3 / 41
1話
・・
しおりを挟む
◇◇
「あ、宮沢さんだー、こんにちは!」
相良先生の家の近くの最寄駅。
ばったりと女子学生4人組に遭遇した。
相良先生の娘、花蓮ちゃんとそのお友達である。
花蓮ちゃんは、僕の姿をみとめると、「どうも…」と小さく頭を下げた。
「なんで、あんたまでいんの…?」
しかし、僕の横にいる夏目君を見た瞬間に、花蓮ちゃんの顔はまるで般若のように強張る。
氷点下まで下がった冷たい視線で夏目君を睨みつけた。
「なんで、って。
俺と宮沢さんがなんで一緒にいちゃいけないんです?
いつも言っているように、君に反対される覚えはないんですけど」
夏目君はそういって僕の肩を掴んで、見せつけるように自分の胸元へ僕をひき寄せた。
肌に触れた体温に、かぁ…と頬に熱が帯びる。
「な、夏目君?」
突然の密着状態に焦る僕に対し、夏目君はどこか得意な笑みで花蓮ちゃんに微笑んだ。
「別にあんたらがどうだろうが、私には関係ないけど…。
お父さんの前では、一切顔見せるな、って言ったよね?」
「お父さんの前では、だろ?
ここは確かに相良先生のお宅の最寄り駅だけど、先生はいないじゃないですか…?」
「……」
花蓮ちゃんは、夏目くんの言葉に不機嫌な様子を隠すことなく眉根を寄せた。
花蓮ちゃんは、男嫌いである。
しかも顔の整った美形が特に嫌いで、僕が知る中では夏目君に対する態度が一番冷たい。
こうして顔をあわせば、嫌悪に顔を歪め口喧嘩に発展する。
思春期の女の子だから本当は好きなのに素直になれなくて冷たい態度をとってしまうのかな?と思っていたんだけど、聞くところによると本当に嫌いらしい。
あいつなんかと一緒にいるくらいなら、ゴキブリと一緒にいたほうがマシだと豪語していた。
夏目君もよせばいいのに、相良先生に原稿を取りに来る僕についてきては、時折出会う花蓮ちゃんに対してからかいの言葉をかけている。
まさか、花蓮ちゃんのことが好きなのではないか…なんて、担当の先生の娘もライバル視してしまう僕は相当重症である。
少なくとも、同性で親父な僕なんかよりずっと夏目君の恋愛対象になる可能性が高いのではないだろうか。
花蓮ちゃんを揶揄う夏目くんも満更ではないのか…。
まさか、夏目くんの気になる人って花蓮ちゃんなんじゃ…。
「宮沢さん、早く行こう。お父さん、待ってる。
こんな男と一緒にいちゃ、ダメ」
「え…、かれんちゃ…」
花蓮ちゃんは無理矢理僕の腕をとって、歩き出す。
焦って夏目君を見やれば、夏目君は僕に向かって、「また」と口を動かして手を振った。
「私、このまま宮沢さんと帰るから。また明日ね、みんな」
「うん、じゃあ!」
「ええ、また明日」
夏目くんと強制的に離されて、花蓮ちゃんに相良家へと連行される。
「相良」という名前は先生のペンネームで本名ではない。
先生の本名は、海月智也さんっていうんだ。
なので、花連ちゃんの本名も、海月花蓮という。
綺麗な名前だよね。
先生は、昔は出版会社ではなくて大手の外資系企業に勤めていたんだけど、トラブルがあってやめたらしい。
先生は、その後作家になったんだけど、とある出版社とトラブルになったようで…。
どんなトラブルかは知らないけど、先生にとって、とてもショックなことが起こったみたいでそこから色々あって深刻な対人恐怖症になってしまったそうだ。
男の人を前にすると過呼吸になって、酷いときには倒れてしまう。
対人恐怖症を患っていても、先生が書かれる作品は出すたびにヒット作になる。
なので、出版会社からすれば、是が非でも繋ぎ止めておきたい逸材であった。
ちなみに、僕がゲイということは担当になった時に話してある。
複雑な事情を持つ先生だから先に話さなくてはと思ってのことで、僕が担当する作家さんでゲイだとカミングアウトしたのは、相良先生だけだった。
