心の交差。

ゆーり。

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文化祭とクリアリーブル事件。

文化祭とクリアリーブル事件⑦⑤

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翌日 日中 沙楽総合病院 悠斗の病室


「それじゃあ真宮。 早速話してもらおうか」
悠斗の病室には結黄賊、そしてクリアリーブル事件の真相を知りたがっていた伊達が集められた。 
藍梨もここにいるはずなのだが、あまり物騒な話は聞かせたくないため今は後輩と一緒に病院の外で待ってもらっている。
悠斗はベッドの上で安静に座りながら、優は車椅子に乗りながら、結人は椅子に座りながら、そして他のみんなはその場に立ちながら真宮から出る最初の言葉を待った。
そして彼はゆっくりと口を開き――――今までの全てを語り始める。 それは――――結黄賊と赤眼虎の抗争が終わり、優とコウの事件の最中に起こった話だった。





5月上旬 夜 路上


「・・・俺に何の用っすか?」
夜一人で道を歩いていると、背後から急に呼び止められた真宮。 相手は見知らぬ男の集団で、その中のリーダーらしき人物が声をかけた。
この日は赤眼虎との抗争が終わってから約一週間後のことだ。 執事コンテストを無事に終え、ゴールデンウィークでのキャンプを大いに満喫した後の出来事。
相手の顔を不審な目で見つめながら尋ねると、男も真宮を睨むような目付きをして言葉を放つ。
「お前ら、一体何者だ?」
「は? 何だよその質問」
突然見知らぬ者に『何者だ』と言われ、気味が悪そうに小さく呟いた。 そんな態度をとると、男はポケットから一枚の写真を取り出す。
それを何も言わずに、真宮に見せると――――

「・・・ッ!」

刹那、言葉が詰まり何も発せなくなってしまった。 その反応を見て確信したのか、目の前にいる男は堂々とした口調で言葉を放っていく。
「コイツらがいると迷惑なんだよ。 こんな凶暴な連中が、立川にいたらさぁ・・・。 だから、とっとと消えてくんね?」

今見せられた写真は――――正彩公園で、結黄賊と赤眼虎が抗争しているものだった。

結黄賊というものがバレ一瞬にして冷や汗が流れ落ちるが、感情的にならないよう何とか自分を静め、平然を装ったまま口を開く。
「俺たち結黄賊は・・・悪いチームなんかじゃない」
「へぇ、結黄賊って言うのか」
「くッ」

―――しまった!

「まぁ、そんなのはどうでもいいんだ。 お前らが消えてくれたら、それでいい」
思わずチーム名を名乗ってしまったことに動揺するが、相手にとってはそんなことは関係ないようで用件だけを淡々と口にしていく。
―――どうしてコイツは、俺たちのことを何も知らないのにそんなことが言えるんだ?
その発言に疑問が思い浮かんだ真宮は、慎重に言葉を選びながら尋ねてみた。
「どうして結黄賊に、そんなに消えてほしいんだ?」
その問いに対しても、躊躇いも見せず淡々とした口調で答えていく。
「目障りなんだよ。 こういう黄色い布を身に着けて目立つような奴らがいたら、俺たちクリアリーブルが目立たないだろ?」

―――クリアリーブル?

「目障りって・・・」
「それに、お前らみたいな凶暴な連中がいたらこの立川にいる人たちが安心できねぇ。 お前らみたいな派手な喧嘩をする奴らは、この立川には必要ねぇんだよ。
 これ以上悪いようにはしねぇから、とっとと失せな」
―――そんなこと・・・できるわけないじゃないか。
「嫌だと言ったら」
真宮は年上の男に対して負けじと食らい付く。 諦めて素直に言うことを聞かない真宮を見て、彼はもう一枚の写真をポケットから取り出し小さく呟いた。
「だったら・・・この女を襲う」
「なッ・・・!」
更にもう一枚を見せられ、またもや言葉が詰まってしまう。 

今目にした写真は――――真宮が藍梨を連れて、倉庫の裏へ走っていくものだった。

―――結黄賊とレアタイの抗争にはむやみに近付けないから、離れて写真を撮っていたのか!
―――その時偶然近くを通りかかった俺を、写真に撮るなんて・・・!

