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先行投資・俺だけの人。
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いつ終わったのか。
いつまで私たちは抱き合っていたのか。
そんなこともわからないまま、朝は来る。
いつもと同じような、朝が。
『公久さん…、』
狂気じみた、激しい性行は、果たして、暴力とも言えるのだろうか。
激動、とも言える行為だったのに、終わってしまえばまるで嵐の後のように静かだ。
今は、何もない。とても、静か。
こうやって朝起きたところで、昨日の事が夢だったようにも思う。
「―ん、…」
鈍い痛みと共に、脳が少しずつ覚醒していく。
腰が痛い。喉も痛い。頭も痛い。痛いところだらけだ。
辺りを見回すと、カーテンの隙間から、朝日の光が毀れ落ちていた。
壁側の時計を見ると、既に8時は回っている。
いつもなら、とっくに起きている時間。
「い…つき…、」
随分とかれた声が出た。昨日あんなに啼かされたから…。
あんなに、声をあげたのも、樹の前で喘いだのも初めてかもしれない。
あんなに、樹が怒っているのも…。
樹が私に反発したのも。
私を抱きたいと言って、初めて抱いた日以来だ。
「ん…、」
もぞもぞ、と動く私の隣に眠る塊。
「いつき…?」
「ん…」
樹は、私の隣で、昨日あったあの樹が嘘のように穏やかな顔をして眠っている。
至極満足そうな顔をして。
片腕で、私の腰をしっかり抱いて。
樹は私の身体に覆いかぶさるように、私を抱きしめたまま眠っている。
さながら、私は抱き枕…か。
昨日の狂気じみた顔が嘘のように、その顔は、穏やかないつも私が見ている樹のものだった。
昨日は裸のままで抱き合っていたが、私が気絶した後、樹が後の事はやってくれたのか。
綺麗なパジャマを着せられていた。
樹は樹で、パジャマの下だけを身に着けている。
色々と後処理はされていたおかげで、身体のべたつきや不快感はなかった。
ただ、少し節々が痛いけれど…。
「いつき…」
包まれる腕。厚い胸板。私を簡単に包み込めるほどの体躯。
既に、その身体は私のモノよりもはるかに大きい。
樹は、いつの間にこんなに成長したんだろう。
抱きしめられた片腕に、そっと手を重ねる。
「逃げたり、しないのに…」
ぽつりとつぶやく。
逃がさない、といっていた。
反発しつつも、本当は、逃がしてほしくないと思う自分もいた。
プライドから、言えなかったけれど。
本当は、不安ごとそのまま樹が抱いてくれたら…なんて思ってしまった。
どんなに、苛まれてもいいから。離さないでほしかった。
けして、それは素直に樹に言えないけれど…。
あんなに欲しいと言われて、少しだけ、心が軽くなったんだ。
ここに…樹の傍にいてもいいんだ、って。
馬鹿だな、私は。
樹の身勝手な行為に反発しつつも、本当は、ずっとそうしてほしいと思っているだなんて。
怖がってばかりで、傍にいても言えないし、素直にもなれない。
でも、それが、〝私〟だ。
自分に自信が持てないし、後ろ向きな考えばかりしている。
そんな私だから、縛ってほしいとすら思うのだ。
何も考えられなくなるくらい。
蒼真との付き合いは、私を楽にしてくれた。
それは、〝年上〟だから、だとか、〝しっかりしなくちゃいけない〟等思わなくてよくて、気が楽だったからかもしれない。
樹の前ではしっかりしようとしている私だけど、本当は、私は少し強引に引っ張られる方が安心するのかもしれない。
「狂っている…か。なら、私も、異常、か…」
樹は自分のことを狂っていると言っていた。
しかし、私の方が異常かもしれない。樹に捕らわれているのは、私の方だ。
樹は、ただ、私が離れることに臆病になっているだけだ。
昔、親から見捨てられたことがトラウマになって、私がいなくなることも嫌がっているだけ。
きっと、それは愛しさからじゃない。愛じゃないだろう。
きっと、同じように樹から離れる人間がいれば、樹はまた、同じようにその人に縋るだろう。
樹は、好きな玩具を取り上げられて、寂しがっているだけだ。
もう玩具を失いたくないと思っているだけ。
またすぐ変わりが見つかれば、私のことなんかすぐに忘れてしまう。
たぶん、だけど。
私は、お前にそこまで好かれている自身がないし、私自身樹を縛れるほどの魅力を持っているとは思えない。
弱いんだ、私は。
好きな人がいなくなるのが、何よりも怖いんだ。
「いつき…」
眠る樹の頭を撫でる。サラリ、と樹のサラサラした髪が指の間を滑っていく。
サラサラとした、手触りのいい、細い、樹の髪の毛。
金色のそれは、まるで、輝く黄金の糸のようだ。
「私は、お前を不安にさせていたのか…」
私は不安だった。でも…樹も不安だったのか。
この離れていく見えない壁が。
「怖かったのか、私がいなくなることに、お前も…」
樹も、ずっと…。
「お前も怖いと思ってくれたのか…」
その感情は、愛だろうか。ただの独占欲だろうか。
わからない。
「私の願いは…一つだけ…。出来るなら、樹だけの世界にいきたい…」
樹だけしかいない世界に行きたい。
樹と私しかいない世界に行ければいいのに。
そう思う私は、やっぱり、かなり異常なのかもしれない。
樹が、他の誰にも見ないようになればいい、だなんて。
*
いつまで私たちは抱き合っていたのか。
そんなこともわからないまま、朝は来る。
いつもと同じような、朝が。
『公久さん…、』
狂気じみた、激しい性行は、果たして、暴力とも言えるのだろうか。
激動、とも言える行為だったのに、終わってしまえばまるで嵐の後のように静かだ。
今は、何もない。とても、静か。
こうやって朝起きたところで、昨日の事が夢だったようにも思う。
「―ん、…」
鈍い痛みと共に、脳が少しずつ覚醒していく。
腰が痛い。喉も痛い。頭も痛い。痛いところだらけだ。
辺りを見回すと、カーテンの隙間から、朝日の光が毀れ落ちていた。
壁側の時計を見ると、既に8時は回っている。
いつもなら、とっくに起きている時間。
「い…つき…、」
随分とかれた声が出た。昨日あんなに啼かされたから…。
あんなに、声をあげたのも、樹の前で喘いだのも初めてかもしれない。
あんなに、樹が怒っているのも…。
樹が私に反発したのも。
私を抱きたいと言って、初めて抱いた日以来だ。
「ん…、」
もぞもぞ、と動く私の隣に眠る塊。
「いつき…?」
「ん…」
樹は、私の隣で、昨日あったあの樹が嘘のように穏やかな顔をして眠っている。
至極満足そうな顔をして。
片腕で、私の腰をしっかり抱いて。
樹は私の身体に覆いかぶさるように、私を抱きしめたまま眠っている。
さながら、私は抱き枕…か。
昨日の狂気じみた顔が嘘のように、その顔は、穏やかないつも私が見ている樹のものだった。
昨日は裸のままで抱き合っていたが、私が気絶した後、樹が後の事はやってくれたのか。
綺麗なパジャマを着せられていた。
樹は樹で、パジャマの下だけを身に着けている。
色々と後処理はされていたおかげで、身体のべたつきや不快感はなかった。
ただ、少し節々が痛いけれど…。
「いつき…」
包まれる腕。厚い胸板。私を簡単に包み込めるほどの体躯。
既に、その身体は私のモノよりもはるかに大きい。
樹は、いつの間にこんなに成長したんだろう。
抱きしめられた片腕に、そっと手を重ねる。
「逃げたり、しないのに…」
ぽつりとつぶやく。
逃がさない、といっていた。
反発しつつも、本当は、逃がしてほしくないと思う自分もいた。
プライドから、言えなかったけれど。
本当は、不安ごとそのまま樹が抱いてくれたら…なんて思ってしまった。
どんなに、苛まれてもいいから。離さないでほしかった。
けして、それは素直に樹に言えないけれど…。
あんなに欲しいと言われて、少しだけ、心が軽くなったんだ。
ここに…樹の傍にいてもいいんだ、って。
馬鹿だな、私は。
樹の身勝手な行為に反発しつつも、本当は、ずっとそうしてほしいと思っているだなんて。
怖がってばかりで、傍にいても言えないし、素直にもなれない。
でも、それが、〝私〟だ。
自分に自信が持てないし、後ろ向きな考えばかりしている。
そんな私だから、縛ってほしいとすら思うのだ。
何も考えられなくなるくらい。
蒼真との付き合いは、私を楽にしてくれた。
それは、〝年上〟だから、だとか、〝しっかりしなくちゃいけない〟等思わなくてよくて、気が楽だったからかもしれない。
樹の前ではしっかりしようとしている私だけど、本当は、私は少し強引に引っ張られる方が安心するのかもしれない。
「狂っている…か。なら、私も、異常、か…」
樹は自分のことを狂っていると言っていた。
しかし、私の方が異常かもしれない。樹に捕らわれているのは、私の方だ。
樹は、ただ、私が離れることに臆病になっているだけだ。
昔、親から見捨てられたことがトラウマになって、私がいなくなることも嫌がっているだけ。
きっと、それは愛しさからじゃない。愛じゃないだろう。
きっと、同じように樹から離れる人間がいれば、樹はまた、同じようにその人に縋るだろう。
樹は、好きな玩具を取り上げられて、寂しがっているだけだ。
もう玩具を失いたくないと思っているだけ。
またすぐ変わりが見つかれば、私のことなんかすぐに忘れてしまう。
たぶん、だけど。
私は、お前にそこまで好かれている自身がないし、私自身樹を縛れるほどの魅力を持っているとは思えない。
弱いんだ、私は。
好きな人がいなくなるのが、何よりも怖いんだ。
「いつき…」
眠る樹の頭を撫でる。サラリ、と樹のサラサラした髪が指の間を滑っていく。
サラサラとした、手触りのいい、細い、樹の髪の毛。
金色のそれは、まるで、輝く黄金の糸のようだ。
「私は、お前を不安にさせていたのか…」
私は不安だった。でも…樹も不安だったのか。
この離れていく見えない壁が。
「怖かったのか、私がいなくなることに、お前も…」
樹も、ずっと…。
「お前も怖いと思ってくれたのか…」
その感情は、愛だろうか。ただの独占欲だろうか。
わからない。
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