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一章 一節 「行方不明」
1-1-3「モノクロの虹」
しおりを挟む「誰か、いませんか」
――誰もいないほうがいいのだが。
引き抜いた栓を右手に、武器のように構えて扉の位置から部屋を見渡す。
突然の訪問者に驚いたように、正確には空気を揺らす扉に驚いたのだろう空気中に塵が舞っていた。
線状の黒色痕は部屋の内部、ちょうど中心まで続いているようだ。
その部屋は物が少ない。
しかし、どの部屋よりも物の扱いが雑。
扉の近くに栓を立てかけると、ゆっくりと物色し始めた。
脚の折れた椅子が辺りに散乱している。
テーブルらしきそれも重量のあるものに外傷を加えられたように木のくずに変わっていた。
床には先ほどの模造品と同じような物質が転がっている。
異様だ。
真実を過去を知ろうとすればするほど、ここには何かがいることに考えが辿り着いてしまう。
黒色痕をたどった先にあったのは、小さな床扉。
床に備え付けられたもので、普段は備蓄品を保管していたり下層へ降りるために作られる。
要するに、この状況ではすごく怖いもの、となる。
それの何かが「ここを開けろ」と指示をする。
導かれるように床扉の縁に触れる。指を見ると、模造品と同様そこまで埃が溜まっていない。
隠れた取っ手を引っ張り出すと、意を決して床扉を開けた。
その下は広い空間になっていた。
模造品と同じ物質が数えきれないほど積みあがっている。
手足、胴体、頭部。
それらが、ここに捨てられている。
どれも切断面が綺麗で、詳しく見れないがそれがかなり高い技術を要することに気づいてしまう。
しかし彼らはどういう訳か、そこがゴミ捨て場のように思えるほど雑な捨てられ方をしているのだ。
上からのぞくだけでは底がどれほど深いのかは分からないが、横幅や縦幅はそこそこの大きさがある。
手がかり欲しさにより注意深く下を見回していると、白髪と黒髪の頭部のいくつかと目が合った。
懇願するような、警告するような、苦悶の表情を変わることなく浮かべ続けている。
沸々と疑問が溢れてくる。
到底理解できないことを目にし、それは完全に思考力を失ってしまった。
あの足の持ち主はこの中にいる。
そう気づくのにそう時間はかからないだろう。
助け出すことは、恐らく出来ない。
何故ナビゲーションはここに向かうよう、そして開けるよう指示したのか。
何も出来ることはないのに。来るのが遅かったということなのか。
それはただ茫然と、モノクロの虹を眺めていた。
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