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物語15ポチの容態
しおりを挟む今朝またポチの元気が無かった。やっとストレスからは回復したようだったが、まだてんかんの病気はあるようで、朝「おはよう」と声を賭けても、いつものように顔を上げて人の手を舐めて来ない。
最近は外の犬小屋でなく、玄関の中に少し大きめの段ボール箱を置きその中に寝かしている。
なんか心配でまた大田さんに相談してみようかな?など思ったがポチの具合を見て、散歩には出なかった。
仕事が終わり家に帰りポチの様子を見ると、薬が効いているようで、元気が出てきたみたいだった。
「ポチ、元気になれたの?」と声を賭けると、顔を持ち上げしっぽを振っていた。
以前より元気になったみたいだ。少しは安心してポチの水を換え、エサに混ぜた薬をあげた。明日は元気になって貰い、散歩に出かけたい。
これも大田さんとマル子ちゃんのお陰かなど思いながら、洗濯物を取り込み畳んで居たら玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」と言って出てみたら大田さんとマル子ちゃんが来ていた。
「今朝も公園で会えなかったから、ポチの具合はどうかなと心配出来てみた」大田さんもポチのことを心配してくれる。マル子ちゃんはポチに所に行ってポチの体を舐めて、元気になるようにと慰めて居るようだった。ポチもマル子ちゃんの優しさに嬉しそうだった。
私は思いきって言ってみた。
「あなたには以前からお世話になっているし、お金も借りっぱなし、良かったら今日家で夕飯食べていって呉れない」
「えー良いの?それはすごく助かる。いつもカップラーメンばかりなんだ。カップラーメンも食べ続けると、あのカップ見ただけで、気持ち悪くなる」
「じゃあ今日は家で食べて行って、たいした物は作れないけど、お口に合えば良いわ」と言うことで大田さんを夕飯に誘った。
ふとあのCDを忘れていった、後藤さんの顔を思い出していた。彼ならこんな時どうするのだろう?そう思った。
金町駅前でスーパーに入り、あれが良いとか、これが食べたいとか言われ食材を買ったがお金は大田さんが負担した。「これではご馳走したと言えないよ」と言うと、「そんなこと気にするな」と平気な顔していた。
家に帰り先日買って置いたお気に入りのエプロンを着けると、さりげなく彼の目を気にし、わざと見えるようにした。そしたら
「そのエプロン可愛いいね」と言われ、またまた(ヤッター)と成果を喜んだ。実は昨日可愛いの選んで買ってきたばかりの物だ。(自分の都合で可愛くするな!)と叱る自分が居た。
さっそく料理に取りかかる。
彼はイスに腰掛け、出したビールを飲んで料理が出来るのを待っていた。その時
「ねー、君のご両親は?」テレビを見ていた彼が、何を思ったのか聞いてきた。
「もう何年か前に二人とも病気で亡くなったの」
「それジャー、寂しかったでしょ」彼は私に気持ちを労ってくれた。
「でもポチが居たから、気が紛れたわ。ポチはあたしにとって大切な友達だわ」
「動物って癒やされるよね」
「そろそろ出来るわ、お箸を出してくれる?そこにあるから!」(こんな事言って良いのかな?人使いが荒い女なんて思われないかしら)ちょっと不安だった。
オムレツが食べたいというので、中身を作りタマゴで包んで出来上がり、スープはトマト味のスープ、漬け物や、和え物を出し一緒に「いただきます」と言って食べ始めた。
彼が一口食べると
「これはうまい。こんなうまいご馳走が食べられるのって幸せだ」などと言われてしまった。(うーんこれで彼の胃袋は掴んだかな?)私も彼の食べっぷりを見て嬉しかった。
「あー、いけない」しまった。ペットたちのことを忘れていた。
「あー忘れていた。ごめんね」と言ってポチとマル子ちゃんに餌をやった。
「動物たちが先だったこと忘れていたわ。ごめんねお腹すいたよね」ポチたちも喜んでご飯に喰らい付いた。
「優しいんだね」(ウソー?褒めてくれたの?)
「えー?だって動物たちは口が利けないから、父がよく言っていたの。動物には自分で食べる前にやる物だって」
「それもそうだね、そういう動物たちで俺たちも癒やされているんだから」
「そうね。ポチも大田さんのお陰で、だいぶ元気にも慣れたし」
「ねえ『太田さん』て他人行儀なんで、名前を呼んでくれないか」と言われ、ドキリとした。
「俺も君のことを名前で呼ぶ。迷惑かい?」私は慌てて首を横に振った。
「さくらさん?さくら」(ワー、名前を呼ばれてしまった。初めて!)
「仁志さん?」そしてまた
「さくら」「仁志さん」(はずかしー。)
彼は優しく私を抱きしめ。顔をそーっと近づけて来る。私は思わず目を閉じた。
そして初めての口づけ。でも十代に帰った様にドキドキ物だった。二度三度口づけをする度に、、私は息が出来なくなる位、仁志さんは私を抱く腕に力が入った。
「い、息が、苦しいわ」
「ごめんね、つい君が愛おしくなった。好きだよ」
「あたしもあなたが好きよ。とても大好き」そしてまたキスをした。
どのくらい時間がたっただろう、あっという間に幸せな時間は過ぎた様に思う。
「さくらは結婚を考えたことある?」と彼から聞かれ、(えー?いよいよ!)と期待した。でもなんと答えたら良いの?そう迷っていたら
「いきなりこんな事聞いてごめん」と言われた。仁志さんは私が答えられなかったのを、結婚を迷っていると思ったらしい。
(あーあ絶好のチャンスを、あたしの迷いで駄目にしてしまった)後悔先に立たずとは、よく言った物だ。
仁志さんは食事に満足したようで、挨拶をして
「今日はご馳走様、また明日」
「うんまた明日、公園で!」そう言うと彼は帰っていった。
なんか彼が帰ると、肩から力が抜けた様で、ボーッとしながら楽しかった今日を振り返っていた。いつも一人で食べるご飯も、それが彼が居るだけで、味が美味しく感じた。
やはり食事は話し相手が居て、楽しいく会話をしながら食べる方がよりいっそう美味しい。そしてこの心のときめきは何だろう?
「あたし今日一日どうしちゃったんだろう?若い頃だって家に男性を誘ったことなど無かったのに?えー?ひょっとしてあたし、仁志さんに恋しているの?」自然に自問自答していた。
また翌朝公園で会い、一通りの話をして、仕事に行こうとしたら
「ねえ、雨以外毎日公園で会っているけど、なんか物足りないな、今度どこかに遊びに行かない?」と言われ、(えー?なんて返事したら良いかしら?また迷ってしまった。でもあまり考えても仕方ない、昨日のこともある)私は慌てた。
(なんて返事したらいいの?)しばらく俯いていたら
「急にごめんね、図々しかったね、謝るよ。でもこの間ポチに世話をして居る君が、とても優しい人だと思ったから、どこか別の所でも一緒に楽しみたいと思って、そして帰ったらまた君のメシ食いたいし、昨日の君の料理も上手かったし」私は嬉しくて慌てて答えた。
「あたしもあなたがポチの薬を後まで気にしていて呉れて、とても感謝しているし、今日みたいに楽しそうな犬たちを見ていると、他に行かなくても良いんじゃない。水元公園でも十分楽しめるし、また仁志さんと此処で話しがしたいわ」
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