フラワーバスケット

kamatoshi

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花屋の男

答えの花束

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麻美がオフィスに戻ると輝樹がデスクで手帳と睨めっこしていた。
「あ、麻美さん遅かったですね。どこ寄り道してたんですか?何ですか?その花束」
麻美の手にある花束を見て輝樹が尋ねる。
「龍くんの所に寄ってから来たの」
「えぇ、抜け駆けですか?」
「この花束は龍くんがくれたのよ。これはヒントであり、答えです。って言って」
「ヒント?答え?どういうことですか。その花束でこの謎が解けるってことですか?」
一気に推理小説のような言い回しになる。ここまで来たらこれはもう推理小説だ。犯人でもなんでもないが、龍之介の過去の謎を解かなければならない推理小説だ。
「輝樹くん、この花何かわかる?」
「わかるわけないじゃないですか。麻美さんがわからなかったら俺もわかりませんよ」
「だよねー」
麻美が花瓶を用意して花束を刺す。
3種類の花の長さが均等になっておらず花瓶に入れると花の高さがバラバラになった。
「本当に売り物じゃなかったのね。包装紙に包まれていたらわからなかったわ」
「本当に花束用だったんじゃないですか?花束だったらラッピングペーパーで固定されていたら長さとかあんまり関係ないでしょうし。あっ、そうだ!」
輝樹が何かに気づいて携帯を取り出して花瓶に刺された花の写真を撮った。
「今時の携帯なら画像検索で何の花なのか調べれるんじゃないかって」
撮った写真を検索エンジンにかけると類似した画像がたくさん出てくる。
「青と紫の種類の花はヒヤシンスみたいですねおそらく。もう一方の紫の花はこれ何だろうなー、あれてかこれ今よくよく見たらこの紫の花だけドライフラワーじゃないですか?」
「え?ちょっと見せて?」
麻美もよくよく注意深く見ると輝樹が言った紫と青のヒヤシンスの花以外はドライフラワーだった。
「本当だ、外がもう薄暗くて今まで気づかなかった。でもどうしてこの花だけドライフラワーなのかしら」
「単純にこの時期に花を咲かさないからじゃないですか?今調べましたけど、ヒヤシンスの開花時期は3月から5月で一応今の時期とあってます。もしかしたらこの花は今のシーズンの花じゃないからドライフラワーにして花束に入れられたってことじゃ」
「え、でもそれじゃあ。この花はこの花じゃないといけなかったってことよね」
「そうなりますね。本当にこの花はなんなんだろうなー、それさえわかれば全部わかるのかもしれないのに」
そこでオフィスの扉が開いた。
「おい、お前らもそろそろ帰れよー。麻美くん、岡田くんを拘束しない」
代表だった。
「拘束なんてしてませんよ。大丈夫です、そろそろ帰るわよ、輝樹くん」
「あ、すいません。わかりました」
輝樹と麻美は帰る準備をする。
「はー、結局何もわかりませんでしたね」
「輝樹くん、この後飲みにでも行く?輝樹くんが良かったらスーパー伊藤の近くにいつも行ってる飲み屋があるのよ。スーパーに車を置いて歩いていける距離よ」
「えぇ、いいんですか?ぜひ!」
「良かった、今時の子は飲み会も仕事ですか?とかって言う子が多いって聞くからさ」
「まぁ、そういう人もいますね。でも、俺お酒飲むの好きなんで、飲みの場で仕事の話するの好きなんですよ」
2人は帰る支度をしてそれぞれ車でスーパー伊藤に向かうことにした。
鞄などを車の中に置き、貴重品だけを持って歩いて向かう。
さっきまで龍之介がいた所はすでに何もなくなっており、視界からその空間だけがぽっかりと抜けてしまったように感じる。
それまで気づかなかったが、キッチンカーが無い今だからこそ、そのキッチンカーの先に大きな交差点があることに気づいた。オフィスがあるのが反対側の為、車でこの交差点に入ることはない。夕方で交通量の多い交差点。麻美が言う飲み屋はその交差点の向こう側にあるようだ。
2人で信号待ちをする。

その時、向こう側の信号機の下にある物がある事に気づいた。
「あれって何ですかね?」
輝樹がそれを指差す。時折車が通る為、それが何なのか麻美にはわからない。
「あれって何よ。どれのこと言ってるの?」
「あれですよ、あれ。向こうの信号機の下」
信号が青に変わる。足早に横断歩道を渡って、それの近くに行く。
信号機の下に置かれていたのは小さな花束だった。
「え、これって」
「そうですよね。花束ですよね?」
持つといけないと思い、しゃがんで中身を確認する。
「しかもこの花束の中見、さっきの花束と一緒じゃないですか?しかも、これって献花ですよね。こんな交差点の信号機の下になんて」
「ちょっと一般的なこと聞くんですけど、献花の花って種類決まってますっけ?」
「基本的には決まっているとは思うけど、亡くなった人が生前好きだった花だったり、その花に意味を込めて個人的に置くとかもあるかもしれないわ」
「意味ってつまり花言葉ってことですよね?」
そう言って輝樹は携帯を取り出して何かを調べる。
「麻美さん、ヒヤシンスの花言葉なんですけど。花って色によって花言葉が違うみたいで、紫のヒヤシンスの花言葉が「悲しみ、悲哀、初恋のひたむきさ」で青のヒヤシンスの花言葉が「変わらぬ愛」みたいです。これって何か意味あるんですかね」
「もう一個の花の花言葉がわかれば、だけど、ここで事故があったのはおそらく間違いないわね。そして、私が貰った花束と同じ物がここに置かれている。ということはこの花束を置いたのは龍くんである可能性が高い。だからヒントなのかしら」
「え、それあり得ますね。麻美さんどうしますか?」
「とりあえず、お店入って明るいところでさっきの写真をもう一回見ましょう」
2人は麻美が言っていた飲み屋に行くことにした。

飲み物の注文と軽く食べ物の注文を済ませ、もう一度さっきの写真を注意深く見る。
「その写真私にも送って頂戴。私の方でも検索してみるわ」
「わかりました。じゃあ今メールで送りますね」
2人で花束の写真を検索エンジンにかける。
ヒヤシンスじゃない方の花はドライフラワーになっている為、なかなか検索エンジンにひっかからない。類似した写真がたくさんあり、花の数も膨大だ。ドライフラワーの方に引っ張られ様々な花のドライフラワーが出てくる。確信をつく花の名前はなかなか出てこない。
「あれ、これじゃないかしら」
麻美が何かを見つけた。
携帯の画面をテーブルの真ん中に置き、輝樹にも見えるようにする。
「なんですか?この花」
「シオンよ。一緒に花言葉もあるわ。花言葉は「君を忘れない、遠くにある人を思う、追憶」。やっぱり、あそこで起きた可能性がある事故と龍くんは関係している」
あの花束の花の花言葉はあまり前向きな意味ではなかった。
「明日、あの交差点で昔事故がなかったか調べましょう」
「でも、具体的にいつかわからなければ、難しくないですか?」
「おおよそ見当はついてるわ。13年前よ」
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