真宮の思っていることは的中しており、男はなおも淡々とした口調で言葉を放っていく。
「まぁいいさ。 近くを通りかかったお前しかこの写真では分からなかったから、お前に目を付けて今こうして頼み込んでいるんだ」
「・・・」
何も言えなくなっている真宮に、更に追い打ちをかけていく。
「お前ら学生だろ? だったら立川から去れなんて言わねぇ。 だから、お前らの“結黄賊”っていうチームを解散させてくれればいい」
「・・・」
「でもどうせ、俺がそう言っても聞かねぇんだろ?」
「・・・」
先刻からずっと沈黙を守り続けていると、男はある言葉を口にする。
「だったら、自滅してくれればいい」
「・・・それは、どういう意味だよ」
やっとの思いで言い返せた真宮に対し、相手は朗々と語り続けた。

「これから俺たちは、立川の人々に危害を加え続ける。 そしたら結黄賊は“この街は危険だ”とか思って去るか、解散するだろ?
 もしくはさっきお前が言ったように、結黄賊が悪い連中じゃないっていうなら危害を加えた犯人・・・。 そう、俺たちを捜して、正義のヒーローぶって対決を求めにくるだろ?
 それで俺たちと戦った結果・・・俺たちの勝利で、結黄賊は消滅する」

それを聞いた瞬間真宮は呆れた表情を見せ、溜め息交じりで言葉を吐き出す。
「悪いけど、結黄賊はお前らが敵うような相手じゃない」
だが目の前にいる男は、その発言を聞いても一瞬の動揺も見せずすぐさま返した。

「だろうな。 それは俺たちでも分かっている。 あんな派手な喧嘩を見せられたら、誰だってすぐに分かるさ。 でもこっちは、いくらでも人数は用意できるんだよ。
 100人や200人くらい、楽勝にさ」

「なッ・・・!」
―――そ、そんな人数は無理に決まってんだろ!
―――くそッ・・・俺は今、どうしたら・・・!
―――あ・・・でも、待てよ・・・?
この状況を何とかしようと必死に頭を回転させ考えた結果、ある答えに辿り着く。
―――コイツらは、俺たち結黄賊に消えてほしいって思っているんだよな。
―――ということは、結黄賊として動かなければいいだけのことじゃないか。

そう――――真宮が考え着いたのは“結黄賊としての行動をしばらく控えれば、コイツらに解散したと思わせることができる”というシンプルなものだった。

―――じゃあ俺が、しばらくみんなが喧嘩しないよう見張っていればいいんだ。
―――流石にこのことはみんなに言えないし、俺が努力すればいいだけのこと。
そして真宮の顔付きが変わったことを見て、男は更に発言を続ける。
「俺たちの言うことが素直に聞けないってんなら、お前にも俺たちに協力してもらうぞ。 立川の人々に、危害を加えるってのにな。 このままお前を逃がすわけにはいかねぇから」
―――は?
―――いくらなんでもそれは無茶苦茶過ぎるだろ!
―――あ、いや・・・待てよ・・・?
言われた言葉を前向きに捉えていく。

―――今のコイツらに、きっと何を言っても無駄だろう。
―――俺たち結黄賊を消滅させるためには、手段を選んでなんかいないんだから。
―――だから立川の人々に危害を加えることは、本気でやりかねない。
―――だったら・・・コイツらよりも、俺が危害を加えた方が軽傷で済むかもしれないな。
―――コイツらが人の命に関わるような危害を加えるのなら、俺がやった方がマシだ。

「協力しないなら、あの女がどうなっても知らねぇからな」
そして――――小さく笑いながらそう口にした彼に対し、真宮は意を決したように力強く言葉を放った。
「分かった。 ・・・結黄賊を、解散させればいいんだろ」
「お?」
―――結黄賊を、解散させるわけにはいかない。
―――ただコイツらに、結黄賊は解散したと思わせればいいだけのこと。
―――だからそれまでは心が痛むが・・・立川の人々に、犠牲になってもらうか。
―――結黄賊のみんなにも、迷惑はかけられないしな。
答えを聞いた男は、そっと真宮に名を尋ねる。
「お前、名前は何て言うんだ?」
「真宮だよ」
「そうか、真宮か・・・」
ニヤニヤしながら口にすると、突然彼は真剣な表情へ戻りあることを告げてきた。

「しばらくお前らの様子を見て、もしまだ生き残っているようだったら・・・結黄賊の奴らに、直接危害を加えるからな」

こうして――――真宮は藍梨と結黄賊を守るために、立川の人々を犠牲にしクリアリーブルに協力することを約束してしまったのだ。


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