ゲイだと知られたら流石に担当を断られると思っていたんだけど、僕の予想に反し、先生は僕を担当のままにしてくれた。
花蓮ちゃんも花蓮ちゃんで、お父さんがいいというなら…と僕を認めてくれているようだった。
花蓮ちゃんいわく、僕は相良先生に似ているらしい。
美人な先生と地味な僕とでは全然似ていないと思うのだけれど、雰囲気がよく似ているんだそうだ。
「花蓮ちゃん」
「なに?」
「先生、今日なにが食べたいかな?また部屋に閉じこもってるんだよね。
花蓮ちゃんも勉強あるだろうし、今日は僕が作ろうと思って…」
「なんでもいいんじゃないの?宮沢さん、料理うまいんだから。お父さんはなんだって完食すると思うよ」
買い物をした後、相良先生の家にお邪魔すると、すでに原稿はできていたようで、先生は嬉々とした顔で出迎えて原稿を差し出した。
先生はきちんと締め切りを守る。
締め切りはある程度の余裕を持って決められている。
作家さんもそれをわかっているのか、締め切りを過ぎても原稿をあげてこない作家さんが多い。
こうして締め切りを守ってくれる作家さんは稀である。
先生は対人恐怖症と花蓮ちゃんのことを除けば、男なのに凄く美人だし性格もいいし、出す作品はとにかく売れるので担当になりたい!って人も多い。
僕の部署でも隠れファンが大勢いて、家に押しかけてこようとした人も何人かいた。
すべて花蓮ちゃんという、優秀な番犬に追い返されていたけど。
花蓮ちゃんにきけば、先生の容姿に惹かれて告白してくる人はなにも女だけではないらしい。
こんな儚げな中性的な雰囲気をしているので、男にも女にもモテるんだそうだ。
比率としては男の人の方がちょっと多いらしい。
「宮沢さんにアドバイス貰ったおかげで、今回も終われたよ。ありがとう」
先生は繊細な顔立ちの美人さんなんだけど、喋り方はおっとりしている。
僕よりも年上なんだけど、言動はとても可愛らしくて素直な子供みたいで、およそ年上な感じはしない。
そんな先生の描く作品は、まるで先生みたいに繊細で壊れそうな作品が多かった。
激しく、そして最後は蝋燭の灯のように儚く。
毎度どこか、儚く悲しく終わりを迎える先生の作品は、若い子のみならず、オトナにも人気だった。
「先生、今回もお疲れさまでした。
帰ってじっくり読ませていただきますね」
「うん。よろしくお願いします。」
先生は恭しく頭を下げる。つられて僕も先生に頭を下げた。
「宮沢さん、今日暇?」
「ええ。暇ですけど…?」
「良かった。あのね、これから夕食どうかな。一緒に…」
「いいんですか?」
「うん。あ、でも、作るのは宮沢さんにお願いしてもいいかな?」
最近、花蓮が作る料理飽きてきて…
なんて、先生は花蓮ちゃんに聞こえないように僕にこっそり耳打ちする。
「じゃあ、今日は、みんなでお鍋にしましょうか。寒くなってきましたし。ちょうど買ってきましたし」
「お鍋か、久しぶりだね、花蓮。
今日テレビで特集やってたから、食べたいって話してたんだよね」
「うん…」
「ふふ。夏目君の予想、大当たりですね。
先生がいつも『びっくりテレビ』を見てるって話、前にしたことあって…、
今日、先生鍋食べたいって思うんじゃないかな…って言ってたんですよ」
「へぇ…」
「あいつが?」
夏目君の話をした途端、花蓮ちゃんの顔が不機嫌に変わる。
「はは。でも、夏目君とやらも、本当は君と一緒にお鍋したかったんじゃないかな?
君の話だと夏目君は君にべったりらしいしね」
「そ、そんなことあるわけないですよ!」
先生は、僕が夏目君を好きなことを知っていて、時折からかってくる。
先生は夏目君と面識がないらしいが、僕が度々夏目君のことを話すのでこうして話題に出してくるのだ。
たまに夏目くんの話題が出ると、先生は悪気もなく僕を冷やかすのだった。
「僕よりなんかより彼と一緒に夕食を…って考えている女性はいっぱいいますから!
僕なんか…きっと彼の頭の片隅にも残りませんよ」
「そうかな?」
「そうです…それに…」
僕が一方的に好きなだけで。
今、相良先生のおかげで、少し会話できるようになったけど、本当はこんな僕なんかとは接点という接点がない人なんだ。
だから。
「夏目君はとってもかっこよくて、社内でも有望株なんです。
きっと、先生もあったらメロメロになっちゃうかも」
「メロメロかぁ…。そんなに凄い人ならあってみたいかもなぁ」
「え…」
「そんなにかっこいいなら僕も一度お目にかかりたいなぁ…、ってそんな顔しなくても大丈夫だよ。とらないから」
「とらないって…、別に僕は…」
「そういう顔、してたけどなぁ…」
「ダメよ!絶対。」
お鍋を持ってきた花蓮ちゃんが「絶対に会わせないからね!あんなやつ!」と息巻いている。
先生はそんな花蓮ちゃんに苦笑しながら、「はいはい」と窘めた。
先生の家で夕飯を頂いてから、会社へはよらず家への帰路を歩く。
外は12月に相応しい寒さで、小刻みに身震いをしてしまう。
「綺麗だなぁ…月…」
月を見上げながら、ブラブラと家までの道筋を歩いた。
先生はトラウマがある。
それは花蓮ちゃんいわく、最初の頃よりも少しずつ改善しているようだが、家から出ることができない。
花蓮ちゃんは一生先生の面倒を見るから、このままでいいと言っているけれど、先生も本当はこのままでいいとは思っていないはずだ。
先生も花蓮ちゃんには内緒で僕に不安を吐露することがあるし、先生が書かれる作品は悲恋が多い。
とても美しく読んだ後余韻に浸れる物語が先生の売りでもある。
だが、先生は、悲しい物語しか書くことができない自分は未熟だと卑下していた。
先生が、いつかハッピーエンドが書けるようになったら。
先生がトラウマを克服できるサポートができたら。
僕も一人前の担当として、もっと自分に自信が持てるだろうか。
夏目くんのように、作家の先生に頼られるような、そんな人間になれる日もくるんだろうか…。
夏目くんのように、もっと自分に自信が持てる日がくるんだろうか…。
今の仕事に対して、もっと胸をはれる自分になれたりしないだろうか…ーーー。
僕自身のトラウマも克服することはできないだろうか……。
□□■
「あ、宮沢さんだー、こんにちは!」
相良先生の家の近くの最寄駅。
ばったりと女子学生4人組に遭遇した。
相良先生の娘、花蓮ちゃんとそのお友達である。
花蓮ちゃんは、僕の姿をみとめると、「どうも…」と小さく頭を下げた。
「なんで、あんたまでいんの…?」
しかし、僕の横にいる夏目君を見た瞬間に、花蓮ちゃんの顔はまるで般若のように強張る。
氷点下まで下がった冷たい視線で夏目君を睨みつけた。
「なんで、って。
俺と宮沢さんがなんで一緒にいちゃいけないんです?
いつも言っているように、君に反対される覚えはないんですけど」
夏目君はそういって僕の肩を掴んで、見せつけるように自分の胸元へ僕をひき寄せた。
肌に触れた体温に、かぁ…と頬に熱が帯びる。
「な、夏目君?」
突然の密着状態に焦る僕に対し、夏目君はどこか得意な笑みで花蓮ちゃんに微笑んだ。
「別にあんたらがどうだろうが、私には関係ないけど…。
お父さんの前では、一切顔見せるな、って言ったよね?」
「お父さんの前では、だろ?
ここは確かに相良先生のお宅の最寄り駅だけど、先生はいないじゃないですか…?」
「……」
花蓮ちゃんは、夏目くんの言葉に不機嫌な様子を隠すことなく眉根を寄せた。
花蓮ちゃんは、男嫌いである。
しかも顔の整った美形が特に嫌いで、僕が知る中では夏目君に対する態度が一番冷たい。
こうして顔をあわせば、嫌悪に顔を歪め口喧嘩に発展する。
思春期の女の子だから本当は好きなのに素直になれなくて冷たい態度をとってしまうのかな?と思っていたんだけど、聞くところによると本当に嫌いらしい。
あいつなんかと一緒にいるくらいなら、ゴキブリと一緒にいたほうがマシだと豪語していた。
夏目君もよせばいいのに、相良先生に原稿を取りに来る僕についてきては、時折出会う花蓮ちゃんに対してからかいの言葉をかけている。
まさか、花蓮ちゃんのことが好きなのではないか…なんて、担当の先生の娘もライバル視してしまう僕は相当重症である。
少なくとも、同性で親父な僕なんかよりずっと夏目君の恋愛対象になる可能性が高いのではないだろうか。
花蓮ちゃんを揶揄う夏目くんも満更ではないのか…。
まさか、夏目くんの気になる人って花蓮ちゃんなんじゃ…。
「宮沢さん、早く行こう。お父さん、待ってる。
こんな男と一緒にいちゃ、ダメ」
「え…、かれんちゃ…」
花蓮ちゃんは無理矢理僕の腕をとって、歩き出す。
焦って夏目君を見やれば、夏目君は僕に向かって、「また」と口を動かして手を振った。
「私、このまま宮沢さんと帰るから。また明日ね、みんな」
「うん、じゃあ!」
「ええ、また明日」
夏目くんと強制的に離されて、花蓮ちゃんに相良家へと連行される。
「相良」という名前は先生のペンネームで本名ではない。
先生の本名は、海月智也さんっていうんだ。
なので、花連ちゃんの本名も、海月花蓮という。
綺麗な名前だよね。
先生は、昔は出版会社ではなくて大手の外資系企業に勤めていたんだけど、トラブルがあってやめたらしい。
先生は、その後作家になったんだけど、とある出版社とトラブルになったようで…。
どんなトラブルかは知らないけど、先生にとって、とてもショックなことが起こったみたいでそこから色々あって深刻な対人恐怖症になってしまったそうだ。
男の人を前にすると過呼吸になって、酷いときには倒れてしまう。
対人恐怖症を患っていても、先生が書かれる作品は出すたびにヒット作になる。
なので、出版会社からすれば、是が非でも繋ぎ止めておきたい逸材であった。
ちなみに、僕がゲイということは担当になった時に話してある。
複雑な事情を持つ先生だから先に話さなくてはと思ってのことで、僕が担当する作家さんでゲイだとカミングアウトしたのは、相良先生だけだった。
ゲイだと知られたら流石に担当を断られると思っていたんだけど、僕の予想に反し、先生は僕を担当のままにしてくれた。
花蓮ちゃんも花蓮ちゃんで、お父さんがいいというなら…と僕を認めてくれているようだった。
花蓮ちゃんいわく、僕は相良先生に似ているらしい。
美人な先生と地味な僕とでは全然似ていないと思うのだけれど、雰囲気がよく似ているんだそうだ。
「花蓮ちゃん」
「なに?」
「先生、今日なにが食べたいかな?また部屋に閉じこもってるんだよね。
花蓮ちゃんも勉強あるだろうし、今日は僕が作ろうと思って…」
「なんでもいいんじゃないの?宮沢さん、料理うまいんだから。お父さんはなんだって完食すると思うよ」
買い物をした後、相良先生の家にお邪魔すると、すでに原稿はできていたようで、先生は嬉々とした顔で出迎えて原稿を差し出した。
先生はきちんと締め切りを守る。
締め切りはある程度の余裕を持って決められている。
作家さんもそれをわかっているのか、締め切りを過ぎても原稿をあげてこない作家さんが多い。
こうして締め切りを守ってくれる作家さんは稀である。
先生は対人恐怖症と花蓮ちゃんのことを除けば、男なのに凄く美人だし性格もいいし、出す作品はとにかく売れるので担当になりたい!って人も多い。
僕の部署でも隠れファンが大勢いて、家に押しかけてこようとした人も何人かいた。
すべて花蓮ちゃんという、優秀な番犬に追い返されていたけど。
花蓮ちゃんにきけば、先生の容姿に惹かれて告白してくる人はなにも女だけではないらしい。
こんな儚げな中性的な雰囲気をしているので、男にも女にもモテるんだそうだ。
比率としては男の人の方がちょっと多いらしい。
「宮沢さんにアドバイス貰ったおかげで、今回も終われたよ。ありがとう」
先生は繊細な顔立ちの美人さんなんだけど、喋り方はおっとりしている。
僕よりも年上なんだけど、言動はとても可愛らしくて素直な子供みたいで、およそ年上な感じはしない。
そんな先生の描く作品は、まるで先生みたいに繊細で壊れそうな作品が多かった。
