき消えてしまったかのように。
「どう、なったの?」
アーシュラが小さくまた新たな呪文を唱えた。張りつめた空気に押しつぶされそうだった胸が楽になってゆく。
「最終手段、使っちゃった」
アーシュラは小さく舌を出した。
「自然界の要素から全部の力を借りる呪文なの。成功率低いから、あんまり使わないように、って言われてたんだけど」
アーシュラは振り返った。
「効果は、あったみたいだね」
「あの人は?」
そこには剣が転がっていた。しかし、それは真っ黒に焼けただれ、原形をとどめてはいない。
「大地の力に、吸い込まれちゃったの」
「つまり?」
アーシュラは言いにくそうに言った。
「要するに、死んだってこと」
「そう……」
自分を殺そうとしたのだ、やるかやられるか、どちらかしか道はなかったとはいえ、それはあまり気持ちのいいものではなかった。
「痛いところ、ある?」
「いえ、大丈夫よ。アーシュラが守ってくれたから」
クレアはアーシュラの不安そうな顔に、にっこりと表情を作った。
「ごめんね、こんな目に合わせて……。クレアを守るために付き添わせてもらったのに、これじゃ、殿下に怒られちゃうね……」
意気消沈したようなアーシュラに、クレアは微笑んで見せた。
「仕方ないわ。アーシュラのせいではないもの」
そして、アーシュラに手を差し伸べた。
「アーシュラこそ、こんなに傷ついて。……ありがとう」
アーシュラはその手をとろうとし、痛みに眉を顰める。
「……っ……」
「アーシュラこそ、大丈夫なの?」
治癒呪文が唱えられる。アーシュラは切られた腕を伸ばして見せ、出血が止まったことを確認した。
「あいつ、何だったんだろう」
アーシュラは残った剣を、いまいましげに見つめた。
「ただの御者だと思ってたのに。どっかの刺客?」
「……」
王妃の差し向けた罠だったのだ、という話を聞いたとき、アーシュラはまだ意識を取り戻してはいなかったのだ。クレアは口をつぐんだ。
「それは……」
遠くから、馬車の音が響いてきた。ふたりはそれにびくっと身を震わせ、手を取りあってそちらを見た。
「姫さま!」
聞こえたのは、耳慣れた魔道師の声だった。途中ではぐれたふたりの魔道師が、やっとこちらを見つけて追いかけてきたらしい。
「……!」
そして、馬車から飛び降りるとその姿を見て絶句した。
「姫さま、そのお姿は……アーシュラ殿も……」
「ああ……」
見知った姿を見て、安堵が胸を広がる。クレアはアーシュラの手を取ったまま、うっすらと微笑んだ。
「アーシュラが、怪我を……。手当てを、お願い」
「そんな、姫さまも……」
それぞれが疲弊した体を抱きかかえられる。馬車の、柔らかな椅子に腰を落ち着けたとき、ようやく心を落ち着けることができた。
「姫さま、痛むところはございませんか」
魔道師が尋ねてくる。クレアは首を振った。
「いいえ、アーシュラが私を守ってくれたから。大丈夫よ」
アーシュラが、ことのいきさつを説明している。それに、クレアは口を挟むことなく黙り込んだ。
姉が関わったとのこと、その、理由を知りたかった。あの、ただ優しげな姉にいったいどのような腹積もりがあったのだろうか。クレアは、揺れる馬車の中、唇を噛んだ。
◆◇
「まぁ、まぁ、なんてことでしょう……!」
城に帰り着いたふたりを、アスティーアが驚きのあまり口も利けない、といった様子で出迎えた。
「首知事から、あなたがいつになっても到着しないとの報告を受けて、心配していたのよ。よもや、こんなことになるとは……」
アスティーアはいつものかいがいしさで侍女たちに湯の用意をさせ、医師を呼び、ふたりのために新しい衣装を用意させた。
「大丈夫かしら、痛むところはない?」
いつもの部屋に運び込まれ、大げさなほどに人が走り回り、そして国王までもがクレアの枕もとにやって来た。
「申し訳ないことだ。王太子殿下に、何とお詫びしたものか」
クレアは、黙ってそれを見た。
「傷などは、受けておられぬか」
王の嘱託医だという老人がクレアを診ていた。彼は王の方を振り向き、うなずいて見せる。
「怪我はしておられません。お召し物で守られたようです」
「そうか」
アーシュラは、別室で治療を受けているはずだった。あの傷の深さは、治癒呪文をかけたとはいえ浅いものではなかった。クレアは、彼女のことが気掛かりだった。
「アーシュラは?」
クレアはアスティーアに尋ねた。
「アーシュラは、どうなのでしょうか」
「心配しないで」
彼女を安心させるかのようにアスティーアは微笑んだ。
「魔道師さんも、ちゃんと治療させているわ。お仲間の魔道師たちが手伝ってくれているしね」
「しかし」
王がつぶやくように言った。
「どこの不届き者が姫たちを狙ったものか。見つけ次第厳罰に処したいところだが、犯人は魔道師殿が手にかけてしまったのだな……?」
「……ええ」
クレアはそっとつぶやいた。武闘魔道はそのためにある、戦争にでもなれば騎士たちとともに最前線に立たなければいけない魔道師が、敵を殺めることがあるのは避けられないことだったが、アーシュラはマインラードに来るまでは、魔道や武器とは無縁の世界に暮らしていたという。そんな彼女が、任されたこととはいえ人間を手にかけなくてはいけないことになったとは、その心の傷を思ってクレアは嘆息した。
「姫、何か覚えていられることはないか。曲者の特徴など」
王は言った。クレアは、横たわった寝台から体を少し浮かせた。視線を目の前のふたりに固定し、そして決心するように大きく息を吸った。
「あの者は、ラグラールとマインラードの間に戦争を起こさせるつもりだと言っておりました」
王と王妃は驚いた。いや、それは、驚いたふりにクレアには見えた。
「そのために、私を殺すのだと」
「……」
王が手を掲げ、指を鳴らした。それを聞いて、周りにいた侍女や従者が頭を下げてその場を辞した。マインラードの魔道師は、それに従ったものかどうかクレアに視線を注ぎ、そしてクレアがうなずくのを見て自らも会釈をし、扉の向こうに消えていった。
「あの者は、どこまで姫に話したのだ」
声がいささかきつい。今まで見てきた王の、温和とさえいえる面影は影を潜めていた。クレアはそれに身を震わせた。
「マインラードと、ラグラールの間に、戦争を起こさせる、と」
「……」
王は黙ったま、アスティーアを見た。
「あやつ、余計なことを」
つぶやく声に、クレアは驚いて叫んだ。
「なぜなのですか」
クレアの声は、ふたりに届いたはずだ。しかし、アスティーアは何も言わなかった。王が、ただこう言った。
「見ての通り、我が国は塩に侵された土地しか持ってはいない。いかに、技術を発展させてこれらを発展させようとも、おのずと限界がある」
彼には、もう晩餐の折りに見たように冗舌さはなかった。ただ、事実だけを述べる、そのような口調で早口に言った。
「そのために、軍事力を強化するのだ。それだけが、我が国が発展してゆく術だからな」
「他国の領土を、侵略するというのですか?」
王は答えなかった。ただ、クレアの方を見て、そしてわずかに唇の端を持ち上げる。
「そういう生き方もあるということだよ、姫。姫のお国は緑豊かな大地が広がる。そんな国に住む者には理解できないだろうが」
「そんな……」
クレアはとっさに起き上がった。
「そんな、お姉様、お姉様は平気なのですか? お姉様がお生まれになった国が、他国の侵略を受けるなど」
アスティーアは冷たい瞳をクレアに浴びせた。それは、心の奥まで冷やしてしまうようなう鋭い視線で、クレアはびくっと肩を震わせる。
「私が、王に進言したのよ。マインラードの緑を我らのものにするように」
「何故……なのですか……?」
クレアは言葉を失った。アスティーアは今まで見たこともないような瞳でクレアを見た。
「私は、もうマインラードの者ではないのよ。お母様がお亡くなりになったときから、そして、あの女がお父様の妃になって、セラフィスが生まれたときから」
「……」
口をつぐんでクレアはただアスティーアを見た。潜めた思いを一気に吐き出すように、彼女は語った。
「お父様が、あの女にお心を移されたそのせいで、お母様はお亡くなりになったのだわ。そして跡継ぎのセラフィスが生まれるや、私はまるで厄介者のように嫁がされた。まだ。輿入れの年も迎えていなかったのに」
憎々しげにアスティーアは言う。
「そんなふうに邪険に扱われた私が、マインラードを守ろうとするなどと思って? 今、お父様がお倒れになったこの時期、このマインラードの国力が弱まっているこの時期にこそ復讐を果たすべきときだわ」
長女であるアスティーアは、自分たちとは母が違うと聞いたことがあった。前王妃であったアスティーアの母が他界し、まもなく父である王はクレアたちの母を妃に迎え入れたのだと。
「あなたの母親であるあの女がいなければ、私はこんな塩深い土地に嫁がされることもなかった。そして、こうやって故郷に反旗を翻す相談に日を費やしているようなことも」
王がアスティーアの肩に手をかけ、もういいというようにうなずいた。彼を振り返り、アスティーアはすがるような瞳を投げたが、何も言いはしなかった。
「セラフィスが王太子であるうちに、手を打とうと思ったのだけれどね。忌々しいあの子が、魔道師たちの術を解いてしまって」
あの、暴動のことを言っているのだろう。クレアはその折流れたセラフィスの血を思いだし、身震いをした。
「本当にお父様の血を受け継ぐのか確かでもないあの子が、王位を継ぐことになるとは、笑い話だわね」
「え……」
クレアはそこで、初めて声をあげた。
「なんですって?」
アスティーアはクレアのその声に驚いたようだったが、肩をすくめて言った。
「あなたはずっと後から生まれたから知らないのだわね。セラフィスは、本当にお父様の子かと疑われていたのよ」
「お兄様、が?」
暴動の折り、流れた噂だった。それは、民衆を錯乱させるために流れただけではなかったのか。
「本当のところは誰にもわかりはしないわ。お父様のところにあの女がやってきて、驚くほど早かったのですもの、セラフィスが生まれたのは。それゆえ、セラフィスの出生を疑うものがいたのも事実よ」
クレアの胸中によみがえったのは、暴動の折り流れた噂を肯定したがっている自分の姿だった。あの噂は、クレアを驚かせはしたが、決して落胆させはしなかったのだ。
「そんなあの子が、王。しかも、私のお母様を蹴落として位に就いたあの女の子供が」
アスティーアは憎々しげに言った。王が、そんな彼女の言葉の跡を取る。
「姫は、明日にでもお国にお帰りいただこう。ここで姫を縊るのは簡単だが、そんな直接的な方法では、後々厄介なのでね」
その言葉に、クレアは身を震わせた、彼女の反応を見て、王は笑った。
「失敗は二度は許されない。マインラードを手に入れるにしても、新たな策が必要だ」
策略家の顔をして、王は言った。
「ただ、覚えておいでになったほうがいい。我が国は、いつでもその用意ができている。ゆめゆめ、報復などお考えにならぬよう、王太子殿下にもお伝えになるように」
クレアはひとり残された。新しく知ったことで、その胸はいっぱいだった。それを整理してしまうには、クレアは混乱のただ中にあった。
このようなとき、ただひとりの人にそばにいて欲しい。クレアは自らの身を抱きしめて、小さくうめいた。
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頼れるのは、その言葉だけだった。ひとり、広いその部屋に取り残されたまま、クレアは言葉にすらならない心のただ中を、ひとり慰めるしかできなかった。
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