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3話
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しおりを挟む「はぁ…」
会社のデスクで肘をつきながら、ため息をひとつ。
花の金曜日で明日は休みだというのに、先生のことでため息が溢れる。
所詮他人事…なんて思うことができなくて、でも結局、解決策が見つからなくて、見えない迷路を地図も当てもなくさまよっているような、途方もない状態に陥っている。
ゴールがどこにあるんだか、わからない。
そもそも、こんな自分の過去も清算できてない僕が、先生の役に立てると思ったのが間違いだったのか。
滅入ってしまいそうな気持ちにカツを入れて、パソコンから視線をあげる。
就業時間をとうに過ぎた今は、フロアでも残っている人はまばらだった。
気分転換も兼ねて、机から離れ休憩室に向かう。
休憩室は1つ上の階の5Fフロアにあって、なかなかの広さがある。
僕は休憩室の大きな窓から見える景色がお気に入りで、休憩時間は窓に近い席でお昼を取るようにしていた。
僕らの会社から少し離れたところに大型の遊園地があって、夜は会社の窓から、ライトアップされた大観覧車がみることができる。
そのライトアップされた観覧車を見るのが、残業中の僕の密かな楽しみだった。
観覧車は、僕の中では並々ならぬ思い入れがある。
観覧車は初めての恋人との思い出がつまった場所だった。
彼に未練はないはずなのに、僕は何か落ち込んだことがあると遊園地の夜景を見に、5Fの休憩室に足が向く。
観覧車は別れを告げられた場所。
僕にとって観覧車はトラウマでもあるのに、こうして遠くから眺めるのは好きだった。
いざ観覧車に乗ろうとすると足が竦んで動けなくなるのに、遠くから眺めるのは好きで何時間も飽きることなく見ていられた。
遠くから見るだけで満足…なんて、今の僕の恋愛そのものだった。
「宮沢さん」
ぼんやりと休憩室で黄昏れていた僕に、声がかかる。
「夏目くん…」
「なんだか最近は凄く落ち込んでますね。
なにかありましたか?」
夏目くんは、そういって、自販機で買ってきた珈琲を僕に差しだした。
僕がいつも好んで飲んでいるメーカーのコーヒーだ。
「奢りです。頑張っている宮沢さんに」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。
それより、なにか、ありましたか?ここのところ、なんだかぼんやりしているみたいですが…」
「そう…かな…」
「なんかいつもの宮沢さんらしくないな…って。
悩みでもあるんですか?」
夏目くんは鋭いなぁ。
そんなに悩んでいることが顔に出てしまっているのかな…。
僕の何倍も忙しくしている夏目くんに心配されるなんて。
苦笑しながら、夏目くんから奢ってもらった珈琲を手に取った。
夏目くんは、僕の手前の席に座り込むと「俺で良ければ話を聞きますから」と、僕の言葉を促す。
「頼りがいのある男キャンペーン中です」
「ふふ。なにそれ」
「話す気になりましたか?」
「悩みというか…、どうしたらいいのかな…って悩んでました。夏目君、夏目君にはトラウマってありますか?」
「トラウマですか?」
「ええ。トラウマ克服には、どうすればいいのかわからなくて。
夏目くんには初恋の人以外のトラウマってありますか?」
夏目君はしばらく考えた後、ありますよと答えた。
「夏目くんも?意外です」
「意外ですか?俺も普通の人間ですし。
消し去りたい過去の1つや2つは…」
「一体どんな…って、聞いちゃダメですよね」
「別に…聞いてもつまらないと思いますけどね…」
夏目君は、そう前置きすると、持っていた紙コップに口をつけた。
そしてそのまま一気に煽ると、空になった紙コップを机に置き実は…と、口を開く。
「俺のトラウマは、この前話た初恋の人と…、従兄弟です」
「従兄弟?」
「ええ。
そんなに年も離れていない、従兄弟様がいるんです。
かなり顔も性格も似ている従兄弟で…
小さい頃はよく一緒にいました」
「へぇ。仲良かったんですね」
「仲良かったんですかね…。よくわかりません。
子供の頃だったから、いいように使われてましたよ。
優等生なんだけど、裏じゃ俺をこき使って…、二面性ある人でしたね。
性格は、ジャイアンみたいな自己中な人で…
俺は従兄弟様の家来で、いつも使いっ走りにされてましたよ」
苦笑交じりに答える夏目くん。
こき使われた、というわりにその顔に嫌悪感はなさそうだった。
笑って答えられるくらいには、仲がいいのだろう。
夏目君そっくりな俺様な従兄弟。
どんな人なんだろう、夏目くんを超える完璧な人…。
ちょっと想像がつかない。
「従兄弟さんが、夏目君のトラウマなんですか?
過去に虐められたんですか」
「ええ。まぁ。
ほんと、色々あの人にはやられましたよ。
あの人自身、なにをやらせてもソツなくこなすんですよね。
涼しい顔して。
俺がどんなに努力したことも、あの人は簡単にやってのけてしまう。
従兄弟の俺がいうのもアレですけど、あの人はできないことなんてないんじゃないか…ってくらい、なんでも完璧にこなしてましたよ。
挫折なんかしたことなんかなくて、いつだって望むものを手にして…。
こき使われたことより、俺にとってあの人の存在そのものが〝トラウマ〟ですね。
どれだけ頑張ってもあの人よりも自分はできない…って劣等感が常にありましたから」
「凄い人なんですね」
「ええ。すごい人でしたよ…」
「でした?今は…」
「もうその人はいませんから…。
俺が心の底からかなわないと思った従兄弟様は…」
夏目君はそういうと、寂しそうに笑った。
「夏目君は…もしかして…」
「…ん?なんですか?」
「…いや、なんでもないです…」
夏目君は、もしかして、その従兄弟さんが好きだった?
従兄弟さんは、いなくなったっていっていたけれど、それは死んでしまったということ?
それとも夏目君のもとから去っただけ?
そういえば、夏目くんの初恋の人は夏目くんから離れた…って言っていたけれど、従兄弟さんが初恋の人だったりするんだろうか?
そんな悲しい顔で話すのは、もう従兄弟さんに会えないからなのだろうか…ーーー。
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