激しく、そして最後は蝋燭の灯のように儚く。
毎度どこか、儚く悲しく終わりを迎える先生の作品は、若い子のみならず、オトナにも人気だった。
「先生、今回もお疲れさまでした。
帰ってじっくり読ませていただきますね」
「うん。よろしくお願いします。」
先生は恭しく頭を下げる。つられて僕も先生に頭を下げた。
「宮沢さん、今日暇?」
「ええ。暇ですけど…?」
「良かった。あのね、これから夕食どうかな。一緒に…」
「いいんですか?」
「うん。あ、でも、作るのは宮沢さんにお願いしてもいいかな?」
最近、花蓮が作る料理飽きてきて…
なんて、先生は花蓮ちゃんに聞こえないように僕にこっそり耳打ちする。
「じゃあ、今日は、みんなでお鍋にしましょうか。寒くなってきましたし。ちょうど買ってきましたし」
「お鍋か、久しぶりだね、花蓮。
今日テレビで特集やってたから、食べたいって話してたんだよね」
「うん…」
「ふふ。夏目君の予想、大当たりですね。
先生がいつも『びっくりテレビ』を見てるって話、前にしたことあって…、
今日、先生鍋食べたいって思うんじゃないかな…って言ってたんですよ」
「へぇ…」
「あいつが?」
夏目君の話をした途端、花蓮ちゃんの顔が不機嫌に変わる。
「はは。でも、夏目君とやらも、本当は君と一緒にお鍋したかったんじゃないかな?
君の話だと夏目君は君にべったりらしいしね」
「そ、そんなことあるわけないですよ!」
先生は、僕が夏目君を好きなことを知っていて、時折からかってくる。
先生は夏目君と面識がないらしいが、僕が度々夏目君のことを話すのでこうして話題に出してくるのだ。
たまに夏目くんの話題が出ると、先生は悪気もなく僕を冷やかすのだった。
「僕よりなんかより彼と一緒に夕食を…って考えている女性はいっぱいいますから!
僕なんか…きっと彼の頭の片隅にも残りませんよ」
「そうかな?」
「そうです…それに…」
僕が一方的に好きなだけで。
今、相良先生のおかげで、少し会話できるようになったけど、本当はこんな僕なんかとは接点という接点がない人なんだ。
だから。
「夏目君はとってもかっこよくて、社内でも有望株なんです。
きっと、先生もあったらメロメロになっちゃうかも」
「メロメロかぁ…。そんなに凄い人ならあってみたいかもなぁ」
「え…」
「そんなにかっこいいなら僕も一度お目にかかりたいなぁ…、ってそんな顔しなくても大丈夫だよ。とらないから」
「とらないって…、別に僕は…」
「そういう顔、してたけどなぁ…」
「ダメよ!絶対。」
お鍋を持ってきた花蓮ちゃんが「絶対に会わせないからね!あんなやつ!」と息巻いている。
先生はそんな花蓮ちゃんに苦笑しながら、「はいはい」と窘めた。
先生の家で夕飯を頂いてから、会社へはよらず家への帰路を歩く。
外は12月に相応しい寒さで、小刻みに身震いをしてしまう。
「綺麗だなぁ…月…」
月を見上げながら、ブラブラと家までの道筋を歩いた。
先生はトラウマがある。
それは花蓮ちゃんいわく、最初の頃よりも少しずつ改善しているようだが、家から出ることができない。
花蓮ちゃんは一生先生の面倒を見るから、このままでいいと言っているけれど、先生も本当はこのままでいいとは思っていないはずだ。
先生も花蓮ちゃんには内緒で僕に不安を吐露することがあるし、先生が書かれる作品は悲恋が多い。
とても美しく読んだ後余韻に浸れる物語が先生の売りでもある。
だが、先生は、悲しい物語しか書くことができない自分は未熟だと卑下していた。
先生が、いつかハッピーエンドが書けるようになったら。
先生がトラウマを克服できるサポートができたら。
僕も一人前の担当として、もっと自分に自信が持てるだろうか。
夏目くんのように、作家の先生に頼られるような、そんな人間になれる日もくるんだろうか…。
夏目くんのように、もっと自分に自信が持てる日がくるんだろうか…。
今の仕事に対して、もっと胸をはれる自分になれたりしないだろうか…ーーー。
僕自身のトラウマも克服することはできないだろうか……。
□□■
0
あなたにおすすめの小説
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。
山法師
BL
南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。
彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。
そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。
「そーちゃん、キスさせて」
その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる