9 / 49
魔王城の使用人
しおりを挟む
~メイド~
魔王所には至る所に変な張り紙がある。
例えば『箱を捨てる時や潰す時には中身を確認しましょう』や『廊下に箱が落ちていたら片付けずそぉっと通り過ぎて下さい』などだ。
それらの張り紙は全て魔王陛下の末娘、ミィ様のためのものだ。
ミィ様は大体は箱を持ち歩いていらっしゃる。小さな体でズルズルと箱を引きずるミィ様はとてもお可愛らしい。
そしてミィ様は移動の途中で力尽きてしまわれるのか、廊下のど真ん中で箱の中でくるんと丸まって寝ていらっしゃることが多い。使用人達はそのミィ様のお顔を眺めた後にミィ様を起こさないようにそっと立ち去るのだ。
魔族はとても寿命が長い分子どもは生まれにくい。それゆえに子どもをとても大切にする風習があり、魔族の最年少であらせられるミィ様はそれはそれは大切に育てられた。
初めてお兄様であるリーフェ様のお仕事のお手伝いをされた時には使用人を含めた魔王城の全員が感動に涙したものです。
そんなミィ様が最近狐をペットにされた。
自分と同じくらいの狐を一生懸命抱っこされるミィ様は控えめに言っても激カワでした。顔が毛に埋もれてほとんど前が見えない状態でよたよた歩く姿はハラハラしましたが胸がときめきもしました。だってとってもお可愛らしいんですもの。
お狐様の方もミィ様が倒れないか心配なさっている様子で、既に飼い主とペットの絆のようなものが感じられましたわ。
私がそううっとりと語ると、同僚のメイドがそれに付け足した。
「ミィ様が転んでしまわれた時もお狐様は率先してクッションになっていらしたわ」
「まあ賢い」
それにとってもいい子ですね。ミィ様のペットに相応しいですわ。
「私はミィ様が『もふもふ……もふもふ……』と呟きながら走ってお狐様の尻尾を追っていらっしゃるのを見ましたわ」
「「―――っ!!」」
その光景を頭に思い浮かべて私達は悶えた。
「中々自分から走ろうとしないミィ様を走らせるなんて……」
「飼い主の健康にも気を遣える、なんて優秀なお狐様なんでしょう」
そんなお狐様を拾ってくるミィ様のご慧眼たるや……。
「ミィ様もそのそのお狐様のために畑をつくられたのですよね」
「本当にミィ様は可愛らしくてお優しい」
「私も一度はミィ様のお野菜を食べてみたいです。噂ではミィ様の野菜は疲労回復や癒しの効果があるらしいですわ」
「まあ、さすが癒しの手を持つミィ様」
ミィ様はたまに料理長におすそ分けで野菜を渡しており、それを料理長がランダムで選んだ相手の食事に入れる。なので、使用人がミィ様の野菜を口にするためには料理長に選ばれるしかないのだ。そのため、最近は料理長に親切にする(媚びを売る)者が増えたため珍しく料理長が「随分遅めのモテ期だな」と冗談を言っていたそうです。
私もぜひ一度はミィ様の野菜を口にしてみたいものですわ。
~騎士達~
この前魔王陛下の末娘、ミィ様が騎士団の訓練場にいらっしゃった。兄であるイルフェ団長の職場見学らしい。
ミィ様は普段、ご家族の皆様が独占なさっているのであまりお見掛けする機会はそう多くはない。つまりレアキャラだ。
ミィ様を見かけたり話せたりしたらその日一日は何かいいことがあると俺達は本気で信じている。
ミィ様は使用人達の……いや、魔族の間では幸福の象徴のような存在だ。
魔王様の末娘という立場にありながらその特殊な能力を使って積極的に民を癒してくれる。
魔法の治癒にも限界があるが、ミィ様の癒しの手は魔法での治癒を軽く凌駕していく。なので、ミィ様は定期的に魔界の病院へ視察に行き、魔法では力が及ばない重傷者を治しているのだ。
なぜ重傷者だけなのかというと、「ミィが全部治しちゃったらお医者さんのお仕事がなくなっちゃうから」だそうだ。偉かわいい。妖精さんなのかな?
そしてミィ様はかわいい。とにかくかわいい。
俺達が訓練をしているのを箱から顔だけ出して見学するミィ様。
ん~!! かわいい!! 捨て猫さんなのかな? 俺が拾ってあげたい!!
俺以外のやつらもミィ様に気を取られてあまり訓練に集中でいていないようだ。団長も今日は仕方がないと思っているのか黙認してくれているみたいだ。
俺達が重たいボールでキャッチボールを始めると、ミィ様は無意識なのかクイックイッと頭ごとボールを追う。そして終いにはボールに飛びつこうとしたところを団長にキャッチされた。
ふぅ~。危ない。ミィ様にボールが当たるかと思った。
俺達は一斉に胸を撫でおろした。
そして暫く団長にもらったボールで遊んでいたミィ様はボールを段ボールの中に入れて、ボールを抱くようにクルンと丸まってしまった。
かわいい、かわい過ぎる。
団長が膝から崩れ落ちて悶えたのも無理はないだろう。
そんなミィ様も剣での打ち合いが始まると怖がっていらした。
団長に抱っこされて少し話した後、ミィ様はリーフェ様に出された宿題の絵日記にいそしんでいた。クレヨンを紙に一生懸命グリグリする様子は子どもみたいで可愛らしい。
まあ、とりあえずなにが言いたいのかといえば、ミィ様が可愛かった。
魔王所には至る所に変な張り紙がある。
例えば『箱を捨てる時や潰す時には中身を確認しましょう』や『廊下に箱が落ちていたら片付けずそぉっと通り過ぎて下さい』などだ。
それらの張り紙は全て魔王陛下の末娘、ミィ様のためのものだ。
ミィ様は大体は箱を持ち歩いていらっしゃる。小さな体でズルズルと箱を引きずるミィ様はとてもお可愛らしい。
そしてミィ様は移動の途中で力尽きてしまわれるのか、廊下のど真ん中で箱の中でくるんと丸まって寝ていらっしゃることが多い。使用人達はそのミィ様のお顔を眺めた後にミィ様を起こさないようにそっと立ち去るのだ。
魔族はとても寿命が長い分子どもは生まれにくい。それゆえに子どもをとても大切にする風習があり、魔族の最年少であらせられるミィ様はそれはそれは大切に育てられた。
初めてお兄様であるリーフェ様のお仕事のお手伝いをされた時には使用人を含めた魔王城の全員が感動に涙したものです。
そんなミィ様が最近狐をペットにされた。
自分と同じくらいの狐を一生懸命抱っこされるミィ様は控えめに言っても激カワでした。顔が毛に埋もれてほとんど前が見えない状態でよたよた歩く姿はハラハラしましたが胸がときめきもしました。だってとってもお可愛らしいんですもの。
お狐様の方もミィ様が倒れないか心配なさっている様子で、既に飼い主とペットの絆のようなものが感じられましたわ。
私がそううっとりと語ると、同僚のメイドがそれに付け足した。
「ミィ様が転んでしまわれた時もお狐様は率先してクッションになっていらしたわ」
「まあ賢い」
それにとってもいい子ですね。ミィ様のペットに相応しいですわ。
「私はミィ様が『もふもふ……もふもふ……』と呟きながら走ってお狐様の尻尾を追っていらっしゃるのを見ましたわ」
「「―――っ!!」」
その光景を頭に思い浮かべて私達は悶えた。
「中々自分から走ろうとしないミィ様を走らせるなんて……」
「飼い主の健康にも気を遣える、なんて優秀なお狐様なんでしょう」
そんなお狐様を拾ってくるミィ様のご慧眼たるや……。
「ミィ様もそのそのお狐様のために畑をつくられたのですよね」
「本当にミィ様は可愛らしくてお優しい」
「私も一度はミィ様のお野菜を食べてみたいです。噂ではミィ様の野菜は疲労回復や癒しの効果があるらしいですわ」
「まあ、さすが癒しの手を持つミィ様」
ミィ様はたまに料理長におすそ分けで野菜を渡しており、それを料理長がランダムで選んだ相手の食事に入れる。なので、使用人がミィ様の野菜を口にするためには料理長に選ばれるしかないのだ。そのため、最近は料理長に親切にする(媚びを売る)者が増えたため珍しく料理長が「随分遅めのモテ期だな」と冗談を言っていたそうです。
私もぜひ一度はミィ様の野菜を口にしてみたいものですわ。
~騎士達~
この前魔王陛下の末娘、ミィ様が騎士団の訓練場にいらっしゃった。兄であるイルフェ団長の職場見学らしい。
ミィ様は普段、ご家族の皆様が独占なさっているのであまりお見掛けする機会はそう多くはない。つまりレアキャラだ。
ミィ様を見かけたり話せたりしたらその日一日は何かいいことがあると俺達は本気で信じている。
ミィ様は使用人達の……いや、魔族の間では幸福の象徴のような存在だ。
魔王様の末娘という立場にありながらその特殊な能力を使って積極的に民を癒してくれる。
魔法の治癒にも限界があるが、ミィ様の癒しの手は魔法での治癒を軽く凌駕していく。なので、ミィ様は定期的に魔界の病院へ視察に行き、魔法では力が及ばない重傷者を治しているのだ。
なぜ重傷者だけなのかというと、「ミィが全部治しちゃったらお医者さんのお仕事がなくなっちゃうから」だそうだ。偉かわいい。妖精さんなのかな?
そしてミィ様はかわいい。とにかくかわいい。
俺達が訓練をしているのを箱から顔だけ出して見学するミィ様。
ん~!! かわいい!! 捨て猫さんなのかな? 俺が拾ってあげたい!!
俺以外のやつらもミィ様に気を取られてあまり訓練に集中でいていないようだ。団長も今日は仕方がないと思っているのか黙認してくれているみたいだ。
俺達が重たいボールでキャッチボールを始めると、ミィ様は無意識なのかクイックイッと頭ごとボールを追う。そして終いにはボールに飛びつこうとしたところを団長にキャッチされた。
ふぅ~。危ない。ミィ様にボールが当たるかと思った。
俺達は一斉に胸を撫でおろした。
そして暫く団長にもらったボールで遊んでいたミィ様はボールを段ボールの中に入れて、ボールを抱くようにクルンと丸まってしまった。
かわいい、かわい過ぎる。
団長が膝から崩れ落ちて悶えたのも無理はないだろう。
そんなミィ様も剣での打ち合いが始まると怖がっていらした。
団長に抱っこされて少し話した後、ミィ様はリーフェ様に出された宿題の絵日記にいそしんでいた。クレヨンを紙に一生懸命グリグリする様子は子どもみたいで可愛らしい。
まあ、とりあえずなにが言いたいのかといえば、ミィ様が可愛かった。
34
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる