先行投資

槇村香月

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先行投資・俺だけの人。

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ぐちゃ…ぐちゃ。ぐちゅぐちゅ。
ぴちゃ…、ピチャ…。

「んあ…、」

吐息が漏れる。
揺さぶられるリズムに合わせて。

こんな…こんな無理やり抱かれているのに…

「んぁ…ああっん…」

気持ちいい…。ただ…流されるほどの快楽に襲われる。
頭では嫌なのに、身体が今の状況に喜び跳ねる。
もしも手が縛られていなかったら…無理やりなのに、樹の首元に手を回し、行為を受け入れていただろう。


「…ん、あん…」
「いいこえ」
「や…んんん、」
「可愛い」

ちゅ、と首筋に口づけを落とす樹。
艶めかしい声をあげたくなくて、唇を噛む。
こんな声、私じゃない…!

しかし、樹はそれを許してはくれず…。
私の口に、無理やり指を入れた。

「もっと、聞かせてよ…」
「ふっん…ん、」
「かわい…」

クスリと笑いかける樹。
相変わらず私の中にペニスを入れたまま、私がいけないように私のペニスを握っている。

苦しい。
あと少しでいけそうなのに。でも、樹はぎりぎりのところで塞ぎ留め、その度に私は狂おしいほどの快感に身をよじる。

いきたい。もう、いかせてほしい。


「ふ…いつき…いつき…、も…や…」
「なんで?いつもしてるじゃん、何浮気相手としたから嫌なの」
「ちが…」
「…それとも、俺が浮気相手、なの…」
「違う…」
「ああ、俺はただの息子なだけ?」

違う、違うのに。
樹は、どす黒い瞳のまま。

どこか、遠くを見ている。

まるで…、どこか壊れたみたいに。
その瞳には私を映していない。

壊れた…?
いや、違うような気もする。

今思えば、この一面も、樹の一部だったように思う。
樹はいつも何かに怯えていた。
だから、必要以上に、私に甘えていたこともある。

何かに怯えるように。
何かから、離れないように。

もしかしたら、樹も私と同じように不安に思っていたのか…。
私が樹が私の元から去るのを怖がっていたように…。








「ねぇ、公久さん俺ね、公久さん以外何もいらないんだよ。他の誰もいらない。公久さんだけ俺には公久さんだけなんだ。他はね、いらないんだよ。なんにもいらない。公久さんがいてくれるなら…」
「…私…だけ…?嘘…」

だって、樹には沢山の人がいる。私には誰もいない。
みんな樹を欲しがる。そして、樹も私の手から離れていく。
だから…、

「嘘じゃないよ…ああ、そうだ。お仕置き…ね、ここに監禁するなんてどうかな。ずっと俺だけに抱かれて過ごしていくの。誰にも会わないで、誰にも見せないで。俺だけの公久さんでいて貰うの。俺だけの為に生きて、俺だけの為に存在する…」
「そんなこと、できない…んっ」
「できるよ、俺は…公久さんの為なら。俺はなんだってできるんだよ…」
「んんっ」

荒々しい口づけ。
無理やり私の舌に己の舌を絡ませては、より深く口づけてくる。

―俺だけの為に生きて、俺だけの為に存在する――

もし…もしも。樹が私だけの為に生きて、私だけの為に存在してくれたなら。
私は喜んで監禁でもなんでもされるのに。

樹が、私だけのものだったら。
もしも…この世界が私と樹だけだったら…なんて、私はそんな狂ったことまで考えてしまうんだよ。


「ねぇ、公久さん俺のことおかしいって思う?狂ってるだなんて…」
「あ…っ」

樹は手を、私の腹にやる。
それからゆっくりとそこを撫でた。

「ほんとはね…、ここに、俺の一日中嵌めて…、一日中抱き合っていたいんだよ…。俺ので、いっぱいにして、沢山沢山ミルク飲ませ…て、」
「や…、」
「ここに、俺の…っ注いで…、一日中ふたをして…公久さんを孕ませたいのに…」
「んっ…んぅ…、はっ…あ…ん…」
「公久…さん…、」

