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12話 リディアの上司
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メゾングレイルの201号室は、俺が唯一使える部屋だ。引き出しの少なさに自分でも失笑する。
6畳の部屋は、かつてないほどの人数を迎え入れていた。
「質素な生活をしているのだな」
「悪かったな。茶も出せないぞ」
「結構だ」
オーヴェリアが入ってきてから、リディアの口数は分かりやすく減少した。
さっさと俺を切り捨て帰られると歓喜しているのか、それとも。
「改めて自己紹介だ。オーヴェリア・シュタイガー。よろしく」
「宮地正輝。フリーターだ」
絶対フリーターの意味は伝わっていないだろうに、オーヴェリアは無視した。切り捨てていいものだと判断したのだろう。
つまらない人だ、軽口を叩いても楽しくなさそう。
「単刀直入に言おう。聖杯を返していただこう」
「断る」
「理由は?」
「彼女が欲しいから」
「は?」
心底理解できないといった表情だ。
いたって俺は真面目に回答している。だからそんな表情に忖度する必要はない。
リディアも最初はこんな顔をしていたな。ここまで険しくはなかったけど。
「リディア、この男をなぜ生かしてある」
オーヴェリアに話を振られ、ようやくリディアは重い口を開けた。
「……正輝さんは聖杯をずっと人質にしているので」
「罰当たりな男だ。聖杯を何だと思っている」
俺はリディアと出会ってからのことを話した。
返してと頼むリディアに対し、俺は聖杯を人質にしたこと。それにより、リディアが俺の彼女になったこと。そして今日、俺たちはデートをしたこと。全てを話した。
途中から頭を抱えるオーヴェリアだったが、一応最後まで耳を傾けていてくれた。
「愚か者が!」
しかし爆発する心を抑えていただけのようで、立ち上がって激昂した。
その瞬間、白い小さな猫がオーヴェリアの側に現れる。ここ、ペット禁止なんだがな。
「[アクシス・ハリケーン]」
「オーヴェリア様、それは!」
「ぐっ!」
名前的にやばい魔法だ。これ、死んだか。
そう思ったが、白い猫は小さな突風をぷっと吐き出すだけだった。部屋の隅にあったライトノベルが一冊、その風で吹き飛ぶ。これ、見覚えあるな。
「お前、それで俺の昼食を邪魔したな」
「そうだ。俗にいう嫌がらせだ」
「オーヴェリア様、そこまで弱られて……」
リディアは心配そうにオーヴェリアの肩をさすった。
オーヴェリアが弱っているという俺の仮説はどうやら正解だったらしい。
「情けない話だ。だが侮るな、ここまで衰弱していようとお前1人殺すくらい造作もないわ!」
オーヴェリアは魔力を集結させ、銀色の剣を召喚した。
改めて、本当にファンタジー世界の住人なのだと思い知らされる。聖杯を人質にしたくらいでどうにかなると思っていた自分の浅はかさに乾いた笑いが漏れる。
「ここで終わらせてやる!」
リュックサックから聖杯を取り出し、ガードしようとした。
その時だった。
俺の前に、金髪の美少女が立ち塞がった。まるでオーヴェリアの銀剣から俺を守るように。
オーヴェリアは銀剣の進行をピタッと止める。剣を中心に風が吹き、部屋の埃を舞い上げた。
「なぜだ。なぜその男を守る!」
オーヴェリアはリディアに激昂した。
しかしリディアは、今度は後退りをしない。
「こ、この人は私の彼氏です。殺されるわけにはいきません」
「バカな、こんな男に惚れたか」
今日俺が1日かけて聞こうとしたこと。それをオーヴェリアの口から飛び出してしまった。
「……わかりません」
「なら……」
「でも、正輝さんは植物園で怖がった私を助けてくれた。何よりも私の心を優先してくれた」
「…………」
オーヴェリアは銀剣を軽く叩いた。それに応じるかのように、銀剣は銀の粒子になって消え去った。
「正輝といったな」
「あぁ」
「リディアと恋仲であるうちは、聖杯の力を使わない。そう誓えるか?」
「当たり前だ。リディアほど可愛い彼女がいて、さらに他のことを願うほど俺は欲深くない」
「そうか。ならば今日のところは見逃してやる。どうせ私の魔力は空っぽ。リディアにすら勝てないだろう」
「なぜそこまでして来訪を早めたのですか?」
「……グリスティン・ワルディアルがこの世界に来ている」
「なっ!?」
「誰だ、それ」
今まで聞いたこともない人物名に、俺は首を傾げた。
対照的にリディアはかなり怯えている。聖杯を持つ俺も話を聞いておく必要がありそうだ。
「グリスティン・ワルディアルは私たちの敵です。聖杯の力を使って、邪神と同じ力を得ようとしています」
「邪神って、異世界を混沌に突き落としたっていう奴か」
「その混沌を、グリスティン・ワルディアルは再現したいようだ。厄介なことに、奴は私と同格の力を持っている。お互い手負いゆえにどちらが勝つかは正直私にもわからん」
オーヴェリアの弱気な発言に驚いた。絶対的な自信家で、圧倒的な強さを誇っていると思っていた。それほどまでに敵も強いらしいな。
「お前が聖杯を持てば、奴も必ずお前に勘付くぞ。それでもいいのか」
「巻き込まれるのは慣れている。今さらな話だ」
「そうか。では私は休ませてもらおう。この勝負、早く体力を回復した方が勝利を握るだろうからな」
……ん? なんかオーヴェリアが俺とリディアが寝る布団に吸い込まれていくんだけど?
