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文化祭とクリアリーブル事件。
文化祭とクリアリーブル事件⑦⑥
しおりを挟む真宮の作戦は順調に進んでいた。 結黄賊のみんなを見張りながらも、彼らには不安を与えないよう元気よく振る舞う。
当然黄色い布を身に着けようとしたら止めに入る予定だったが、運がいいことに抗争なんてものは全く起こらなかった。
そして――――コウと優の事件が無事に終わり、沙楽学園の生徒は文化祭へと一気に意識を向けていく。
コウたちの事件が終わり、文化祭の準備が進むにつれ、結黄賊のみんなの心には余裕が生まれていた。 このまま悪いことが起こらなければいい。 ただ、それだけを願いながら。
だがその時、いきなり“クリアリーブル事件”というものが目立ち始めた。 その理由は単純で、沙楽学園の先輩が事件の被害者となったから。
真宮はそのことに関し“結黄賊のみんなもいつかはその事件に首を突っ込んでしまうのではないか”と、漠然とした不安に襲われた。
だけど“どうしても結黄賊を守りたい”という強い意志から、仲間をクリアリーブル事件に関わらせないようにと常に見張りを続ける。
そのおかげかみんなはあまりその事件には興味を示さず、一安心していたのだが――――この間出会った男と連絡先を交換し、その者から呼び出された時にまた彼らは動き出した。
この時真宮は“もしかして結黄賊は解散したと思わせたことができたのか”という、淡い期待を抱いていた。 そしてその気持ちを持ち合わせたまま、呼び出された場所へと向かう。
「俺に何の用っすか。 もしかして、もう終わりにするんですか?」
ここは人通りの少ない道路の突き当りを、右へ曲がったところにあるクリアリーブルのアジト。
真宮は今の心の余裕からか、緊張感を感じさせないような口調で目の前にいる男に言葉を放った。
それを聞いた男は椅子からゆっくりと立ち上がり、前の方へ足を進めながら口を開く。
「違う。 その逆だ」
「逆?」
真宮がクリアリーブルに協力してから約3週間は経っている。 これまでも十分に立川の人々に危害を加えてきたし、そろそろ真宮の心も悲鳴を上げる頃だった。
だから“今日で終わって助かる”と、思っていたのだが――――男は残酷な程に、冷たく言葉を言い放つ。
「お前ら、まだ解散していなかったんだな」
「・・・え?」
その一言を聞いた瞬間、突然真宮の心にはたくさんの思いが響き渡った。
―――どういうことだよ・・・。
―――どうして解散していないっていうことがバレたんだ?
―――俺たちは今まで黄色いバンダナを身に着けていなかったし、喧嘩もしてねぇ。
―――なのに、どうして・・・ッ!
そしてその反応を見て何かを感じ取ったのか、男はわざと視線をずらし何かを思い出しながら呟いていく。
「何だっけ・・・。 何かクリーブルの奴が偶然通りかかって、お前らの会話を聞いていたみたいなんだけどよ・・・。 ほら『俺たち結黄賊、謳歌しようぜ』何ちゃらとか・・・」
「・・・ッ!」
刹那、真宮にはとてつもない恐怖が襲いかかってきた。 この感覚が恐怖と言えるものなのか、それとも絶望と言えるものなのか。
不思議なくらい不気味な錯覚に捉われた状態のまま、男の言っていたシーンを頭の中で映像化させる。
それは――――文化祭の準備の初日、結黄賊のみんなで公園に集まってユーシの話で盛り上がっていた時のことだった。
未来がダンスチームを平等に決めてくれて、その後各チームで曲決めを開始する時のこと。
「よし! 俺たち結黄賊、みんなで青春を謳歌しようぜ!」
「おい未来! 結黄賊の名を大声で口に出すなよ!」
「別にいいだろ真宮。 今くらい、気合を入れさせてくれてもさ」
―――嘘・・・だろ・・・。
―――あの時の一瞬会話が、聞こえていたとでも言うのかよ・・・ッ!
男は何も言い返してこない真宮を見て、少しニヤニヤとしながら淡々とした口調で言葉を放した。
「つーことで、予め言っていたように、これからは結黄賊の連中にも直接危害を加えていく。 いいな?」
「・・・」
―――くそッ・・・だからあの時、未来にすぐ注意したっていうのに・・・!