ガシガシ、とひときわ大きく樹が動く。その動きに気遣いはない。
本能のまま、快楽を追っているようだ。

腰を捕らえられ、その度に最奥に叩きつけられる。

パンパン、という音が、早く激しくなっていく。

「公久さっ…、」

眉をよせて、低く呻く樹。
またいくんだろうか。
ぼんやりと考えていたところで、ズルり、と樹のものは出ていく。

「…んぁ…」

―ペチャ。

「公久さん…、」

恍惚の樹の顔。
樹は…行く寸前でペニスを抜き、私の胸に己の欲望をかけたのだ。

白く汚れた私の胸。まるで…、

「公久さん…俺ので、母乳が出ているみたいだ」
「…っ!や…、」
「ここも…尖っているし…、すっごい、えっち…」

ふるふる、と乳首を指で揺らす。悪戯なその手つきに、ぞくりと背筋が震える。

まるで…本当に私の母乳でも出したかのような状態に、頬が赤らみ、口が震える。


「…つき…ん…も…や…めて…」
「やだ。やめない。公久さんも狂えばいいんだ。だから辞めない。公久さんが、俺のものになるまで」
「んっー」

樹はまた私の中へペニスを挿入する。

「…やぁ…、」

また、来る。
狂おしいほどの、快感が…。


「や…、いつき…」

私は必死に身をよじり、逃げ出そうとしたが…それは叶わず…。

「いつ…きぃ…いや…いつ…」

樹にまた深く突かれた。


 〝公久さん…、俺を捨てない…?〟
 〝公久さん…好きだよ〟
 〝俺は…公久さんが…、〟

スキだよ。
公久さんが、好きなだけなんだよ。

―この気持ちは、本当に愛なの?
〝独占欲〟や、玩具を取られた子供みたいな感じなんじゃないのか?


「いつき…、」

意識が朦朧とする。もう何時間樹に抱かれているんだろう。
樹は私に狂おしい快感を与えるものの、けしていかせてはくれなかった。
あと少しでいける、あと少しで、いけるのに…。

ほんの少し…ほんの少し…と思えば思うほど、せき止められる快感に狂いそうになる。

これが、蒼真とキスをした私へのお仕置きなんだろうか。

イケる、と期待するたびに、ペニスを握りせき止める樹に泣きたくなる。
樹が何時間も、私の中にいた。

狂おしいほどの快感が、怖い。
じわじわ、と私の精神を蝕んでいって。

「いつ…き…、っひ…」

腰が、跳ねる。
樹は私の下肢に顔を埋めて、そこに舌を這わせていた。
生温かな樹の舌が、私を名弄る。
くちゅくちゅ、と激しい音を立てて、吸うその姿にゾクリ、としたものが背筋を伝う。
後ろは、今は樹のものではなく、指が入れられていた。

「…いゃ…もう…、もう…やめろ…、」
「ヤダ、」

樹は私のモノを含みながら、言う。
ささやかな口の振動に、また狂うほどの快感に襲われる。


「んん…、」
「公久さん…、」

眦にキスをして、甘い声で囁いて。

それだけで、この状況を受け入れてしまいそうになる。

もう、後戻りはできない。
もう、きっと、今までの関係ではいられないと頭ではわかっているのに。

「あ…あん…んんんぅ…、」
「…ね、公久さん、誓ってくれたらいかせてあげる。もう、誰もみないって。俺から離れないって」

耳元で、囁く樹。
誰もみない…。

誰も、見ていないのに。
見てなんかいないのに。
樹から離れないなんて、私からは離れられないのに。

樹の、馬鹿。
樹の…


「…やだ…、」
「公久さん…?」
「お前のいう事なんか…聞かない…。今のお前は私の知っている樹じゃないから…聞けないし、誓えない」

きっと、睨みつける。
樹はそんな私に自虐的にへらりと笑った。

「知っている俺じゃない?何、それ。俺が俺じゃないっていうの?こんな俺は、駄目なの?こんな、公久さんに狂って、強姦して監禁しようとしている男は嫌い?」
「…、わたしは…、」

こんな樹が嫌い…。
嫌い…?

こんな樹は確かにいつもの甘えてくる樹と違って怖い。
だけど…

嫌いになんか、なれるはずがない。
だって、樹は…私の…。

何も言わない私に、

「…そう、でもね、公久さんが嫌いでも、俺は好きだよ」

そっと耳元で囁いて。

「いつ…」
「大好き、公久さんが、好きなんだ、誰よりも…」

キスをする。
樹は、今度は、私を四つ這いにさせて、後ろから襲い掛かる。

「公久さん、ねぇ…ごめんね、公久さん…、公久さん」
「んっ、んんー」

樹。樹。
樹は泣きながら、私を犯す。

「いつき…、」

震えながら、私を乱暴に犯していく樹。

泣くなよ。なんで、犯している樹が泣くんだよ。
私が犯されているのに…。

犯されているのに。
無性に、樹を抱きしめたかった。

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