まさか俺の部屋に居座る気じゃないよね。まさかね。
……一応確認しておこう。
「あの、オーヴェリアさんはこれからどこで過ごす気なんですか?」
「ここに決まっているだろう。他のどこに行くアテがある」
「ですよねー」
困ったな、こりゃテコでも動かないぞ。
「それにしてもリディア、本当にいいのか、こんな男で」
「ま、まだ好きになったわけじゃありませんから!」
「失礼な人だな。オーヴェリアさんはどんな男ならいいんだよ」
「ふん、男などに興味はない。私は知的で、学があり、包容力のある女性を望む」
「あらそっちの人」
否定はしない。そういう時代だからな。
……ん、今のやり取りで何かを思い出しかけたぞ。忘れていたような約束、破ると面倒くさそうな約束を。
「……あっ!」
「どうした、大きな声を出して」
「オーヴェリアさん、知的で学があって、まぁ包容力もある女性の家、空いていますよ」
「はぁ?」
俺はスマホを取り出して、とある人物に電話をかけた。
ややこしい事情のため、説明に時間を要したが、その人物は話を聞き終えると「すぐに行く!」とだけ言って電話を切った。
これで何とか我が家の平穏は保たれそうだ。
6畳の部屋は、かつてないほどの人数を迎え入れていた。
「質素な生活をしているのだな」
「悪かったな。茶も出せないぞ」
「結構だ」
オーヴェリアが入ってきてから、リディアの口数は分かりやすく減少した。
さっさと俺を切り捨て帰られると歓喜しているのか、それとも。
「改めて自己紹介だ。オーヴェリア・シュタイガー。よろしく」
「宮地正輝。フリーターだ」
絶対フリーターの意味は伝わっていないだろうに、オーヴェリアは無視した。切り捨てていいものだと判断したのだろう。
つまらない人だ、軽口を叩いても楽しくなさそう。
「単刀直入に言おう。聖杯を返していただこう」
「断る」
「理由は?」
「彼女が欲しいから」
「は?」
心底理解できないといった表情だ。
いたって俺は真面目に回答している。だからそんな表情に忖度する必要はない。
リディアも最初はこんな顔をしていたな。ここまで険しくはなかったけど。
「リディア、この男をなぜ生かしてある」
オーヴェリアに話を振られ、ようやくリディアは重い口を開けた。
「……正輝さんは聖杯をずっと人質にしているので」
「罰当たりな男だ。聖杯を何だと思っている」
俺はリディアと出会ってからのことを話した。
返してと頼むリディアに対し、俺は聖杯を人質にしたこと。それにより、リディアが俺の彼女になったこと。そして今日、俺たちはデートをしたこと。全てを話した。
途中から頭を抱えるオーヴェリアだったが、一応最後まで耳を傾けていてくれた。
「愚か者が!」
しかし爆発する心を抑えていただけのようで、立ち上がって激昂した。
その瞬間、白い小さな猫がオーヴェリアの側に現れる。ここ、ペット禁止なんだがな。
「[アクシス・ハリケーン]」
「オーヴェリア様、それは!」
「ぐっ!」
名前的にやばい魔法だ。これ、死んだか。
そう思ったが、白い猫は小さな突風をぷっと吐き出すだけだった。部屋の隅にあったライトノベルが一冊、その風で吹き飛ぶ。これ、見覚えあるな。
「お前、それで俺の昼食を邪魔したな」
「そうだ。俗にいう嫌がらせだ」
「オーヴェリア様、そこまで弱られて……」
リディアは心配そうにオーヴェリアの肩をさすった。
オーヴェリアが弱っているという俺の仮説はどうやら正解だったらしい。
「情けない話だ。だが侮るな、ここまで衰弱していようとお前1人殺すくらい造作もないわ!」
オーヴェリアは魔力を集結させ、銀色の剣を召喚した。
