3 / 15
3. 結婚に間違いはなく
しおりを挟む
アウロアは再びテーブルを拳で打ちつけた。
叔父たちがびくりと肩を跳ねさせる。
(記憶が無いと言うだけで……)
自分は何をやっているのかと歯噛みする。
使用人たちは、アウロアの変わり様に皆目を剥いて驚いている。
彼は常に怯えた様で、部屋に篭り切りだったのだ。
正直いないものとして、侮られた存在だった。
その彼────本来のこの屋敷の主は、今もの凄い形相で、今まで自分たちが仕えてきた主を睨みつけている。
「どうせ追い払ったんだろう。本来なら、彼女はここで伯爵夫人として私と共にいる筈だったんだ! なのに……」
(結婚……したのか……)
先程のファビーラの言葉が頭に響く。
アウロアがそんな体たらくであったなら、彼女の両親ならばそのようにしただろう。
どうして……いや、でも……
身を翻すアウロアに叔父の声が飛んできた。
「アウロア! どこへ行くんだ!」
「イリーシアに会って来ます」
アウロアは屋敷を飛び出した。
イリーシアは言った、いつまでも待つと。だから……
一縷の望みを掛け、アウロアは馬を駆りイリーシアの住む屋敷へと向かった。
◇
(ここにいるのだろうか……)
アウロアは自身の思考と行動が噛み合っていない事に頭を抱えたくなった。
(イリーシアが結婚していたら、ここにいる筈が無いのに)
それに彼女の両親が、アウロアを見限ってイリーシアを別の誰かに嫁がせるのは、凄く当然の事だと思ったのだ。
(イリーシア)
屋敷の周辺をうろつき、いい加減不審者扱いされるだろうかと思い出した頃、懐かしい声が聞こえて来た。
(イリーシア?!)
「お母様、待って下さい」
だが続く言葉にアウロアは固まった。
ゆっくりと声の聞こえた方に視線を巡らす。
「大丈夫よ、テッド。お母様はここにいますよ」
庭の大きな木の下で手を振っているのは、イリーシアだ。
アウロアは息を飲んだ。
そして……彼女に向かって駆ける男児……
「……」
イリーシアの明るく癖のある金髪と同じもの……。
そして綺麗な翡翠の瞳。
見ればイリーシアの手首には、男児の瞳と同じ色の石を付けた腕輪が煌めいていた。
この国では婚姻の際、男性が女性に腕輪を贈る。
それは女性にとっては既婚者の証で、アウロアもまた、イリーシアに用意していたものだった。
自分の瞳と同じ色のそれ……
そして彼女の夫の瞳は緑の色なのだろう。
アウロアは馬の首を返し、屋敷から離れた。
「お母様どうしたの?」
「え? いいえ……知り合いに似てたような気がして……」
「え? もしかしてお父様? ねえお母様、お父様はいつ帰ってくるかなあ?」
「もう、テッドはそればかりなんだから」
息子の言葉に、イリーシアは、くすりと笑みをこぼした。
叔父たちがびくりと肩を跳ねさせる。
(記憶が無いと言うだけで……)
自分は何をやっているのかと歯噛みする。
使用人たちは、アウロアの変わり様に皆目を剥いて驚いている。
彼は常に怯えた様で、部屋に篭り切りだったのだ。
正直いないものとして、侮られた存在だった。
その彼────本来のこの屋敷の主は、今もの凄い形相で、今まで自分たちが仕えてきた主を睨みつけている。
「どうせ追い払ったんだろう。本来なら、彼女はここで伯爵夫人として私と共にいる筈だったんだ! なのに……」
(結婚……したのか……)
先程のファビーラの言葉が頭に響く。
アウロアがそんな体たらくであったなら、彼女の両親ならばそのようにしただろう。
どうして……いや、でも……
身を翻すアウロアに叔父の声が飛んできた。
「アウロア! どこへ行くんだ!」
「イリーシアに会って来ます」
アウロアは屋敷を飛び出した。
イリーシアは言った、いつまでも待つと。だから……
一縷の望みを掛け、アウロアは馬を駆りイリーシアの住む屋敷へと向かった。
◇
(ここにいるのだろうか……)
アウロアは自身の思考と行動が噛み合っていない事に頭を抱えたくなった。
(イリーシアが結婚していたら、ここにいる筈が無いのに)
それに彼女の両親が、アウロアを見限ってイリーシアを別の誰かに嫁がせるのは、凄く当然の事だと思ったのだ。
(イリーシア)
屋敷の周辺をうろつき、いい加減不審者扱いされるだろうかと思い出した頃、懐かしい声が聞こえて来た。
(イリーシア?!)
「お母様、待って下さい」
だが続く言葉にアウロアは固まった。
ゆっくりと声の聞こえた方に視線を巡らす。
「大丈夫よ、テッド。お母様はここにいますよ」
庭の大きな木の下で手を振っているのは、イリーシアだ。
アウロアは息を飲んだ。
そして……彼女に向かって駆ける男児……
「……」
イリーシアの明るく癖のある金髪と同じもの……。
そして綺麗な翡翠の瞳。
見ればイリーシアの手首には、男児の瞳と同じ色の石を付けた腕輪が煌めいていた。
この国では婚姻の際、男性が女性に腕輪を贈る。
それは女性にとっては既婚者の証で、アウロアもまた、イリーシアに用意していたものだった。
自分の瞳と同じ色のそれ……
そして彼女の夫の瞳は緑の色なのだろう。
アウロアは馬の首を返し、屋敷から離れた。
「お母様どうしたの?」
「え? いいえ……知り合いに似てたような気がして……」
「え? もしかしてお父様? ねえお母様、お父様はいつ帰ってくるかなあ?」
「もう、テッドはそればかりなんだから」
息子の言葉に、イリーシアは、くすりと笑みをこぼした。
22
あなたにおすすめの小説
【完結】そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして
Rohdea
恋愛
──ある日、婚約者が記憶喪失になりました。
伯爵令嬢のアリーチェには、幼い頃からの想い人でもある婚約者のエドワードがいる。
幼馴染でもある彼は、ある日を境に無口で無愛想な人に変わってしまっていた。
素っ気無い態度を取られても一途にエドワードを想ってきたアリーチェだったけど、
ある日、つい心にも無い言葉……婚約破棄を口走ってしまう。
だけど、その事を謝る前にエドワードが事故にあってしまい、目を覚ました彼はこれまでの記憶を全て失っていた。
記憶を失ったエドワードは、まるで昔の彼に戻ったかのように優しく、
また婚約者のアリーチェを一途に愛してくれるようになったけど──……
そしてある日、一人の女性がエドワードを訪ねて来る。
※婚約者をざまぁする話ではありません
※2022.1.1 “謎の女”が登場したのでタグ追加しました
彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった
みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。
この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。
けれど、運命になんて屈しない。
“選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。
……そう決めたのに。
彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」
涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。
記憶喪失のフリをしたら婚約者の素顔が見えちゃった
ミカン♬
恋愛
ビビアンには双子の弟の方、エリオットという最愛の婚約者がいる。
勉強なんて大っ嫌いなビビアンだったけど、エリオットが王立学園に入ってしまった。
1年頑張ってエリオットを追いかけてビビアンも入学できたんだけど──
**歩いていた、双子兄のブラッドさまをエリオットだと間違えて、後ろから「わっ」なんて声をかけてしまった。
肩をつかんだその瞬間、彼はふりかえりざまに、肘をわたしの顔にぶつけた。**
倒れたビビアンを心配する婚約者エリオットに記憶喪失のフリをした。
すると「僕は君の婚約者ブラッドの弟だよ」なんて言い出した。どういうこと?
**嘘ついてるのバレて、エリオットを怒らせちゃった?
これは記憶喪失って事にしないとマズイかも……**
ちょっと抜けてるビビアンの、可愛いくてあまーい恋の話。サクッとハッピーエンドです。
他サイトにも投稿。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
※後日談を更新中です。
記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる
きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。
穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。
——あの日までは。
突如として王都を揺るがした
「王太子サフィル、重傷」の報せ。
駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる