オートマタはカスケードの夢を見るか?

Yamabuki

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一章 一節 「行方不明」

1-1-5「安心感」

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 なんとか外まで脱出することができた。

 道中肉体は疲れることを知らず、ほとんど速度を落とさずにここまで走ってきた。


 煤に変わった木材が空気中を舞っている。

 強い風がそれを穿つ。
 上を見ると煤の大群が渦を巻いて空高く舞い上がっていた。

 どうしてもその景色から目が離せない。

 冷え込んだ世界を冷点が捉えた。
 

 燃え盛る上層から目を離せず、その場に座り込む。
 外ではとうとう追いつくことのできなかった月が黒色から寵愛を受けていた。

 もう追われていないという確信は持てなかった。
 一刻も早くここから立ち去るべきなのだろうが、どうしても立ち上がりたくない。

 ここから去って、自分はどこへ行くことができるのだろうか。

 名も分からないそして寄る辺の無いこの世界で、今にも焼死しそうな摩天楼だけが頼りだった。
 いや、頼りだった訳ではない。
 それは摩天楼に愛着を感じてしまったのだ。

 壊れてしまえば、動かなくなってしまう。
 壊れた町で、手に届く場所に生物が現れた。

 もうすぐ再び壊れてしまうことを知っていてもなお、ここを離れてどこかに行こうと思えないのである。
 そうこうしている内にも一つ、また一つと木が骨折していく。

「あったかい……」

 熱源へ手をかざすと、温点が熱を掴んだ。

 肉の焼けた臭い、燻ぶった臭い、彼らの臭い、微かな油の匂いが頭を支配する。

 殺されないために、相手を屠った。殺した。

 肉塊に掴まれた足と手のひらを恐る恐る交互に見ると、どちらにも煤のような黒色の血痕が残っていた。
 それは、上っていく最中に付着したものだ。もしくは、逃げてくる途中で。
 血痕であるはずがないのに、錯覚が襲う。

 思考を破棄した。
 言葉にならなかった、処理された音が空気に溶けた。


 沈黙が続く中、それの視界はまた黒く染まっていく。
 再起動するのだろう。

 もはや立ち上がる気力は残っていない。
 これに抗う術も無いので徐々に思考が奪われていく。

 今までなんとか処理しないようにしていた情報が、せき止めていた物が無くなったかのように一気に押し寄せてきた。
 これらの処理は内側の自分がきっとやってくれるだろう。

 半ば強引に結論付けて、深い休止状態に入ろうとする。
 傾く上半身を理解し、腕が頭部を守る。

 火事が危険だと分かっていても、ここから離れることはできない。

 今は、寒気から守ってくれるこの炎が愛おしく思えるのだ。
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