暒晴-はればれ-

kamatoshi

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2章 挑戦

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りょうは食品会社で働いている。大学を卒業して大友食品という食品会社でサラリーマンをしている。学生時代はバイトもろくにせず部活と遊びに時間を費やしていた為、最初の頃は働くということにかなりの抵抗があった。毎日決まった時間に出勤をし、何事もなければ決まった時間に退勤をする。1日会社に8時間拘束をされ息苦しく毎日を過ごしていた。
働き始め2年が経ち少しずつ仕事にも慣れてきて自分が企画した商品が製品化されるとかなり嬉しく次第にやりがいを感じていた。
サラリーマンは出世をしないと給料は上がらない。陵にはもう一つ仕事を頑張らないといけない理由がある。

今日も定時で上がらせてもらい、家路を急ぐ。上司も陵の今の現状に理解を示してくれて残業をさせずに退勤させてくれている。
アパートの扉を開けると奥からゆっくりと1人の女性が歩いてくる。
「麻貴、部屋でゆっくりしていていいよ」
「おかえり。大丈夫よ。たぶん、そろそろだから体力つけないと」
陵は「ただいま」と言い麻貴の体を支えながら部屋に行く。
陵には結婚して2年目の妻がいる。妻の麻貴は今妊娠9ヶ月である。小柄な体格に大きくなったお腹で歩くのもやっとである。
「買い物とかも俺が帰りに買ってくるよ。買ってきて欲しいものがあればメールして」
洗面台で手を洗いうがいをする。
そろそろ産まれてくると思うとそわそわする。1番不安なのは麻貴の方だろうから自分はあまり不安にならずいつも通りを演じている。しかし、おそらく麻貴にはお見通しなのだろう。いつも、大丈夫よと微笑み返してくる。
麻貴とは大学のフットサルのサークルで出会い意気投合。いつも笑顔で天真爛漫な彼女に一目惚れをし、猛アタック。向こうも好意を持ってくれていたようですぐに交際が始まった。大学を卒業してからも麻貴は販売業に就職をしお互い食品関係の仕事をしている。今は産休としてお休みを貰っている。
初めての妊娠に心配しすぎて自分まで産休をとろうかと麻貴に申し出たが、つわりもそこまで酷くなくすぐに安定期に入ったので大丈夫、子供の為に稼いできて!と笑顔で拒否されてしまった。
本当は本人が1番心配で不安なはずだが、麻貴はそれを絶対に表に出さない。麻貴が泣いている姿を今まで見たことがない。その明るさに自分までポジティブになれた気がする。大学時代に落ち込んでいた俺をいつも励ましてくれたのは麻貴だった。
いつも麻貴の為に強くならないといけないと思っていても結局麻貴の強さに甘えてしまう。麻貴の笑顔を見るとその明るさに甘えてしまう自分がいる。今くらいは頑張らないといけない。

「どうしたの?」
ソファに座ってぼーとしていた陵を麻貴が覗き込む。
気づいたらネクタイを外す途中で手が止まっていたらしい。
「いや、ごめん。考え事してた」
ネクタイを緩め結び目を解く。
「あんまり考えすぎないようにね。さ、ご飯食べよ」
麻貴は優しく微笑む。結局この笑顔を見ると安心する。
「ああ、ありがとう」

その日陵は夢を見た。
夢の中の自分は高校生の頃の自分だった。
嫌な思い出のシーン。この夢を見ると膝の傷がうずく。もう完治している膝が。またこの夢か。何度も見たこの思い出。忘れないように神様が見せているのかもしれない。
小中高とサッカーに打ち込んでいた。中学校に全国大会に出場し、高校へも推薦をもらいサッカーの強豪校に進学した。
順風満帆だった。しかし、終わりは高校の2年にいきなり訪れた。
2年の時の選手権予選の決勝、パスを貰いボールをキープしゴールまでドリブルする。独走だった。しかしデフェンダーが横からスライディングしてボールを奪いに来た。ラフプレイだった。相手選手のスパイクが膝を抉る。全速力からのスライディングは凄まじい勢いだった。勿論審判が笛を鳴らしPKになった。だが陵は立つ事ができなかった。痛みはない。それよりも左の膝から下の感覚がない。ユニホームが赤く染まっていく。全身の血の気が引いていくのがわかる。終わったという感覚が無意識に頭をよぎる。
立つ事ができない陵はそのままタンカで運ばれた。結局試合は負け、選手権大会に行くことができなかった。

