心の交差。

ゆーり。

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文化祭とクリアリーブル事件。

文化祭とクリアリーブル事件⑥④

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同時刻 クリアリーブルのアジト


「やっと来たか」

未来に付いていき、無事にアジトへ辿り着いた結黄賊たち。 黄色い布とバッジはまだ身に着けてはいないが『俺たちは結黄賊だ』と見張りの人に言ったら簡単に通してくれた。
そして案内されながら、アジトの奥へ奥へと進んでいくと――――そこにはたくさんの男らが、結黄賊を待ち受けている。
その中で真ん中にいる厳つい男が、歓迎するような身振りを見せた。

―――くそッ・・・それでも多いな。

夜月はこのアジト全体を見渡して険しい表情を見せた。 
結人の言っていた通り“1人10人を相手にする”つまり160人くらいはいるということを想定し身構えてはいたが、実際はそれ程の人数はいなかった。
想像していた人数より、半分といったところか。 夜月も実際は“そんな大人数アジトに入るわけがない”と思い少し油断していたが、今のこの状況を目の当たりにして息を呑む。

―――このくらいの人数だと・・・1人5人は確実、1人6人は相手しないといけなくなるな。

1人5人を相手にするのは容易ではなく、その人数を軽々と相手にできてしまうのはコウと結人くらいだった。
一度二人がかりで捕まってしまえば、その腕を簡単に振り払うことはできない。 そんなプレッシャーと緊張感を持ち合わせたまま、夜月は目の前にいる男に向かって言葉を放した。
「おい! 俺たちの仲間、二人はどこにいる」
「ふッ、さぁな!」
結黄賊は真剣な表情をしてこの場に立っているというのに、相手はこの緊迫感漂う空気に反するような不気味な笑みを浮かべている。
そんなヘラヘラとした態度を見て嫌気が差した夜月は、怒鳴り口調で言い放った。
「お前らの目的は一体何だ!」
だが相手はその怒りを受け入れず、なおもだらだらとしながら言葉を返す。
「目的なんてどーでもいいんだよ。 ただ、お前らが素直にやられてくれたらな」
“素直にやられる”なんてことは当然できなく、できればこの状況を穏便に済ませたいという僅かな望みを抱えたまま、続けて男を見据え言い放つ。
「喧嘩はしたくないと言ったら」
「・・・ふッ、何を今更」
思ってもみなかった弱気な発言を聞き相手は一瞬言葉を詰まらせるが、少しの間を置いて静かにそう呟いた。

―――やっぱり・・・抗争を起こさないと駄目なのか。

心の中で溜め息をついた夜月は、ポケットに手を突っ込みそこから黄色いバンダナとバッジを取り出した。 
その光景を見ていた他の仲間たちも、つられてそれらを取り出し始める。
そして結黄賊がチームの象徴である黄色いバンダナを各自身に着け始めると、クリアリーブルの連中は不気味な笑みを返した。
「みんな、配置につけ」
静かなこの空気の中に溶け込むように、静かな口調で夜月は彼らに命令を下した。 そしてみんなが自分の配置についたことを確認すると、目の前にいる男に向かって再び口を開く。
「俺に一発、殴ってこいよ」
あまりにも気持ちのこもっていないその一言に渋い表情を見せるが――――男はゆっくりと近付き、夜月に目がけて渾身の一撃を食らわせた。
だがその光景を見ていた結黄賊たちは、何も言わずに次の命令を静かに待つ。 そして――――夜月は殴られ一瞬よろけるが、すぐに態勢を整え仲間に力強く命令を下した。

「やれ!」

その言葉を合図に、結黄賊は一斉にクリアリーブルに向かって襲いかかった。 人数を見る限り、圧倒的に結黄賊は負けている。
だからこの抗争は、時間の問題だと分かっていた。 先に結黄賊の体力が、尽きてしまったら負け。 かといって最初から本気でぶつかっていくと、すぐに体力は消耗される。
そのため動きを無駄にしないよう、結人はみんなの配置を効率よく考え予め彼らに教え込んでいた。