―――・・・でも、今更後悔しても仕方ねぇんだよな。
俯いたまま、手に力を込めた。
―――結黄賊に、手を出す・・・。
―――それだけは、絶対に許さねぇ。
真宮の心は“良心”というものから徐々に離れていく。
―――こんな最低な男らに、仲間を汚されてたまるか!
「何だよ。 何か言いたそうな顔だな?」
俯いている真宮を下から覗き込みながら、気持ち悪い笑みを浮かべ尋ねてきた。 だがそんなことには意に介さず、ひたすら自分と向き合う。
―――コイツらは、何を言っても俺の言うことは聞いてくれねぇんだろ。
―――だったら・・・もう答えは、一つしかねぇよな。
そして真宮はゆっくりと顔を上げ、意を決したかのように小さな声で言葉を発した。
「俺が・・・結黄賊に、直接危害を加える」
すると、男は一瞬戸惑った表情を見せしばし黙り込んだ。 そして何かをひらめいたかのように急に顔を変え、その意見に対して自分の意見を述べる。
「まぁ・・・俺たちが手を出すよりお前が仲間に直接手を出した方が、結黄賊にとっちゃあ心が痛む行為だろうな・・・。 よし、いいだろう。
結黄賊の連中に危害を加えるのは真宮に任す。 でも、一つだけ約束だ」
「・・・何だよ」
「いくら仲間とは言え、手加減をするのは許さねぇ。 だから必ず、病院送りにはしろ。 ・・・分かったな?」
こうして――――真宮は男の約束も受け入れ、結黄賊の仲間に自ら手を出すことを決めた。 そして、一番最初に手を出したのは椎野だった。
誰を被害者にしようかと色々悩んだ結果、最終的に彼に辿り着いたのだ。 理由は簡単。 椎野なら、許してくれそうだったから。
彼なら、今の自分の苦しい気持ちを分かってくれそうな気がしたから。 ただ、それだけだった。 もちろん椎野には“悪い”という気持ちは持っている。
だが、それから数日後――――また、クリアリーブルの男にアジトへ呼び出された。
「お前ら、まだ解散してねぇのか」
「・・・」
真宮は椎野に怪我させたことを後悔していた。 だけどやってしまったことは仕方ないと、必死に何度も自分に言い聞かせ自我というものを保とうとしていた。
だからこの時の真宮は男に抵抗する気にもなれず、ただ命令を素直に聞くだけとなる。
「こうなったら結黄賊のリーダーに、直接手を出すしかねぇな。 ・・・真宮、お前いけるか?」
「・・・」
―――また俺は、こんなに苦しい思いをしないといけないのか。
―――でもコイツらにやらせるよりかは、俺がやった方が軽傷で済むには済むんだよな・・・。
そんな自分と葛藤しながらも、その言葉に静かに頷いていた。
そして更に数日後――――突然事件は動き出した。 それは文化祭が終わってからのこと。 そう――――優が被害者になった時のことだ。
“結黄賊のみんなには俺から危害を加える”と言っていたため、まさか自分ではない奴に結黄賊がやられるなんてことは思ってもみなかった。 だから――――油断していたのだ。
現実は、そんなに甘いものではなかった。 彼らが優に手を出した理由は、クリアリーブルのアジトへ未来と悠斗が突然乗り込み襲撃してきたからというもの。
つまり真宮がアジトの場所を結黄賊の仲間にチクり、クリアリーブルを裏切ったと思われてしまったのだ。
だが実際、真宮は結人に問われても何も答えなかったし、一人にもチクってなどいなかった。
ということは、未来が勝手に行動しクリアリーブルのアジトの場所を自ら突き止めたのだと考えた。
真宮は未来へ怒りをぶつけるが、元はと言えばこの事件は自分によって起きたもの。 だから、怒りを次第に自分へと向けていく。
―――俺のせいで、こうなってしまったんだ。
―――俺があの時、藍梨さんを倉庫に連れて行かなければ。
―――俺がもっと、みんなのことを見張っていれば・・・!
だから真宮は昨日、自分を刺して死のうとした。 自分のせいでこうなってしまったことを身に染みて感じていたため、もう生きている意味などないと思い刺そうとした。
これが――――真宮が語る、クリアリーブル事件の真相だった。
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