前十字靭帯損傷。病院の先生から言われたのは聞き慣れない病名。ただ靭帯と入っている時点で膝をやってしまったんだということがわかった。病院の先生は淡々と諭すように言う。リハビリをしたとしても今までのようにサッカーができなくなる可能性が高い、と。

リハビリを頑張り、歩けるようにはなった。まともに走れるようになるまで約半年はかかった。3年になったときには選手として復帰できるようになった。
しかし、ボールをドリブルしゴール前に近づいた時、あの時の光景がフラッシュバックしボールを蹴る事ができなかった。イップスだった。問題なく走れるしボールも蹴れる。だがゴール前に行くことが怖かった。
ストライカーとしては致命的だった。監督もチームメイトも優しかった。大丈夫だ、とそのうちできるようになると、励ましてくれた。だが、無理だということは自分がよく分かっていた。身体の方は大丈夫、これは気持ちの問題。その時点でもう間に合わないとわかってしまった。

3年の春に自分から監督に退部を申し出た。監督、チームメイトからも止められたが陵の意思は固かった。サッカーしかしてこなかった陵にとってそのサッカーを奪われたのは精神的にかなり辛かった。
特にやりたい事も、やりたい仕事もなかった為サッカーをできない時間を勉強に注ぎ込み、私立の大学に合格した。
陵の両親も心配をしていたが、サッカー部を辞めてグレてしまうんではないかと思っていた両親にとってその反動を勉強に向かってくれた息子に少しだけ安堵していた。

大学に進学してからも特にやりたい事もなかった為、何かサークルにでも入ろうかと思っていた陵にフットサルサークルの勧誘が来た。男女数名で定期的に屋内練習場を借りてフットサルをし、その後に皆で飲みに行く。よくある飲みサーのようなものだった。興味はなかったが、心のどこかでサッカーをしたいと思っていたのだろうか、気づいたらそのサークルの練習に参加していた。
ガチでやっているような気もしなかったし、遊び程度にやるならいいかもしれない。そう自分に言い聞かし心のどこかではサッカーをやりたかったのかもしれない。
久しぶりにサッカーボールに触れてもあの時の感覚は衰えておらず、リフティングを披露するとメンバーからも称賛された。
そのサークルで出会ったのが麻貴だった。
いつも陵のリフティングを見るとキラキラした笑顔で称賛してくれた。形容ではなく本当にキラキラして見えた。
2年になったときにはそのサークルは人数不足でほとんど活動をすることはなくなった。元々ガッツリとサッカーをしたいという集まりではなく、ただの飲みサーだった為集まってサッカーをする人がいなくなればそのサッカーは省略されすぐに飲みになる。
陵はそういう集まりはあまり好まずいつも形だけ参加していた。
麻貴も一緒だった。どちらかといえば皆と体を動かすのが好きでサークルが自然消滅してしまったことに悲しんでいた。
そのサークルの活動だけで終わらせたくなかった陵は麻貴に連絡をし2人で会うことが増えた。
交際まで発展するのに時間は要しなかった。同じサークルにいた麻貴の同級生も元々お似合いだと思っていたと好意的だった。

麻貴には高校時代の話もしていた。怪我をしてまともにサッカーができなくなった事。3年でサッカー部を退部した事。その出来事から自分に自信が無くなった事を。
すると麻貴は
「膝を怪我してそれだけサッカーできるならすごいよ!」
とキラキラした笑顔で言ってくれた。
「私は昔の陵君のことは分からないし、今の陵君しか知らないから今が幸せならそれでいいと思うよ!その時は辛かったかもしれないけれど、私は陵君に出会えて良かったと思ってるよ!」
麻貴はいつもそう言ってくれる。その言葉に何度も救われた。

