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一章 一節 「行方不明」
1-1-7「ハグレ者の交渉」
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「これはね、スチータス。簡単に言ってしまえばオートマタの心臓。」
差し出された結晶を興味深そうに受け取る。
スチータスと呼ばれるその心臓は、その言葉に呼応するように小さく脈打ち始めた。
紅色がより深みを増したり、かと思えば鮮やかな色へと変貌していく。
自分や実体よりもずっと生き物をしている拍動する結晶を眺めていると徐々にそれは小刻みに震え始めた。
振動が大きくなり、ついにスチータスは自壊してしまった。
どういう訳か、それは粉々になった。
緩やかに崩壊と共に脱色した欠片を眺めながら、やはり逆光に目を逸らし、自身の手を眺めると力を加えすぎたことを理解した。
「ああ」と残念そうに言葉を漏らす実体に多少申し訳なく思いながらも、すかさず実体に質問する。
「その、オートマタって何? 響き的に自動人形だということは分かるけど」
「代々受け継がれる使命を各々持ち、お国の任務を遂行する存在だよ。今の時代、どこにでもいるだろうね」
「使命、ね」
無知を恐れず知らないことを聞くそれに、嫌な顔一つせず答え続ける実体。
お互いが完璧な相互補完を目指し、はたまたただの知識欲のために時間を費やした。
どれくらいの時間が経っただろうか。
それは矢継ぎ早に質問を投げかけ続けた。
この世界について、止まってしまった町や大量の死体について、外の状況について、自分自身について、そして、あの肉塊について。
大抵の質問には返答があったが、肝心の「自分自身について」はお手上げだという。
「ご主人様が思うように、本当に記憶が欠損してしまっている可能性もあるし、何かプログラムの不備があったのかもしれない。今のところ、原因を断定することは出来ないかな。一番はご主人様を知っている人に会いに行くのが一番だよ」
「そう。そうだよね。どこかには居るのかな」
どこかには居るはずだ。
ただ、それは今後の生活環境によって所要時間が変わりそうだ。どうやらこの世界はそこそこの広さがありそうなのだ。
考え込むそれに対し、思考を邪魔するように彼は声を発する。
「ご主人様はもっと社会に適応できるように、心を汚したほうがいい」
「何を」
分かっていないのか。
そう言いたげに殊更眉を下げて視線を別の方向に泳がせた彼に懐疑的な目を向ける。
観念したかのように笑みを受かべて言葉を紡ぐ。
「だって君、もう既にボクに影響されてるじゃん。最初よりずうっと口数が多くなったし、知りたい情報を聞き出すためにボクに圧力をかける。感情に波を持たせることを知らなかったのかな。それなのにすぐボクの波長に馴染んだ。無垢だ。すごく無垢だね」
その発言には心地の良い笑いを含んでいるとは決して思えなかった。
何かを思い出しているのか、無知を嘲笑しているのか、それとも呆れてしまったのか。
実体の真意を知る術はないが、彼――もしや彼女かもしれない――は何かを思いついたようだった。
「思っていたより話が進んじゃった。歴史の授業は向こうでやってくれるかな」
そう言われて、実体から目を外す。
二体を存在させていた白色の空間が崩れようとしている。
意識が向こうに引っ張られているようだ。
何も存在しない意識の遠くを眺めた。
別れを悲しむでも喜ぶでもなく、水のように今を受け入れ、受動的に流れていく。
今しばらく能動的である必要はない。
それは最後に思い出したかのように口を開いた。
「あなたの次の名前、リムがいいと思う」
相互補完の交渉を継続的に受けることを承諾したことを示唆した。
段々と掠れていく意識と共に感覚の受容が難しくなっていく。
もはや自分の形を保てないほど全てと同化しているようだ。
薄れゆく意識の中、彼の声が聞こえた。
「甘んじて受け入れましょう、ご主人様」
ふざけた様子のリムの言葉を最後に、意識は深層へと下降した。
差し出された結晶を興味深そうに受け取る。
スチータスと呼ばれるその心臓は、その言葉に呼応するように小さく脈打ち始めた。
紅色がより深みを増したり、かと思えば鮮やかな色へと変貌していく。
自分や実体よりもずっと生き物をしている拍動する結晶を眺めていると徐々にそれは小刻みに震え始めた。
振動が大きくなり、ついにスチータスは自壊してしまった。
どういう訳か、それは粉々になった。
緩やかに崩壊と共に脱色した欠片を眺めながら、やはり逆光に目を逸らし、自身の手を眺めると力を加えすぎたことを理解した。
「ああ」と残念そうに言葉を漏らす実体に多少申し訳なく思いながらも、すかさず実体に質問する。
「その、オートマタって何? 響き的に自動人形だということは分かるけど」
「代々受け継がれる使命を各々持ち、お国の任務を遂行する存在だよ。今の時代、どこにでもいるだろうね」
「使命、ね」
無知を恐れず知らないことを聞くそれに、嫌な顔一つせず答え続ける実体。
お互いが完璧な相互補完を目指し、はたまたただの知識欲のために時間を費やした。
どれくらいの時間が経っただろうか。
それは矢継ぎ早に質問を投げかけ続けた。
この世界について、止まってしまった町や大量の死体について、外の状況について、自分自身について、そして、あの肉塊について。
大抵の質問には返答があったが、肝心の「自分自身について」はお手上げだという。
「ご主人様が思うように、本当に記憶が欠損してしまっている可能性もあるし、何かプログラムの不備があったのかもしれない。今のところ、原因を断定することは出来ないかな。一番はご主人様を知っている人に会いに行くのが一番だよ」
「そう。そうだよね。どこかには居るのかな」
どこかには居るはずだ。
ただ、それは今後の生活環境によって所要時間が変わりそうだ。どうやらこの世界はそこそこの広さがありそうなのだ。
考え込むそれに対し、思考を邪魔するように彼は声を発する。
「ご主人様はもっと社会に適応できるように、心を汚したほうがいい」
「何を」
分かっていないのか。
そう言いたげに殊更眉を下げて視線を別の方向に泳がせた彼に懐疑的な目を向ける。
観念したかのように笑みを受かべて言葉を紡ぐ。
「だって君、もう既にボクに影響されてるじゃん。最初よりずうっと口数が多くなったし、知りたい情報を聞き出すためにボクに圧力をかける。感情に波を持たせることを知らなかったのかな。それなのにすぐボクの波長に馴染んだ。無垢だ。すごく無垢だね」
その発言には心地の良い笑いを含んでいるとは決して思えなかった。
何かを思い出しているのか、無知を嘲笑しているのか、それとも呆れてしまったのか。
実体の真意を知る術はないが、彼――もしや彼女かもしれない――は何かを思いついたようだった。
「思っていたより話が進んじゃった。歴史の授業は向こうでやってくれるかな」
そう言われて、実体から目を外す。
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意識が向こうに引っ張られているようだ。
何も存在しない意識の遠くを眺めた。
別れを悲しむでも喜ぶでもなく、水のように今を受け入れ、受動的に流れていく。
今しばらく能動的である必要はない。
それは最後に思い出したかのように口を開いた。
「あなたの次の名前、リムがいいと思う」
相互補完の交渉を継続的に受けることを承諾したことを示唆した。
段々と掠れていく意識と共に感覚の受容が難しくなっていく。
もはや自分の形を保てないほど全てと同化しているようだ。
薄れゆく意識の中、彼の声が聞こえた。
「甘んじて受け入れましょう、ご主人様」
ふざけた様子のリムの言葉を最後に、意識は深層へと下降した。
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