改めて、本当にファンタジー世界の住人なのだと思い知らされる。聖杯を人質にしたくらいでどうにかなると思っていた自分の浅はかさに乾いた笑いが漏れる。
「ここで終わらせてやる!」
リュックサックから聖杯を取り出し、ガードしようとした。
その時だった。
俺の前に、金髪の美少女が立ち塞がった。まるでオーヴェリアの銀剣から俺を守るように。
オーヴェリアは銀剣の進行をピタッと止める。剣を中心に風が吹き、部屋の埃を舞い上げた。
「なぜだ。なぜその男を守る!」
オーヴェリアはリディアに激昂した。
しかしリディアは、今度は後退りをしない。
「こ、この人は私の彼氏です。殺されるわけにはいきません」
「バカな、こんな男に惚れたか」
今日俺が1日かけて聞こうとしたこと。それをオーヴェリアの口から飛び出してしまった。
「……わかりません」
「なら……」
「でも、正輝さんは植物園で怖がった私を助けてくれた。何よりも私の心を優先してくれた」
「…………」
オーヴェリアは銀剣を軽く叩いた。それに応じるかのように、銀剣は銀の粒子になって消え去った。
「正輝といったな」
「あぁ」
「リディアと恋仲であるうちは、聖杯の力を使わない。そう誓えるか?」
「当たり前だ。リディアほど可愛い彼女がいて、さらに他のことを願うほど俺は欲深くない」
「そうか。ならば今日のところは見逃してやる。どうせ私の魔力は空っぽ。リディアにすら勝てないだろう」
「なぜそこまでして来訪を早めたのですか?」
「……グリスティン・ワルディアルがこの世界に来ている」
「なっ!?」
「誰だ、それ」
今まで聞いたこともない人物名に、俺は首を傾げた。
対照的にリディアはかなり怯えている。聖杯を持つ俺も話を聞いておく必要がありそうだ。
「グリスティン・ワルディアルは私たちの敵です。聖杯の力を使って、邪神と同じ力を得ようとしています」
「邪神って、異世界を混沌に突き落としたっていう奴か」
「その混沌を、グリスティン・ワルディアルは再現したいようだ。厄介なことに、奴は私と同格の力を持っている。お互い手負いゆえにどちらが勝つかは正直私にもわからん」
オーヴェリアの弱気な発言に驚いた。絶対的な自信家で、圧倒的な強さを誇っていると思っていた。それほどまでに敵も強いらしいな。
「お前が聖杯を持てば、奴も必ずお前に勘付くぞ。それでもいいのか」
「巻き込まれるのは慣れている。今さらな話だ」
「そうか。では私は休ませてもらおう。この勝負、早く体力を回復した方が勝利を握るだろうからな」
……ん? なんかオーヴェリアが俺とリディアが寝る布団に吸い込まれていくんだけど?
まさか俺の部屋に居座る気じゃないよね。まさかね。
……一応確認しておこう。
「あの、オーヴェリアさんはこれからどこで過ごす気なんですか?」
「ここに決まっているだろう。他のどこに行くアテがある」
「ですよねー」
困ったな、こりゃテコでも動かないぞ。
「それにしてもリディア、本当にいいのか、こんな男で」
「ま、まだ好きになったわけじゃありませんから!」
「失礼な人だな。オーヴェリアさんはどんな男ならいいんだよ」
「ふん、男などに興味はない。私は知的で、学があり、包容力のある女性を望む」
「あらそっちの人」
否定はしない。そういう時代だからな。
……ん、今のやり取りで何かを思い出しかけたぞ。忘れていたような約束、破ると面倒くさそうな約束を。
「……あっ!」
「どうした、大きな声を出して」
「オーヴェリアさん、知的で学があって、まぁ包容力もある女性の家、空いていますよ」
「はぁ?」
俺はスマホを取り出して、とある人物に電話をかけた。
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