今が幸せならそれでいい。その言葉に。
今俺は幸せだ。新しい命もできる。

あの時の夢を見て目を覚ましたことに気づいて体を起こす。隣で寝る麻貴を起こさないように布団を掛け直す。
今は麻貴にいらぬ心配をかけないようにしないと。そう思い優しく麻貴の頭を撫でる。
うーん、と声をあげた為起こしまったかと思ったが、寝返りをうっただけだった。寝返りをうつのすら大変そうだ。麻貴を起こさないように陵ももう一度布団に入り、もう一度眠りについた。

とある日の夜。その日の日中に麻貴は大学病院に検査に行ったようだ。
お腹にエコーをあて、実際にお腹の中の赤ん坊をこの目で見てきたと興奮して語る。
病院の先生からは男の子だと言われたようだ。
病院からお腹のエコー写真を貰ってきたようで陵も見ることができた。
当たり前だが鮮明に写っている訳ではなく、輪郭がかろうじて分かる程度だったが、間違いなくその写真に写っているのは人間だった。
男の子かーー。陵はふと麻貴に聞いてみたいことがあった。
「なぁ、麻貴。麻貴は子供の名前って考えているか?」
いきなりの質問に驚いた顔を見せたが、すぐに顎に手を当て考えるポーズをとる。
「そうだなぁ、まだ考えてないかなぁ。でも実際にこの目で見て男の子だって言われるとそろそろ考えなきゃなって思ったよ。もしかして陵、もう考えてるの?もしかしてもう決まってる?」
少し恥ずかしかったが、陵の頭の中にはつけたい名前があった。
「夢に歩くで歩夢あゆむ。男の子だし、俺の子供ならサッカーをやりたいって言い出すかもしれない。俺も麻貴もサッカー好きだしな。俺はプロのサッカー選手になる夢は叶わなかった。その夢を子供に求めることはしないが、子供には自分が描いた夢に向かって一歩一歩進んでほしいんだ」
麻貴と面と向かってこんなに真剣に話すのはプロポーズをした時以来だ。緊張して口が渇く。変な顔してないかすごい気になった。緊張と恥ずかしさで麻貴の顔を見れない。
「すごいいいと思うよ!陵君らしい。この子も陵君みたいに強い子になると思うよ」
俺みたいに強い子か。俺は強いのだろうか。その自信は全くなかったが、麻貴の笑顔を見ると少しだけ自信が湧き、心の蟠りがまた少し取れたように感じた。


数日後、病院に行った麻貴から入院をするということを告げられた。どこか体に悪いところでもあるかと不安になったが、麻貴は笑顔で安全に出産する為の入院だから安心して、といつもの笑顔で言った。大きな大学病院の中にある産院で設備も整っている為安心だと麻貴の両親も言っていたので、陵も安心して任せることにした。麻貴には彼女側の母親がついてくれて、たまに陵の母親も様子を見に来ていた。お互いの両親も初めての孫の誕生に今か今かと待ち遠しい様子だった。それが麻貴の焦りを生まないかと不安だったが、麻貴はそんなこと全く感じさせず、それよりも早く産まれてきてほしいと大きくなったお腹を優しく撫でていた。

仕事をしていても頭の片隅で麻貴の事を考えていた。パソコンに向かう手も気づいたら止まっていて、上司からも心配されてしまうくらいだった。
事情を話すと俺の妻も出産の時は入院していたと上司は語る。むしろ家で1人でいる時や外に出ている時に破水するよりは、設備が整っている病院で安心して出産する方が安心だと励ましてくれた。
上司も陵夫婦が初めての出産ということを知っていた為人生の先輩として励ましの言葉とアドバイスを送った。
だがその言葉は3割も頭に入って来なかった。実際に産まれるまで麻貴の事が心配でならなかった。
麻貴が入院してから5日がたったある日。仕事中の陵の携帯に麻貴の母から電話がかかってきた。
麻貴の母は上擦った声で産まれると陵に伝えた。興奮しているのかなかなか言葉が出て来ず、産まれるという単語だけが頭に入ってきた。
ついに産まれるのだ。我が子が。歩夢が。
上司に事情を話す。上司はすぐに病院に迎え、と陵に早退することを促した。
焦っている様子に上司は気をつけて行けよと声をかける。
しかし陵にはその言葉は耳に入らなかった。
仕事場から大学病院まで車で約30分くらい。いつもならそんなに苦ではないその運転時間も今は気持ちが焦りアクセルを踏む足と、ハンドルを握る腕に力が入る。

病院まで残り15分くらい。
あと少しで着くと思うと更に気持ちが焦る。急ぎすぎてはいけない。そう思っていてもどうしても焦ってしまう。視野が狭くなっているのが自分でも感じた。
だがそれを気にしている余裕はなかった。幸い信号に引っかかることなく進むことができ順調に病院に近づいている。

その時だったーー。
横断歩道に人が立っているのが見えた。
信号は青。それはいるはずのない人だった。
視界がスローモーションになる。ゆっくりに感じるがそれはほんの一瞬の出来事だった。止まれる訳がなかった。せめてものとハンドルを右に切る。しかしそれでも間に合わなかった。車体の左側がその人を抉るようにぶつかる。そこで初めてその人が制服を来た女の子だということがわかった。
フロントガラスに体がぶつかりヒビがはいる。その人は人の形を成した人形のように車のボンネットに乗り上げ跳ねるように宙に浮かぶ。ボン!と鈍い音がする。柔らかいとすら思った。そこでスローモーションが終わった。
避ける為にハンドルを大きく右に切っていた為対向車線にはみ出していた。目の前から車が来る。このままでは正面衝突してしまうと思い、今度は勢いよくハンドルを左に切る。車体が安定するわけもなく、車は今度大きく左に行く。目の前には電柱が見える。
そのまま勢いを殺すことなく車は電柱にぶつかった。
体が跳ねてフロントガラスに頭がぶつかる。シートベルトによって体は固定されベルトが胸に食い込む。体が軋む音が聞こえたような気がした。意識が遠のく。もうすでに痛みすら感じない。
遠のく意識の中で陵は、麻貴と産まれてくる子供のことを考えていた。

早く、会いに行かないとーー。


麻貴は無事に元気な男の子を産んだ。母子共に健康で、産まれてすぐ大きな声で産声をあげた。麻貴がびっくりするくらいの大きな声で。
産まれてきた子を抱き上げた時に陵がいないことに気づく。
陣痛が始まってから産まれるまで8時間かかった。初めての出産で長く続く痛みに耐えた。永遠にこの痛みが続くのかとさえ思った。
痛みに意識が持っていかれ陵がいなかったことに気づかなかった。母から陵に連絡は行ったはず。どうしていないのか。
視界に母の姿が入ったので聞いてみる。
「お母さん、陵君は?陵君にもだっこさせてあげたいの」
母はその質問に言葉を濁す。
どうしてすぐ答えないのか。おかしな事を言っているのか。

「落ち着いて聞いてね。麻貴」
母は恐る恐るといった様子で話し出す。
「さっき警察と病院から連絡があって」
警察と病院?まずここがその病院だよ?
「陵君がここに向かう途中に事故にあったらしいの」
事故?急ぎすぎてハンドルを切り損ねた?それで遅れてるのか。
「信号無視をした女の子を撥ねて、その反動で本人もその先の電柱にぶつかって」
女の子を撥ねた?
「陵君もこの大学病院に搬送されたらしいのだけど、あまりの衝撃に即死だったみたいで、轢かれた女の子も助からなくて」
言葉をつまらせながらゆっくりと言う。
麻貴には母が何を言ってるのか理解できなかった。
「ねぇ、お母さん、それってどういうこと?ねぇ」
母の目から涙が溢れ、もう答えれる様子ではなかった。陵の母親の姿もない。陣痛が始まった時、陵の母親もそばについてくれていたはず。
そこで病室の外に陵の母がいることに気づいた。しかしその姿は泣き疲れたようにぐったりとしている。

え、まさか、本当に?
「え、お母さん、それ本当なの?ねぇ、陵君は、、」
少しずつ頭が理解してきた。だが、信じられない。
これから3人での幸せな日々が始まる予定だった。はずなのに。


体と心が落ち着いた後に全てのことの顛末を聞かされた。
陵は病院に向かう途中に赤信号の道路にベロっと飛び出した女の子を撥ねた。陵に過失はなかったと言う。
その飛び出した女の子を避ける為にハンドルを切り、車体を戻す為に更にハンドルを切ったところ、バランスを崩しそのままスリップをして横の電柱に衝突したようだった。
陵は急いでいたのだろう。麻貴と、産まれてくる子供に会う為に。

麻貴はいきなり新しい命の誕生と大切な命を失う両方を味わっている。
もうすでに息を引き取った陵の姿を見た時、気が狂いそうになった。
運が悪いと言えばそれまでだ。
陵の母は麻貴にごめんね、と謝る。
麻貴は何も言えないでいた。
陵は何も悪くない。どういう理由があるかはわからないが、運転している陵の車の前にいきなり飛び出て来られたら止まることも避けることもできない。それがたまたま陵だったというだけ。陵は避けようとした。その結果自分も巻き込んで命を落とした。

数日経ってもすぐそばに陵がいるように感じる。しかし今麻貴のところには陵との子供だけ。陵はいなくなったがこの子はいる。

くよくよしてもしょうがない。陵の分もこの子を大切に育てないと。

切り替えることのできない気持ちを無理やり切り替える。
産院の先生もあまりの事にすごい気にかけてくれていた。産後はどうしても精神的に弱りがちになる。ただでさえあんなことがあったのだ。
麻貴はどうしてもこの子の名前を決めれずにいた。陵がつけたいと言っていた名前にするべきなのか。それともーー

この子が産まれた大学病院に検診と先生に相談をしに待合室で呼ばれるまで待つ。
椅子から受付が見える。中学生くらいの男の子2人組が受付で何かを言っている。何を言っているかは分からなかったが、姿だけが視界に入って来た。
その2人組は待合室まで来て麻貴の横に座った。
2人のうちの1人は抱っこしている我が子に興味を示してるのがわかった。
その子は私にお姉さんと言ってくれた。悪い気はしない。少し図々しいが悪い子ではないのがわかった。よく言えば素直なのだろう。

赤ちゃんに触れてみるかと提案してみる。自分でもどうしてそんなことを言ったのか分からなかった。
頬を撫でられてもなんとも反応しない我が子。その時改めて我が子が可愛いと思った。一気に色々なことがありすぎてまじまじと見ていなかった。
その男の子はいきなりとんでもないお願いをしてきた。子供の名前をつけさせて欲しいと言うのだ。
何を言っているんだこの子は。とは思ったが今の自分にはいいきっかけになるように感じた。この子に委ねてみたいと。

その男の子が掲示した名前は男の子なら夢に歩くで歩夢、だった。2人の名前を1文字ずつもじっていると言っていた。

まさかだった。名前を1文字ずつもじって作られた名前が陵が前に言っていた名前と一致するなんて。
麻貴は強がってしまった。あまりの驚きに素直に言うことができなかった。だが体は正直だった。あまりの衝撃に涙が止まらなかった。委ねてみようと思った男の子と陵がつけたいと言っていた名前が一致するなんて。

もう陵はこの世にいない。今は私1人でこの子を育てないといけない。陵のつけたかった名前をつけると一生陵のことを忘れることができないかもしれない、と思ってしまっていた。その事が自分を苦しめる要因になってしまうのではないかと。でも、この子の中で陵は生きている。それはたしかだ。いつまで経ってもこの子は変わる事なく陵と血のつながった息子。

決めた。

気づいたら男の子2人は待合室からいなくなっていた。
先生が心配そうに話かけてきた。
麻貴は先生に意を決して言う。
「私は自分の力でこの子を育てようと決めました。でもやっぱりこの子はあの人の子供です。先生、私、この子の名前決めました」
先生は優しく頷く。
「この子の名前は、歩夢です」

この子もこれからの人生険しい道が続くだろう。それでも夢に向かって一歩一歩歩いていって欲しい。
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