「それじゃあ、最後に俺が考えた作戦を教えるぞ」
結人は仲間を倉庫へ行かせる前に、みんなに各自の配置を指示した。 それは彼らの喧嘩の強さを考慮した上で、考えたものだ。
「俺がさっき、お前らがここへ来る前に考えておいたポジだ。 一度しか言わねぇからよく聞いておくように」
それに各々頷いたことを確認すると、結人は自分の考えた配置を言葉にして紡ぎ出した。
「まずは一番前だ。 一番前にはおそらくリーダーがいて、その周りには強い人間が固まっているのはよくあること。 だからそのポジには、未来についてもらう」
「え・・・。 俺が?」
「あぁ。 喧嘩の強さというより、鉄パイプを持っていた方がまだ有利だと思ってな。 未来、頼んだぞ」
未来は今、相当な怒りを溜め込んでいるということを結人は知っている。 
それをクリアリーブルの連中にぶつけると相当な力になると思ったため、そのことも踏まえて彼をその位置にした。
「そして未来の後ろ。 さっきも言ったように、きっと前はほとんど強い人間で固めてくるだろうから、未来の後ろにはコウがついてくれ」
「分かった」
コウからの了解を得たことを確認し、次の指示を出した。
「次は一番後ろだ。 一番後ろもさっき言っていたように、他のクリーブルの連中が入り込んでくる可能性がある。 一番前も大事だが、一番後ろも守るべきだ。
 だからアジトの入り口付近には、椎野と御子紫がつけ。 二人で協力して、これ以上アジトの中へ人を入れさせるな」
「「了解」」
そして結人は、同い年の残りのメンバーに指示を出した。
「夜月と北野はアジトの真ん中にいてくれ。 でもできるだけ互いに近付かないようにな。 夜月は喧嘩をしている最中でも、できれば仲間のことを見ていてほしい。
 危険な行為をしようとしている奴がいたら、すぐ注意をするように。 360度にアンテナを張って、常に緊張感を持っておけ。 一番大変なポジだけどな」
「・・・分かった」
未だに鉄パイプの件を引きずっているのか、夜月は小さな声で返事をした。 だが結人はそんな彼をよそに、北野に向かって命令を下す。
「北野も夜月と似たような感じだ。 常に周りを気にして、もし仲間が誰かにやられて怪我を負っているのを発見したら、ソイツを抗争の中から外してすぐに手当てをしてほしい」
「うん、分かった」
北野からも了解を得た結人は、残りの後輩らに向かって命令を言い渡した。
「あと、俊はコウの後ろについてくれ。 これで前は強い奴で固めたから大丈夫だな。 残りの後輩は、均等に散らばってくれたらそれでいい。
 そして一番上のお前らは攻撃に集中。 そして後輩はできれば先輩である俺たちを気にかけていてほしい。 もし危ない先輩がいたら、すぐにそこへ行って助けてやれ」
「「「了解です!」」」
「それと、できるだけみんなは今言ったポジから動くな。 ただでさえ相手の人数の方が多いから、自ら立ち向かいに行く体力だけでもすぐに消耗される。
 だから基本は受け身でいろ。 相手が襲いかかってきたらソイツを相手にする。 それだけを心構えろ。 分かったな」





そして――――結黄賊のリーダーの言われた通りの指示に従っていると、みんなは確かに手応えを感じていた。
―――ユイの敵だと思っていれば・・・やれる!
夜月は鉄パイプに対する恐怖心を捨て、何度も何度も目の前にいる男に襲いかかる。 先刻は未来だったが今は知らない人が相手で、より遠慮せずに攻撃することができた。
―――俺は・・・俺のままで、いいんだよな。
―――あんな過去には囚われず・・・もう、吹っ切れてもいいんだよな。
未だに夜月を苦しめる過去だが、自らそれと向き合い勝とうとしていた。 複雑な思いと共に、相手に向かって鉄パイプを振り回し続ける。
なおも恐怖心があるはずなのに、苦い過去を克服する姿勢、そして結人の敵を取りたいという気持ちから、負の感情なんてものは既に打ち消されていた。
―――鉄パイプを振り回しても、相手を死なせなければいい。
―――それだけのことだろ?
―――だったら簡単なことだ。
―――もう、恐れるものなんて何もないじゃないか。
―――俺はもう、過去を振り返んねぇよ。
―――ユイもそう言ってくれただろ?

―――ユイが・・・本当に、いい奴ならな。

夜月の鉄パイプによる攻撃は凄まじく力強い攻撃だったが“人を死なせたくない”という気持ちから自分を自然と制していたため、彼らには酷い被害は出ていなかった。
自分に向かってくる敵を、一人ずつきちんと相手をし確実に潰していっている。 そして夜月はこの時、ある確信をした。
―――ユイの作戦は成功している。
―――これなら・・・勝てる。
そう思ったのは夜月だけではない。 ここにいる仲間も、皆同じことを思っていた。


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