~短編集~≪R18有り≫

槇村香月

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ダウト<独白>

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テーマは嘘






君はとても嘘が上手いから…僕は簡単に騙されちゃうんだ。

ねぇ、覚えているかな。
僕が君に告白した時のこと。
僕があんなに君にときめいていたの、知っているのかな。

最初から僕は、君の嘘に騙されていたのかな。


―ダウト。

小さな僕の部屋。狭い、机とベッドでいっぱいになってしまう小さなスペース。
そこに、君は来ていた。いつものように。
それは少し勉強の合間にトランプをしているときだった。


「ダウト」

ニヤリと、君こと、布川誠は得意そうにトランプを指を指しながら得意げに叫ぶ。
ぎくり、と僕の身体はその言葉に跳ねた。

「ダウト、ほら、ダウト。さっさとめくるめくる」
「うぅ…」

僕はしぶしぶ、指摘されて、トランプをめくる。
20枚くらい置かれた、一番上のカード。
ぺら、っと捲ると、そこにはスペードの1.


「はい、10なのにやっぱり1だしたな。
ダウト、っと」

誠君はニヤニヤと意地の悪い微笑みを浮かべて、僕に今積んでいたトランプの束を僕に渡した。

僕の手には、かなりの枚数のトランプ。
対する誠君の手には、もう極わずかしかトランプがない。
手札が多いほうがまけ。
つまり、また、僕の負け、決定。

何度目かの敗北に、なんだかふつふつと怒りが込み上げる。
勝負が弱い僕がいけないのであって、別に怒ること自体筋違いだってわかるんだけど。
でも、やりきれない場合もある。

何度も負けが続くと。

これで何敗目だったかな?30敗くらい?
特に誠くんとダウトしちゃうと、絶対に嘘がばれちゃうんだ。
しかも、誠君はポーカーフェイスだから、よく読めないし。
僕は負けとおし。

「やっぱり、無理だよ。
誠君、エスパーなんだもん!」
「はぁ?エスパーってなんだよ」

ケラケラと笑う誠君。
でも、僕はちゃんとわかっているんだ。
ごまかしたって、わかるんだよ。

「エスパーじゃなかったら、こんなに見抜けない筈だよ!可笑しいよ」

今やっているダウト。
誠君は、ほぼ間違いなく僕が嘘をつくとき、ダウトといってくる。
透視能力があるんじゃないかって思うくらい、見事に当ててくるんだ。

だから、僕は未だにダウトで誠君に勝てた覚えがない。
そういえば、ばばぬきなんかもあまり勝てたことないけど。
でも、ここまで当ててくるなんて、絶対に可笑しい。


「そりゃ、お前がたんに顔に出るからだ、ボケ」

ピン、っと僕のおでこにでこぴんしてくる誠君。

咄嗟に頬に両手を当てた。

そんな嘘をつくとき変な顔しているんだろうか。
自分じゃわからない。
嘘をつくのが下手なのかな。

「ねー、どうやったら嘘ってつけるの?僕も誠君みたいな見破られない嘘がつきたい!」
「はぁ?辞めとけ辞めとけ、お前にゃ、無理だ」

子供のように駄々をこねる僕に、やれやれ、っと肩を竦める誠君。
トランプを片付け、もう家に帰る準備をしようとしている。

あ、一緒に宿題やる為に誠君を呼んだのに、全然やっていないや……。
どうしよう。
誠君と一緒にいると本当に時間が過ぎるのが早く感じる。

「もうちょっと、うちに居てよ…」
「あぁ?夕飯の時間…」
「うちで食べていけばいいよ!」

名案だ!とばかりに僕は誠君の腕に抱き着く。
まだ、誠くんと別れたくなかった。離れがたかった。

誠君は一瞬、ギクリ、と身体を強張らせた。
それはほんの、一瞬だったけれど。


「誠…くん?」
「悪ぃ…じゃ、ご馳走になるかな…」
「うん!じゃあ母さんに知らせてくるね!」

僕は妙にウキウキと浮かれたまま、部屋を出て、母さんに誠君の分の夕飯を作るように頼む。

誠君といられると、無条件に嬉しくて頬が緩んでしまう。
誠君が優しいからかな。誠くんと一緒の時間って、凄く楽しいんだ。


その時の僕は、恋と友情の違いもわからないような、ウブな人間だった。
だから、誠君への離れ難い気持ちも、よくわからずに自分の中で自己解決してきた。この感情を、知らない振りをしたかったのかもしれない。
アノ頃は、まだ、僕は何も知らないウブな人間だった。
だから、嘘も見抜けないような、そんな人間でもあった。

アノ頃は。



「誠君」
「おー、お帰り。おばさん、なんだって?」
「用意してくれるって。だからもう少しゆっくりしていてもへーきだよ」

言いながら、僕は先ほどと同じように誠君の目の前に座る。
僕らの真正面に置かれたトランプはもうない。

誠君が片付けてくれたようだ。
誠君に片付けてくれたお礼を言うと、誠君は別にいいとヘラリと笑う。僕もそれにつられるように笑って見せる。


「あー、あ。でもまた負けちゃった、ダウト。全然っ勝てないんだもん」
「なー、お前、嘘下手だもんなー」
「うっ…誠君がうますぎるんだよ!」

別に僕が特別に下手じゃない…筈だ!

でもそんなすぐ気持ちが顔に出るなんて、嫌だな。
隠し事出来ない…。
すぐ見破られちゃう。

ううむ…と悩んでいると、不意にこちらを見つめている誠君と視線があたった。
じっ、っと真剣な表情をした、誠君。
瞬間、どきりと胸が跳ねた。

「…誠君?」
「じゃあ、今から俺は嘘しか言わないから。
お前はダウトって言い続けろ」
「へ?なに?」
「いいから、いくぞ。お前はダウトが強い」

なんだろ…これ。僕に対する当てつけかな。

「ほら、ダウトかダウトじゃないか。早く答えろ」
「……ダウト」
「正解」
「わかってるよ!言われなくたって!」

僕はダウトが超弱なんて、嘘つけない性格だなんて。
単純な人間だって。今更そんなこと言われなくたってわかってる。


「んじゃ、つぎな。お前は俺を愛してない」
「え…」
「ほら、イエスかダウトか」

愛して…ない?
えっ…え?
それって、なに?

愛してない…て。
え?
えええーーー

「誠君…」

困って誠君の方を見ても誠君は、凄く真剣な表情。
冗談…で言っている言葉ではない…ようだ。
でも。
でも…僕が誠君を愛してるって…。

え…。

「あの、」
「ほら、あっているか、あってないか」
「イ、イエス」

動揺したように、声が震える。

「ダウト」

僕の言葉にすかさず、誠君は言葉を返した。


「ダウト、だろ」
「え、でも。だって…」

ダウトって事は…
愛してないが嘘ってことは。
僕が誠君を愛しているって訳で。

誠君を…僕が…。
そりゃ、友人として好きだけど。
誰よりも好きだけど。
でも…。

「誠君…」
「ダウトって言えよ」

言いながら、僕の側により、顔を寄せてくる誠君。

「俺はわかってるから」
低い囁くような、甘い言葉。
まるで、言葉に魔力でもあるような、魅力的な言葉。
だから、つい僕は釣られるように言ってしまったんだ。

「ダウト」
―誠君。

ねぇ…。僕ね。
あのときは誠君に言わされたけど。
でもね、僕あれから君と付き合って、本当に好きになっていったんだよ。

誠君。
あの頃と違って僕、随分嘘が上手くなったんだよ。
君が、もう見抜けないくらいに…。

僕、もう何も知らない子供ではなくなってしまった。







「昨日、家きたか?」
僕を抱きしめ、口付けをしながらそんな無粋なことを聞いてくる誠君。

昨日…、うん。家、行ったよ。
そしたら、誠君。見知らぬ男の子を抱いていたよね。

絡んで、あんあん言わせてた。
浮気、してたよね。ばっちり見ちゃったよ。


「…きた…か?」
「ううん。いってないよ」

僕は首をふり、きょとんと首を傾げ、なんで?と問う。
誠君は来てないならいいんだ…と、また僕を人形のようにぎゅっと抱きしめた。

嘘をつく。もう数え切れないほどの嘘を。


「ねぇ僕の事好き」
「何を今更」
「言ってよ」

君が好きだから。君を愛してしまったから
自分の為に、嘘をつく。

「好きだよ…」

ぶっきらぼうにもういいだろ…といいすてながら、誠君は僕を押し倒す。
嘘が下手になったね、誠君。
声が上擦っていたよ。

それでも僕は笑う。なんともありませんって顔で笑ってやる。

どんなに浮気されたって。どんなに、約束反古されたって。

君の事が好きだから。

でも、悲しいね。


「お前の事愛してる」
「ダウト」
「はっ…」
「…なんて…ね」

今は君より僕の方が、嘘が上手くなったみたいだ。


嘘を何回も重ねれば、いつか真[ほんとう]になるのかな。
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