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22. 黄昏時②
しおりを挟む「それから直ぐにレキシーの事を調べました」
労るように背中に当てた手を滑らせ、イーライ神官は話を続けた。
罪悪感、か……
「そんなものを抱えてらっしゃったのですね……」
申し訳ない気持ちに駆られ、胸に手を置いて項垂れた。
ウィリアムが人の心につけ入る事を平気でやってのけるとは知っていたが、神職にすらそうだとは。何て恐れ知らずな。
思わず項垂れれば、イーライ神官がその頭を優しく撫でた。
「……今私は、あなたが私の話をきちんと理解してくれているのか非常に不安に思っていますが。取り敢えず話を進めると、私はこの十年あなたを見てきたんです。あなたを支えたいと、甘やかしてあげたいと思っていました」
「……え」
私は思わずイーライ神官を振り仰いだ。
──ウィリアムの牽制を、イーライもまた利用していた。
神職という肩書きに、領主の婚儀を行った事を理由にドリート家に近づいて。レキシーを屋敷から出られるよう取り計らってきたのだ。
だから、レキシーの事はよく知っている。
「慣れない地でたった一人、領地に馴染もうと奮闘してましたね。乗り気じゃなかった婚家のご両親との関係改善にも一生懸命取り組んでました。……得られないものに縋る事なく、何かを見出そうと奔走するあなたを見て、私はずっと勇気を貰っていました」
「……あんな、姿を?」
滑稽だと笑った妹に対し、怒りと同意の感情が沸いた。抗えず、反論すら出来ない自分に憤りしか感じていなかったのに……
「あなたは──」
そんな私の様子を見たイーライ神官は、握っていた私の手に恭しく唇を落とした。
「ずっと、あなたが好きでした」
──それを努力だと認めてくれるのか。
労ってくれるのかと、そう思うだけで、ビビアの時とは違う涙が零れ落ちる。
「ありがとうございます……私、なんかにっ」
「こら、そんな言い方は止めて下さい。私はあなただからそう思ったのですから」
ゆっくり背中を撫でていた手を回し、イーライ神官は私の身体を抱き寄せた。温かい胸に頬が当たり、ふっと力が抜ける。
「自分で全てを担おうとするのは、あなたの性分なんでしょうかね。ご家族の事も、本当は私が何とかしたかったのに……」
「いいえ、だってそれは我が家の事なんですから」
「それ以前にあなたは私のものだと言っているんですよ」
相変わらず柔和な笑顔で、飛び出す台詞は何だか不穏だ。
「な、何故……?」
「……」
赤くなった私の頭を無言でよしよしと撫で、イーライ神官は私を再びベッドに横たえた。
「誓いを……いえ。まだ顔色がよくありませんね、もう少し休んで下さい。落ち着いたら部屋を移動しましょう。急だったもので客間しか用意できずにすみません」
見下ろすイーライ神官に緊張しつつ、気になっていた事を口にする。
「あの、そういえば、ここはどちらでしょう?」
「ラッセラード家のタウンハウスです。私はまだ神殿住まいなので……ああ、先程エルタとマリーも着きましたよ。お気に入りの侍女でしょう? 後で来させますが、今はゆっくり休んでくださいね」
眩く笑うイーライ神官に私はこくこくと頷いた。
……落ち着くどころか、動転してばかりいるような気がするけれど。
イーライ神官の話を思い返せば、どんどん頬が熱くなっきてしまう。また気が遠くなりそうなので、私は手の甲で視界を覆い、かろうじて、ありがとうございますと口にした。
「それでは後で」
ふっと額に感じる柔らかさに驚いていると、目を細めたイーライ神官と視線がかち合う。
はわわと顔を赤らめる私に、してやったりと口端を吊り上げ、彼はそのまま退室していった。
そこではたと目を瞬かせる。
「あれ……?」
どこか既視感のようなものが頭を掠めたが、思い出せない。まあ今のこの、茹だった頭では仕方がないとも思うけれど……
思わず額を抑えるが、イーライ神官とそんな記憶は無い。ある筈もない。
私は布団を被り、羞恥をやり過ごした。
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